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6-3:痛みと怒り

 私たちは漁港に泊まり、明日の朝、翠樹都市シルバンに向かう。漁港は関所の役割もあり、私はギルドカードを提示。カルナもカードを提示するが、問題はミカン。しかし、その問題はノーマンが解決した。


「ミカン、ちょっとこい」

「はーい!」

「これをお前に渡す」

「これなーに?」

「これはギルドカード、冒険者の証だ。絶対に失くすなよ」

「わかった!」

「ノーマンさん、それは…」

「カルナの言いたいこともわかる、だがこれもいい機会だ。遅かれ早かれ冒険者になるだろう。ただ、ミカンは年齢が足りてない。責任者として俺とカルナ、テイルの名前も書いてある」

「テイルさんもですか、わかりました」


 こうしてミカンはG級冒険者となり、私と同じ道を歩み始めた。翌朝、私たちはシルバンへ。ノーマンは私たちが出発するよりも前に漁港を後にしていた。漁港からシルバンまでは歩いて一日。日が落ちる前には到着するという。


 道中、タマモとノココは人の姿になり、私にみんなの言葉を伝える。ミカンはノーマンからもらったギルドカードを私や私の仲間、カルナ、タマに見せびらかしながら楽しそうに歩みを進める。


 しかしカルナは違った。楽しそうなミカンとは対照的に、曇った笑顔をしていた。どこか迷っているような、心配しているような。少なくとも心からの笑顔ではない。漁港から一日、門が閉まる前にシルバンに到着。漁港は都市の西側にあるため、私たちは西門から入る。


「…ここは変わっていませんね」


 西門から近い位置にある、族長であるミーティアが仕事をする家の明かりが消えており、向かいの家には明かりが灯っていた。カルナは族長の家に視線を注いでいたが、家から視線を外し、私たちは進む。


「あれ?レイアちゃん?」


 族長の家を通り過ぎた時、後ろから声がかかった。声の主はミーティア。仕事用の家から出てきたところで私たちを目撃。


「それに…、え?カルナちゃん?」

「族長、お久しぶりです…」


 カルナを見たミーティアは満面の笑みだったが、その瞳には涙が蓄えられていた。


「おかーさん、この人だれ?」

「おかーさん!?」

「族長、これには理由が…」


 ミーティアの家に招かれ、私たちが過ごした大きな部屋に通される。部屋に入り、タマモが人の姿になるとノココもそれに続いた。人の姿になったノココにミーティアは驚き、興味を持つ。


「うわ!?え?レイアちゃんってすごい冒険者?」

「そんなことはないと思いますけど…」

「おねーちゃんはすごいんだよ!」

「おねーちゃん!?」

「族長、話があるので向こうでいいですか?」

「はーい」

「レイアさん、ミカンをお願いします。それから夕食もお願いしていいですか?」

「私の分もいい?」


 ミーティアとカルナが退室し、夕食の用意をする。夕食はパン、スープ、リンゴ。リシューで買い物はしたものの、魚が多く、肉の補充をする必要があることをパーラからタマモ、そして私に伝えられた。


 ミーティアとカルナは夕食の支度が終わった頃に戻り、みんなで夕食を取る。夕食後、私はミカンとお風呂に入り、ミカンと同じベッドで眠る。ベッドは一つだが、大きなベッドなので、私とミカン、タマモ、ノココの四人で使用。空いている場所にピーちゃんや小さくなっているタマ。パーラはソファに、ケリュスはソファの近く。リオンはベッドの端で眠る私の隣の床で眠り、ハドックは変わらず警備をする。


 カルナは二階の部屋で眠る。その二階では現在、ミーティアとカルナの話し合いが行われていることを、一階にいる私たちは知らない。


「さっきはミカンちゃんのことしか話してくれなかったけど、理由があるからここまで来たんだよね?」

「…」

「レイアちゃんも元気なさそうだし、なにかあった?」

「レイアさんは仲間の言葉を聞くことができなくなりました。人の姿をしたタマモさんやノココさんとは話せますので、二人に言葉を届けてもらっています」

「夕食の時の違和感はそれだったんだね」

「私は…、水鏡国から出ることはないと思ってました。今でもピーちゃんのことは好きではないです。でもレイアさんは別です。メリアさんも言葉を理解できなくなったことがあったと、私に話してくれたことがありました。その時はルルさんがいたのでなんとかなったようですが…」

「福々堂に連れていくの?」

「そのつもりですが…。族長、メリアさんの仲間があのあとどうなったか教えてください」

「緑のスライムちゃんは寿命を全うしたよ。で、ルルちゃんは福々堂で元気に働いてる。ピーちゃんはわかるでしょ?守護者は森に戻ったよ。でも全部わかってたんじゃないの?」

「…」

「ホムちゃんなら全部わかってると思うから、ホムちゃんに相談するといいよ」

「私はルルさんに怒られますか?」

「私がルルちゃんだったらぶっ飛ばしてるね」


 ミーティアは少し怒った顔で拳を前に突き出してカルナを諭すと、カルナはミーティアから視線を外し、ゆっくりと俯いた。


 翌朝、私たちは朝食を取ってから買い物に出掛ける。買い物には私たちとミカンとタマ。ミーティアも鬼人国までついていくというので、仕事関係への連絡。カルナもそれについていった。


 私はパーラの要望通り、肉を購入。ミカンはカルナからお金をもらい、自由に買い物をする。お金の計算が不慣れではあったものの、一緒にいた私が助けることで無事に欲しいものを購入。ミカンが買ったものはスカーレットチェリーを使用したジャム。


「それ好きなの?」

「おかーさんが好きだからあげるの!」


 買い物を終えた私たちがミーティアの家に戻ると、家の前にミーティアとカルナが立っていた。


「なにを買ったんですか?」

「これ!おかーさんに!」


 ミカンは私のあげた鞄からジャムを取り出し、笑顔でカルナに渡す。カルナは笑顔のミカンからジャムを受け取り、ミカンの頭を撫でる。


「ありがとう、でもミカンの欲しいものを買わないとダメですよ」

「お金足りなかったから…」

「ミカンちゃんは優しいんだね!」


──マリに会いたくなってきちゃったなぁ…。


 私たちはそのままシルバンを出発。目指すは鬼福の里。ミーティアが加わり、ミカンはさらに楽しそうな様子。シルバンを出発してから最初の野宿。私はマジッククロスを取り出し、野宿の準備を始める。ミーティアは使用したことがあり、カルナとミカンは初めてとなる。


「レイアさん、それはなんですか?」

「これは…」

「カルナちゃん、これはすごい魔法具なんだよ」

「すごい魔法具ですか?ミカンとタマはここで待ってなさい」

「はーい!」


 みんなにはミカンのそばにいてもらい、私、タマモ、パーラ、ミーティア、カルナが中に入る。中に入ると例に漏れずカルナは驚くが、マジッククロスの使用に反対した。


「これは…」

「すごいよねー、私も最初は驚いちゃった」

「レイアさんはいつもこれを?」

「冒険中はほとんど使ってます」

「見張りは?」

「外でハドックがしてくれます」

「レイアさんには悪いですが、これは使わない方がいいと思います」

「なんでよ?」

「今のミカンのためにならないからです。ミカンは近いうちに冒険者に、いえ、すでに冒険者です。この魔法具が売っているならまだしも、見たことも聞いたこともありません」

「ミカンちゃんに見張りをさせるの?」

「将来的にはそうなりますが、今はまだ早すぎます。本来であれば食事も保存食で済ませたいところです。食事は妥協するにしても、ミカンには冒険者らしい野宿をさせてあげたいと思います」


 私たちが外に出ると、タマモがみんなに説明を始める。説明を聞いたハドックがマジッククロスを外し、パーラが収納した。ミカンへの説明はカルナが担当し、うまく誤魔化していた。夕食後、私たちは見張りの相談をする。


「ハドックはずっと見張りをしてくれます」

「ではまず私が」

「じゃあそのあとは私がやろうかなー」

「私は…」

「レイアさんは見張り禁止です」

「はい…」

「私もやるー!」


 元気よく見張りを申し出たものの、一番最初に寝たのはミカンだった。カルナに見張りの仕方を聞きながら実践していたが眠気には勝てず。ミカンはいつも通りタマもたれかかって眠る。


「ミカンちゃんって外でも寝れるんだね」

「道端でよく寝てますよ」

「最初は道の真ん中で寝てたのでやめさせました」


 その後、私とミーティアも眠りにつき、見張りはハドックとカルナ。私たちは鬼人国に入り、今日がおそらく最後の野宿。ミカンは初めての冒険を楽しそうに過ごし、楽しそうなミカンに私も少しだけ救われていた。


──みんなの言葉はわかんないけど、話せる人がいるのは楽しいなぁ。タマモとノココが話せなかったら辛かったかも…。


 最後の見張りは私が買って出る。カルナには止められたものの、ここまで一切の見張りをしてこなかったことを申し訳なく思っていた。


「カルナさんもしっかり休んだ方がいいですよ。少し顔色が悪い気がします」

「レイアちゃんにもそう見える?私もそう思ってたんだよね」

「…では最初に寝ますのであとで起こしてください」

「ミーティアさんも寝てください」

「レイアちゃんだけで大丈夫?」

「大丈夫です」


 すでにミカンは眠りにつき、ミーティアとカルナもそれに続く。見張りは私とハドックだけではなく、ピーちゃんとノココも起きている。


「二人も寝ていいよ?」

「ピー!」

「『ぼくも見張る!』って。それに今は話せないんだから、わたしかタマモが起きてないとダメでしょ」

「それは…、うん、ありがとう」


 私がそう言うと、ピーちゃんは特等席から空中に舞い上がり、炎を纏った。そして私たちの頭上をぐるぐると回りながら火の粉をまき散らす。火の粉に見えるそれは癒しのきらめき。私は癒しの雨を手のひらで受けると、その安らぎに少しだけ癒されたように感じた。緋色の粒子は私たち全員に降り注ぎ、周囲が少しだけ明るくなった。ぐるぐると飛び回っていたピーちゃんは炎を消すと、特等席に舞い戻る。


「ピーちゃん、ありがとう」

「ピー!」

「『えっへん!』だって」


 その後、見張りはタマモとハドックに任せ、私たちも眠りにつく。ミーティアとカルナは朝まで起こさず、起きた時に起こさなかったことをカルナに怒られたが、顔色は格段に良くなっていた。


「すみません…」

「カルナちゃん、怒っても仕方ないよ?」

「そうですね、行きましょう」


 出発してすぐ、ミーティアは小声で私に尋ねる。


「レイアちゃん、カルナちゃんの顔色がよくなってるけどなにかした?」

「ピーちゃんがみんなに」

「私にも?」

「はい」


 ミーティアは嬉しそうに私の頭上のピーちゃんを撫でた。昼食後、私たちは鬼福の里に入る。カルナは鬼福の里が見えてくると足がすくんでいたが、新しい都市に興奮しているミカンに引っ張られるようにして入っていった。


 そのまま福々堂に向かう。里に入る前にタマモとノココには小さくなってもらい、タマモは私の足元を、ノココはミカンが抱えている。福々堂が近付いてくると、見知った三人がこちらへ歩いてくるのが見えた。私はその三人を見て駆け出していた。特等席にいたピーちゃんは私が突然走り出したことに驚き、ハドックの肩に移動。カルナとミカンも驚いていたが、ミーティアは冷静だった。


「族長、レイアさんは…」

「あの人はさ、レイアちゃんの大切な人らしいよ」

「そう、ですか…」


 ミーティアはカルナにそう言いながら、私が放り出した杖を拾うと、パーラが触手を伸ばし、そのまま杖を収納した。


 駆け出した私は、見知った三人の中でも冒険者になった時からお世話になった、眼鏡をかけた女性に抱きつき、ここまで我慢してきたものを吐き出すかのように泣いた。眼鏡をかけた女性は何も言わずに私を抱きしめ、頭を撫でる。遅れてみんなが私のところへやってくると、ミーティアが話し始めた。


「かえでちゃん、こんにちはー」

「ミーティアさん、それに…、カルナさん…」

「かえでさん、お久しぶりです…」

「レイアさんになにかあったようですが?」

「それはあとで話します」

「おかーさん、この人たちだれ?」

「!?」

「かえでさん、これには理由が…」


 私たちは福々堂に入る。泣き崩れている私を眼鏡をかけた女性が支えながら入っていくとホムラは驚き、そして呆れながら私たちを出迎える。


「いらっしゃ…。はぁ…、なにがどうなってるんだい?」


 ホムラは私の頭を一撫ですると、店の一番奥にある広い部屋まで案内する。部屋に入るとタマモとノココは姿を変えた。私は眼鏡をかけた女性に促されながらイスに座り、女性も私の隣に座る。


「レイアさん、少しは落ち着きましたか?」

「はい…、あやかさん…、ごめんなさい…」


 案内を終えたホムラは退室し、タマモとパーラがお茶を淹れ、私たちに配る。私はお茶を飲み、少しずつ落ち着きを取り戻す。


「大丈夫か?」

「はい…、たいちさんもごめんなさい…」

「俺はいいんだ」


 たいちは私の頭を撫でる。少しだけ元気になった私を見てみんなは安堵し、場を和ませるためにミーティアが口を開く。


「なんかお腹空いちゃったな―。ホムちゃんになにか…」


 ミーティアが最後まで言い終わる前に、部屋の扉がノックもなく勢いよく開いた。開いた扉の先にいたのはルル。ルルの体からは魔力が溢れ、怖い顔をしていた。激怒しているルルを見たみんなは、本能なのか臨戦態勢を取る。みんなが身構える中、ノココとタマは呑気に構えていた。


 ルルの後ろにはホムラとフォルスが立ち、いつでもルルを止めることができるように見える。泣いていた私も突然の出来事に驚き、魔力が溢れ出ているルルに視線を奪われ続けた。


 ルルは無言で部屋へと入り、ホムラとフォルスは後を追う。ルルと呼応するかのように座っていたカルナが立ち上がり、ルルに向かって歩いていくと、ルルはカルナの頬を殴る。パンッ!という音が部屋中に響き、ルルは泣きながらカルナを怒鳴りつけた。


「カルナ!急にいなくなったと思ったら急に現れて!どういうつもりなのよ!」

「おかーさんをいじめないで!」


 ルルとカルナの間にミカンが割り込み、母親代わりのカルナを庇うが、小さなミカンの体は震えていた。


「おかーさんって…、カルナ、あんたは!」


 ルルの体から溢れ出る魔力がさらに増えた時、ノココがルルに向かって小さな水の玉を飛ばした。水の玉がルルに当たると玉は弾けて消え、ルルはその場で眠るようにして倒れる。それは、ステラがミーティアを寝かせるために使った薬のようにも見えた。ルルが完全に倒れる前にカルナとホムラが受け止め、そのままホムラがルルを浮かせて、フォルス共々退室。


「ミカン、大丈夫ですか?」


 ミカンはカルナに抱きつき泣き始めた。


「ミカンちゃんには刺激が強かったかもねー」

「ルルさんの気持ちもわかります」


 かえでやミーティアと打って変わって、私、あやか、たいちの三人は今の出来事に硬直していた。


「あの三人にも刺激が強かったかな?」

「そのようですね」


 泣いていたミカンが落ち着くのと同時に、部屋の扉がノックされた。タマモが扉を開けるとサクヤが立っていた。鞄からお菓子やフルーツを取り出すと、私と私の仲間、ミカン、タマを残し、他の全員を連れて退室。私はカルナがいなくなって心細そうなミカンの隣に座り、一緒にお菓子やフルーツを口に入れる。


──ノココのあれはなんだったんだろう?ステラさんがミーティアさんに使った薬みたいに見えたけど…。


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