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6-1:小さなビーストテイマー

 私たちは湖畔都市リシューに入った。リシューには防壁がなく、防御膜もない。それもそのはずで、このあたり一帯にはモンスターが存在しない。モンスターというより魚は豊富。湖にも海にも魚がたくさんいるという。ただし、攻撃的な魚も少なくないため注意が必要。


 リシューの入り口には門があり、門番によるギルドカードの確認がある。ノココはモンスターの姿では移動が遅いため、基本的には私が抱える。モンスターの姿のノココはピーちゃん同様、見た目ほどの重さはない。


──ノココの大きさなら止められずに入れるんだね。


 ギルドに向かう。ギルドは都市の北。北門から入ってすぐの場所にギルドがある。ギルドの中は他と同じ雰囲気だが、冒険者の数は少ない。


 私たちは受付にいる、長い耳と長すぎるポニーテールが特徴的なエルフのギルド職員の元へ向かうと、その職員は突然涙を流し始めた。


「あの…、大丈夫ですか?」

「あ…、失礼しました。ご用件は?」

「仲間が増えたので登録したいんですけど」

「…その抱えてる子ですか?」

「はい」


 受付の女性は困っている様子。


──あれ?門番さんには止められなかったんだけど、ダメだったかなぁ?


 女性はギルドの奥へ消え、戻ってくるなりこう言った。


「ギルドマスターがお呼びです」

「は、はい…」


 ギルドマスターの部屋に入ると、屈強な男性がイスに座っていた。背が高く、茶色い髪はくるくると全体的に丸まっている。肌は日焼けし、ギルドマスターの制服がはち切れそうなほどの筋肉を持っている。


「レイアか、早速問題を持ち込んだみたいだな」

「問題ですか?」

「その抱えてるヘビのことだ。とんでもないのを仲間にしたな」


 ギルドマスターの机に近づくと、手前にある大きなソファに三匹のモンスターがくつろいでいた。長い首と四つのヒレを持つ、青い小さなモンスター。青い毛並みを持ち、小さな狼のようなモンスター。黒い羽毛と黄色い嘴を持つモンスター。


「どうした?」

「この子たちは…?」

「俺の仲間だ」

「ギルドマスターってビーストテイマーなんですか!?」

「そうだ」


 ギルドマスターは自らの仲間を片方のソファに集め、空いたソファに私たちが座る。ここまで案内してくれた受付の女性は、私のギルドカードを預かって退室していった。


「俺はここのギルドマスターで『ノーマン』だ。そのモンスターはな、『ツチノコ』と言われている」

「ツチノコ?」

「実際見たやつはほとんどいないんだが、図鑑にはそう書いてある」

「ランクはどれくらいなんですか?」

「S級だが、強さというより珍しさでS級扱いになってるな」

「珍しさ…」

「仲間になっちまったんだ。なにかあればレイアの責任になるからしっかり頼むぞ」

「はい…。あと、ここに私より小さなビーストテイマーがいるって聞いたんですけど」

「そのは『ミカン』のことだろうな」

「ミカン?」

「この辺にいなかったら湖か漁港か。まあすぐ見つかると思うが、問題は起こさないでくれよ」


 私たちは部屋を後にしてギルドの受付に戻る。そして先ほど案内してくれた女性の職員からカードを受け取り、ミカンの場所を尋ねる。


「あの、ミカンっていう名前のビーストテイマーがどこにいるか知ってますか?」

「湖か漁港だと思いますが、あの子になにか?」

「私より小さいビーストテイマーに会いたくて」


 その時、女性の職員は少しだけ笑顔になった。私たちはギルドを後にする。明確な場所はわからないということで、まずは都市から近い湖に向かう。湖にあった村のようなものは漁村。漁村では湖にいる魚や貝を採っているそう。


 漁村までは非常に近いものの、私たちは途中で昼食を挟む。昼食後、漁村に向かって進むと、漁村の入り口付近に巨大な狼のようなモンスターが横たわっているのが見えた。


──なにあれ…。


 その大きさは陸上で見たどのモンスターよりも大きく、ケリュスやリオンを優に超え、テイルのランシュと同等かそれ以上。それを見たピーちゃんと昼食時に人の姿になっていたノココは、巨大な狼の元へ二人で向かっていった。


「ピーちゃん!ノココ!」


 私たちは慌てて追いかける。私たちがピーちゃんとノココに追いつくと、大きな狼の前で立ち止まっていたノココが静かにするように言う。


「静かにして、寝てるから」

「え?」


 大きな狼は起きているようだったが、横たわっている狼にもたれかかるようにして少女が眠っていた。背はアメリより低いように見え、紺のボブカットに白い肌。薄い緑色のワンピースを着用し、頭には山吹色の大きな珠の髪飾りを二つ付けている。


「この子がミカンちゃん?」

「ワフ」

「そう!」


 大きな狼の言葉をピーちゃんが私に伝える。私たちは横たわっている狼の近くで少女が起きるのを待つことにした。狼は耳が鋭く立っており、白い毛並みをまとう。白い毛並みには灰色の斑点が散らばり、足先と鼻先も灰色に染まっていた。


 私たちは狼から距離を置き、布を敷いて座る。ピーちゃんとノココは変わらず狼のそばで少女を眺め、狼と何かを話している様子。腰を落ち着けた私たちも狼や少女を遠目から眺めつつ話を始めた。


「狼であの大きさは初めてなんだけど…」

「私も見たことがありません」

「わたくしもです」

「われのいた森にもあんなのはいない」

「リオンもー」

「リオンは生まれた時から一緒だから見たことないよね」


 私はリオンの頭を撫でながらそう言った。


──みんなが見たことないのに、ピーちゃんとノココは知ってるのかなぁ?


 ピーちゃんとノココが狼のところから戻ってきたので、私は二人に尋ねることにした。


「あの狼知ってるの?」

「うん!」

「な、長く生きてるから…」

「ガイアさんのところ?」

「うん!」

「あんたは…、はぁ…」

「ノココはどこで見たの?」

「わたしは…、大昔にあの狼がわたしに喧嘩を売ってきたことがあって。もちろん叩きのめしてやったよ」


 ノココの話を聞き、ピーちゃんを除いた私たちは全員が驚いていた。


──ノココってあの狼より強いの…?


 やがて少女が目を覚ました時、私たちを見て興奮し始めた。


「ん…」

「ワフ」

「おはよぉ…、お昼寝ありがとぉ…。ん…?うわー!ビーストテイマーのレイアさんだ!」


──私のこと知ってる?


 少女はそう言って私たちに近付き、私の目の前までやってきた。眠っていた時はわからなかったが、ミカンの瞳は鮮やかな青色をしていた。


「レイアさんですよね!?」

「う、うん…」

「うわー!すごいなあ!会いたかったの!」

「わ、私も会いたかったよ…」

「あ!私はミカン!こっちが『タマ!』」

「え、えっと…、私はレイアで、この鳥がピーちゃんで…、あ!」


──まずい…、タマモもノココも人のままだ…。


 私が戸惑っていると、ノココはツチノコへと姿を変えた。


「あ!ノココ!」

「その子も変わるの!?すごい!」

「え?」

「タマも人になるの!」

「ワフ」

「あ!秘密だった。でもレイアさんなら大丈夫?」

「ワフ」

「はい!気をつけます!」

「タマモ、お願い」

「わかりました」


 タマモが藤狐に戻るとミカンは再び驚き、タマモを抱き上げて撫でまわす。モンスターが人の姿になることについては、タマ自身がミカンに口止めをしていたようだ。そして私たちのことも黙っていてくれるという。


「誰にも言わない!」

「お、お願いね、私も言わないから」


 その後、ミカンから私への質問攻めが始まり、私が一つずつ答えていると日が落ち始めた。


「あ!そろそろ帰らないと!」

「お家はどこなの?」

「リシュー!レイアさんも来る?」

「人数多いけど大丈夫…?」

「うん!」


 私たちは都市に戻り、ミカンの家に向かう。都市に入る前、私はケリュスとリオンを小さくし、タマモとノココがモンスターの姿に戻ると、ミカンはタマを小さくした。


「フォームシフト!」


 ミカンは杖無しでタマを小さくし、笑顔で私の顔を見る。


「私もできるの!」

「す、すごいね…」

「えへへ」


 ミカンの家はリシューの東側にあり、東側は住宅区画になっている。リシューの人たちはミカンを見ると声をかけ、ミカンはそれに元気よく返事を返していく。


「ここが私のお家!」


 ミカンの家はハーベ村にある私の実家より大きな石造りの家。ハドックは玄関を通ることができなかったため、小さな庭で待機となった。


「ハドック、ごめんね」

「いえ、ここで警備を行います」


 ミカンが中で待っているので、私たちは中に入る。一階は広く、キッチンも大きい。食事用のテーブルにはイスが四つ。大きく長いソファが二つあり、ベッドのように使えそうだ。お風呂は普通サイズだったが困ることはない。


 ケリュスとリオンは一階に残し、私たちは二階に案内された。二階には部屋が三つ。ミカンの部屋、母親の部屋、倉庫のような部屋。簡単に二階の案内が終わり一階に戻ると、玄関にはギルドで受付をしていたエルフの女性がいた。


「あ!おかーさん!おかえり!」

「ただいま」

「お邪魔してます」

「私が連れてきたの!」

「そう…」


 女性はそう言いながらミカンの頭を撫でる。


「レイアさん、泊まっていってください」

「いいんですか?」

「泊まってってー!」

「ミカンもこう言ってますから」

「じゃあ泊まります」

「でもそうなると食材が…」

「あの、泊めてもらうかわりにご飯は私たちが用意します」


 私の提案にミカンは目を輝かせていた。夕食はパン、シチュー、リンゴ。ケリュスにはいつも通り大量の野菜とフルーツ。ミカンは夕食の味や量に驚いていたが、それ以上に、大勢での食事を楽しんでいるようだった。


 夕食後、私はミカンとお風呂に入る。お風呂はすでに沸いており、私たち以外の誰かが沸かした様子。お風呂から出るとピーちゃんが私たちの髪を乾かす。


「ピーちゃんすごーい!」

「ピー!」


 ミカンは疲れか満腹か、お風呂を出た直後からうとうとし始めたので、女性が二階へ連れて行き、タマもそれについていった。私たちの寝床は一階のソファと床。毛布を何枚かもらえたので、それを分け合う。


「レイアさんたちにはこんなところで申し訳ないです」

「大丈夫です。あの…、名前を聞いてもいいですか?」

「まだ名乗っていませんでしたね。私はカルナです。ギルドでは職員兼エースとして働いています」

「エース!?」

「兼務することは珍しいかもしれませんね」

「ちなみにランクは…?」

「S級ですが、ノエル様とステラ様には遠く及びません」

「あの人たちと知り合いなんですか?」

「エルフ族であの方たちを知らない人はいません。冒険者でも知らない人はいないと思いますよ」


──私は知らなかったけど…。


「あの方たちからなにか言われて来たんですか?」

「ノエルさんが私より小さなビーストテイマーがいるって教えてくれたので、会いに来ました」

「なるほど…、あの方たちが…」


 カルナは小さく何かを呟くと、何やら思考を巡らせている様子。私はカルナが何かを考えているところに、気になっていたことを尋ねる。


「あの、ミカンちゃんってエルフじゃないですよね?」


 私の質問にカルナは顔を上げ、イスに座る。


「レイアさんもこちらに座ってもらえますか?」


 私がテーブルを挟んでカルナと対峙すると、みんなが私の周りに集まり、ピーちゃんは特等席に鎮座した。


「懐かれているんですね」

「は、はい」

「先ほどの質問ですが、ミカンはエルフではなく人間です。ミカンの両親は亡くなりました」


 カルナはミカンについて話し始めた。ミカンの母親は体が弱く、ミカンを出産してすぐに亡くなってしまった。父親は漁師で、みんなの助けを借りながらミカンを一人で育てていたものの、船が転覆して帰らぬ人に。


 ミカンは生後六か月にして、一人ぼっちになってしまった。リシューのみんなでミカンを育て、ここまで成長し、今もみんなで育てているという。しかしミカンを一人にするわけにもいかず、カルナがミカンの家に住み、生後六か月から現在に至るまで世話をしているという。


「ミカンのそばにいるタマですが、ミカンが一人になった頃、このあたりに現れました。大きな姿は見ましたか?」

「はい」

「あの大きさで現れたので私が対処するつもりでしたが、私の攻撃は通りませんでした」

「防御膜ですか?」

「そうです。ですがタマは一向に攻撃をしてきませんでした。タマが何日も都市の近くでじっとしていたところにノーマンさんが帰ってきて、モンスター同士で話をしてくれました。タマは『ミカンのそばにいたいだけ』といったそうです」


──ピーちゃんは私が生まれた頃からそばにいた…。


「誰もが反対しましたが、私は賛成しました」

「どうしてですか?」

「それは…、冒険者の勘、ですね。私がエースとして責任を持ち、タマをこの家に迎え入れました。ミカンがビーストテイマーになったのは五歳になった時でした。急にタマと話せるようになったとかで」


──私と一緒だ…。


「そこからはノーマンさんの鬼のような特訓で、使役したモンスターを小さくする魔法を習得して、都市の中ではあの大きさで過ごすようになったのです」


 私たちは床に就く。ソファの一つには私が横になり、ノココが私にぴたりとくっついて眠る。リオンは私の眠るソファの下で横になっている。もう一つにはピーちゃん、タマモ、パーラ。ケリュスは空いている床に横たわって眠った。翌朝、私が眠そうに起きると、カルナとパーラによって朝食の準備が進んでいた。


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