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パーティをクビになった荷運び、実はアイテムボックス容量が無限だった ~王国軍の補給を一人で支えています~  作者: 水原伊織


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第四十三話 創造主

世界喰らいが、収納世界へ噛みつこうとしていた。


見上げるものを圧倒する、底知れぬ巨大な口。

連なる山脈さえも矮小に見せる、おぞましい巨牙。

次元に開いた黒い穴の奥から這い出てきた異形を前に、防衛線に立つ兵士たちは完全に絶句していた。


「勝てるのか……あれ?」


誰かが絶望を絞り出すように呟いた。

だが、その問いに答えられる者は、誰もいなかった。


その時、収納世界の空に、地平の彼方に、狂おしいまでの祈りが響き渡る。

住民代表たちの叫びだった。


『創造主様!!』

『我らをお救いください!!』


(……やめてほしい)


俺は内心で頭を抱えた。


俺はただの荷運びだ。

しがない運び屋に過ぎない。


創造主なんて、そんな大層な存在であるはずがなかった。


だが、救いを求める住民たちの視線は、痛いほどに真剣だった。


遠くのモニターには、悲鳴を上げて避難する人々、怯えて泣き叫ぶ子供、恐怖を押し殺して必死に誘導を続ける兵士たちの姿が映し出されている。


そして、世界喰らいの圧に耐えかね、端から崩れていく美しい街並み。


それを見て、俺の胸が少しだけ痛んだ。


すると、隣に立つ巨人レクトが、その巨大な質量を揺らしてこちらを見下ろしてきた。


『レクト』


「なんだ」


『お前は気づいていない』


嫌な予感しかしない呼びかけだった。


『この世界は』

『お前が作った』


「違うだろ」


俺は即答した。

買い被るのもいい加減にしてくれ。


すると、巨人レクトは静かに首を振る。


『違わない』


直後、巨人レクトの背後に、収納世界のこれまでの歩みが走馬灯のように映し出された。


そこにあったのは、見覚えのあるものばかりだった。


俺が仕事で収納した物資。


俺が人々のために運んだ食料。


俺が汗水流して集めた資源。


そして、俺が危険だからと間引き、処分に困って捨てた……いや、収納した魔物たち。


そのすべてが、この空間の中で生態系を作り、息づいていた。


『始まりは倉庫だった』

『だが人が住み』

『街ができ』

『国ができた』


巨人レクトは、諭すように静かに言った。


『だから彼らはお前を創造主と呼ぶ』


……なんか、急に責任が重くなって胃が痛くなってきた。


その時だった。


世界喰らいの牙が、ついに収納世界の境界へと届いた。


バキィィィィン!!


空間そのものがガラスのように割れる、凄まじい音が轟いた。


空が裂け、大地が容赦なく砕ける。

一瞬にして、画面の向こうの都市一つが消滅した。


全員が息を呑む。

住民たちの地鳴りのような悲鳴。

崩壊していく地平線。


オペレーター席の異界少女が、端末を叩きながらガタガタと震え出した。


「まずいです!!」

「侵食速度が急上昇しています!!」


中央モニターに、赤い警告文字が冷酷に表示される。


【収納世界消滅予測】

【29日】


カウントダウンの数字が、目に見えて減り続けていく。


その様子を冷徹に見つめていた監視者が、低く呟いた。


「想定より早い」


絶望が部屋を支配する。


その時、俺はふと思った。

あまりにも単純で、当たり前のことを。


「なあ」


俺の声に、張り詰めた空気の中で全員がこちらを振り向いた。


「収納できないのか?」


静寂。


前線の兵士たちが固まる。

王女が固まる。

セレフィナも信じられないものを見る目で固まる。

異界少女が、パチクリと目を見開いた。


「……何をです?」


俺は、画面に映るあの禍々しい黒い怪物を指差した。


「世界喰らい」


全員が沈黙した。


あらゆる事象を冷静に分析するはずの監視者ですら、言葉を失って黙り込んだ。


数秒の、気の遠くなるような静寂の後。


『ははははは!!』


巨人レクトが、突然お腹を抱えて吹き出した。

彼が笑ったところなんて初めて見た。

しかも、空間を揺らすほどの天を突く大笑いだ。


『なるほど』

『確かにお前らしい』


呆気にとられる一同を余所に、監視者もフッと口元を緩め、厳かに頷いた。


「理論上は可能」


「可能なのかよ!?」


俺も含めて、その場にいた全員の叫びがハモった。


だが、監視者は表情を引き締め、淡々と言葉を続ける。


「ただし条件がある」


やっぱりか。

ろくでもない条件に決まっている。


そして、監視者はゆっくりと言い放った。


「収納世界そのものを使う」


……意味が分からない。

世界を収納するために世界を使う?


しかし、その瞬間、巨人レクトの表情が引き締まった。


『なるほど』

『そういうことか』


完全に二人だけで納得している。

置いてけぼりにされるのは、本当にやめてほしい。


そして、巨人レクトは静かに、だが決意を秘めた目で俺を見つめた。


『レクト』


「なんだ」


『俺と融合しろ』


全員が、今度こそ完全に硬直した。


もちろん、俺も石のように固まった。


嫌な予感しか、しなかった。

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