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5-8:族長の家

 ミーティアは甘揚げにぎりの元になっている「豆腐」について話し始めた。豆腐そのものを作り出したのはエルフ国にいるエルフ。そこからさらに研究を重ね、油揚げを作り、甘揚げにぎりまで完成させたという。


 満を持してマーゲンに持ち込んでお店を開いたものの、他店の圧倒的やる気やマーゲンの様々な誘惑に恐怖を抱き、本人はエルフ国へ帰ってしまった。


「豆腐自体はかなり応用できるみたいでマーゲンにも残ってるみたいだけど…、って聞いてる?」

「ん?あ、ああ、聞いてるよ」

「今はうちで豆腐のお店を開いて、そこで油揚げや甘揚げにぎりを売ってるわけ」

「ミーティア、その店をこっちでも開けないかい?」

「それはかえでちゃんの許可が必要なんじゃない?」


 私たちはギルドに向かう。ホムラとミーティアはその後も話を続けていたが、終わる様子がないため、見かねたルルが送り出してくれた。


「タマモ、エルフ国にも売ってるって」

「はい!」


 小さな姿のタマモは嬉しいのか、足取りがかなり軽くふわふわな尻尾をぶんぶん振り回している。私たちはギルドに到着して、受付にいるむさしにギルドマスターのふうかに会えないかを尋ねた。


「むさしさん、おはようございます」

「おお、来てたのか」

「昨日着きました。あの、ギルドマスターに会えますか?」


 私たちはギルドの奥に向かう。


「レイアさん、お久しぶりです」

「お久しぶりです」

「護衛依頼は無事に終わりましたか?」

「はい!それで、あやかさんたちに会いたいんですけど…」

「今は族長の家にいると思いますよ。確か…、エルフ族の族長と数日以内に会うと聞いています」


 私はふうかと少しだけ話をして、足早に福々堂へ。お店に戻ると、ミーティアが福々堂の服を着ていた。


「あ、おかえり。どう?似合う?」

「は、はい。よく似合ってますけど、どうしたんですか?」

「ちょっとねー」

「はぁ…」


 ミーティアはくるくる回りながら喜び、ホムラは溜息をついていた。ホムラとミーティアと一緒に奥の部屋まで戻り、タマモとパーラがお茶を淹れる。一息ついたところで私はミーティアに尋ねた。


「ミーティアさんってかえでさんと会うんですよね?」

「そうそう、明日家まで行こうかなって」

「私も一緒に行っていいですか?」

「かえでちゃんに用があるの?」

「あやかさんに会いたくて…」

「じゃあ明日一緒に行こうね!」

「ミーティア、レイアに迷惑かけるんじゃないよ」

「え?私なの?」


 そのまま私たちは昼食を取り、買い物に出掛ける。ミーティアは服の調整があるため店に残り、私は薄い着物に着替えてお店を出た。そして一通りの食料や材料を買い、最後に求めたのはお菓子。


「お菓子、なにがいいかな?」

「ぼくはケーキ!」

「リオンはサクサクしてるのが食べたいな」

「パーラ、ケーキやクッキーって作れそう?」

「無理よ。あれは特別な器具が必要なんでしょ?買うしかないわよ。あ、土鍋も早く買ってよね」

「そうでした…」


 私はお菓子を買い、お店に戻る。鬼福の里名物のまんじゅうと様々なクッキーを買い込んだ。お店に戻った私は身ぐるみを剥がされ、ホムラとサクヤから採寸を受ける。そして翌朝、私たちは鬼福の里から北にある港町へ向かう。見送りのため、ホムラたちは北門まで一緒だ。


「レイアは向こうからまたこっちに戻ってくるのかい?」

「そのつもりです」


 私たちは鬼福の里を出発。私はいつもの服、ミーティアは福々堂の服を着ていきたかったが直す部分があるとのことでホムラたちが預かっている。里から離れ、タマモが人の姿になった時、私はミーティアに尋ねる。


「ミーティアさん、ちゃんと寝てますか?」

「あ、はい、寝てます。たくさん寝てます。その節は大変ご迷惑を…」

「本当は起きるまでいたかったんですけど…」

「全然いいよ!私なんか気にしないで!あ、赤ちゃん元気?」


 昨日に引き続き、マリのことをミーティアに話しながら港町へ進んだ。私たちは歩き続け、昼食となった。私は布を広げ、ミーティアに座るように促す。


「どうぞ」

「ありがとう!」

「ミーティアさんはご飯あるんですか?」

「保存食があるよ」

「保存食…」


 パーラが保存食を許すはずがなく、私たちと同じ昼食をミーティアは取り、満足そうな笑顔をしていた。少し休んで出発する時、ピーちゃんが頭を傾げながら鳴いた。


「ピー?」

「ピーちゃん、それは今じゃなくて…」

「なんて言ったの?」

「その…、『今日はごちそう?』って…」

「あ、その話ね。ごちそうはエルフ国まで来てくれたらの話だから…、来てくれるよね?」

「うん!」

「うんうん!…。うん?」

「どうかしましたか?」

「なんでもない…、と思う」


 私たちは港町に向けて歩みを再開し、日が落ちる前に到着。港町には壁や門はなく、どことなくハーベ村と同じ雰囲気を感じる。


「ピー…」

「お腹空いたね」

「よし!かえでちゃんのところに転がり込んでご飯をもらおう!」

「ピー!」


 私たちは港町の西にある大きな屋敷に向かう。明かりがついているので、屋敷には誰かがいる様子。


「あ、一応小さくしといた方がいいかも」

「わかりました」


 私はケリュスとリオンを小さくした。


「フォームシフト!」

「おー、さすがビーストテイマー」


 ミーティアが大きな屋敷の門を叩くと、中から懐かしい声が聞こえてきた。


「どちら様ですか?」

「ミーティアだけど、開けてくれる?」

「ミーティア様、お待ちし…、レイアさん!?」

「あやかさん、お久しぶりです!」


 あやかは扉を開けながら大きな声で驚くと、その声を聞きつけてかえでがやってきた。


「あやか、どうし…、レイアさんではありませんか!よくいらっしゃいました、どうぞ中へ」

「かえでちゃん、私もいるんだけど?」

「ミーティアさんは元々来る予定でしたので」

「ところでかえでちゃんさー、私たち夕食まだなんだけどなにかある?」

「もちろんです。あやか、夕食の用意を」

「急いで準備します」


 あやかはそう言い、私に笑顔を見せると屋敷の中へ消えていった。私たちはかえでの後に続いて屋敷の中に入る。かえでが向かった先はとても広い部屋。そこは鬼人族の人が集まるための場所らしい。


 部屋には背の低いとても大きなテーブルが一つ。その部屋は庭へ繫がっており、庭にはハドックと元の大きさに戻ったケリュスがいる。


「お二人は外でよろしいのですか?」

「本人たちがそうしたいみたいなので」


 私たちが庭に面した通路で待っていると、あやかとたいちが夕食を運んできた。


「たいちさん、お久しぶりです!」

「久しぶりだな、赤ちゃんは生まれたか?」

「はい!」


 たいちは大量の野菜とフルーツを外にいるケリュスのために用意し、あやかは私たちの夕食を準備する。夕食はご飯、焼き魚、野菜と魚の入った味噌ベースのスープ。スープは、以前パーラが作ったものによく似ている。


 ピーちゃんは焼き魚をついばみ、タマモは魚を箸で綺麗に食べる。パーラはスープの味を盗むかのようにゆっくりと味わい、ケリュスとリオンは端から平らげていた。その光景を、あやか、たいち、かえでの三人は笑顔で眺めている。


 少し遅めの夕食後、私たちはお風呂に入る。入浴後、部屋に戻ると布団が並べられていた。私たちが部屋で話をしていると、あやかとかえでがやってくる。


「ミーティアさんは私と一緒にこちらへ」

「はーい。レイアちゃん、また明日ね」

「あやか、あとは任せます」

「かしこまりました」

「あ、かえでちゃんさー、お願いがあるんだけど」


 かえでとミーティアは何やら話をしながら退室すると、あやかが口を開いた。


「レイアさんはどれくらいこちらに滞在する予定ですか?」

「あやかさんに手紙のお礼を言えたらいいなって思ってただけで特に決めてません。忙しそうなら明日にでも…」

「私は忙しくありませんので、できれば数日滞在していただけると色々とお話もできると思います」

「じゃあそうします!」


 私は、上級冒険者になった後の話をあやかにしているとうとうとし始めて、いつの間にか眠ってしまったと、起きた時にタマモとパーラに教えられた。


「みなさん眠ってしまいましたね。ところで、タマモさん」

「はい、…あ!」

「やはりタマモさんでしたか」

「いつから気づいていましたか?」

「小さな藤狐の姿が見えませんでしたので。ですが、最初は福々堂で見た時です。藤色の美しい髪に金色の瞳。タマモさんが人になられたらこうなるかもしれないと思っていました」

「私のことはなるべく秘密にしているのですが…」

「では私もそのようにいたします」

「でも、レイアさんは私に藤狐に戻るよう言わなかったので、あやかさんたちを信用しているのだと思います」

「それは嬉しいですね。ところで、レイアさんからはあとで話を聞くつもりですが、護衛依頼は無事に終わりましたか?」

「無事に終わったと思いますが、ハドックさんならもっと詳しいことがわかると思います」

「そうですか、それならいいのです。ビーストテイマーに護衛依頼は来ないと言い、護衛依頼から遠ざけたのは私です。今思えば、レイアさんにはもっと色々な依頼をこなしてもらう必要があったと思います」

「ぱかぱか」

「『早く寝るわよ』とパーラさんが言っています」

「そうですね、私たちも寝るとしましょう」


 翌朝、私が目覚めるとタマモとあやかの姿がなかった。


「おはよぉ…」

「おはよ」

「おはよー」

「タマモとあやかさんはぁ…?」

「ちょっとね。そんなことより、髪梳かすわよ」

「うん…」


 私は頭がはっきりしないままパーラに髪を梳かされ、パーラが髪を三つ編みにし始めた時、タマモとあやかが庭の方から戻ってきた。


「レイアさん、おはようございます」

「おはよぉ…、ございますぅ…」

「相変わらず朝が弱いようですね」

「ピー…」


 ピーちゃんが眠そうに起きると、あやかは笑顔のまま朝食の支度に向かい、パーラはあやかの後についていった。朝食後、かえでが今後について話をする。


「レイアさんは数日滞在する予定とあやかから伺いました」

「じゃあ私が帰る時に一緒に帰ろうねー」

「はい」

「滞在中はこちらの部屋をお使いください」

「ありがとうございます」

「私もここでいい?」

「構いませんが、ミーティアさんは今から私とお仕事です」

「はーい。レイアちゃん、またあとでね」

「レイアさん、滞在中はあやかとたいちを好きに使ってください。では失礼いたします」


 そう言って、かえでとミーティアは仕事のため退室。部屋に残ったのは私たちとあやかとたいち。ハドックとケリュスは庭からこちらを眺めている。


「えっと…」

「ここにいる間は私たちがレイアさんたちのお世話をいたします」

「なんでも言ってくれ」

「ですが、今はレイアさんのお話を聞かせていただけますか?」

「はい!」


 その日は私の話で一日が過ぎていった。翌朝、朝食後にかえでとミーティアがパーラとタマモを借りたいと言う。


「レイアちゃん、そのミミックって料理するんでしょ?」

「はい」

「ちょっと貸してほしいんだよね。あ、タマモちゃんも一緒に」

「わかりました」

「ありがとうございます。悪いようにはいたしませんので」

「それから、ちょっと早いけど私は明日帰るんだ。レイアちゃんはまだいたいならいてもいいよ?」

「一緒に帰ります」


 四人の退室後、残った私たちは外に出掛ける。港町ということで、アクアハーバーほどではないものの小さな港と市場があり、あやかとたいちはそこへ私たちを案内した。小さいながらに活気があり、多くの魚が市場には並ぶ。あやかはいくつかの魚を買い、たいちの持つカゴに入れていく。その帰り道、あやかはおもむろに口を開いた。


「レイアさん、また会いに来てくれますか?」

「もちろんです!」


 あやかは私に微笑んだが、その笑顔はどこか悲しげな、私を心配するような笑顔。


 その日の夕食は豪華だった。魚を焼いたもの、揚げたもの、煮たもの。肉に関しても焼いたものと揚げたもの。ご飯にパン、野菜にフルーツと全てが揃っている。どうやら朝からせっせと準備したようだった。


「タマモ、パーラ、お疲れ様」

「私よりパーラさんの方が…」

「ぱかぱか」

「色々盗んだ?え?ダメだよ」

「ぱかぱか!」

「料理の仕方なら大丈夫だね」


 夕食を終え、お風呂に入る。そして入浴後、あやかが私の髪を梳かす。


「よく整えられていますね」

「タマモとパーラがやってくれるので」


 翌朝、あやかが私の髪を梳かし、三つ編みにしてリボンを付け、最後に私の頭を撫でた。


「あやかさん?」

「あ、いえ、つい…」


 あやかは笑顔だったが、やはりどこか悲しげに見えた。朝食後、ミーティアの準備が終わるまで私たちは部屋で待機し、その間にたいちと少し話をした。


「また来ます!」

「レイアさん、お元気で」

「村のみんなによろしくな!」

「レイアさん、こちらをどうぞ」


 かえでは私に紙切れを渡す。


「これは?」

「この屋敷にはディメンジョンレターがありますので、あやかに手紙を書いてあげてください」

「族長、よろしいのですか?」

「構いません」

「書きます!」


 私たちは港町を出発。ここから一日歩くと鬼福の里に到着する。その頃には門が閉まっているが、族長であるかえでの許可書があると特別に入ることができるという。


「かえでちゃんの許可書にはいつもお世話になってるんだよねー」


──かえでさん、大変そう…。


「あ、そうそう。かえでちゃんのところからシルバンに指示を出したんだけど、向こうで油揚げをたくさん作っておいてもらってる予定だから期待しててね」

「あり…」

「ありがとうございます!」


 私が返事をする前に、タマモがミーティアに感謝を述べた。




「行ってしまいましたね」

「族長、本当にレイアさんなのですか?」

「納得できない気持ちはわかります。ですが事実なのです。さあ、片付けをするとしましょう」


 かえでが屋敷に入っていくと、たいちが口を開いた。


「あやか」

「なんですか?」

「レイアちゃんが心配してたぞ、元気なさそうだってな」

「レイアさんも成長しましたね…」

「俺たちにはどうすることもできん。大きな使命を背負ったかもしれないが、それほど難しいことじゃないって族長も言ってただろ」

「ええ…」


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