6-6.5:ハドック視点
ノエル殿、ステラ殿、ミーティア殿と別れてから最初の野宿。ここでもレイア様たちはマジッククロスを使用せずに野宿をするようでした。わたくしとしましては、あの不思議な空間の中でお休みになっていただきたいと思っています。
野宿をする際の見張りはわたくしとアカマサ殿。皆様がお休みになったあとに二人で見張りをしていると、アカマサ殿がわたくしに話しかけてきました。
「ハドック殿、拙者になにか尋ねたいことがあるのでは?」
「アカマサ殿のように強くなるためにはどのような訓練が必要でしょうか?」
「同じアンデッドならば理解しているのでは?」
「アンデッドに成長なし」ということは認識しております。アンデッドとして目覚めた瞬間に各々の強さが決まり、そこが限界値となります。わたくしの場合は、幸いにもレイア様をお守りできるだけの強さを持ち合わせていました。とはいえ、リオンの成長やわたくしよりも強い仲間が増えるにつれて、さらなる強さを求めるようになりました。
「アンデッドはその名の通り不死。しかしながら戦闘の経験値だけは蓄積していくので、そこに強さを見出すこともできるのでは?」
「それも理解しておりますが…」
わたくしが力なく答えると、眠っていた仲間の一人がゆっくりと起き上がり、わたくしたちを叱りました。
「…うるさいよ。このエルフと子供には聞こえないけど、わたしたちには聞こえるからね」
「ノココ殿、大変申し訳ございません」
とっさにアカマサ殿が謝罪をするとノココ殿は横になり、再び眠り始めました。その後、アカマサ殿と話をすることもなく、日が昇るまで見張りを続けました。
水鏡国までの道中、野宿のたびにわたくしは考えていました。アカマサ殿の言うように、戦闘の経験値を蓄積する以外に強くなる方法はないのかと。そして数日後の野宿の時、アカマサ殿がわたくしに尋ねてきたのです。
「ハドック殿、少々注意力が散漫になっておられるようで」
「…申し訳ありません」
「姫様をお守りする強さだけで十分では?」
「その通りですが…」
「…うるさいよ」
またしてもノココ殿を起こしてしまいましたが、ノココ殿は眠そうな声でアカマサ殿に言ったのです。
「…アカマサ、『あれ』は?」
「…」
「『あれ』というのは?」
「ノココ殿、そのお話は…」
「…おやすみ」
翌日、日が落ち、皆様が寝静まった頃、ノココ殿がゆっくりと目覚めました。ノココ殿はそのまま起きると、少し離れた位置に、ステラ様が使用する半球状の防音と防視の黒い膜を展開したのです。
「わたしが見張りしてるから、アカマサは『あれ』を教えてきてよ」
「拙者たちは魔力をすべて消費することになりますが?」
「意識が回復するぐらいにはわたしが回復させてあげるよ。そのあとは日が昇るまでじっとしてればなんとかなるよ」
「ノココ殿、わたくしたちアンデッドは魔力で動いておりますが、回復というのは?」
「わたしが二人の魔力を回復してあげるってこと」
アンデッドは動くことそのものに魔力を消費します。魔力の回復は動かないこと。もしくはレイア様の回復魔法をいただくこと。人の使用するポーションのようなものでアンデッドの魔力は回復いたしません。それをノココ殿は回復させるというのです。
「ではハドック殿、参りましょう」
「しかし見張りは…」
「ノココ殿にお任せするとしましょう」
ノココ殿は眠そうにあくびをしていますが、大丈夫なのでしょうか。そもそもノココ殿の強さは把握できておりません。ステラ殿のように防御膜を展開できることや、なにやら水のようなものを飛ばしてルル殿を眠らせた程度。果たしてどの程度の強さがあるのか、いまだに不明な点が多すぎるのが本音でございます。
ノココ殿の強さに疑問を抱きながら、アカマサ殿と一緒に半球状の膜の中に入っていきました。わたくしたちが膜の中に入ると、アカマサ殿が話し始めました。
「ハドック殿、今からお教えすることは一度にすべての魔力を消費するもの。安易に使用することのないように」
「先ほどもそのようなことをおっしゃっておりましたが、武器にすべての魔力を込めた場合、その武器を振るうことなく動けなくなってしまうのでは?」
「魔力は武器にではなく、体にまとうのです」
属性を体にまとうことは魔法が使えるモンスターや人ならば誰でも可能。すべての魔力をまとうということは、魔力をまとっている間は動くことが可能なのでしょう。しかし、すべての魔力をまとったからといって強くなるとは思えないのです。
「ハドック殿、まずは拙者がすべての魔力を使用し、お手本を見せましょう。拙者の魔力が消え次第、ノココ殿をお呼びくだされ」
「かしこまりました」
アカマサ殿はわたくしから少し離れると、腰に下げた細い剣を抜き、一気に魔力を放出してまとい始めました。まとった属性は火。特大の火を全身にまとったかと思うと、まとった火が少しずつ小さくなり、レイア様の着用するケープに似た形状になっていったのです。
「これは『炎の陣羽織』と、ある方が名付けてくださいました。魔力を拡散状態でまとうのではなく、圧縮し、密度を高め、服を着るかのようにまとうのです」
「火ではなく、炎なのですか?」
「その話はあと。下の方から炎が消えていくのが見えますか?これがすべて消えた時、魔力が尽きるのです」
アカマサ殿がまとった炎の陣羽織というすべての魔力を圧縮した服のような塊は、少しずつ消え始めておりました。しかしそこからは驚くことばかり。まるで炎の陣羽織に意識が宿っているかのように見えたのです。陣羽織から細い剣に炎を分け与えてみせたり、陣羽織の炎を手足のように自由に操ってみせたのです。
「ハドック殿、アンデッドの原動力は魔力そのもの。他の皆様と根本的に違うところは、拙者たちの意識は魔力に宿っているようなものなのです」
「改めて考えてみるとそうなのかもしれません。しかしこれは…」
「炎をまとい、自由に動かすことができるのは魔力が意識と紐づいているからなのです。そしてこれこそがアンデッド…、いえ、アンデッドを含めた限られたもののみが使用できるのです」
「わたくしにもそのようなことが可能になるのでしょうか?」
「時間はかかりますがやれるだけのことは…。そろそろ時間のようですね。ハドック殿、ノココ殿をお呼び…」
アカマサ殿から炎の陣羽織が消えると動きを止め、わたくしは膜の外に出て、ノココ殿をお呼びしました。
「ノココ殿、アカマサ殿の魔力がなくなりました」
「…わかったよ」
ノココ殿は眠そうに膜を消すと、動きを止めたアカマサ殿を大きな水の球体に閉じ込めたのです。水の球体が消えるとアカマサ殿は意識を取り戻し、ノココ殿に感謝を述べました。
「ノココ殿、助かりました」
「じゃあ寝るよ。あとは明日の野宿の時にしてよ」
「かしこまりました」
「おやすみなさいませ」
その後、水鏡国までの野宿のたびにノココ殿が膜を展開し、わたくしはアカマサ殿から手ほどきを受け続けました。
「アカマサ殿、ノココ殿、いかがでしょうか?」
「ハドック殿は筋がよい」
「戦えば?」
「では…、模擬戦をいたしましょう」
ノココ殿は防御膜を何重にも展開し、アカマサ殿は炎の陣羽織をまといました。おそらく、本気のアカマサ殿との最初で最後の模擬戦となることを直感的に理解しておりました。模擬戦後はノココ殿がわたくしたちを回復させ、意識を取り戻しました。
「ハドック殿、最初に申し上げたようにこれは安易に使用してよいものではございません。姫様を守るため、皆様を守るため。そして、動けなくなっても姫様の安全が確保できる状況であれば使用しても構いません。ですが可能であれば、使用することのない日々が続くとよいと思っております」
「じゃあ寝るよ」
「おやすみなさいませ」
「アカマサ殿、ノココ殿、感謝いたします」




