5-9:麺類
私たちとミーティアはかえでの許可書を使用して鬼福の里に入り、福々堂に向かう。福々堂はすでに閉まっており、明かりも消えている。しかし、ミーティアは扉を軽く叩く。
「ホムちゃーん、開けてー」
扉を開けたのはルル。
「ちょっとミーティア!もうお店は…、レイア!帰ってきたの?」
「は、はい…」
「入って入って」
「ルルちゃん、私は?」
「ついでにどうぞ」
奥へ進むと、ホムラたちが出迎えてくれた。
「おかえり、夕食はまだかい?」
「まだなんだよねー」
「はぁ…、ミーティアの分も用意するから部屋に行ってな」
「ホムちゃん、ありがとう!」
夕食後、ミーティアはあることを大々的に発表する。
「あ、そうだ。ホムちゃんの言ってた油揚げなんだけどさー」
「か、かえではなにか言ってたかい?」
「この度、鬼福の里にお店を出すことが決定しました!」
その発表に拍手をしたのは約三人。ホムラとタマモは互いに喜び、ピーちゃんはわけもわからず二人の拍手につられるように翼をテーブルに打ちつけていた。
──ピーちゃんはわかってるのかなぁ?
「いつできるんだい?」
「それは未定!」
翌朝、私たちはミーティアと一緒にエルフ国に向かう。ホムラは少し不機嫌だったが、パーラの収納している油揚げ関係を全て渡すと、一気に上機嫌になると同時に私に疑問をぶつける。
「レイア、いいのかい?」
「は、はい」
「タマモは?」
「わ、私は大丈夫です…」
「ミーティア、なにか知ってるかい?」
「油揚げ?今うちで量産してるはずだけど」
ホムラはその言葉で全てを察したのか、フォルスに尋ねる。
「フォルス、少し出掛けてもいいかい?」
「ダメだ」
ホムラは絶望に打ちひしがれるように、お店の中へ消えていった。そんなホムラを置いて私たちは出発。
「ホムラさんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃない?油揚げを使った食べ物は全部置いていったんでしょ?」
「すぐなくなると思います」
「タマモちゃんがそういうならダメかも」
日が落ち、私たちは野宿をする。野宿をする場所を決めようとすると、ミーティアは何故かホムラたちに忠告された森の方へ向かい、森のそばで野宿をする様子。
「ここにしよう!」
「この森って、ホムラさんたちに近付かないように言われてるんですけど…」
「あー…、まあ大丈夫でしょ。レイアちゃんたちは見張りとかするの?」
「私たちは…、その…」
私はパーラにマジッククロスを取り出してもらい、ハドックに木の枝に引っかけてもらう。そしてファスナーを開け、ミーティアを中へ誘う。
「どうぞ」
「え?」
ミーティアの反応は他と変わらず驚いているものの、マジッククロスそのものに興味がある様子。中に入るとミーティアははしゃぎ始め、騒ぎながら部屋の中を駆け巡る。
「なにこれ!?すごい!レイアちゃんはいつもこれで野宿をしてるの!?でもこれって野宿なのかな?うわー!お風呂もあるし広い!ベッド大きい!すごいすごい!」
──子供みたいだなぁ…。
夕食後、私はお風呂に水を張る。
「お湯作ろうか?」
「これでいいんです」
「ピー!」
私はピーちゃんを水風呂に浮かべ、ミーティアに手を入れておくように伝える。
「冷たいよ?」
「そのままにしててください。私は片付けを手伝ってきます」
「はーい」
私はピーちゃんとミーティアを残し、キッチンに移動。そして開け放った扉を介して、ミーティアの感嘆の声がキッチンまで響いた。
「ピーちゃんすごいねー!」
「ピー!」
入浴後、私たちは床に就く。私とタマモ、そして小さくなったリオンが一緒に。ピーちゃんとミーティアは同じベッドで眠る。鬼福の里を出発してから八日、翠樹都市シルバンに到着。到着するやいなや、ミーティアは私たちを豆腐のお店へと案内する。都市に入った時からタマモはすでにそわそわしている。
「あ、ここだね」
「いらっしゃいませ!あ、族長!」
「指示はもらった?」
「もらいましたけど…」
「マジックバッグも借りた?」
「でもこんなにどうするんですか?」
お店の人がマジックバッグから取り出した油揚げの量は、私やミーティアの予想を大幅に上回っていた。私とミーティアは大変なことになったと顔を見合わせながら、パーラは黙々と油揚げを収納していく。そんな中、私の足元でタマモが尻尾をちぎれそうなほど左右に振っていた。
──わかりやすい…。
「お金は私が払うよ?」
「ダメですよ!こんなにたくさんあるんですから。でも思ったより安かったのと、タマモも嬉しそうなので」
私は予想より安い金額を支払い、他にもいくつか買い物をしてからミーティアの家に向かう。ミーティアの家には誰もおらず、タマモとパーラはキッチンに向かい、残った私たちは以前と同じ部屋に向かう。ミーティアが案内を終えると、向かいにある仕事のための家に入っていった。
「またあとで来るねー」
「わかりました」
私たちは部屋でくつろぐことにも飽き、キッチンに向かう。キッチンは美味しそうな匂いに包まれ、タマモとパーラは楽しそうに料理をしていた。
「なに作ってるの?」
「鬼人国の料理だそうです」
タマモは白いパン生地のようなものを魔法で丸めたり伸ばしたりしていた。
──パンでも焼くのかなぁ?でもここにそんな設備はなさそうだけど…。
そして昼食。戻ってきたミーティアはその料理を知っていた。
「これって鬼人国の『太麺パスタ』?それに油揚げをのせたって感じかな?ホムちゃんが見たら喜びそうな料理だね」
パーラの料理に一切の文句はない。醤油ベースのスープには海の旨味が入り、優しい味わい。甘揚げの甘さもスープによく合い、もちもちとした麺の歯ごたえも良い。ピーちゃんとタマモは満足な様子だが、ケリュスとリオンには物足りない様子。昼食後、ミーティアは仕事に向かい、私はパーラから質問攻めにされる。
「レイア」
「なに?」
「パスタってなんなの?」
「えっと、乾燥してる麺で…」
「なんで言わなかったの?」
「え?言わなかったわけじゃないけど…」
「村でも出てこなかったじゃない」
「それはみんながお肉と野菜が好きだから。あとはご飯とパンを…」
「買いに行くわよ」
夕食はパスタにトマトベースのソースをかけたもの。細かくしたお肉がたっぷり入っている。ケリュスは食べられないので野菜とフルーツを用意した。
「あれ?夜はパスタなんだ」
「パーラが…」
「パーラちゃんの料理はおいしいからいいんじゃない?」
翌日も私たちはミーティアの家に滞在する。パーラが料理の研究を始め、鍋を二つ追加し、土鍋も購入。私、タマモ、パーラの三人はキッチンで料理をし、ハドックはキッチンのそばで護衛。ピーちゃんは料理が気になるのか、邪魔にならない位置に鎮座し、ケリュスとリオンは部屋でくつろいでいる。
ミーティアは私たちと食事を取るものの、基本的には向かいの家で仕事をしている。夕食が近くなってきた時、私たちが料理をしていると玄関が開き、三人の女性が入ってきた。
「ミーティアさん、おかえ…、あ!」
「レイア、久しぶりだな」
「レイアさん、お久しぶりです」
「そこで二人に会ってさー」
ノエルとステラが加わり、私たちは楽しい夕食を過ごした。
「レイアはいつまでここにいる予定だ?」
「パーラ次第です…」
「パーラさんはなにを?」
「料理に凝ってて…」
「そうか、きっとうまいんだろうな」
「期待しましょう」
翌朝、朝食後にミーティアは仕事、タマモとパーラはキッチン、ノエルとステラは私の泊まっている部屋に来て話をする。
「店を出すのか」
「いつになるかは未定らしいです」
「ホムラさんとタマモさんがそれほど興味を示す食べ物だったとは思いませんでした」
「レイア、今日の昼食はそれにならないか?」
「…え?」
昼食は甘揚げののった太麺パスタと甘揚げにぎり。昼食を取るために戻ってきたミーティアは不満そうに言う。
「あれ?またこれ?」
「ノエルさんが食べたいそうなので…」
二日前と同じ昼食だったが、唯一の救いは揚げた肉や野菜があること。この肉と野菜は太麺パスタに合うようにパーラが作った。これにはミーティアも喜び、ケリュスとリオンも満足な様子。昼食後、ミーティアは再び仕事、ノエルとステラはギルドに向かった。
私たちは家に残り、ひたすら料理を続ける。夕食は麺ではなく普通の夕食。私たちにとっては普通ではあるものの、ノエルたちにはそうではない。
「ミーティアはこんなにうまいものを毎日食べてたのか」
「いいでしょー」
翌朝、ミーティアが仕事に行った後、昨日に引き続きノエルとステラに今までのことを話す。マリが生まれたことや護衛依頼を受けたこと。護衛依頼の後は鬼人国へ行き、今ここにいると私は伝えた。
「それにしてもレイアさんが護衛依頼ですか」
「ノエルさんとステラさんは護衛依頼はしないんですか?」
「しないな」
「私たちに依頼を頼むのは今ではミーティアぐらいなものです」
その日の夕食中、私はミーティアにシルバンを出発することを伝える。
「えー!もう行っちゃうの!?」
「は、はい。お世話になりました」
「ずっといてもいいのに…」
「レイアは冒険者なんだ、諦めろ」
「ミーティアにはもう少し真面目に仕事をしてほしいところですね」
「し、してるよ?」
夕食後、ミーティアはパーラの作った太麺パスタのレシピをホムラに教えたいと言い、私はパーラからレシピを聞き、メモを渡す。甘揚げの作り方や太麺パスタに合う揚げた肉や野菜の作り方も書き加えてある。翌日、私たちと一緒にノエルとステラも出発する。
「ステラちゃん、これお願いね」
「ホムラさんに渡せばいいのですね?」
「あ、油揚げも買っていってあげてねー」
「ノエルさんとステラさんは鬼人国にいくんですか?」
「ミーティアの頼みだからな」
「族長命令ってことで!」
「レイアさんはどちらに?」
「水鏡国です。私より小さいビーストテイマーがいるんですよね?」
「そうだ」
「森を抜ける時は気をつけてください」
「はい!」
「じゃあ東門まで行こー!」
私たちは東門から出発。目指すは水鏡国ラーレイ。ここから一週間前後で森に到着し、森を抜けた後は湖沿いに進むと、湖畔都市リシューに到着するという。
「ビーストテイマーに会いに行こう!」
「おー!」
「おー!」
私たちが出発した後、ノエル、ステラ、ミーティアは北門へ向かう。
「レイアちゃんは『カルナちゃん』のこと知ってるの?」
「知らないはずだ」
「リシューに行くよう促したのはノエルです」
「ノエルちゃんがそんなことするなんて珍しいね」
「カルナはあの人の人生にほとんど関わっていたからな。そのおかげで優秀な冒険者にもなった。だが…」
「あの方が亡くなってからは、水鏡国から出てくることはなくなりましたね」
「でも行けば会えるんでしょ?」
「あくまでも、冒険者とギルド職員という立場で話をするだけだ」
「レイアさん、というよりピーちゃんを見てどうなるかですね」
「レイアちゃんならなんとかしてくれるんじゃない?」




