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7-9:真実と禁忌

 私はギーちゃんを腕に抱きながら、空で羽ばたくピーちゃんをパーラと一緒に中庭から眺めていると、大きなフェニックスだったピーちゃんが突然消え、私の纏う炎も消えた。そして、小さな何かが落下してくるのが見える。


「あれ?ピーちゃんは?」

「落ちてくるわよ!」

「え?」


 パーラが背中から触手を出したので、私はギーちゃんをパーラに預けた。空を見上げながらピーちゃんを受け止めようとあたふたしていると、ピーちゃんが落下しながら胸に飛び込んでくる。


「ピーちゃん、お疲れ様!」

「レイアも!」


 私がピーちゃんを受け止め、短い言葉を交わした直後、私とピーちゃんは意識を失ってしまった。意識を失った私が倒れる寸前、私とピーちゃんは空中に浮いていた。その様子にパーラは驚き、気配のする方に向かって叫ぶ。


「誰なの!」

「警戒しなくても大丈夫ですよ」

「あんた、まさか…」

「では、外に行きましょうか」


 突然現れた壮年の女性は私たちを浮かせたまま、宝石の無くなった杖を拾い上げ、学園の外に向かう。外に出ると、みんなとノエルとステラが何やら話をしていた。近付く私たちに最初に気がついたのはノココ。ノココは浮いている私たちを見ると壮年の女性に駆け寄り、浮かせる役目を申し出た。


「わたしがやるよ」

「そうですか?ではお任せします。ところで、お名前は?」

「ノココだよ」

「ではノココさん、よろしくお願いしますね」

「ノココ、そいつは誰だ?」


 ノエルが近付きながら剣に手を掛けた瞬間、炎をまとったアカマサがノエルの前に立ち塞がった。


「師匠!?」

「ノエル殿、このお方に歯向かうことは許されませぬ」

「ノエル」

「あ、ああ…。師匠がそこまで言うとは…」

「そろそろよろしいですか?少しの間レイアさんたちを預かりますので、あとはよろしくお願いしますね」


 壮年の女性はそう告げると、扉のようなものを作り始めた。長い時を過ごしてきたノエルとステラにとっても初めての光景で、目を奪われている。


「ではみなさん、こちらへ」


 アカマサを筆頭に、みんなは扉に入る。リオンは浮いている私の心配をしつつ、タマモに促されながら扉へと消えていった。最後に壮年の女性が入ると、扉は消えた。


「ステラ…、あんな魔法があるのか…?」

「聞いたことがありません…」

「それにあのフェニックスは…」

「『覚醒した』とノココさんは言っていましたが…」




「ここ…、どこ?」


 私が目を覚ましたのは、明るい森の中のような場所に設置されたベッドの上。周囲には誰もおらず、いくつかのイスがベッドのそばにあり、わずかに光を放つ見たことのない扉のようなものがイスの後ろに存在している。


「なにこれ?」


 私がベッドの上から扉を眺めていると、二人のアンデッドが現れた。


「レイア様!お目覚めでしたか!」

「姫様、おはようございます」

「ハドック、アカマサ、おはよう。ここがどこかわかる?」

「みなさまがお待ちですので参りましょう」

「どこに?」

「この先でございます」


 私はハドックとアカマサに連れられて、不思議な扉に入る。扉の先は私が寝ていた場所と同じく明るい森のようだった。森の中では至る所に大小様々なモンスターがおり、何人かの人が右往左往している。その中にはみんなの姿もあった。


 私たちが不思議な扉から出てくると、扉の横ではケリュスが横たわっていた。


「目が覚めたか」

「ケリュス、おはよう」

「ずいぶん長いこと眠っていたな」

「え?」

「レイア様は数日ほど眠っておりました」

「そんなに!?」

「姫様、こちらです」


 アカマサを先頭にみんなの所へ向かう。ケリュスはゆっくりと起き上がり、私の隣を歩き始め、私に気づいたみんなが続々と集まってくる。


「ママ!」

「リオン、おはよう」


 駆け寄ってきた大きなリオンが私の目の前で止まり、頭を体に擦り付けてきたので、私はそのまま頭を撫でる。次に駆け寄ってきたのはタマモ。


「レイアさん、大丈夫ですか?」

「うん」

「よかったです」


 タマモを加えてさらに進むと、森の中に大きなキッチンと大きなテーブルが現れた。キッチンではパーラと壮年の女性が料理をしており、テーブルの上には多くの料理が並んでいる。私がテーブルのそばまで行くと、パーラが私たちに気づいた。


「起きたみたいね」

「うん。そっちの人は…」

「お久しぶりです」

「ガイアさん!?」


 パーラと料理をしていたのはガイア。振り返ったガイアに私は驚きを隠すことができない。私がガイアにこの場所について尋ねると、ガイアは少し考えながら答える。


「あの、ここは?」

「ここは…、そうですね…。私たちの家であり庭のようなものですね」


 ガイアがそう言った時、私のお腹が盛大に鳴った。


「レイアもご飯食べるでしょ?」

「うん」


 私はパーラに促されてイスに座る。そして、テーブルに並んでいる多くの料理の中からパーラが適当に料理を取り分け、私に渡す。


「あとはこれね」


 パーラが渡してきたのは、深めのお皿に入った赤いスープ。その見た目や匂いにより、私は当時のことを鮮明に思い出す。タマモ、ハドック、パーラが仲間になり、初めてガイアに出会った日。魔法を教わり、杖とブレスレット、マジッククロスを貰った。当時のことを鮮明に思い出した私は、ガイアに謝罪をしなければならない。


「ガイアさん…、杖の宝石が…」

「こちらですか?」


 ガイアは鞄から緋色の宝石を失った杖を取り出す。その杖を見て、ガイアは嬉しそうな顔をしている。


「宝石が割れちゃって…」

「それでいいのです。あの宝石はいずれ割れる運命だったのですから。それがたまたまレイアさんだったというだけのことです」

「どういうことですか?」

「レイアさんは食事を取りながら聞いてください」


 あの宝石はピーちゃんから分離させた魔力の塊で、ピーちゃんは今よりも多くの魔力を有していたという。しかしその大きすぎる魔力にピーちゃんは耐えられず、ガイアが魔力だけを分離させ、宝石の形に変えた。分離した魔力はピーちゃんの準備が出来次第戻るはずだったが、どれだけの時間がかかるかはガイアにもわからなかった。


 しかし、私が意図せず宝石に姿を変えていたピーちゃんの魔力をも支援魔法として使用し、最大の支援魔法に乗って、分離した魔力はピーちゃんのところへ。ピーちゃんは分離した魔力を全て受け入れ、苦しむことなく覚醒。しかし常に覚醒しているわけではなく、私と魔力が繋がっている間だけ覚醒できるようになったという。それにより、予想外の問題が発生したとのこと。


「私の設定では覚醒した子は全員が人の姿になれるのです」

「タマモやノココと同じですか?」

「そうです。ですが、あの子は人の姿にはなりませんでした。なぜだと思いますか?」

「えっと…、頭の上が好きだからですか?」

「正確なことはわかりませんが、それも可能性の一つかもしれません」

「人の姿になれないとどうなりますか?」

「特に問題はありません。あの子が元気でいてくれるなら、それが一番ですから」


 食事を終えた私はピーちゃんとノココがいないことに気づく。


「あの、ピーちゃんとノココは?」

「もうすぐ帰ってくると思いますよ」


 ガイアがそう言うと、ピーちゃんを頭に乗せたノココがこちらに歩いてきた。ノココが私に気づくと、ピーちゃんを頭から腕に抱いて駆け寄ってくる。


「起きた?大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「よかった…」


 ノココの腕に抱かれたピーちゃんはボロボロで、ぐったりしていた。


「ピーちゃん!大丈夫!?」

「だいじょうぶぅ…」

「またずいぶんとボロボロですね」

「ノココ、なにがあったの?」

「ピーちゃんと戦っただけだよ」


 ノココはピーちゃんがボロボロな理由を述べると、ガイアはノココからピーちゃんを受け取り、撫でながら説明を始めた。ピーちゃんはガイアの家族であり、ここにいる他の家族より弱い。治癒能力と魔力量だけは群を抜いていたものの、純粋な戦闘力では一番下。しかし、炎の巫女のためにピーちゃんはここにいる家族たちと日々戦い、研鑽を積んでいたという。


「ノココはケガしてない?」

「だ、大丈夫だよ」


 ノココは私に心配されたのが意外だったのか、照れ隠しのためにそっぽを向いた。ガイアはそんなノココを笑顔で見つめつつ、ピーちゃんを撫でる。


「これで大丈夫でしょう」

「ありがとう!」


 ガイアがピーちゃんを撫で終わると元気になった。その後、ピーちゃんはガイアの元から特等席へと舞い降り、元気よく叫ぶ。


「お腹空いた!」

「わたしも」


 食後、ガイアからギーちゃんの話があった。ギーちゃんも私たちと一緒にここへ来て、別の場所で眠っているという。


「本来であれば存在してはならない子になるので消すこともできます。しかし、それではまた同じことを繰り返してしまうでしょう。ですからギーちゃんからはすべての炎を奪い、魔力量も少なくしておきました」

「青い炎を撒き散らすことができなくなったということですか?」

「そうです。あの子が使用できるのは火属性のみ。ただ、青い火を出せるようにはしてあります」


 ガイアはさらに続ける。問題の根本はギーちゃんではなく、ギーちゃんを造り出したティアラ。ギーちゃんを造り出すほどの天才ぶりに、ガイアは関心したとのこと。しかし禁忌は禁忌。ティアラの存在そのものを消すことも考えたという。


「それはダメです!」

「ではまたあのような大きな火災が起きたらどうしますか?あの学園長が原因でまた起こらないとも限りませんよ?」

「ぼくが消す!」


 机の上で話を聞いていたピーちゃんは、左右の翼を大きく広げながらそう言った。ガイアはそれを見て微笑むと、ティアラの処遇について話す。


「レイアさん、あの学園長にはギーちゃんを帰す代わりに、今後一切、フェニックスの研究をしないように約束させてください。禁忌の研究として研究そのものを葬ってほしいのです」

「約束させます!」

「それから、レイアさんも禁忌に足を踏み入れてしまいましたよ」

「え!?」


 私が犯した禁忌は「仲間になったモンスターの言葉を理解できるのはビーストテイマーだけ」というもの。みんなの声は、ピーちゃんの羽根を持っている人に伝わるようになってしまった。


「フェニックスの羽根にそのような効果はないはずでしたが、これは少し調べてみる必要がありそうですね」

「えっと…、私にもなにか…」

「レイアさんに罰を与えるとここにいる家族全員から怒られてしまいます。声は羽根を持つ人にだけ聞こえているようですから、そこは目をつぶりましょう」

「あの、学園長もギーちゃんの言葉を理解するために魔法具を作ろうとしていたはずです」

「そちらはもう対策済みですが、その研究についても禁忌ということを伝えていただけますか?」

「わかりました」

「それから、無暗に羽根を渡さないでくださいね?」

「わかった!」


 ガイアは笑顔でピーちゃんに問いかけると、ピーちゃんは元気よく返した。私が目覚めてから一週間。ピーちゃんはここにいる家族に毎日戦いを挑むものの、一度も勝てなかった。覚醒し、緋色と金色を纏うピーちゃんでさえ勝てないほど、ガイアの家族は強い。


 私はガイアから様々な話を聞いた。ガイアが何者で、ここで何をしているのか。その全てを秘密にするように注意も受けた。


──ピーちゃんを覚醒させたお礼になにかおまけしてくれたみたいだけど、なんのことかなぁ?


 様々な料理も教わったが、そちらはパーラに全て任せた。赤いスープはパーラが完璧に盗み、フェクトールで買った私が入れるほどの大きな鍋いっぱいに仕込んである。そして、今日は私たちが出発する日と同時に、私がガイアに戦いを挑む日でもある。


「ど、どうぞ…」

「いただきます」


 ガイアに恐る恐る紅茶を淹れる。今まで一度も使用してこなかった、ガイアから貰ったカップを使用。私の渾身の一杯を、ガイアは口に含む。


「ど、どうですか…?」

「おいしいですよ」


 私は全身の力が抜け、その場にへたり込んだ。私の戦いが終わった後、ガイアは杖を差し出す。その杖には、割れる前と全く同じの緋色の宝石がはめ込まれている。


「これは…」

「この宝石が割れることはありませんので安心してください。では行きましょう」


 ガイアは扉のようなものを作り出した。それは私が目覚めた時とは違い、どこかで見たことのある扉。扉を作り終わると、ガイアはそのまま扉を開けて先に進む。私はピーちゃんを頭に乗せ、みんなでガイアの後を追いかけた。


「あ、いらっしゃい」

「え!?」


 扉の先は、満腹都市マーゲンでお世話になっている宿屋。宿屋の入り口のちょうど反対側にある扉が開き、受付の女性は扉から出てきた私たちをいつものように出迎える。


「あとはよろしくお願いしますね」

「ちょ、ちょっと待ってください!どうしてここに!?」

「この子も私の家族ですから」


 ガイアは受付の女性に近付き、頭を撫でる。私たちがその様子に唖然としていると、全てを知っていたノココは得意げに口を開く。


「ここの料理はガイアが作ってたんだよ」

「そうなんですか!?」

「お楽しみいただけましたか?」


 ガイアは笑顔で私たちに微笑むと、重要なことを伝える。


「私からレイアさんに会いに行くことは簡単ですが、レイアさんが私に会いたくなった時にはここを訪れてください。次は私が紅茶を淹れますね」


 そう言い残し、ガイアは扉の中に戻ると、軽く手を振ってから扉を閉めた。


「今日は泊るの?」

「えっと…、その…、あの…、どうすれば…」

「どうすればって言われても困るけど、魔法国に行くのが手っ取り早いかな」

「魔法国がどうなったか知ってますか?」

「知ってるけど、自分の目で見たほうがいいんじゃない?ノココもいるし、すぐ着くわよ」

「じゃあ魔法国に行きます!」

「いってらっしゃい」


 私たちは宿屋を後にし、マーゲンの北門に向かった。宿屋を出る前にタマモとノココには小さな姿になってもらい、ケリュスとリオンも小さくする。そして私が北門でギルドカードを出した時、冒険者としての禁忌を犯したことに気づく。


「おい!ギルドマスターを呼べ!」

「え?」

「お前たち!どうやってここに入った!関所を通った記録もないぞ!」


──あ…。


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