第四十一話 もう一人のレクト
「――俺」
誰も言葉を発せなかった。
空中モニターに映る巨人。
山脈より巨大。
都市すら小さく見える圧倒的な存在。
その顔は、どう見ても俺だった。
「いやいやいや」
俺は首を振る。
「俺じゃないだろ」
すると、映像の中の巨人が笑った。
『そう思うだろうな』
全員が凍りつく。
会話してる。
普通に。
しかも、声まで俺に似ていた。
王女が困惑する。
「レクトが巨大化したらこんな感じでしょうか……」
「しないと思います」
セレフィナが真顔で否定した。
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その時、監視者が低く呟く。
「なるほど」
珍しく驚いている。
異界少女が振り向く。
「知ってるんですか!?」
監視者は数秒沈黙した。
「理論上は存在した」
嫌な前置きだ。
「収納空間は記録する」
「物質」
「魔力」
「情報」
「概念」
難しい。
監視者の次の言葉で空気が変わった。
「長期間続けば、使用者の残滓も蓄積する」
全員が固まる。
残滓?
俺?
監視者は頷いた。
「貴様が収納を使う度、思考、記憶、経験、魔力…少しずつ流入していた」
嫌な予感しかしない。
映像の巨人が笑う。
『正解』
認めた。
『俺はレクトだ』
『お前が落とした欠片の集合体』
『収納世界の管理者』
異界少女が叫ぶ。
「勝手に管理者が生まれてるんですけど!?」
その通りだ。
俺も初耳だ。
モニターの巨人は穏やかだったが、少し疲れて見える。
『苦労したぞ』
「何が?」
思わず聞いてしまった。
すると巨人は指を折り始める。
『突然降ってくる魔物』
『山』
『燃える湖』
『雪巨人』
『砦喰らい』
『崩落する地形』
全部俺だった。
兵士たちの視線が痛い。
巨人はため息を吐く。
『毎日災害だ』
『住民を避難させ』
『区画整理し』
『魔物を隔離し』
『物資を再配置し』
『ようやく世界の形になった』
なんかすごく働いてる。
バルクが呟いた。
「お前より働いてないか?」
失礼だな。
否定できないけど。
その時、巨人の表情が変わった。
笑顔が消える。
『だが』
空気が重くなる。
『時間がない』
監視者が目を細めた。
『何が起きる』
巨人は空を見上げる。
収納空間の世界。
その遥か上空。
そこに、巨大な黒い穴が映っていた。
全員が息を呑む。
『外側だ』
監視者の顔色が変わる。
初めてだった。
世界の管理者が、明らかに警戒している。
そして、巨人レクトは静かに告げた。
『あと三十日で』
『収納世界が戦場になる』
その瞬間、黒い穴の奥で、何か巨大な目が開いた。




