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パーティをクビになった荷運び、実はアイテムボックス容量が無限だった ~王国軍の補給を一人で支えています~  作者: 水原伊織


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第五十二話 最強の補給怪獣

【封印解除まで残り10秒】


冷酷に、システム文字のカウントダウンが進んでいく。


9。

8。

7。


異界少女が完全に半泣きになりながら、シートの背もたれを強く掴んだ。


「ほ、本当に開けるんですか!? 冗談ですよねレクト殿!?」


王女も全身を緊張の糸で張り詰めさせ、モニターを凝視している。

その隣で、セレフィナは腰の細剣レイピアの柄へとそっと手を置いた。

万が一、扉から出てきた怪物が暴走した場合、即座に命を賭して対応するつもりなのだろう。


だが、俺はまっすぐにその大陸サイズの鉄門を見つめていた。

そして、新管理者として、腹の底から覚悟を決める。


「――開ける」


全員が息を呑み、硬直した。


その瞬間、巨大な封印扉の全体が、まばゆい黄金の光を放った。


【管理者承認】

【プロトコル:第零封鎖区画・封印解除開始】


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


世界がひっくり返るような地鳴りとともに、大陸サイズの扉がゆっくりと左右に開き始めた。


巻き起こる凄まじい轟音。

空間そのものを激しく揺らす肉体的な衝撃。


前線の兵士たちは、ただ圧倒されて息を呑むことしかできなかった。


そして、完全に開け放たれた絶対の闇の向こうから、地平線を覆い尽くすほどの巨大な影が、ゆっくりと這い出てきた。


山より大きく、王国の城塞より巨大。


全身を強固な外殻で覆われた、まさしく神話の怪獣。


封印されし、本物の二代目『砦喰らい』だ。


だが――何かが、決定的に新しかった。


王女が信じられないものを見るように、目を細める。


「……あれ? レクト、あの背中……」


セレフィナも怪訝そうに首を傾げた。


「ええ、気のせいかしら。背中にとんでもなく人工的な建造物が見えますけれど……」


怪獣が荒野へと完全に這い出てくる。

さらに近づく。


そして、その全貌がメインモニターに映し出された瞬間、コントロールルームの全員が文字通り石のように固まった。


倉庫、だった。

二代目砦喰らいの超巨大な背中の上には、規則正しく並んだ巨大な倉庫群、整然と積み上げられた収納コンテナ、それらを動かすためのクレーンといった荷揚げ設備、さらには高速で回転する搬送レーンが、完璧な一つの「物流ベース」として構築されていた。


意味が分からない。

異界少女が頭を抱えて叫ぶ。


「な、なんでですか!? なんで怪獣の背中がハイテクな物流センターになってるんですか!?」


「俺が聞きたいわ!!」


すると、こちらの困惑を察したのか、二代目砦喰らいは地響きのような声でフンスと胸を張った。


『――すべては、補給効率向上のためだ』


堂々たるものだった。


一切の迷いがない、完璧なプロの顔(怪獣だけど)をしている。


背後で、監視者がそっと目を閉じて深く頷いた。


「素晴らしい。前任者による教育の成果だな」


成果なのか。


これ、完全に魔改造って言うんじゃないか。


さらに、二代目砦喰らいの号令とともに、背中の巨大コンテナの扉が一斉に開かれた。


中からギチギチに現れたのは、山のような物資の数々。


食料、武器、薬品、防壁用の建材。


さらには、なぜか予備として梱包された大量の『雪巨人スノーギガント』たちが、コンテナの中で体育座りをして出番を待っていた。


最後の一角の在庫がおかしい。


『在庫管理、および即納体制の構築は、一級物流士の基本である』


砦喰らいが、めちゃくちゃ真面目に重厚な声で言う。


その時だった。


世界喰らいの軍勢を率いるレプリカの『黒い砦喰らい』が、新手の出現に対して不快そうに咆哮した。


グォォォォォォォォッ!!!


それを合図に、黒い侵食体の軍勢が津波となって突撃を開始する。


その数、数万、数十万。狂暴な黒い獣たちが、二代目砦喰らいを目がけて大地を埋め尽くしていく。


だが、二代目砦喰らいは一切慌てなかった。


『――物流とは、速度だ』


静かにそう告げると、背中の搬送レーンが超高速で駆動し、大型コンテナが次々と開放された。


――ドゴォォォォォン!!!


何かが、凄まじい勢いで上空へと一斉に射出された。


前線の兵士たちがぽかんと口を開けて固まる。


飛んでいく。

大量に。

空を真っ黒に埋め尽くすほどの質量が。


そして、それは突撃してくる侵食軍のど真ん中へと、容赦なく正確に自由落下していった。


それは――巨大な木箱サプライズボックスだった。


全員が沈黙する。


木箱だ。


ただの、頑丈そうな木箱。


だが、山ほどの質量を持った木箱が、音速を超えて地面に激突した次の瞬間。


――ドォォォォォォォン!!!


戦場が爆発した。


衝撃波で大地が消し飛び、押し寄せていた侵食軍が何万という単位で一瞬にして消滅、吹き飛ばされた。


異界少女が今日一番の悲鳴を上げる。


「補給箱をそのまま投げつけてるぅぅぅ!!」


『荷物の緊急投下エアドロップだ。障害物は排除する』


二代目砦喰らいがフンスと鼻息を漏らして頷く。


その後も、超高速で木箱、木箱、木箱が連射された。

弾道計算など必要ない。

全部が敵の脳頭部に当たる。

そして全部が恐ろしく強い。


物資の詰まった超質量の箱による、完全なる物理的圧殺だった。


王女が遠い目をしながらぽつりと呟く。


「あの……補給って、あんな風に敵を圧殺する武器でしたっけ……?」


「俺の知ってる補給はあんなんじゃない。頼むから運び屋のゲシュタルト崩壊を起こさせないでくれ」


俺が頭を押さえていると、ついに敵の本命が動いた。


世界喰らい軍の最大戦力、あの超巨大な『黒い砦喰らい』が地響きを立てて突撃してくる。


だが、二代目砦喰らいはどこまでも冷静だった。


『――在庫確認。敵『砦喰らい』型レプリカ、一体。これより……定時配送デリバリーを行う。対処可能』


そう言うと、二代目の巨獣は巨大な前脚を大きく上げた。


世界が、一瞬だけ静まり返る。


次の瞬間。


――ドゴォォォォォォォォン!!!


本物の二代目砦喰らいと、世界喰らいが生み出した黒いレプリカ。

二体の超巨大怪獣が、正面から真っ向頭頭衝突を果たした。


その凄まじい激突の衝撃波だけで、周囲にいた残存の侵食軍が敵味方問わず、木の葉のように全方位へ吹き飛んでいく。


王女がモニターの閃光を手で遮りながら、呆然と呟いた。


「完全に……怪獣戦争になりましたね……」


その通りだった。完全に当初の軍事作戦の枠組みを超えている。


だが、この凄まじい光景を前に、次元の奥底に潜む世界喰らいが、初めてその邪悪な表情を驚愕へと変えた。


『それは――』


漆黒の巨大な目が、信じられないものを見るように細められる。


『――完全に、予想外だ』


どうやら、あらゆる世界の文明を喰らい尽くしてきた絶対的な捕食者にとっても、背中に巨大倉庫を背負って戦う「物流怪獣」の存在だけは、神の数式を以てしても絶対に想定していなかったらしい。

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