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7-5:火災と鎮火

 方針が決まったところで市場に向かった。ノココは初めての大きな市場で頭を左右に動かし、自分より大きな魚に目移りしている。それは特等席に鎮座するピーちゃんも同じ。


 私たちは市場で買い物を終え、帰路に就く。家に帰るとパーラは料理を始め、私やタマモ、ノココも手伝う。魚だらけの夕食後、私たちは二階のバルコニーから海を眺める。ここからであれば、お城に灯る青い炎を遠目に確認することができた。闇の中で燃え盛る青い炎はどこか神秘的に見えるが、冷たい印象は変わらない。


 バルコニーでくつろいでいると、大きな爆発音と共に青い炎が大きく燃え盛り、青い火の粉を撒き散らし始めた。その火の粉はお城の木々に燃え移り、アクアハーバーの一部にも燃え移っているように見える。爆音に私たちは驚き、音の鳴った方角を見ていると、玄関からハドック、ケリュス、アカマサが飛び出してきた。


「レイア様!今の音は!?」

「お城が!」

「ちょっと待っててよ」


 ノココはそう言うと、二階から下の三人を魔法で浮かし、私たちと同じ高さまで上昇させた。


「これは…」

「燃えているではないか!」

「姫様、ご準備を!」

「降りるから下で待ってて!」

「わたしはこのまま降りるよ」

「わかった!」


 ノココは三人と一緒にバルコニーから下へ降り、私たちは急いで一階に降りる。


「パーラ!全部しまった!?」

「当たり前でしょ!」


 私たちは外に出た。タマモとノココには小さな姿になってもらい、ギルドへ急ぐ。ギルドに向かう道中、私たちに向かってくる冒険者が一人。


「リータさん!」

「レイア!」

「大きな音が聞こえたと思ったら青い炎が…」

「早く消火しないとダメ」

「お城はどうするんですか!?」

「お城はお城に任せる。ダメなら要請がある」

「わかりました!」

「水属性を使える仲間はいる?」

「います!」

「消火は任せる」


 リータが戻っていくのを見送った直後、私はアカマサに尋ねる。


「アカマサ、あの炎って水で消えるの?」

「祭壇に灯っているということは、色は違えどフェニックスの炎に近しい存在。水で消えることはございません」

「そうだよね…」

「ぼくが消す!」


 ピーちゃんは、自身がフェニックスになることで燃え広がっている青い炎を全て消すという。


「そのまま炎を灯せる?」

「うん!」


 私たちは急いで家に戻った。そのまま外からノココに家の屋根の上に上げてもらい、そこからピーちゃんに乗り、青い炎を消しに向かう。ノココはいつも通り防音と防視の黒い膜を展開し、私はその中でピーちゃんをフェニックスに変えた。


「スカーレットリンク!」


 ピーちゃんに乗った私の背にはパーラ。腕の中にはノココが収まっている。私は屋根の上に上がっているタマモとリオンに伝える。


「みんなと待ってて!」

「はい!」

「わかったー」

「ピーちゃん、行こう!」

「うん!」


 ピーちゃんは一気に上昇すると、アクアハーバーが小さくなるほどの高さまで上がり、そこでノココは膜を消した。フェニックスとなったピーちゃんは緋色の炎の光を放ちながら、今度はゆっくりと下降し、お城の上空まで降りていく。


「ピーちゃん、降りすぎると私が見えちゃうからこのあたりまでね」

「うん!」

「思ったより青い炎の勢いが強いわね」

「早く消した方がいいよ」

「わかった!」


 パーラとノココに促され、ピーちゃんはさらに炎を纏う。ピーちゃんは纏った炎を操り、次々と青い炎を緋色の炎で包み込む。緋色の炎が消えた時、青い炎も消えていた。ピーちゃんは都市やお城に散らばった青い炎を全て消し終えると、同じ要領で緋炎の祭壇で燃え盛る青い炎を包み込んでいく。青い炎は大きくなっているので、それを上回る大きな緋色の炎で祭壇ごと覆った。ピーちゃんが緋色の炎を消した時、祭壇からは青い炎が消えた。それと同時に一つの問題が明らかになった。


「これ…」

「壊れてる!」

「爆発音ってこれ?」

「これだと炎を灯せないよ」


 青い炎が消えた緋炎の祭壇は、いくつかに割れていた。大きな爆発音のように聞こえたのは、祭壇が割れる音。


──どうしよう…。


 私が困っていると、ピーちゃんは再び炎を纏った。纏った炎は、ゆっくりと羽ばたく炎の翼の動きに合わせて緋色のきらめきとなり、アクアハーバーやお城に降り注いでいく。ピーちゃんは広範囲に癒しの雨を降らせ、ケガをしたであろう人たちを治癒し始めた。


 ひとしきり雨を降らせたところでピーちゃんは再び上昇し、ノココの展開した膜で姿を隠し、家に戻る。家に戻ってピーちゃんも元に戻ると、大きな歓声がアクアハーバー全体から聞こえ始めた。青い炎の火災によって都市が完全に目を覚まし、ほとんどの人にフェニックスの姿を見られてしまった。


──でも青い炎は消えたし、ケガをした人もいたかもしれないし、悪くなかったと思うけど…。


 帰ってきた私たちが家の中に入るとみんなが労ってくれた。しかし、私はそのままソファで眠ってしまった。


「レイア、寝た!」

「ブレスレットの珠が二つしか光っていないので魔力を相当使ったみたいです」

「お疲れになるのも無理ありません」

「ダンジョン攻略したのも影響してるかもね」

「しかしなぜレイアの魔力が減る?ピーちゃんと魔力が繋がるという話もよくわからぬ」

「リオンもわかんない」

「基本的にピーちゃんが悪いんだよ」

「ノココ殿のおっしゃる通り」

「ぼく?」


 ノココとアカマサは、私とピーちゃんの魔力の繋がりについてみんなに説明する。ピーちゃんがフェニックスになった時、私とピーちゃんの魔力は繋がり、混ざり合う。つまり、私の魔力はピーちゃんが、ピーちゃんの魔力は私が使用できるようになる。しかし、混ざり合っていたとしても魔力は別々。ピーちゃんの魔力消費に私の魔力が引っ張られ、ピーちゃん自身の魔力ではなく、私の魔力を無意識のうちに消費してしまう。鬼福の里で炎を灯した時に倒れた原因もそれによるもので、今回は倒れるほどではないものの眠ってしまった。


「ピーちゃん自身の魔力を優先的に使用することはできませんか?」

「それはピーちゃん次第だよ」

「ピーちゃん殿、なんとかなりませんか?」

「頑張る!」

「レイアとピーちゃんの魔力が繋がったあとにレイアが魔法を使ったら、ピーちゃんの魔力を消費するってことよね?」

「パーラ殿のおっしゃる通りですが、姫様は魔法が…」

「魔法なら使えるではないか」

「ママは支援魔法が使えるよ?」


 ノココとアカマサは顔を見合わせ、何かを考えている。しかし明確な答えは出ず、みんなも眠ることにした。ノココは眠った私を魔法で浮かせ、一階の寝室に運ぶ。みんなも私が心配なようで、私の近くで眠った。翌朝、私はいつもより早めに起きる。


「おはよぉ…」

「レイア様、おはようございます」

「姫様、お体の方は?」

「だいじょうぶぅ…。あれぇ…?なんで寝ちゃったんだっけぇ…?」


 眠そうな私にハドックとアカマサは家に帰ってきた後の話をする。


──ピーちゃんに引っ張られちゃったんだ。最初に倒れたのもそれが原因なのかなぁ?


 私は再び横になり、みんなが起きるまで寝ることにした。そして、パーラに叩き起こされる。


「レイア!ご飯よ!」

「ん…、ご飯…?」

「一回起きたなら起きてなさいよ」

「ごめん…」

「レイアさん、髪が…」

「あとでお風呂だよ」

「はい…」


 朝食後、私はお風呂に入れられ、髪を整えたところでギルドに向かう。ギルドに向かう道中、都市の中はフェニックスの話で持ちきり。火災が大きくなる前にフェニックスが現れて鎮火。それに加えて癒しの雨でケガ人を治し、さらに古いケガさえも治ってしまったという話まで聞こえてくる。


「姫様、少々やりすぎたようです」

「だ、大丈夫だよね…?」

「大丈夫!」


──大丈夫じゃなさそう…。


 漁港を歩いていると、屈強な水産ギルドの職員が声をかけてきた。


「お!嬢ちゃんじゃねえか!」

「ブルさん!大丈夫でしたか?」

「おう!それどころか古い傷も治っちまったぞ!」


 私たちはブルと氷作りの約束をして別れ、ギルドへ。ギルドに入ると中は大騒ぎになっていた。フェニックスの話ではなく、昨日の火災の後始末や様々な滞った依頼。お城からも急ぎの依頼が出ている様子。その騒ぎを横目に、受付にいるアネモネに話しかけた。


「アネモネさん、おはようございます」

「あー!ちょうどよかった!これお願い!」


 私に押し付けられたのは瓦礫の撤去依頼。キュラスからは私に依頼を丸投げしていいと話がついているようだった。私たちはギルドを後にし、依頼をこなす。


「瓦礫の撤去だって」

「レイア様、場所はどちらでしょう?」

「えっと…、え!?お城!?」


 東門から外に出て、お城に向かう。お城の城壁は緋炎の祭壇に近いほど大きく崩れていた。私たちがお城の門に近づくと、門にいた数人の守備隊がこちらにやってきた。


「城になんの用だ?」

「あの、これなんですけど」


 私がアネモネに押し付けられた依頼書を見せると、守備隊は門に戻る。その場で少し待っていると、守備隊長のカペルがやってきた。


「レイア様、おはようございます」

「おはようございます」


 私たちはカペルに続いてお城の門をくぐる。祭壇の近くの崩れた城壁まで案内されると、カペルは作業内容を説明し始めた。


「こちらの瓦礫をすべて取り除いていただきたいのです」

「取り除くっていうのは…?」

「言葉通りですが?」

「収納すればいいってことですか?」

「収納…。マジックバッグということでしょうか?」

「はい」

「それでも構いませんが、こことアクアハーバーの瓦礫を一か所に集める場所が外にありますので、そちらに運んでいただければと」

「ノココ、できそう?」


 ノココは返事もせずに、大小様々な瓦礫を全て浮かせた。


「どこに運ぶんですか?」

「ご、ご案内いたします…」


 カペルは顔を引きつりながら私たちをお城の外へ案内し、アクアハーバーとお城の瓦礫を集めている場所に向かう。瓦礫を浮かべている私たちを見た守備隊は、浮いている多くの瓦礫に視線を奪われながらも、私たちのために道を開けた。瓦礫を運び終えるとカペルが依頼書に署名をし、瓦礫撤去の依頼は完了。


「まさかこんなに早く終わるとは…。やはりレイア様は規格外でいらっしゃる」

「みんながすごいだけです」


 私たちはギルドに戻り、アネモネに依頼書を渡す。あまりにも早く依頼を片付けた私たちに、アネモネはさらに依頼を押し付けた。


「じゃあ瓦礫撤去全部お願いしていい?」

「は、はい…」


 私たちがアクアハーバーの瓦礫を全て撤去すると、昼食の時間になっていた。一度家に帰り、昼食後にギルドに来るとアネモネに伝える。すると、二つの大きな紙袋を私に渡す。


「これって…」

「ギルドマスターから。このあとも頑張ってよね」

「はい!」


 私たちはギルドを後にする。家に戻ると、家の前にはリータが立っていた。


「リータさん、どうしたんですか?」

「ご飯」


 リータを家に入れ、昼食を取る。昼食を取りながら、リータはピーちゃんについて唐突に尋ねてきた。


「ピーちゃんってフェニックス?」

「そ、そんなわけないですよ!こんなに小さいのに」

「でもすごい治癒能力がある。昨日のフェニックスもそう。ピーちゃんがフェニックスなら、レイアは炎の巫女」

「その…」


 私はリータに全てを話し、タマモとノココについても打ち明けた。


「あの…、秘密にしてもらえますか?」

「わかった」


 昼食後、リータはギルドに、私たちは水産ギルドに向かう。


「お!来たな!」

「ブルさん、すみません。ギルドの依頼が忙しくて」

「昨日の今日だから仕方ないだろう。少し多めに頼む」


 いつもの倉庫でタマモが三十個の氷塊を作り、ピーちゃんがその半分を砕氷にした。私はブルから書類をもらい、ギルドに向かう。アネモネに氷作りの書類を渡すと、報酬は後日になると言われた。


「ギルドの依頼もそうだけど、今は忙しいから報酬はあとになるけどいい?」

「大丈夫です」

「じゃあこれお願い」


 そして日が落ち始めるまでギルドの依頼を受け続けた。日が落ち始めたことで私たちは家に帰る。夕食後、緋炎の祭壇が割れていたことをみんなに話すと、アカマサが口を開く。


「祭壇は人が作りしもの。壊れる可能性は十分にございます。しかし、拙者は何人もの姫様にお仕えしてまいりましたが、神の怒りを買った以外で祭壇が壊れることは初めてでございます」

「青い炎が原因?」

「その可能性が高いでしょう」

「アカマサ殿、青い炎は全て消し、ピーちゃん殿の炎を灯し直したため、今後あのような火災は起こらないのでは?」

「あの青いピーちゃんが気になりますが…」

「学園長のギーちゃん?」

「あれのせいだと思うよ」


──うーん…、魔法国に行った方がいいかもしれないなぁ…。


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