第五話 補給が来たぞ
北方へ向かう軍用馬車の中。
俺は揺れる座席に座りながら、
外の雪景色を眺めていた。
寒い。
王都とは別世界だった。
「北方ってこんなに冷えるのか」
「まだマシな方だ」
向かいに座るバルクが答える。
「本格的な冬になれば、凍死者も出る」
……なるほど。
だから防寒具不足が致命的なんだな。
馬車の後方では、
兵士たちが小声で話している。
「本当に補給全部入ってるのか……?」
「信じられん……」
「倉庫ごと消えたぞ……」
聞こえてるんだが。
だがまあ、普通はそうなるか。
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数時間後。
吹雪の中、
巨大な石造りの砦が見えてきた。
北方防衛砦《グラン砦》。
王国北端の最前線。
だが――
様子がおかしかった。
兵士たちに活気がない。
見張り台の兵まで、
疲れ切った顔をしている。
砦の門が開く。
中へ入った瞬間、
怒鳴り声が響いた。
「食料班! 配給はまだか!」
「回復薬が足りねぇ!」
「毛布を寄越せ! 凍えるぞ!」
空気が重い。
兵士たちの顔には、
明らかな焦りが浮かんでいた。
その時。
一人の隊長格らしき男が、
こちらへ駆け寄ってきた。
「バルク!! 遅いぞ!!」
顔色が悪い。
目の下にも隈ができている。
「輸送隊が襲われたと聞いた!
補給はどうなった!?」
バルクは短く答えた。
「問題ない」
「何?」
「全部届いている」
隊長が固まる。
「……は?」
その時だった。
バルクが、俺を前へ押し出す。
「レクト」
「分かった」
周囲の兵士たちがこちらを見る。
俺は砦中央へ歩いていく。
そして。
広場へ手をかざした。
――《排出》。
瞬間。
何もなかった雪原に、
巨大な木箱の山が現れた。
「なっ!?」
兵士たちが叫ぶ。
さらに。
食料箱。
回復薬。
武器。
防寒具。
次々と物資が現れていく。
広場が、
一瞬で補給物資に埋め尽くされた。
静寂。
誰も動けない。
やがて。
一人の兵士が、
震える声で呟いた。
「……補給、だ……」
別の兵士が叫ぶ。
「補給が来たぞ!!」
その瞬間。
砦全体が揺れた。
「うおおおおお!!」
「食料だ!!」
「回復薬があるぞ!!」
「毛布だ! 毛布が来た!!」
疲弊していた兵士たちが、
一斉に駆け出す。
中には泣いている者までいた。
「助かった……」
「もう駄目だと思ってた……」
俺は少し驚いた。
……そんなに深刻だったのか。
すると隣で、
隊長が呆然と呟く。
「あり得ん……」
彼は震える手で、
積み上がる物資を見つめる。
「通常輸送なら四日はかかる量だぞ……」
「まあ、収納しただけだし」
「だけ、で済むか!!」
隊長が絶叫した。
周囲の兵士たちまで頷く。
「化け物だ……」
「いや救世主だろ……」
「王国の宝じゃねぇか……」
やめてほしい。
なんか恥ずかしい。
だがその時。
砦の警鐘が鳴り響いた。
ゴォォォン!! ゴォォォン!!
空気が変わる。
兵士たちの顔から笑みが消えた。
「魔物襲撃!!」
見張り兵が叫ぶ。
「北側雪原より魔物群接近!!」
隊長が舌打ちする。
「最悪のタイミングか……!」
兵士たちが慌ただしく武器を取る。
だが。
さっきまで絶望していた空気とは違った。
食料がある。
回復薬がある。
武器がある。
補給が届いた。
それだけで、
兵士たちの目に力が戻っていた。
そして隊長が、
剣を抜きながら笑う。
「――今なら戦えるぞ」




