第四十二話 外側から来るもの
巨大な目が開いた。
収納世界の空。
黒い穴の奥。
そこに存在する何か。
それを見た瞬間、異界都市にいた全員が寒気を覚えた。
兵士たちは言葉を失う。
王女も青ざめていた。
セレフィナですら眉をひそめる。
だが、最も表情を変えたのは監視者だった。
「……来たか」
重い声。
異界少女が震える。
「知っているんですか?」
監視者は頷く。
「世界喰らい」
空気が凍った。
嫌な名前だ。
とても嫌な名前だ。
その時、収納世界の巨人レクトが口を開く。
『正確にはまだ幼体だ』
「幼体?」
『ああ』
巨人レクトは空を見上げる。
『成体なら、世界一つを丸ごと食う』
規模がおかしい。
兵士たちも引いていた。
「最近の敵、全部規模おかしくないか……」
バルクが遠い目をしている。
その通りだと思う。
だが、巨人レクトは笑わなかった。
『問題は別にある』
嫌な予感。
『あれは俺を狙っている』
全員が固まる。
「お前を?」
『そうだ』
巨人レクトは自分を指差す。
『収納世界は成長した』
『魔力も増えた』
『生命も増えた』
『資源も増えた』
つまり、餌として魅力的になったらしい。
監視者が頷く。
「若い世界ほど狙われる」
若い世界…収納空間なのに。
その時、異界少女が端末を操作した。
警報が鳴る。
【収納世界境界に接触反応】
【侵食開始】
全員が顔色を変える。
モニターに映る収納世界。
その端。
黒い霧のようなものが侵入していた。
そして、森が消える。
山が消える。
地面ごと。
何も残らない。
兵士たちが息を呑む。
「なんだあれ……」
巨人レクトが低く言う。
『食われている』
その瞬間、モニター内で悲鳴が上がった。
収納世界の住民たちだ。
避難する人々。
逃げ惑う魔物。
崩壊する大地。
俺は思わず叫ぶ。
「住民って本当にいたのか!?」
『いる』
巨人レクトは即答した。
『三百二十七万人』
王女が固まる。
セレフィナも固まる。
異界少女も固まる。
「三百二十七万人!?」
『うむ』
うむじゃない。
国家じゃないか。
巨人レクトは続ける。
『ちなみに王都より人口多い』
やめてくれ。
頭が痛い。
その時、収納世界の住民代表らしき人物が映る。
こちらへ向かって叫んだ。
『管理者様!!』
誰だ。
『どうかお助けください!!』
俺を見ている。
いや、巨人レクトじゃなくて、俺を。
『我らの創造主様!!』
全員の視線が集まった。
俺は思った。
なんでこうなったんだろう。
その瞬間、黒い穴の奥から、巨大な口が現れた。
世界喰らいが、収納世界へ噛みつこうとしていた。




