第七話 撤退不能の東部戦線へ――無限収納だけが突破できる
「東部防衛線が崩壊寸前!!」
伝令兵の叫びが、砦中に響き渡る。
隊長が顔をしかめた。
「状況は!?」
「補給隊が壊滅! 食料と回復薬が尽きています!」
伝令兵は息を切らしながら続ける。
「雪崩で輸送路も塞がれ、撤退できません!」
空気が凍った。
北方戦線では、補給切れは死を意味する。
戦う力を失い、逃げる力まで失う。
そのまま雪原で全滅――そんな話は珍しくない。
「東部砦までの距離は?」
バルクが即座に聞く。
「通常輸送で二日です!」
「……遠いな」
隊長が低く唸る。
雪崩まで起きているなら、馬車はまず通れない。
つまり、今から補給隊を編成しても間に合わない。
伝令兵が震える声で言う。
「現地では負傷兵も増えています……」
兵士たちが顔を伏せた。
誰もが理解している。
助からない。
普通なら。
だが。
「じゃあ、行くか」
俺が言うと、全員がこちらを見た。
隊長が目を見開く。
「……行けるのか?」
「場所さえ分かれば」
俺は肩をすくめる。
「物資はもう入ってるし」
その瞬間、砦中の空気が変わった。
兵士たちの目に、希望が戻る。
バルクが即座に地図を広げる。
「東部防衛線《イーグ砦》だ」
雪山地帯。
輸送路は崩壊済み。
普通の補給隊では、まず辿り着けない。
「レクト、本当に行けるんだな?」
「まあ、多分」
「多分か……」
バルクが頭を押さえる。
だがその顔は、どこか笑っていた。
すると隊長が、突然こちらへ深く頭を下げた。
「頼む」
周囲の兵士たちまで、静かに頭を下げる。
「仲間を助けてくれ」
俺は少し困った。
そんな大げさな。
ただ荷物を運ぶだけなんだが。
「分かった」
そう答えると、砦中から安堵の息が漏れた。
その時だった。
「ま、待ってくれ!!」
一人の若い兵士が駆け寄ってくる。
顔が真っ青だ。
「弟が……弟がイーグ砦にいるんです……!」
震える声で続ける。
「お願いします……!」
……参ったな。
そんな顔をされると断りにくい。
「安心しろ」
俺は軽く言った。
「補給は届ける」
兵士の目に涙が浮かぶ。
その様子を見て、バルクが静かに呟いた。
「お前、自分が何をしてるか分かってるか?」
「…荷運びだろ?」
「違う」
バルクは真顔だった。
「お前は今、兵士たちの命を運んでる」
その言葉だけは、妙に胸に残った。
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## ◆ 出発準備
数十分後。
俺は大量の補給物資を収納し終え、東部戦線へ向かう準備を整えていた。
外では吹雪が強まっている。
普通なら、出発すら止められる天候だ。
「レクト」
バルクが低く言う。
「死ぬなよ」
「善処する」
「軽いな……」
俺は雪原へ足を踏み出した。
――その背後を、砦の兵士たちは、
まるで英雄を見るような目で見ていた。




