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パーティをクビになった荷運び、実はアイテムボックス容量が無限だった ~王国軍の補給を一人で支えています~  作者: 水原伊織


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第五十話 封印区画

※絶対に解放するな


頭の中に浮かび上がった、巨人レクトの手書きの警告メモ。

そんなものをこの土壇場で見せられても、嫌な予感しかしない。


俺は融合した管理者の感覚を頼りに、そのいわく付きの「第零封鎖区画」のステータスを恐る恐る確認してみた。


システムを覗き込んだ瞬間、オペレーター席の異界少女が計器を見て真っ青になった。


「か、管理者権限レベル十……!? そんな隔離区画、存在するんですか!?」


「俺だって初耳だ」


現在の俺の権限でも、ギリギリ閲覧できるかどうかの最深部。

前任者である巨人レクトが、自らの全権を注ぎ込んで作った絶対不可侵の檻だ。


背後の監視者を見ると、彼は相変わらず表情を一切変えず、静かに佇んでいた。

完全に何かを知っている顔だ。


「何がいる」


俺が低く問いかけると、監視者は少しだけ沈黙した。

そして、ゆっくりと口を開く。


「失敗作」


一番聞きたくない、最悪の単語が返ってきた。


その時、メインモニターの一角に、収納世界の最北端に位置するその封鎖区画のリアルタイム映像が映し出された。


そこは、見渡す限りの荒涼とした荒野だった。


何もない。

山も、森も、川も、街も、生き物の気配すら一切存在しない不毛の地。


ただ――その中心に、異常なものが鎮座していた。


巨大な、扉。


大陸そのものを一枚の板にしたかのような、天を突く超巨大な鉄の門扉が、大地に突き刺さるようにしてそびえ立っていた。


防衛線の兵士たちが、モニター越しにその異形を見て固まる。


「なんだあれ……城門か?」


「いや、大きすぎる……山よりデカいぞ……」


王女が震える声で呟いた。


「封印……あれほどの規模の門で、一体何を閉じ込めているのですか……」


監視者が無言で頷く。


その瞬間、俺の管理者権限の端末が勝手に作動し、一つの「古い記録映像」が自動再生された。


そこに映っていたのは、巨人レクトの姿だった。


今より少しだけ若く、今ほど疲れていない表情をしている。


彼はカメラの向こうのこちらを見据えると、気まずそうに手を振った。


『よお、未来の俺へ』


(やめてほしい。なんか嫌な予感しかしないから、今すぐ再生を止めたい)


映像の中の巨人レクトは、急に真顔になった。


『まず、謝る』


(謝るな。余計に怖いだろ)


『これは事故だ』


(だからもっと怖いって言ってるんだ!)


異界少女が涙目になりながらシートにへばりつく。


「じ、事故で一体何をしたんですか、この創造主は……!」


映像の巨人レクトは淡々と説明を続ける。


『かつて、砦喰らいを収納しただろ? その後、ちょっと研究していたんだ』


研究。およそ補給兵には似合わない、不吉極まりない響きだ。


『収納世界に満ちる固有魔力と、あいつが持っていた異界の魔力……。それと、砦喰らいの規格外の生命力と、超再生能力を掛け合わせて、ちょっとした実験を行ってみた』


嫌な単語しか出てこない。


そして、巨人レクトは急に遠い目をして、ぼそりと呟いた。


『結果。――増えた』


静寂。


コントロールルームの全員が、その場で石のように固まった。


「……増えた?」


『増えた』


映像の中の巨人レクトが、神妙な面持ちでコクコクと頷く。


『二体になった』


「増やしてるぅぅぅぅ!!」


異界少女が椅子から転げ落ちんばかりに絶叫した。


やめてくれ、なんで世界を滅ぼすレベルの災害指定個体を人工授精みたいに増やしているんだ。


巨人レクトも、流石にそこは反省していたらしい。


『いや、俺もそう思った。「なんで増やしちゃったんだろう」って』


思ったじゃない。


その時、映像の向こうの背景から、ドゴォォォォン!!と世界がひっくり返るような巨大な衝撃音が響いた。


巨人レクトがビクッと肩を揺らして振り返る。


そして、彼は引きつった笑顔のままカメラに向き直った。


『ちなみに。元になった砦喰らいより、ちょっと……いや、だいぶ強い』


頭が痛くなってきた。

俺が引き継いだ前任者の負の遺産が大きすぎる。


王女が頭痛に耐えるように額を押さえ、セレフィナも信じられないものを見る目で絶句していた。


だが、映像はまだ終わらない。


巨人レクトは最後に、真剣な目をしてこう締めくくった。


『もし、この収納世界が本当に滅びそうになったら……解放しろ。ただし』


不敵に笑う。


『責任は取らない。じゃあな』


そこでプツンと映像が終了した。


「取ってくださいよ!! あなたが作ったんでしょ!?」


異界少女が画面に向かって全力のツッコミを入れる。


全くもってその通りだ。


だが、そんなコントみたいなやり取りをしている間にも、世界喰らいによる世界の侵食は加速度的に進んでいた。


部屋中に、冷酷な警告アナウンスが響き渡る。


【第六防衛線突破】

【第九区画、完全に崩壊】

【世界侵食率、大幅上昇】


立体地図が、みるみるうちに赤く染まっていく。


敵が模倣した黒い化け物たちの物量に、いくら補給が無限とはいえ、徐々に防衛線が押し切られ始めていた。

もう時間がない。


監視者が、俺の目を真っ直ぐに見据えて言った。


「選べ、管理者レクト」


部屋の空気が、ずしりと重くなる。


「このまま無限の補給を続け、消耗戦の果てに滅びを待つか。それとも――あの封印を解くか」


俺は、モニターに映る北端の超巨大な扉を見つめた。


その向こうには、世界喰らいのオリジナルすら凌駕し、世界喰らい自身も警戒するかもしれない本物の怪物が眠っている。


まさに毒を以て毒を制す、最悪の選択肢だ。


その時だった。

遥か北方の映像から、かすかな音が響いた。


――ゴン。


不毛の荒野に佇む、大陸サイズの巨大な扉。

その内側から、何かが門を叩いた。


コントロールルームの全員の顔色が、一瞬で土気色に変わる。


さらに、


――ゴン。

――ゴン。

――ゴン。


一定の、不気味なリズムで叩かれる鉄門。

それはまるで、檻の奥底にいる何かが、


「ねえ、出して」


と、無邪気にねだっているかのように、世界に向けて響き渡っていた。

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