7-7:本気
水産都市アクアハーバーを出発してから、私はノココに尋ねる。
「ノココっていつも空を飛んでたドラゴンだよね?」
「そうだよ」
「ノココのあとを追うと仲間が増えたんだけど、知ってた?」
「し、知らないよ。いつも適当に飛んでただけだから」
「そうなんだ。でもありがとう、仲間になってくれて」
「…うん」
アクアハーバーを出発してからすぐに、遠くの方で青い炎が燃えているのが見え始めた。キュラスの言った通り、魔法学園の至る所で青い炎が燃え盛っている。それに驚きつつ、私はノココの速さに驚いていた。
──テイルさんのランシュでも食彩国から鬼人国まで数日かかるはずなんだけど、ノココはそれよりずっと速い気がする…。
「ノココ、速くない?」
「遅い方だよ。速く飛んだら魔法国を追い抜いちゃうよ」
驚いているのは私だけではなく、みんなも驚いていた。防御膜のようなものは透き通っているため、空から下の様子や青い炎の燃えている様子が見える。
──あれ?アルカディアの祭壇の炎が青い?
ノココは魔導都市アルカディアの周囲を一周すると、学園から少し離れたところにゆっくりと降り、私たちを地面に降ろすとツチノコに戻った。学園からアルカディアまでの専用街道は、本来であれば防御膜で覆われているはずだが今はそれもなくなっている。私たちがそのまま学園の大きな門の前に移動すると、門は全開のままで門番は不在だった。
「入っていいのかな?」
私たちが迷っていると、中から人影がこちらにやってくる。
「ノエルさん!ステラさん!」
ノエルとステラは数人の生徒と職員を誘導し、学園から出てきた。
「レイアさんはアクアハーバーにいたはずでは?」
「ノココに乗ってきました」
私は腕の中のノココを二人に見せると驚いていたが、すぐ冷静になった。
「レイア、まずはこの炎を消せないか?」
「わかりました!」
「待ってください!レイアさん、それは…」
「レイアさん!?どうしてここに!?」
ステラが何かを言いかけた時、ロマリスがアルカディアの北西の門から急いだ様子でやってきた。
「レイアのことはいい。ロマリス、避難はどうなってる?」
「全員が南側まで避難しています。あとは南門から外に避難させたいところですが、青いモンスターが出現しないとも限りませんので…」
「ロマリス、ここは私たちに任せて避難を優先してください。あとから救出した生徒や職員は私たちが連れて行きます」
「お願いいたします!」
ロマリスはノエルとステラが救出してきた生徒と職員を連れて、アルカディアに戻っていった。
「レイア、この炎を頼む」
「は、はい!」
「レイアさん、それはピーちゃんをフェニックスにすることになりますが…」
「ピーちゃん、やるよ!」
「うん!」
「スカーレットリンク!」
私はステラの忠告を無視し、ピーちゃんを特等席に乗せたまま魔法を発動。ノエルとステラは何かに驚いていたが、ピーちゃんは私の頭上でフェニックスとなり、私も炎を纏う。
「ピーちゃんは空から炎を全部消して!」
「わかった!」
「タマモとノココも人の姿になって!」
「わかりました!」
「わかったよ」
タマモとノココはそう言うと、藤狐とツチノコから人の姿へ。
「…」
「…」
「どうしましたか?」
「い、いや、なんでもない…」
「レ、レイアさん、ティアラがまだ見つかっていません」
「あれでも学園長だ、逃げ出すことはしないと思うが…」
「見つけたらここまで連れてきます!」
「お願いします」
「みんな、行くよ!」
「うん!」
「はい!」
「かしこまりました!」
「私とケリュスが防御膜を作るわ!」
「うむ!はぐれるな!」
「頑張る!」
「お供いたします!」
ピーちゃんは単独で学園の上空へ行き、私たちはノエルとステラを置いて青い炎が燃える学園へと進む。
「ステラ…」
「まさかこんなことが…」
学園の中に入ると、意外にも中はほとんど燃えておらず、その代わりに少しだけ煙が充満していた。私はみんなに支援魔法をかけ、パーラとケリュスは私たちを覆う防御膜を展開しながら進む。
「レイアさん、ピーちゃんは一人で大丈夫ですか?」
「うーん…、大丈夫そうだよ」
「レイア様にはわかるのですか?」
「魔力が繋がってるからなんとなくわかるだけ、かな?」
残っている生徒や職員を見つけては入り口まで誘導。防御膜の中は煙もなく安全で、私たちが護衛をする形で残っている人たちを避難させた。
──私が炎を纏ってるのにはかなり驚いてたけど…。
私たちが学園内に残っていた人を門まで誘導し、外にいるノエルとステラに引き渡す。それを何度か繰り返し、再び学園の中に入った後、纏っていた炎が消えた。炎が消えた直後、ピーちゃんが学園の奥から飛んできて私たちに叫んだ。
「アメリいた!」
「どこ!?」
「こっち!」
私たちがピーちゃんの後を追うと、学園の中庭らしい場所にアメリがいた。アメリは左手で鞄を抱え、右手は壁に手をつき、左足を引きずりながら一歩ずつゆっくりと移動していた。
「アメリ!」
私の声に驚いたのか、アメリは周囲を見回して私たちを見つける。そして私たちが駆け寄った時にはアメリの目から涙が溢れていた。
「レイアさん…」
「大丈夫!?」
「足が…」
アメリは私たちを目の前にして気が抜けたのか、その場に座り込んだ。ノココは座り込んだアメリの腫れている足にゆっくりと手を当てる。
「折れてないよ」
「わかるの?」
「わかるよ」
「ぼくが治す!」
ピーちゃんは片翼に炎を纏うと、腫れている足をゆっくりと撫で始めた。アメリはピーちゃんに足を撫でられながら、ゆっくりとピーちゃんの名前を呼ぶ。
「ピーちゃん…?」
「なあに?」
「レ、レイアさん…、これは夢なのでしょうか?ピーちゃんの言葉が理解できるのですが…」
「え?うーん…、私にはわからないけど…」
「それから、こちらの方と赤い鎧の方は…」
「新しい仲間なんだけど…、今はここから出るのが先だよ」
私とアメリの会話が終わると同時にピーちゃんは炎を消した。腫れは引き、満足に足を動かせるようになったアメリはピーちゃんに感謝を述べる。
「ピーちゃん、ありがとうございます」
「えっへん!」
もはやアメリはピーちゃんの声に驚くことなくピーちゃんを撫でる。そして、私たちはアメリと一緒に学園の門を目指す。足が治ったとはいえ、アメリにはまだ足の痛みの記憶があるのか走ることはできず、ゆっくりと前に進む。
「ピーちゃん、炎は全部消したんだよね?」
「うん!」
「じゃあ大丈夫かな」
「レイアさん、炎を消したというのは?」
「え、あ、その…」
「私は中庭からフェニックスのようなものを見ました。火を操って青い火を消していましたが…」
「それがぼく!」
ピーちゃんはアメリの言葉に即座に反応すると、私を含めた全員がため息をついた。
「アメリなら大丈夫かな。ピーちゃんがフェニックスで私が炎の巫女なんだ」
「やはり…。ですがお城では炎が灯りませんでした」
「あれは…、まだ準備ができてなかったからかな」
私たちは話をしながらゆっくりと門まで進む。青い炎は全て消えたものの、学園内にはまだわずかに煙が残っていた。
「アメリの足はどうしたの?」
「マジックバッグを取りに戻った時に…」
「なんで?」
「この中には…、私の友達からいただいた大切なものが入っていますので」
学園の門まで行くと、ノエルとステラ、そしてティアラの姿があった。しかし、ティアラの両腕には包帯が巻かれていた。
「レイア、助かった」
「学園の関係者はアメリ姫以外は全員救出済みです」
「じゃあこれで終わりですね」
「…」
「ティアラ、どうした?」
「な、なんでもないのじゃ!」
私たちが学園からアルカディアに向かおうとした時、学園から青いフェニックスが飛び出してきた。それは覚醒した青いピーちゃんと呼ぶにふさわしい姿。
──苦しんでる?
青いフェニックスを見て全員が驚いたが、ティアラだけは違った。
「ギーちゃん!」
そう叫ぶと、ティアラは学園に戻っていってしまった。引き返したティアラの後を追おうとした時、地面が大きく揺れる。ドスン、ドスンと多くの地響きが私たちを揺らす。その地響きは学園の東側から発生しており、そこには突如として多くの青トロールが出現していた。
「レイア、あれがアクアハーバーを破壊したモンスターか?」
「そうです。でも数が…」
「レイアさん!アクアハーバーを破壊とは一体!?」
ノエルとステラは青トロールについて知っているようだったが、アメリは何も知らない様子。
「アメリ、その話もまた今度ね」
「レイアさんたちがあれを倒したと聞いています」
「倒せるか?」
「数が…」
「アカマサ殿」
「仕方ありませんな」
ハドックの言葉にアカマサが呼応する。
「姫様、あの青トロールはハドック殿と拙者で」
「師匠!私も一緒に!」
「ノエル殿では倒すことは不可能。お二人はこちらでお待ちください」
「しかし!」
「ノエル、もう無茶をしても叱ってくれる人はいません」
ステラの一言で頭が覚めたのか、ノエルは全てを私たちに託した。
「レイア、頼む」
「はい!」
ノエルとステラは魔法学園とアルカディアの両方に動けるよう、この場所に留まることが決まると、ハドックとアカマサは今からすることに対して謝罪し始めた。
「レイア様、先に謝罪を」
「え?」
「これから拙者たちはすべての魔力を使用いたします」
「え!?」
そう言うとハドックは雷を、アカマサは炎をまとう。しかし、いつもとは違うまとい方に、ピーちゃんとノココ以外はだんだんと驚きが大きくなっていった。大きくまとった雷と炎はだんだんと小さくなり、ハドックの背中には雷で作られたマント、アカマサは炎で作られた袖の無い炎のケープのように、それぞれまとう。
青白い光芒を放つマントは漆黒の鎧と漆黒の斧によく映え、主を守護するにふさわしい騎士のように見える。真紅の鎧に緋色の炎でできた袖無しのケープをまとったアカマサもまた、守護者としての威厳を放つ。
「スカーレットコール!」
支援魔法がかかると二人は私の方を向き、笑顔を見せたような気がした。二人が私に笑いかけた直後、二人は消えた。私たちは消えたことに驚いたが、青トロールは二人に任せて学園に向かう。
「レイア!ティアラを頼む!」
「はい!」
ハドックとアカマサを除いた私たちは魔法学園に向かう。すると、学園の上空にいた青いフェニックスがゆっくりと学園に降下していくのが見えた。
私たちが炎の消えた学園に入ると、煙は完全に消えていたが、冷たい温かさが学園を支配する。
──なんか変な感じ…。
私たちがそのまま進むと、中庭には青いフェニックスとティアラがいた。
「ギーちゃん!炎をばらまくのはやめるのじゃ!」
「ギー…」
「アカマサ殿は左から!わたくしは右!」
「ご武運を!」
ハドックとアカマサが私たちの元から消え去った後、青トロールの軍勢に向かいながら短く言葉を交わす。ハドックは漆黒の斧に青白い雷を、アカマサは小さな剣に炎をそれぞれまとわせる。そして、二人は左右から電光石火の如く青トロールを沈黙させていく。その様子に、ノエルとステラは唖然としていた。
「あれが師匠の本気…」
「ハドックさんは少し遅いように見えますが、それでも本気のノエルより強いですね」
「あれは一体なんなんだ?」
「属性をまとっているように見えますが…」
「すべての魔力を使うと言っていたが…」
「アンデッドにとって魔力は命そのものですから、間違いでなければ…」
二人は左右から青トロールを沈黙させていき、残るは最後の一体。それは他の青トロールよりも一回り以上大きく、軍勢を率いるに相応しい巨体。その大きさに二人は気づきつつも、個体数を減らすことに注力した。
「ハドック殿、もうあまり時間がございませんな」
「四肢の一つでも落とすことができれば」
ハドックとアカマサが巨大な青トロールを目の前に短く言葉を交わしていると、後ろから双剣を握りしめたノエルが参戦した。
「庇いながら戦うことはできませぬぞ?」
「わかっている!」
「わたくしたちの言葉がわかるのですか?」
「なぜか理解できる!だが今はこいつだ!」




