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7-1:ピーちゃんとマリ

 湖畔都市リシューを出発してから約二週間。私たちはドワーフ国パールドに入り、鍛冶都市フェクトールにやってきた。


「久しぶりだね」

「うん!」

「ここって…」

「ノココはここを知ってるの?」

「あ…、その…」

「ノココ殿、拙者が」


 アカマサは昔話を始めた。鍛冶都市フェクトールにも緋炎の祭壇があったらしい。鍛冶を生業としているドワーフたちにとって、フェニックスの炎は神聖な炎として認識されていた。しかし、とあるドワーフが神聖な炎で武器を打ってしまったことが神の怒りを買い、大きな雷により緋炎の祭壇が破壊されてしまったという。


 突然の雷で祭壇が破壊されてしまったことに驚いたドワーフたちは、急いで祭壇を造り直したものの、そのたびに雷で破壊されてしまったとのこと。「神の怒りを買った」とドワーフたちは思い、それ以降は祭壇を造り直すことをやめたという。


「そのため、ここはこのような広場になっているのです」


 私たちはアカマサの昔話を聞きながら、フェクトールの中心部まで来ていた。


──確かにここなら置けそうかなぁ。


 私たちは冒険者ギルドに向かう。溜まったケリュスの角を売り、お金を作る。水鏡国からの往復でお金は少なくなっていた。食料や材料は普段から多すぎるほどパーラが収納していたが、それも少なくなりつつある。


「買い物もしないとね」

「頼むわよ」


 冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターのフォージが受付の職員と話をしていた。


「ん?おお、レイア!よく来たな!」

「お久しぶりです」


 フォージの後に続いてギルドマスターの部屋に向かう。そして部屋の中に入り、互いに腰を落ち着けると、私は本題に入った。


「こ、こんなにか?」

「あの、お金ってすぐもらえますか?」

「かなりの大金になるが…、ちょっと待ってろ」


 フォージは退室し、戻ってきた時には四人のギルド職員を連れていた。


「落とすなよ!」


 ギルド職員はケリュスの角を一人一本持ち、慎重に部屋から出ていった。フォージは再び退室し、今度は大金と一緒に戻ってきた。私たちの目の前にはお金の詰まった袋が次々と積み上げられ、合計で十六袋。


「いやー、こんな買い取りは初めてだ!」


 パーラが全ての袋を収納し、私たちはギルドを後にした。次に向かったのはキリの工房。包丁の手入れとパーラが調理器具の選定をする。ハドック、ケリュス、リオンの三人は外で待機し、みんなは私と一緒に併設されている店舗に入る。


「おや、久しぶりだね」

「キリさん、お久しぶりです。包丁お願いします」

「ナイフも預かろうかね」


 パーラは全ての包丁を取り出し、私は腰のナイフを渡す。キリは包丁とナイフを持って奥の工房に向かい、私たちはお店の中にあるひときわ大きな鍋に向かう。それはアクアハーバーにも売っていた、私が入れるほど大きな鍋。どこからどう見ても業務用だが、パーラはそれに夢中。


「これ、いいわね」


 手入れを終えたキリが戻るまで、私たちは大きな鍋を見続けた。そして戻ってきたキリから、この鍋は売り物ではないと伝えられる。


「それに興味があるようだけどね、売り物じゃないんだよ」


──よかった…。


「鬼人国からの注文でね。新しく出す店で使うそうだよ」


 その言葉にいち早く反応したのはタマモ。耳と尻尾をピンと立て、大きな鍋の使い道を想像している様子。


「ぱかぱか」

「え!?」

「どうしたね?」

「その…、この鍋と同じものがほしいんですけど…」

「相変わらずバカなお嬢ちゃんだね。こんな大きな鍋で料理をするつもりなのかい?」

「はい…」

「仕方ないね。でも鬼人国の注文が先になるよ。それから、これは作るのに少し時間がかかるんだよ。それでもいいね?」

「お願いします」


 私たちは鍛冶都市フェクトールを出発。大きな鍋が完成次第、メイカルトのギルドに手紙を送るとキリは言う。鍋の製作費用はすでに支払い済み。大金を預かるパーラがお金を取り出し、私を経由してキリに支払った。キリは溜息をつきながらお金を受け取っていたが、その顔はわずかに微笑んでいたように見えた。


 フェクトールを出発してから十日、メイカルトに戻ってきた。


「久しぶりだね」

「うん!」


 私たちは北門から入って買い物をする。フェクトールで簡単な買い物はしたが、メイカルトの品揃えを上回ることはない。そのため最低限の買い物に留め、本格的な買い物はメイカルトでするとパーラが言った。私たちが買い物をしていると、全身に黒をまとった女性が声をかけてきた。


「レイア」

「リータさん!お久しぶりです!」


 私に話しかけてきたリータの視線は私ではなく、ノココとアカマサに向いていた。私たちは買い物をしながら、新しい仲間のことや水鏡国に行っていたことをリータに話す。


──巫女のことは黙ってないと…。


 そしていつものように、リータは模擬戦を私に頼む。


「赤い方と模擬戦したい」


 私たちは東門から外に出る。門番に模擬戦の話をし、メイカルトから十分に距離を取った。都市から離れる道中、アカマサはリータについてハドックに尋ねていた。


──二人の声はリータさんには聞こえないからいっか…。


 模擬戦を行う場所を決めると、リータは二本の剣を取り出した。それを見たアカマサも剣を抜く。


「ハドック、防御膜は必要?」

「不要かと。アカマサ殿が本気を出すとは思えませんので」

「リータさんは強いと思うけど、ノエルさんの師匠だもんね…」


 模擬戦の結果は言うまでもない。リータの攻撃は一つも当たらず、アカマサもリータを攻撃しない。リータのスタミナが切れたところで、模擬戦は終わりを告げた。


「…ありがとうございました」

「大丈夫ですか?」

「…エルフの二人組ぐらい強かった」

「ノエルさんですか?」

「そう。あの人もすごく強かった」


──戦ったんだ…。


「また戦ってほしい」

「……」

「いいみたいですよ」


 私たちとリータはメイカルトに戻り、ギルドに向かう。ギルドの中はいつも通り騒がしく、その喧騒が心地いい。


──ギルドはやっぱりこうでないと!


 そしていつものように私たちはギルドマスターの部屋へ。


「レイア、久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「仲間が増えたみたいだが…、まあいい。青いモンスターとフェニックスの炎について知ってるか?」

「青いモンスターは話だけで、フェニックスの炎は見ました」

「そうか。実はな…」


 ボガートは、私がみんなの声を失っていた間の話を始めた。フェニックスの炎については以前から魔法国に青い炎が灯っていたものの、鬼人国を皮きりにして緋色の炎が灯ったことで、フェニックスが復活したと噂されている。そのため、青い炎はやはり偽物で、魔法国の炎には疑問の声が上がり始めたという。そして問題なのはここからだった。


「アクアハーバーにあるお城の祭壇にも青い炎が灯っていてな」

「それはテイルさんから聞きました」

「それ自体はいいんだが、アクアハーバーの近くにダンジョンが発生してな」

「え?」

「ダンジョンを攻略しに行ったリータが青いモンスターも討伐したと言っててな」

「倒したけど消えた」

「まだ憶測だが、ダンジョンの発生や青いモンスターの出現は青い炎が原因じゃないかと言われている」


──ダンジョンコアの色が変わったのももしかしたら…。


 私たちはメイカルトからハーベ村に向かう。その道中、アカマサが私に尋ねる。


「姫様、青い炎というのは?」

「私たちが炎を灯した祭壇に青い炎が灯ってて。魔法国に灯ってた青い炎をピーちゃんが消しちゃって大変だったんだけど、ノエルさんとステラさんに助けてもらったんだよ」


 私の話を聞いたアカマサは何かを考え始め、静かになった。メイカルトを出発してから二日。私たちはハーベ村に帰ってきた。


「おねーちゃん、おかえりー!」

「また仲間増えてる!」

「リオン、大きくなってる!」


 村の子供たちが私たちの前に集まり、小さな騒ぎになる。その騒ぎを聞きつけ、大きくなったマリを抱いたハンナがやってきた。


「みんな、おかえり」

「ただいま!」

「ピー!」


 私たちは子どもたちと別れ、家に帰った。家に帰った私は一階にある大きな部屋に入る。中はほとんど変わりなく、唯一変わった点はマリのベッドが無くなっていたこと。常に面倒を見ていた私たちがいなくなり、キッチンのある部屋に移動したようだ。


 部屋に入るなりみんなはそれぞれの場所で休む。ただ、リオンとケリュスには小さな姿になってもらった。人数が増えたこととリオンの成長によって、この部屋でもすでに狭くなりつつあった。


「二人とも、ごめん」

「仕方ない」

「大丈夫だよー」


 そんな私たちの様子を笑顔で見守るハンナと、驚きのあまり表情が固まっているマリがこちらを見ていた。


「マリって私たちのことわかるの?」

「少しは見えてるみたいだけど、こんなにたくさんのモンスターを見るなんて初めてだから驚いてるんじゃないかしら」


 マリは私のベッドの上で、ピーちゃん、タマモ、パーラ、ノココに囲まれ、その後ろからハドック、ケリュス、リオン、アカマサの注目を浴びている。私はみんなに囲まれているマリを心配する一方で、ハンナは笑顔で私の部屋からキッチンへ移動。それを見たパーラもキッチンに向かった。


 マリは横になりながらみんなを眺めている。しかし事件は起こる。マリがピーちゃんを眺めていた時、ピーちゃんがくるりと回り、左右の翼を広げて挨拶をした。マリはピーちゃんが勢いよく翼を広げたことに驚いて泣き出してしまう。私は慌ててマリを抱き上げ、慰めていると、マリの泣き声を聞きつけたのか、外から入る扉が勢いよく開いた。


「マリ!?」

「あ、父さん。おかえり」

「レイア!帰ってたのか!…え?仲間が増えてないか?」

「あとで紹介するね」

「そ、そうだな。で、マリはなんで泣いてるんだ?」

「大したことじゃないよ」

「ピー…」


 落ち込むピーちゃんをみんなが慰めていた。夕食後、私は新しく仲間になった二人をミゼルとハンナに紹介する。


「この子がノココで、こっちがアカマサ」

「レイアをよろしくね」

「レイア、赤いのはアンデッドだと思うが、こっちはなんだ?」

「ツチノコっていうモンスターらしいよ」

「聞いたことないな」

「国境山のヌシなんだって」

「よくわからんが、レイアを頼む」


 ミゼルが二人に私のことを頼んだ時、ノココは人の姿になった。


「あら、また娘が増えたみたいね」

「レイアはとんでもない冒険者になったな…」


 私たちは部屋に戻り、マジッククロスを設置する。そしてお風呂に入り、床に就いた。マリのベッドは再び私の部屋に設置され、出発までの間はみんなが面倒を見るという。張り切っていたのはピーちゃん。泣かせたことで嫌われてしまったと思ったようだ。


「ピーちゃんが悪いわけじゃないよ?」

「レイアは泣かなかった…」

「私は…、うーん…、ピーちゃんの相棒だったから泣かなかったんじゃない?」

「マリも相棒!」

「え?」

「それはないから」

「それはあり得ませぬ」


 ノココとアカマサはピーちゃんの言葉を即座に否定。寝ているマリのそばにピーちゃんが鎮座し、マリを見ている。


──大丈夫かなぁ?


 私たちが寝た後、マリを見ていたピーちゃんがうとうとし始めた。


「ピーちゃん殿、わたしくたちがマリ殿を見ておりますのでお休みください」

「う、ん…」


 ピーちゃんはマリの隣で丸くなり、すぐに眠ってしまった。翌朝、私が眠そうに目覚めると、ノココ以外のみんながマリのベッドに集まっていた。


「おはよぉ…、どうしたのぉ…?」


 私が眠そうにマリのベッドに近寄ると、マリとピーちゃんが会話をしていた。


「おはよう!」

「あー!」

「こんにちは!」

「うー!」

「なにしてるのぉ…?」

「お話!」

「みんなもマリの言ってることわかるのぉ…?」


 私が尋ねると、みんなは首を横に振る。そんな中、ピーちゃんは楽しそうにマリとの会話を楽しんでいた。朝食後、ピーちゃんとマリは一緒に眠る。夜遅くまで起き、朝はマリに起こされたため、ピーちゃんは睡眠時間が足りていないようだった。


 私はハドック、ケリュス、リオン、ノココを連れて出掛けた。向かった先は畑。残ったみんなはマリの世話や料理に勤しむ。そして昼食。ケリュスはたくさんの野菜をカゴに入れてもらい、採れたてを昼食にする様子。昼食後、私たちは元気なマリの面倒を見る。


 マリはまだハイハイが出来ず、ずり這いの段階。ツチノコの姿のノココが移動する時と同じようになるため、ノココはツチノコの姿に戻ってマリの隣を移動する。マリはそれを眺めながら、先を行くノココを追いかけるかのようにして進む。それを見ていたタマモも藤狐に戻り、マリの隣の少し手前を歩く。そして、タマモは尻尾でマリを誘惑し、マリは尻尾を追いかける。


 私たちが戻ってから二週間が経ち、村を出発する時が来た。模擬戦をしに来たリータが、私に手紙が届いているという話をしてくれた。


「多分、フェクトールからです」

「武器?」

「鍋です」

「鍋…」

「あ、ケリュスの角は使ってませんよ?」

「鍋に使っても意味ない…、と思う」


 私たちはリータと一緒にメイカルトまで向かう。道中、模擬戦を何度かするも、ハドックにもアカマサにもリータは勝つことができない。それでも何か得るものがあったのか、リータは満足そうだった。


 村を出発してから二日後、私たちはメイカルトに到着。そのままギルドに向かうと、ギルドマスターの部屋へ行くように言われる。


「リータに、レイアもいるのか」

「なんの用?」

「リータは今すぐアクアハーバーに行ってくれ」

「ダンジョン?」

「そうだ」


 ボガートが言うには、アクアハーバーに新たなダンジョンが出現したという。そしてそのダンジョンの攻略にリータが向かう。


「私たちも行った方がいいですか?」

「行ってくれるならありがたいが、レイアはエースじゃないからな。無理に頼むことはできん」


 私たちはギルドマスターの部屋を後にした。リータは準備をしてすぐに出発するためギルドで別れる。ギルドに残った私たちはあやかに手紙を出す。


──全然出してなかったなぁ…。


 手紙を出した後は買い物をし、西門に向かう。以前帰ってきた時はマリに会いたい気持ちが強く、会うことを忘れてしまった人に会う。


「ディアンさん、お久しぶりです!」

「おお、レイアか!久しぶりだな」


 私はディアンに、仲間が増えたことや山の向こうの水鏡国へ行ったことを話す。


「そうか、あのレイアが山の向こうまで行ったか。成長したもんだな!」

「ありがとうございます!」


 私たちはメイカルトを後にし、鍛冶都市フェクトールに向かう。ギルド職員から受け取った手紙はキリからで、鍋の完成を知らせるもの。パーラが一刻も早く鍋が欲しいというので、私たちはドワーフ国へ。そしてドワーフ国から獣人国へ行き、緋炎の祭壇に炎を灯す予定。


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