第八話 吹雪の中の補給――絶望の砦へ無限収納が届く
吹雪が視界を白く染めていた。
冷たい風が頬を刺す。
普通の人間なら、数時間も歩けば凍える環境だ。
だが俺は黙々と雪原を進んでいた。
理由は簡単。
荷物がないからだ。
本来なら補給隊は大量の馬車を引きながら移動する。
だから遅い。
だから襲われる。
だから雪に埋まる。
だが今、補給物資は全部アイテムボックスの中だ。
身軽すぎる。
「……これ、歩いたほうが早いな」
実際、馬車よりかなり速く進めている。
◆ 魔狼の群れ
「グルルル……」
低い唸り声。
雪丘の向こうから、巨大な影が現れる。
白毛の魔狼だ。
しかも一匹じゃない。
五。
六。
群れだ。
「補給隊狙いか」
まあ、この辺の魔物からすれば、
人間の輸送隊なんて餌みたいなものだ。
魔狼たちが牙を剥く。
だが俺は立ち止まったまま、収納を開いた。
――《排出》。
次の瞬間、巨大な鉄槍の束が空中から落下した。
ドゴォッ!!
「ギャウンッ!?」
先頭の魔狼が潰れる。
さらに続ける。
――《排出》。
今度は大型盾。
木箱。
鉄材。
大量の物資が、上空から雪原へ降り注ぐ。
魔狼たちが悲鳴を上げた。
「…………」
俺は少し考える。
これ、案外強くないか?
収納だけだと思っていたが、
落とせば普通に危険だ。
生き残った魔狼たちが、慌てて逃げていく。
俺はそれを見送りながら呟く。
「……対魔物戦でも使えるな」
◆ イーグ砦の絶望
その頃、東部防衛線《イーグ砦》。
「もう駄目だ……」
兵士たちは絶望していた。
食料は残りわずか。
回復薬は底を尽き、負傷兵のうめき声だけが増えていく。
隊長格の男が壁に拳を叩きつけた。
「王都の補給はまだか!!」
だが返事はない。
外では吹雪。
輸送路は崩壊。
誰も来れない。
兵士の一人が呟く。
「……見捨てられたんだ」
重苦しい沈黙が流れる。
◆ そして、吹雪の中に現れた影
その時だった。
見張り兵が叫ぶ。
「た、隊長!!」
「なんだ!?」
「雪原に人影が!!」
全員が凍りつく。
この吹雪の中、単独行動などあり得ない。
隊長は急いで見張り台へ駆け上がる。
吹雪の向こう。
確かに、誰かが歩いていた。
たった一人で。
「馬鹿な……」
兵士たちが呆然とする。
そして、その人影は砦前で立ち止まった。
◆ 補給の到着
フードを払い、俺は門へ向かって声を上げる。
「王国兵站局の補給だ」
静寂。
数秒後、砦中が騒然となった。
「補給!?」
「嘘だろ!?」
「一人しかいないぞ!?」
隊長が叫ぶ。
「おい!! 馬車はどうした!!」
俺は首を傾げた。
「持ってない」
「じゃあ補給物資は!?」
俺は軽く手を上げる。
――《排出》。
次の瞬間、砦前の雪原に、巨大な物資の山が現れた。
食料。
回復薬。
武器。
防寒具。
雪原を埋め尽くすほどの量。
兵士たちの目が見開かれる。
誰かが呟いた。
「……夢、か?」
砦中から歓声が爆発した。




