7-4:足手まとい
私たちは宿屋を後にしてギルドに向かい、アクアハーバーに行くことをテイルに伝えた。
「アクアハーバーにダンジョンが出現したらしいね。僕のところにも連絡があったけど忙しくて…」
──大変なんだなぁ…。
「ところで、レイアさんは青い炎を見た?」
「魔法国で見ました」
「今は青じゃなくて緋色の、フェニックスの炎が燃え盛ってるんだって」
「そ、そうなんですね…」
「色々なところで聞いてるかもしれないけど、青い炎が原因で青いダンジョンモンスターが出現してるって言われてる」
「ダンジョンコアもそうなんですか?」
「その可能性もあるけど、コッケのダンジョン以外で色が変わったダンジョンはないね。レイアさん、アクアハーバーでは気をつけてね。仲間がいれば大丈夫だと思うけど、万が一もあるからね」
私たちは満腹都市マーゲンを出発。ここから約二週間で水産都市アクアハーバーに到着する。マーゲンを出発してから三日。人間国と食彩国との関所を通過する時、関所の人たちが私に言った。
「ちょうどこことアクアハーバーの中間に位置するところで、青いオークの目撃情報があった」
「討伐はしたんですか?」
「メイカルトのエースが倒したらしい」
関所の人はそのまま重要な話を始めた。アクアハーバーの近くにダンジョンが現れ、青いモンスターが現れ始めた時、ランクの低い冒険者のほとんどがメイカルトに向かってしまった。アクアハーバーに残っている冒険者も少なく、アクアハーバーに行く冒険者も少ない。そのため、メイカルトとの交易が途切れがちだという。
──思ったより大ごとになってそう…。
関所から五日。私たちは青いオークが討伐されたであろう場所まで来た。ここまでの道中、モンスターが襲ってくることなくいつも通り。しかし青いオークが現れた場所ということで、みんなの様子が引き締まる。
「皆様、ここから先は気を引き締めて参りましょう」
「おー!」
「おー!」
日が落ち、マジッククロス無しの野宿を行う。見張りはハドックとアカマサに加えて、さらに二人の四人体制。その四人に私は含まれていない。
「姫様はお休みください」
「でも…」
「弱いからダメだよ」
「はい…」
ノココとアカマサに言われ、私は床に就いた。私が眠った後、一体の青いゴブリンが現れたと、起きた時にハドックから伝えられた。
「青いゴブリンが出たの?」
「アカマサ殿が瞬時に倒しましたので問題ありません」
「そのあとは?」
「特に異常はございませんでした」
マーゲンを出発してから約二週間。普段あまり使用されないお城側の道を通ってアクアハーバーに向かっていると、お城から少し離れた平原にダンジョンらしきものと冒険者のような人たちや、守備隊の姿を確認した。するとその中の一人が私たちに気づき、駆け寄ってきた。駆け寄ってきたのはリータ。
「リータさん!」
「レイア、待ってた」
「あれがダンジョンですか?」
「そう」
私たちはリータの後に続き、人が集まっている場所に向かう。私たちが近付くと冒険者や守備隊は道を開け、ダンジョンの入り口前までやってきた。
「なにが出るんですか?」
「赤ゴブリンと赤オークは倒した」
「S級って聞いたんですけど…?」
「途中で黒オークを確認してる」
「トロールじゃないんですね」
「でも数が多い」
「みんなで倒します!」
「私も行く」
「……」
「……」
「リータさん、あの…」
私はハドックとアカマサの言葉をリータに伝えた。S級ダンジョンということで、リータを守らなければならない可能性と、それによって私以外の護衛対象が増えることを二人は良しとしない。他人がいるとタマモとノココが人の姿になれず、戦力が下がることも二人は私に伝えた。幾度となく模擬戦をしてきた二人だからこそ、リータに対して苦言を呈す。
「足手まとい…。わかった、待ってる」
私たちはダンジョンに入った。ケリュスの角を明かり代わりにしてダンジョンを進む。ハドック、ケリュス、リオン、アカマサの四人が横並びで私の前を歩き、私の左右は人の姿になったタマモとノココが固める。ピーちゃんはハドックの肩に乗り、パーラはいつも通り私の背中を守る。
「一応みんなに支援魔法をかけておくね。スカーレットコール・フル!」
私は杖を立て、みんなに支援魔法をかける。杖の先端についている緋色の宝石が輝くと、宝石から輝きが弾けるように広がる。広がった輝きは波紋のようになり、私たち全員に降り注いだ。
──あれ…?
私がブレスレットを確認すると、珠は一つだけ輝きを失っていた。支援魔法をかけた後にダンジョンを進んでいくと、モンスターが現れた。現れたのは赤ゴブリン。集団で現れた赤ゴブリンたちは私たちに気づき、一斉に向かってきた。
「ぼくがやる!」
ピーちゃんはそう言い放ってハドックの肩から飛び出すと、ノココが私の隣から消えた。ピーちゃんはゴブリンに向かいながら風をまとうと、その隣には同じように風をまとうノココ。
「抜け駆けはダメだよ」
ピーちゃんは隣にいるノココに驚いていたがすぐに笑顔となり、ノココに指示を出す。
「そっちは任せる!」
「わかってるよ」
ピーちゃんは風の玉を作ると、玉を赤ゴブリンに飛ばす。風の玉は赤ゴブリンの腹に命中するとそのまま貫通し、綺麗な穴が空いた。一方、ノココは赤ゴブリンの攻撃を華麗に躱し、赤ゴブリンの胸の辺りに手のひらを近付けると、勢いよく殴られたかのようにゴブリンは吹き飛んでいった。
「あれって…」
「あれは圧縮した空気をゴブリンに放っているように見えます。ピーちゃん殿と同じ要領ではありますが、傷を最小限に抑える方法としては最適かと」
私の質問にハドックが答えている間に赤ゴブリンは全て沈黙。ピーちゃんはノココの頭上に舞い降り、二人は私たちのところに戻ってきた。
「二人ともお疲れ様」
「えっへん!」
「準備運動にもならないよ」
私たちは赤ゴブリンの角を回収して先に進む。次に現れたのは三体の赤オーク。ここで戦いを求めたのはリオン。
「リオンがやっていい?」
「いいけど…」
「姫様、拙者が援護いたします」
「お願い」
リオンとアカマサが二人で赤オークに向かっていき、アカマサは私たちに聞こえない程度の声でリオンに話しかける。
「リオン殿、拙者は基本的に手出しいたしません。あのオークはリオン殿お一人で倒せましょう」
「やってみる!」
「可能であれば角は無傷で」
リオンとアカマサに気づいた赤オークたちは、ゆっくりと二人に近付いていく。すると二人は立ち止まり、アカマサはリオンからわずかに距離を取った。リオンが離れていくアカマサを見ると、アカマサは頷き、リオンも頷き返し、雷をまとう。
ハドックのように全身に雷をまとうと、リオンは勢いよく駆け出していった。ピーちゃんやノココほどの速さはないが、大きさを考えれば十分な速さで、そのまま一体の赤オークに突進。突進を受けた赤オークは奥に飛ばされ、リオンはそのまま残った二体のうちの一体に飛びかかった。
普段は肉球に隠してある爪を出し、雷をまとった前足で赤オークを攻撃。赤オークの体には深めの傷跡が残り、怯む。残った赤オークが攻撃を仕掛けてきた時、リオンが雷をまとった爪を振り下ろすとそこから雷の刃が生まれ、オークに飛んでいく。
ハドックの放つ雷の刃よりも小さいが、小さな五つの刃が横並びで飛んでいった。それは一本一本の爪から放たれたようで、小さな五つの雷の刃を受けた赤オークは沈黙。そして、リオンの一撃を受けて怯んでいた赤オークに対しても、五つの小さな雷の刃を飛ばして沈黙させた。二体の赤オークを倒したリオンは一人で奥に進んでいく。青白い雷の光が一瞬だけ光りを強めた後、リオンはゆっくりとこちらに戻ってきた。
「倒したよー」
私は戻ってきたリオンの頭を撫で、赤オークの角を回収し、さらに奥に進む。ダンジョンの最奥にいたのは黒オーク。
──リータさんが言った通りだけど…。
最奥の広い空間にはゴブリンの集団と同じ程度の黒オークがいた。黒オークたちを視認した私たちは来た道をわずかに戻り、距離を取る。
「どうしよう…」
「倒す!」
「倒すほかございません」
「みんなに任せるわ」
「うむ、守りはわれらが受け持とう」
「リオンがやるー」
「わたしも少しは本気を出したいよ」
みんながそれぞれの意見を述べる中、黙って集中している仲間が一人。それに気づいたアカマサが口を開いた。
「皆様、ここはタマモ殿にお任せいたしましょう」
「え!わ、私ですか!?」
「先ほどから集中しておられるように見受けられましたが?」
「…やります!」
タマモがみんなの前に出ると、ノココがタマモの隣に立った。
「ノココさん?」
「タマモの実力知りたいからわたしも行くよ」
「わかりました」
タマモはそう言うと、隠していた耳と九つの尻尾を出す。そして全身に冷気をまとい、ノココと一緒に歩いていった。
「氷が得意なの?」
「全属性を扱えますが、得意なのは元々の火、氷、光の三つです」
「じゃあわたしも」
ノココが冷気をまとったことを確認すると、タマモは前を向いた。黒オークの集団は冷気を感じ取ったのか二人に気づき、ゆっくりと近付く。
「ノココさん、行きます!」
「タマモも遅れないでよ」
タマモは駆け出すと同時に九つの尻尾の先端につららを作ってオークに飛ばす。それを見ていたノココは自らの周囲に氷の槍のようなものをいくつも生成し、同じようにオークに飛ばす。
タマモのつららは一体に一つでは氷漬けにはならず、複数個のつららを当ててようやく氷漬けとなる。しかし、ノココの氷の槍は一体に一つどころか、一つの槍で複数体をまとめて串刺しにした上で刺さった全てのオークを氷漬けにしていく。タマモはそれを見て驚愕の表情をする。
「驚くのはあとにしてよ」
「は、はい!」
オークたちが二人に攻撃を与える前に、二人は次々とオークを氷漬けにしていった。そして全ての黒オークを氷漬けにし、二人は戻ってきた。私たちは最奥の広間に入り、氷漬けとなった黒オークから角を回収。その後、氷漬けとなった数体のオークの先にある扉を開け、ダンジョンコアをハドックに破壊してもらい、ダンジョンを後にする。
ダンジョンを出る前にタマモとノココには小さな姿に戻ってもらった。外に出ると、入った時と同じようにリータや数人の冒険者と守備隊が待っていた。
「戻りました」
「コアは?」
「これです」
私はリータにダンジョンコアのかけらが詰まった袋を渡す。リータが袋を開けると、冒険者や守備隊が袋を覗き込み、初めて見るであろう黒のかけらに声も出ない様子。リータはダンジョンコアの色を確認し、私に袋を返しながら言った。
「レイア、一緒にギルドまで来て」
「わかりました」
リータは冒険者と守備隊にダンジョンの攻略が正式に終わったことを伝え、私たちはアクアハーバーへ。残った冒険者と守備隊は、このダンジョンが攻略済みであるという立札を作ってから戻るという。アクアハーバーまでの短い道中、私は青いモンスターについて話す。
「青いゴブリンは見たことない」
「私も一回しか見たことなくて」
「戦ってみたい」
──そうですよね…。
私たちが街道からお城とアクアハーバーへの分かれ道に来た時、お城の大きな門から青い炎の頭の部分がゆらゆらと燃え盛っているのが見える。
──あれのせいなのかなぁ?
アクアハーバーに入り、ギルドに向かう。ギルドマスターの部屋に通されるとキュラスが待っていた。
「レイア、待ってたぞ」
「お久しぶりです」
「ダンジョンはレイアが攻略した」
私はダンジョンコアのかけらと角を取り出し、ダンジョンの詳細をキュラスに話す。
「そうか、わかった。このあとはどうする?」
「一週間ぐらい滞在する予定です」
「わかった。かけらや角はどうする?買い取ることもできるが…」
「全部買い取ってくれますか?」
「…正直なところ全部は無理だ」
「ならかけらも角も売らずに持ってます」
「すまない。ダンジョンの攻略報酬は明日までに用意しておこう」
私たちはギルドを後にし、家を借りに向かった。リータは宿屋に泊まっているようだが、借家に興味があるという。いつもの管理小屋に行くと、いつもの男性が丁寧に挨拶をする。
「お久しぶりです。お仲間が増えたようで」
「はい、それで一週間でお願いします」
「ではご案内いたします」
案内されたのは前回と同じ家。ここ以上の家がないことは前回説明を受けていたので、ここになることは予想できた。
「前回と同じですがよろしいですか?」
「はい!」
私は一週間分のお金を支払い、鍵を受け取る。大金を渡す様子を見ていたリータは無表情だったが、わずかに驚いているように見えた。男性が丁寧にお辞儀をして大金を持って去った後、リータも去る。
「リータさんはギルドに行くんですか?」
「ダンジョンの様子も見に行く」
「私はどうすればいいですか?」
「レイアは自由にしてていい。外に出るなら私かギルドマスターに話をして。なにかあったら呼ぶ」
「わかりました」
「あと模擬戦もしてほしい」
「わ、わかりました…」
リータが去った後、タマモとノココは姿を変え、パーラは家を物色。ピーちゃんとノココ、小さな姿のリオンも嬉しそうに小気味よい足音を立ててそれについていく。リオンについては小さな姿であれば二階に上がっても良いと許可をもらった。
私もみんなを追いかけてタマモと二階へ。二階に上がれないハドック、ケリュス、アカマサは一階で待機。ケリュスについては一階ですでに横たわり、くつろいでいる。二階に上がり、バタバタしているみんなに私は尋ねる。
「なにかあった?」
「ない!」
「ないわね」
「ベッドがたくさんあったよー」
「いい家だよ」
物色を終え、私たちは一階に戻る。そして、ここでの使命について話を始めた。
「今日やるの?」
「やる!」
「ここにも青い炎が灯っているようですので、お早い方がよろしいと思います」




