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パーティをクビになった荷運び、実はアイテムボックス容量が無限だった ~王国軍の補給を一人で支えています~  作者: 水原伊織


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第四十九話 創造主軍

『補給は任せろ』


その一言は、収納世界のシステムを介して瞬時に全土へと広がっていった。


王都、辺境、海上都市、砂漠国家、山岳都市――。

あらゆる場所で、空から響く俺の声を聞いた人々が、地鳴りのような歓声を上げる。


『創造主様だ!』

『補給が来るぞ!』

『これで戦える、いや、もう勝ったも同然だ!!』


コントロールルームでは、各都市の熱狂的な映像を見つめていた異界少女が頭を抱えていた。

「し、信頼度がおかしいです……。まだ何も送っていないのに、なんでお祭り騒ぎみたいになってるんですか……」


「俺もそう思う」

正直、創造主としての実感なんて微塵もない。収納世界の住民にとって、俺は何度も理不尽な物資を投げ込んで危機を救ってくれた絶対的な存在らしいが、俺からすれば「倉庫に荷物を詰め込んでいたら勝手に人が住み着いた」という感覚なのだ。


その時、中央モニターに戦況を示す世界地図が立体的に展開された。


赤い光点――侵食体の軍勢。

その数はすでに数百万に達しており、次元の裂け目から今なお増殖し続けている。

黒い竜、黒い獣、黒い巨人、そして文字通り星を貪るような黒い砦喰らいに、のっしのっしと歩く黒い山。

改めて並べられると、意味が分からないほど絶望的なラインナップだ。


対して、青い光点――収納世界の防衛戦力。

各国軍、自治防衛隊、名だたる冒険者たち、そして俺が過去に間引いて放り込んだ魔物部隊、さらには雪巨人部隊。

……最後の方の戦力が明らかに異様だが、戦えるなら何でもいい。


監視者が地図を見据え、感情の起伏がない声で静かに言った。

「戦力差は大きい。正面から純粋な兵力でぶつかれば、こちらの敗北は必至だ」


確かにその通りだ。個々の戦闘力でも数でも向こうが圧倒している。

だが、俺は管理者の視点でその地図をじっと眺めた。

すべての補給路、地形の起伏、防衛拠点、そして世界中に点在する俺の倉庫。その全てが、まるで自分の手のひらの皺のように鮮明に見える。


「……いや、勝てるな」


俺の呟きに、王女が驚愕して身を乗り出した。

「本当ですか、レクト!? あの数の化け物を相手に……!」


「ああ。戦争の勝敗を決めるのは兵の数だけじゃない」


俺は頷き、ホログラムの地図へ向かって指を滑らせ、無数の線を引いた。


それは、世界中を網羅する縦横無尽の青い線――超空間補給網ルートだ。


その瞬間、収納世界全域で同時に空が割れるように開いた。


各都市の広場へ、最前線の砦へ、孤立していた部隊の頭上へ。


食料、最新の武器、最高級の魔力回復薬、さらには防壁を一瞬で構築するための建築資材や防衛用トラップ一式。

空間の制約を完全に無視し、大量の物資が寸分の狂いもなく正確に降り注ぐ。それは、世界という規模で行われる、前代未聞の超速補給作戦だった。


異界少女が計器の数値を二度見し、ガタガタと震えだす。

「要請から届くまでの補給時間……ぜ、ゼロ秒……!? こんなの、既存のあらゆる軍事理論が根本から崩壊します……!」


だろうな。俺も運び屋じゃなかったら、こんな戦い方は思いつかない。


◆北部戦線

押し寄せる黒い侵食体の大群を前に、北部防衛軍の司令官は、頭上から降ってきた過剰なまでの魔導砲弾の山を見て狂ったように笑った。


「撃て!! 弾数の心配などするな! 撃ち尽くせぇぇぇ!!」


激しい砲撃。地を裂く砲撃。空を焼く砲撃。

本来なら数分で弾切れを起こし、防衛線が瓦解するはずの猛攻。しかし――どれだけ撃っても、砲床の弾薬が尽きることはない。撃った瞬間に、俺の権限で空間から新品の弾薬がダイレクトに補充されるからだ。


前線の兵士たちも、恐怖を忘れてゲラゲラと笑い始めていた。

「おい、本当に弾が減らねぇぞ!」

「ハハハ! 創造主様最高だ! これなら一生撃ち続けられるぞ!!」


◆南部戦線

怪我人と魔力不足で今にも崩れかけていた前線だったが、頭上から最高級の回復ポーションが「雨」のように降り注ぎ、浴びるだけで全員が全快。一転して怒涛の反撃が始まった。


◆西部戦線

黒い巨人が防壁を殴り砕いた次の瞬間、無限に供給される特殊建築資材によって、砕かれた端から防壁が超高速で自動修復されていく。


◆東部戦線

崩壊しかけた街の区画ごと、俺の「地形修復」機能によって即座に元通りに再生成。敵の破壊が一切意味を成さない。


完全にルール無用の反則だった。

これには、次元の奥から戦況を見ていた世界喰らいの巨大な目が、初めて不快そうに細められた。


『なるほど……』


絶対的な捕食者が、ただの羽虫だと侮っていた俺たちを、初めて明確に「警戒」した瞬間だった。


だが、敵も黙ってはいない。

次の瞬間、あの超質量を持つ黒い砦喰らいが、地響きを立てて前進を開始した。


ドゴォォォォン!!


一歩歩くだけで、空間そのものが軋み、世界中の都市が震える。

巨大すぎるのだ。いくら物資が無限にあろうとも、あの圧倒的な存在そのものを物理的に止める手段が、普通の軍には存在しない。


王女が血の気の引いた顔でモニターを睨みつける。

「さすがにあれは……補給だけでどうにかなる規模ではありません……!」


セレフィナも沈痛な面持ちで頷いた。

「ええ。あれだけは完全に別格です。世界そのものを噛み砕く質量兵器だわ……」


その時だった。

管理者の権限を持つ俺の頭の中に、ノイズと共に不可解な警告情報が直接流れ込んできた。


【収納世界北端:第零封鎖区画】

【ステータス:永久立入禁止】

【閲覧制限:管理者以外不可】


そこにあったのは、一つの古い起動記録。

前任者――巨人レクトが遺した、この世界の最深部に眠る遺産だった。


画面に表示された中身を確認した瞬間、俺の思考は完全に固まった。

俺の様子が急変したことに気づき、異界少女が不安そうに声をかけてくる。


「ど、どうしました? レクト殿、何か恐ろしいデータでも見つかったのですか?」


俺は冷や汗が背中を伝うのを感じながら、ゆっくりと、信じられない言葉を口にした。


「いや……この収納世界の、一番深い地下の倉庫にさ……」


嫌な予感しかしない。


「……もう一体、本物の『砦喰らい』が眠ってる」


静寂。


その一言に、王女が石のように固まった。セレフィナが固まった。異界少女が呼吸を忘れて固まった。

敵が模倣したレプリカではなく、かつて世界を脅かし、巨人レクトが封印した「本物」がこの世界の内側にあるというのだ。


ただ一人、全てを察していた監視者だけが静かに目を閉じた。

「なるほど。そこに気づいたか」


知っていたなら先に言ってくれ。

脳裏に浮かぶ封印記録の最後には、殴り書きされた巨人レクトの警告メモが残されていた。


※絶対に解放するな。世界が滅ぶ。


……本当に、嫌な予感しかしなかった。

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