第四話 補給が途切れない軍
翌朝。
俺は王国軍の輸送拠点へ来ていた。
王都北門の外。
巨大な倉庫が並び、
無数の兵士と荷馬車が慌ただしく動いている。
「遅い! その木箱は第三補給隊だ!」
「回復薬が足りん! 誰か持って来い!」
「馬車がまた壊れたぞ!!」
……ひどいな。
現場は完全に混乱していた。
兵士たちは走り回り、
倉庫係は怒鳴り合い、
補給物資の山だけが増えていく。
「これが北方遠征の現状だ」
昨日の兵站局の男――バルクが低く言う。
「輸送が間に合っていない」
俺は倉庫を見回す。
食料箱。
武器。
防寒具。
回復薬。
確かに量はある。
だが管理が追いついていない。
「在庫表は?」
「あるにはある」
「……あるには?」
バルクが顔をしかめた。
嫌な予感がした。
案内された管理室では、
机の上に大量の帳簿が積み上がっていた。
しかも全部、
手書き。
俺は思わず呟く。
「終わってるな」
「否定できん」
バルクが真顔で頷いた。
帳簿を一冊開く。
数字がバラバラ。
記録漏れ。
重複。
搬出先不明。
……よく今まで軍が動いてたな。
「今、北方砦には何日分の食料が?」
「正確には分からん」
「回復薬の残数」
「確認中だ」
「防寒具は?」
「未集計だ」
俺は頭を抱えた。
これ、
補給不足じゃない。
管理崩壊だ。
その時だった。
外から怒鳴り声が響く。
「北方便の馬車が襲われたぞ!!」
空気が凍る。
兵士が駆け込んできた。
「第三輸送路で魔物の群れが出現!
積荷の半分を放棄しました!」
「被害は!?」
「食料箱四十、防寒具二十、回復薬――」
兵士の顔が青ざめる。
「かなり失いました……!」
周囲が騒然となった。
バルクが舌打ちする。
「……まずいな」
「北方砦まで何日?」
「通常輸送で四日だ」
遠い。
しかも輸送路は危険。
そりゃ崩壊する。
だが。
「なら問題ない」
俺が言うと、
全員がこちらを見た。
「……何?」
「物資、どこにある?」
バルクが倉庫を指差す。
「ここだが――」
俺はそのまま歩き出す。
巨大倉庫。
天井近くまで積み上がる木箱。
普通なら、
数十台の馬車が必要な量。
兵士たちがざわつく。
「おい、何する気だ?」
「まさか……」
俺は木箱へ手を伸ばした。
――《収納》。
瞬間。
巨大な物資の山が、
まとめて消えた。
「なっ……!?」
兵士たちが絶句する。
俺は止まらない。
食料。
武器。
防寒具。
回復薬。
次々と収納していく。
倉庫が、
みるみる空になっていった。
数分後。
広大だった倉庫は、
半分以上が空になっていた。
静寂。
誰も喋れない。
バルクだけが、
ゆっくり口を開く。
「……今、どれだけ入れた?」
「さあ」
俺は少し考える。
「多分、北方軍一ヶ月分くらい?」
兵士の一人が、
膝から崩れ落ちた。
「化け物だ……」
だが次の瞬間。
バルクが俺の肩を掴む。
その目は、
獲物を見つけた軍人の目だった。
「レクト」
「なんだ?」
「今すぐ北方へ向かうぞ」
「え、今から?」
「当然だ」
バルクは即答した。
「補給が止まれば、人が死ぬ」
その言葉に、
周囲の兵士たちが黙る。
俺は小さく息を吐いた。
……どうやら、
思ったより大事になってきたらしい。




