エレナの訪問
「……ほら、食い物だ」
日暮れ時、シーレンからそう言われ、食事を私は受け取りました。
「……ありがとうございます」
食事は、パンと、時々干し肉やチーズが付いてくるようなものでした。粗末なものでしたが、私にとってはこれで充分……ありがたいものでございました。
勇者ガラン様との魔王討伐の旅から帰ってきてからというもの、これが、私と見張り人であるシーレンとの日常でございました。
私に食事を渡してしまうと、シーレンはその日の勤めを終え、家路へと就くのでございます。
「よし……じゃあ今日も終わりだ。小屋で休め。夜は外になんか出るなよ」
「……はい」
シーレンにそう言われ、私が短く返事をいたしますと、彼は帰り際、私に背を向けながら、ぽつりと呟きました。
「いつまで……お前への罰は続くんだろうな」
「……えっ?」
シーレンのその言葉を、私が意図を掴めずにいますと、彼はそのまま、「いや……何でもない」と言って、振り返らずに帰っていきました。
あの時、シーレンはどのような気持ちで、そしてどのような表情で、あのような事を言ったのか……私には分かりません。
その日、それから少しばかり時が経ち、日も沈んだ時の事でございました。
その日は、着ている衣服を交換してもらえる日でございましたので、昼の間に私を恨む人々から痛めつけられた際、私の血がついて汚れてしまった服を、体の痛みをこらえながら、何とかシーレンから受け取った新しい服に着替え終わった、そのような時です。
魔術師マーレの召使い……エレナが、私の休んでいる小屋を訪れたのでした。
夜の間は、私がこの小屋に入っている間、人々は小屋の中に押し入ってまで私に危害を加えることを、王から禁じられていました。
ですので、私の小屋の扉をノックする人など、今まで居なかったものですから、少々驚いたのを、よく覚えております。
私が恐る恐る小屋の扉を少しばかり開けますと、そこにはエレナが立っていました。
「あの……マーレ様の使いで来ました。エレナです。血をもらいに来ました」
「あっ……は、はい、分かりました。では、どうぞ……」
私がそう言って、扉を開けると、エレナはぎこちない様子で、私の休む小さな小屋へ、足を踏み入れました。
「で、では……少し血を採ります……。あ、あの……手を……いいですか?」
「は、はい……しかし、あの……エレナ様。このまま……でしょうか」
エレナがおもむろに血を採ろうとするので、私は彼女にそう尋ねました。
「……えっ? このまま……って?」
「あ、いえ……その……つまり、立ったままで、なさるのですか……?」
「あっ……!」
私の質問の意図をようやく理解したエレナは、慌てたようにあたりを見回し、寝床代わりの干し草の上に、持ってきたカバンを置くと、彼女自身はその横の床に、スカートをきれいに折りたたみながら膝をついて座りました。
「……すいません、まだ慣れていなくって」
彼女は、そう言うと、少し恥ずかしそうに笑いました。
「い、いえ……こちらこそ……」
そう答えて床に座った私は、採血のため、左手をおずおずと差し出したのでございます。




