6-0.5:カルナ視点1
その子はなんの前触れもなく突然現れました。銀色の髪をなびかせ、たくさんのモンスターを引き連れたビーストテイマー。少女の頭には緋色の鳥が当然のように居座っています。私はその鳥が嫌いです。その鳥は癒しの炎を持っていながら、私の大切な親友を助けることができなかった。
私はエルフ国で生まれ育ちました。エルフは子供のうちから魔法を発現する人が多いため、早いうちから魔法の練習が始まります。それに合わせて勉強も始まり、優秀な成績と入学に必要な年齢であれば、魔法学園に通うことも可能となります。魔法学園に通う、エルフ国で働く、冒険者になる。その他にも様々な選択肢が存在します。
私が冒険者を選択したのは、のちに親友となる彼女と出会ったことがきっかけでした。ある日、彼女たちはやってきました。頭に緋色の鳥を乗せ、肩には小さなドラゴン。緑色の大きなスライムに赤い鎧のアンデッド。初めて見たビーストテイマーの衝撃は今でも忘れられません。
彼女は族長の家に滞在し、族長、ノエル様、ステラ様の三人でお世話をしている様子でした。実際は、彼女が三人の食事の面倒を見ていたと知ることになったのはもう少しあとのことですが。
私は魔法の練習や勉強が終わると、毎日シルバンの中で彼女を探しました。冒険者ギルドから出てくる姿を何度か見かけ、買い物をしているところも見かけました。彼女はマジックバッグを持っていましたが、それでも買い物の量が尋常ではありません。肉、野菜、フルーツ。あらゆるものを手当たり次第に購入していました。
彼女がシルバンを去る前日、都市の中が少し騒がしくなりました。都市の中心にある緋炎の祭壇に炎が灯っていたのです。緋炎の祭壇はフェニックスが炎を灯す祭壇だということは勉強しましたが、その炎の大きさには驚きました。炎は祭壇に収まりきらない大きさでしたが、心地よい温かさを放っていました。
彼女は騒ぎに乗じて去っていったようでした。彼女が去った数年後、私は冒険者登録をしました。まずは都市の中で配達。そして外で薬草を探し、討伐依頼もこなしました。シルバンの西には小さな港町があり、そこでの依頼もありました。
一年後、私はC級冒険者になっていました。幸い、エルフ国には様々な依頼があり、国の外に出る必要がありませんでした。C級冒険者になったことで私はエルフ国の外に出ました。私が最初に向かったのは鬼人国でした。同じ長命種の国を見てみたかったのです。そして、彼女は鬼人国にいました。
「福々堂…?」
福々堂は素晴らしい服を作っているものの、紹介がなければ購入できないと聞いたことがあります。彼女はそんなお店に頻繁に出入りし、もはや住んでいると言っても過言ではありませんでした。時には福々堂の服を着て、買い物をしている姿も見かけました。
私が彼女と知り合ったのは、とある依頼でした。依頼内容は「シルバーブレード」という魚の討伐依頼でした。鬼人国の北にある港町の沖合に、大群が押し寄せ困っているというもの。シルバーブレード自体はそれほど強くないため、すでにA級冒険者だった彼女の出番はなく、私のような中級冒険者が依頼を受けるのが一般的です。
しかし、彼女は当時のギルドマスターであったかえでさんにかなりの無理を言ってその依頼を受けたそうです。しかも討伐報酬はなしという条件で。その話を聞いた時にはひどく混乱したものですが、納得もしました。
私は彼女が依頼を受けていることは知らずにその依頼を受け、北の港町へ向かい、彼女と一緒に依頼をこなしました。ただ、私の出番は多くありません。彼女の仲間たちが次々と倒し、たくさんの箱をシルバーブレードで満たしていきました。
私の討伐分としてシルバーブレードで満たされた箱を二つもらい、残りは彼女たちの討伐分になりました。それぞれが水産ギルドに持ち込み、討伐依頼の報告書を水産ギルドが発行して依頼は完了しました。あとは鬼福の里の冒険者ギルドで報酬をもらうだけ。
しかし、彼女に報酬はありません。その代わりとして受け取っていたのがシルバーブレードでした。彼女は自らの討伐分すべてをマジックバッグに詰め込み、私と一緒に里へ向かいました。
「みんな強かったね」
「ピー!」
「お魚食べるの?あ、あなたも食べる?」
「いえ、私は…」
「ピー!」
「『一緒に食べよう!』って言ってるから食べようよ」
「は、はい…」
今日中には里へ到着しないので、私たちは野宿も兼ねて夕食を取りました。夕食はシルバーブレードを焼いたものでした。焼いて塩をかけただけでしたが、非常においしかったことを覚えています。それはシルバーブレードの持つおいしさと、彼女たちと夕食を共にした嬉しさが入り混じっていたのかもしれません。
彼女とはたくさんお話をしました。生まれた時からピーちゃんと一緒なこと。ビーストテイマーで食費が大変なこと。仲間についても一人ずつ話してくれました。その時、彼女はすでに使命を終わらせており、彼女の生まれたこの大陸に戻ってきたところだったと、あとから聞きました。
里までの道中は非常に楽しく、食事もすべてお世話になってしまいました。里に戻って報告を終えると、彼女はここを出発すると言いました。そんな彼女に、私は意を決して尋ねました。
「私も一緒に行っていいですか?」
「一緒って、次の場所まで?」
「そうじゃなくて…、一緒に冒険できたら…」
「ピー!」
「そっか、新しい仲間だね!カルナ、一緒に行こう!」
「『メリアさん!』よろしくお願いします!」
こうして私たちは一緒に冒険をすることになりました。冒険初日、メリアさんからモンスターの覚醒についての話がありましたが、ビーストテイマーではない私にはわかりませんでした。
「実際に見せたほうが早いかな。ルル、お願い」
「…え?」
「ルルよ、よろしくね」
なにが起こっているのかわかりませんでした。普段はメリアさんの肩に乗っている小さなドラゴンが人の姿になり、言葉も話しました。初めてビーストテイマーを見た時以上の衝撃を受けたと思います。一緒に冒険をするなら早いうちにこのことを明かすつもりだったそうです。最初は私も慣れませんでした。メリアさんと二人旅。もちろんメリアさんの仲間を含めれば二人旅ではありません。違和感はありましたが、それも時間が解決してくれました。
私たちはこの大陸だけではなく、船を使って別の大陸を冒険し、様々な依頼、食べ物、冒険者に出会いました。冒険をしていくうちにメリアさんは早々にS級へ。私は少し遅れてB級になりました。
その後、私たちは故郷の大陸と別の大陸を往復しながら冒険を続けていきました。冒険中、私はピーちゃんから羽根を授かりました。一緒に冒険をしているのにお守りを渡されたのです。
「カルナは危なっかしいからだって」
「そんなことありません!B級になったんですから!」
「ピー!」
「そうそう、無茶しないでよね」
「ルルさんまで!」
私たちが一緒に冒険を始めてからどれくらい経ったかわかりませんが、冒険を小さくしました。小さくした理由はメリアさんの老化です。歩く速度は遅くなり、疲労回復にも時間がかかるようになりました。それはピーちゃんがいても変わりません。
私たちはこの大陸に戻り、鬼人国を拠点にし、鬼福の里の福々堂で生活を始めました。メリアさんの冒険は故郷の大陸内だけになり、その冒険範囲は年々狭くなっていき、晩年は里の中を回ることまでに縮小していきました。それでも毎日仲間を引き連れ、楽しそうに過ごしていました。
冒険が小さくなっていくうちに、メリアさんと昔話をしました。昔話の中で、メリアさんとピーちゃんの使命について明かしてくれました。その話を聞いた時、私はなぜか納得してしまいました。祭壇に炎が灯った翌日にメリアさんたちがいなくなってしまったのですから。
「一番大変だったことはなんですか?」
「それは、カルナが単身でダンジョンのモンスターに向かっていった時ですよ?」
「あれはかなり無茶だったわね」
「そ、それ以外で!」
「それ以外だと…、ああ、みんなの声が聞こえなくなった時ですね」
「そんなことが?」
「カルナと会う前の話ですよ。あの時はルルが覚醒していたから、みんなの言葉を教えてもらったわね。でももしあの時、カルナがいたらもう少し気楽だったかもしれないわね」
そしてその日はやってきました。元気に里の中を回り、食事もしっかり取り、私たちは床に就きました。翌朝、メリアさんは目覚めませんでした。ケガや病気ではありません、寿命でした。残された私たちも福々堂のみなさんも悲しんでいました。中でも一番悲しんでいたのはルルさんでしょうか。私は悲しみながらも、メリアさんが冒険を諦めた時、私に伝えたことを思い出していました。
「カルナ、お願いがあるの」
「なんですか?」
「私が死んだら、みんなをお願いね」
「嫌です!メリアさんはまだ元気なんですから!冒険はできないかもしれないけど、もっと長生きして…、おいしいもの食べて…、それから…」
「うん、そうだね、ごめんね」
泣いている私を優しく抱きしめてくれたことは忘れません。しかし、その時がきてしまったのです。私は自らの生まれを恨みました。どうしてエルフに生まれてしまったのだろうか。どうして人間に生まれなかったのか。どうしてメリアさんは人間に生まれてしまったのか。私はメリアさんの役に立てていただろうか。私が冒険に加わったことは迷惑ではなかっただろうか。
メリアさんの体はピーちゃんの炎に焼かれ、骨はツボに納められました。そのツボがそのあとどうなったのかわかりません。残された仲間の面倒は福々堂の方々が見ることになり、私はメリアさんとの約束を破って鬼人国から去りました。
私はその足で水鏡国に向かい、湖を眺めていました。この湖もメリアさんたちとの思い出の場所でした。美しいはずの湖を見ても気持ちが晴れずにぼーっとしていると、シルバーブレードの大群が出たという話を耳にしました。たまたま近くにいた私は泣きながら討伐しました。その時食べたシルバーブレードほどおいしくない食べ物はありません。
多少暴れたことで発散できたのか、私はそのままギルドで働き始めました。エース兼ギルド職員として。幸い、このあたりの平原にはモンスターがいません。その分、海沿いや湖の中、そして双峰森林に危険が潜んでいます。その森も大きな湖が要害となっているため、都市の近くまでモンスターが来ることはありません。そのため、S級冒険者になっていた私が力を振るう場所のほとんどが海でした。
ここでの生活は穏やかでした。冒険者の数も少なく、海に出るモンスターのほとんどを私が討伐していました。そんな穏やかな生活でも、一つだけ嫌いなものがあります。それは緋炎の祭壇です。祭壇には溢れんばかりの炎が灯り、炎を見るたびにすべてを思い出してしまうのです。
そして炎が消えた日、私は「ああ、いよいよですね…」と少しだけ覚悟をしました。緋炎神話については誰もが知っていると思います。それに加えて、私はすべてをメリアさんに教えてもらいました。ピーちゃんが何者なのか。次に会うピーちゃんがなにも覚えていないこともホムラさんから聞きました。
私はピーちゃんが嫌いです。「炎」という特別な力を扱い、その炎を用いて圧倒的な治癒能力を有しているにも関わらず、命の炎は消えてしまいました。ピーちゃんでもメリアさんを生かすことが不可能だったとわかっています。長命種でも寿命には逆らえません。それでもあと一年だけ、一か月だけ、一日だけでも一緒にいたかった…。
私がレイアさんたちを見た時、自然と目から涙が零れていました。
「あの…、大丈夫ですか?」




