7-8:炎の巫女とフェニックス
私たちは青いフェニックスとティアラに駆け寄り、パーラとケリュスの防御膜越しに私はティアラに尋ねた。
「学園長、これがギーちゃんなんですか?」
「そうじゃ。じゃがわしの研究では…」
「ギー…」
──やっぱり苦しんでるように見える。
ティアラが青いフェニックスとなっているギーちゃんに触れると、手のひらまで巻かれた包帯が燃え、肌の火傷が露わになった。私はその肌を見て、驚きながらティアラに尋ねた。
「学園長!?ポーションは使わなかったんですか!?」
「あの薬はレイアじゃったか。とんでもない薬での、数日ですべてのケガが治ったぞ」
「その火傷はどうしたんですか!?」
「これは…」
ティアラは口を噤む。そのまま沈黙が続いた後、ギーちゃんは苦しそうに中庭から空へと舞い上がっていった。その様子にティアラが前に出ると、ノココはティアラを覆うように防御膜を展開した。
ノココはそのままティアラを浮かし、私たちのいる防御膜の中央にティアラを運んだ。ギーちゃんが舞い上がった時に散った青い炎は中庭に燃え移り、私たちに降りかかる青い炎は防御膜が防ぐ。
「あのままだともっと火傷するよ」
「そんなことはわかっておるのじゃ!じゃが今はギーちゃんが…」
「ギー!?」
学園の上空でギーちゃんが何かに苦しんでいるように私は感じ、ピーちゃんにここから空へ上がることを提案する。
「ピーちゃん、やれる?」
「ピー!」
私が杖を立てると、特等席に鎮座する相棒が炎を纏う。その熱を感じ、私は相棒をフェニックスへと変える。
「スカーレットリンク!」
その様子を見ていたティアラは言葉が出ない様子。何が起こっているのかわからず、ただただ口をあんぐりと開けている。
「な、な…」
「ピーちゃん、学園長を治せる?」
「ピー!」
そう言い放った相棒は、ティアラを炎で少しの間だけ包む。ティアラを包む炎が消えた時、手や腕にあった火傷は綺麗に消え去っていた。
「まさか…、本物のフェニックスじゃと…」
「ピーちゃん、ギーちゃんをお願い!私たちは学園の外に出てるから!」
「ピー!」
ピーちゃんは中庭に飛び散った青い炎を消しつつ、上空にいるギーちゃんの所へ向かう。
「学園長!外に行きましょう!」
「じゃが…」
「ギーちゃんはピーちゃんがなんとかしてくれます!」
ティアラは渋々、私たちと一緒に学園の外へ。外に向かって歩いていると、ティアラが恐る恐る私に尋ねる。
「レ、レイア…、熱くないのかの…?」
「熱くないですよ」
「そ、そうかの…。…。レイアは炎の巫女なのかの…?」
「はい」
それ以降、ティアラは無言を貫いた。私たちが外に出ると、ボロボロのノエルをステラが介抱していた。
「ノエルさん!どうしたんですか!?」
「ちょっと、な…」
「あの、アメリは?」
「私がロマリスのところへ送り届けました」
「それよりレイア…、あれは…」
「え?」
私が学園の方を振り返ると、緋色のフェニックスと青いフェニックスが学園の上空で羽ばたいていた。しかし問題なのはギーちゃん。ギーちゃんが羽ばたくたびに青い炎を撒き散らし、ピーちゃんはその青い炎を癒しの炎のきらめきで消していく。
ピーちゃんとギーちゃんが空中で睨み合っていると、何かに苦しむギーちゃんは大きく翼を広げた。それにより、今までよりも広範囲に青い炎を撒き散らす。それを見たピーちゃんは炎を防御膜のように展開し、学園を守るように覆った。
「ステラ…」
「わかってます!」
ギーちゃんの撒き散らした青い炎の範囲は予想以上に広く、アルカディアにまで降り注ごうとしていた。ステラはノエルの小さな呼びかけと同時に、都市を覆うほど巨大な防御膜を展開。アルカディアには防壁が無い代わりに防御膜が展開されているが、ステラはその上からさらに防御膜で覆う。しかし、魔力が減っていたステラにとってこの防御膜の消耗は大きかったのか、防御膜を展開すると膝から崩れ落ちた。
「ステラさん!」
「少々魔力が…」
ステラが鞄から何かを取り出そうとした時、ノココがステラを水の球体に閉じ込めた。
「なにをしておるのじゃ!」
ティアラがそう叫ぶと、ノココはティアラに小さな水の玉を飛ばす。それはルルや私に飛ばしたものと同じで、ティアラは眠るようにしてその場に倒れ込んだ。ティアラが完全に倒れ切る前にノココがティアラを浮かし、その場にゆっくりと寝かせる。
「ノココ!ダメだよ!」
「こいつうるさいよ」
「ステラは…、大丈夫なのか…?」
「大丈夫だよ」
ノココがそう言った直後、ステラを閉じ込めていた水の球体が弾けた。
「ステラさん、大丈夫ですか?」
「はい…。ですが今のは…」
「それはあとだよ」
ノココはそう言いながら、都市全体を覆う二重の防御膜と、学園全体を覆う二重の防御膜を展開。ピーちゃんは自らの展開した炎の防御膜の上から、ノココの防御膜が展開されたことを確認すると炎を消し、ギーちゃんを炎で包み込んでいく。しかし、ギーちゃんはピーちゃんの炎を振り払った。
「ギー!」
攻撃されたと思ったギーちゃんは、鋭い嘴から大きな青い炎を吐いた。熱くて冷たいその炎の熱は離れている私たちにも届く。それを見ていたノココは瞬時に私たちを防御膜で覆った。ピーちゃんはその青い炎に対し、自らを炎の防御膜で覆う。ギーちゃんから吐き出された青い炎がピーちゃんの炎の防御膜に当たると、小さな青い炎となって学園の上に展開されている防御膜の上に降り注ぐ。
ギーちゃんが炎を吐き終わるとピーちゃんは炎の防御膜を消し、仕返しとばかりに大きな炎を吐いた。それに合わせたかのように、ギーちゃんはもう一度青い炎を吐く。二人は炎を吐き続けたが、ピーちゃんの炎の勢いが増し、徐々にギーちゃんの青い炎を上回っていった。そして最後には、ピーちゃんの炎がギーちゃんを包み込んだ。
「ギー…」
ピーちゃんの炎に包み込まれたギーちゃんは、ノココが展開した防御膜を突き破り、学園に落下。そしてそれを追いかけるかのように、ピーちゃんも学園に降りていった。
「落ちた!」
「行きましょう!」
私とタマモがそう叫んだ瞬間、学園の西側に青いモンスターの集団が現れた。青ゴブリン、青オーク、青トロール。ダンジョンにしか現れないモンスターが青く染まって現れ、地面を揺らしながらゆっくりとこちらに近づいてくる。それを見たタマモは、学園ではなく青いモンスターの方を向く。
「レイアさん!ここは私がやります!」
「われも残ろう」
「リオンも!」
ケリュスとリオンはタマモの隣に並びながら、私にそう言った。
「パーラさんはレイアさんをお願いします!」
「わかったわ!」
「わたしもここに残るよ」
ノココは一人、私の服を掴みながら静かに呟いた。私は私を心配するノココの頭を撫で、みんなにこの場を託す。
「みんな!お願い!」
私とパーラは学園へ向かった。私たちが学園に向かった後、ノココが口を開く。
「まずはあの二人を起こすよ」
「あの二人とは?」
「あれだよ」
タマモの問いにノココが指をさす。その先には動きを止めたハドックとアカマサ。青トロールの軍勢を倒すため、全ての魔力を消費していた。
「起こせるのですか?」
「起こせるよ」
「ケリュスさんはノエルさんとステラさんを…」
「タマモさん、私は戦います。ノエルだけお願いします」
「うむ」
ステラはみんなの隣に並び、ケリュスはノエルの隣で防御膜を展開。
「ノココさん、私たちで時間を稼ぎますのでお願いします」
「やられないでよ」
私とパーラは再び学園に入り、落下地点であろう中庭まで行くと、ギーちゃんは地面に伏し、ピーちゃんは心配そうにギーちゃんを見つめている。
「ピーちゃん!大丈夫!?」
「うん!」
「ギーちゃんは…」
「助けて…」
「え?」
「魔力が溢れる…」
ギーちゃんがそう言うと、今まで抑えていた魔力が溢れ出した。ギーちゃんの青い炎は一気に勢いを増し、自らの周囲を青い炎で包み込む。その炎は、以前ピーちゃんが覚醒したタマモの攻撃を防ぐために立てた炎柱のような青い炎柱となり、中庭から空へと伸びていく。パーラによる二重の防御膜はその青い炎柱の勢いに押され、外側の一枚が破壊された。
パーラの防御膜が一枚破壊された時、ピーちゃんが私たちの前で青い炎をその身で防ぎ、私に向かって叫んだ。
「レイア!力をちょうだい!」
「わかった!スカーレットコール!」
「足りない!もっと!」
「もっと!?でも魔力が…」
腕に付けているブレスレットを確認すると、全ての珠が光りを放っている。
──そうだ、今はピーちゃんと魔力が繋がってるんだ。でも…。
私は覚悟を決め、全ての魔力を杖に注ぎ込む。
「ピーちゃん!少しだけ耐えて!」
「わかった!」
私は杖を立て、両手で掴み、魔力を込める。込めていく魔力が増えるほどに、杖の先端についた緋色の宝石はだんだんと輝きを増していく。少しだけ時間をかけ、ほぼ全ての魔力を杖に注ぎ込み、ピーちゃんに今までで最大の支援魔法をかける。
「スカーレットコール!!」
支援魔法を発動すると、杖の先端に付いていた緋色の宝石は割れ、砂のように砕け散ってしまった。しかし砂になった宝石は支援魔法の輝きに乗って、そのままピーちゃんの周囲を漂う。
最大の支援魔法がピーちゃんに降り注ぐと、ピーちゃんはギーちゃんを緋色の炎で一気に包む。そしてギーちゃんを包んだ緋色の炎が消えた時、そこには青いフェニックスではなく、太った青いファーストバードの姿に戻ったギーちゃんが倒れていた。それを見た私は杖をその場に置き、倒れたギーちゃんの元に駆け寄ってギーちゃんを抱き上げる。
「大丈夫!?」
「うん…」
「よかった…」
「レイア!」
「どうし…、え?ピーちゃん?」
そこには今までよりもさらに大きくなったピーちゃんの姿があった。頭からぴょこんと飛び出た飾り羽は緋色ではなく金色に輝き、纏っている緋色の炎にも多くの金色の粒子が漂っている。
「レイアたちはここで待ってて!」
「う、うん…」
ピーちゃんはそう言い残すと、中庭から上空に舞い上がり、いつものように癒しの雨を降らせ始めた。
「なんとか…、片付いたな…」
「ええ…」
ステラは私の仲間と協力し、青いモンスターを全て片付けて、ノエルの介抱をしていた。その直後、学園から飛び出してきた大きなピーちゃんに全員が驚く。
「あれは…、ピーちゃんなのか…?」
「あのような姿は見たことがありません…」
「やっと覚醒したんだよ」
「長かったですな」
ノココとアカマサは何かを知っているかのように、学園の上空を舞うピーちゃんを見て嬉しそうに言った。
「覚醒…」
タマモは緋色と金色を纏うピーちゃんを見つめながら小さくそう呟いた。空へ上がったピーちゃんは空中でくるりと一回転して左右の大きな翼を広げると、広範囲に癒しの雨を降らせ始める。そしてひとしきり雨を降らし終えると、覚醒したピーちゃんは突然その場から消えた。
「ピーちゃんが消えました!」
「みなさま、学園にまいりましょう!」
「行かなくていいよ」
「しかしだな」
「拙者たちはここで待ちましょう」
「ママは大丈夫?」
「大丈夫、来てるから」
ノココはアルカディアから魔法学園に視線を移動させながら、私を心配するみんなを説得し、この場で私たちが出てくるのを待った。




