5-7:小さな異変
私たちはルビオと一緒にもう一度ダンジョンまで行き、最奥まで進む。ダンジョン内に新たなコッケはおらず、何の障害もなく奥まで進んだ。ルビオが最奥の扉を開けると、そこには黒いダンジョンコアが浮いていた。
「こんなことはあり得ないんだが…」
私たちはダンジョンから街に戻る。
「あのダンジョンはB級で、黄色と赤のコッケしかいない。他のダンジョンではこんな報告受けてないんだが、改めて調査する必要があるな」
「私たちが倒したモンスターはどうなるんですか?」
「買い取るぞ。ただ、味はいいんだが肉が少ない分安い。それから羽根も安いが買い取れる」
「解体って私たちでやるんですか?」
「解体はあそこだ。あの大きな建物でやってる」
ダンジョン街ではモンスターそのものを持ち込む人が大半なため、ダンジョンの近くに大きな解体場がある。私たちはギルドではなく、向かう場所を解体場に変更。解体場はモンスターの大きさに合わせて場所が決まっており、受付でモンスターを見せることで解体する部屋が決まる。
「ギルドマスターに、ビーストテイマーのレイアか」
「知ってるんですか?」
「ビーストテイマーで上級冒険者だからな、知らないやつはいないさ」
「『サニク』、一番でかい部屋で人数を集めてくれ」
「そんなでかい地竜が出たのか?」
「話は部屋でする」
「準備するから待っててくれ」
サニクがどこかへ行くと、ルビオが私に尋ねる。
「全部でどれくらいだ?」
「100から先は数えてません」
「わかった…」
ルビオの顔は歓喜と絶望が入り混じっていた。戻ってきたサニクに案内された部屋は、大きな解体部屋。部屋は清潔に保たれており、五人の男性が期待の眼差しを私に向ける。しかし、パーラが黄色コッケを取り出すと、ルビオ以外の表情が一変した。
「ギルドマスター、こんなのを解体するために部屋と人を用意したわけじゃないぜ?」
「黙れ!それから!今から見るものは他言無用だ!」
「全部出すんですか?」
「一羽ずつでいい。こいつらもプロだ、なにが起こったかは見ればわかる」
ルビオに促され、パーラは貸出品のマジックバッグから赤と黒のコッケを一羽ずつ取り出した。黒のコッケを見た瞬間、六人の表情が変わった。
──凍ってるのがまずかったかなぁ?
「ちょ、ちょっと待ってくれ!どこのダンジョンに行ってきたんだ!?」
「ここの一番奥です」
「ギルドマスター、どういうことだ?」
「俺にもわからん。ここに来る前にコアを確認したが、黒になってた」
「そんなことあり得るのか?」
「わからん。だが、他のダンジョンコアも確認しておいた方がいいだろう。とにかく!このことは調査が終わるまで他言無用で頼む」
「わかった。解体はしてもいいんだな?」
「お肉は欲しいんですけど…」
「頼む!半分はうちに卸してくれ!少し高めに買い取る!」
ルビオは私に頭を下げて頼むので、仕方なく了承した。解体は数が多く、今日中には終わらない。私は借りたマジックバッグをサニクに預け、解体場からギルドに移動。そしてギルドマスターの部屋に戻ると、ルビオが口を開く。
「さっきも言ったが、コッケについてはまだ黙っていてくれ」
「わかりました」
「買い取りだが、解体が終わり次第、肉と一緒に金も渡す。解体費用はタダでいいぞ。半分も卸してもらうからな」
「ありがとうございます!」
「お前さんたちはどれくらいここにいる予定だ?」
「早めに出発できれば…」
「そうか、なら解体を急がせるとしよう」
「あの、ここって宿屋はありますか?」
「あるにはあるが…、泊まれないだろうな」
「そうですよね…」
その日、ダンジョン街から西に少し歩いた平原の中で野宿をした。翌朝、朝食を取り、私たちはギルドに向かう。ギルドに到着すると、受付の職員が「解体場へ行ってほしい」とルビオからの伝言を私に伝えた。解体場に向かうとサニクが私たちを待っていた。
「よお」
「サニクさん、おはようございます」
サニクの後に続いて、私たちは昨日の大きな解体場に向かう。そこには解体済みのコッケが机一杯に並んでいた。
「ここにあるのがレイアに渡すコッケだ。これが黄色、これが赤、こっちが黒だ」
解体されたコッケの姿はどれも似たような見た目だったが、パーラはしっかりと判別している様子。パーラに収納を任せている間、私はサニクと買取金額の話をする。
「これが買取金額だ。肉は問題ないが、損傷のある羽根は買い取れなかった。それを差し引いても大金であることには変わりないな」
「コッケって安いんじゃ?」
「安いは安いがこの量だぞ?それに黒コッケの肉もある。それに安いからといっても味はいい。これからこのコッケをギルドが売りに出したら即完売だ」
「ぱかぱか」
「あ、うん、お願い」
コッケの収納が終わり、パーラはお金の詰まった九つの袋を収納し始めた。
「よし、コッケについてはこれで終わりだな」
「あの、ギルドマスターってどこにいるか知ってますか?」
「朝からダンジョンの調査に行ってるらしい。コアの色が変わるなんて前代未聞だからな。マジックバッグはギルドマスターに渡したから大丈夫だぞ」
私たちは解体場からダンジョンへ。ルビオがどのダンジョンにいるかわからなかったが、その心配はなかった。ダンジョンへの道中、ルビオと見知った人が一緒に歩いてきた。
「テイルさん!」
「レイアさん、おはよう」
「コッケと金は受け取ったか?」
「はい、ありがとうございました!」
「え?じゃあもしかしてレイアさんが?」
「そうだ、問題児とは聞いていたがまさかな…」
──ここで問題起こしたっけ?
私たちはギルドに向かい、ギルドマスターの部屋に入る。テイルを交え、ダンジョンコアの調査結果を私は聞く。
「調査の結果、他のダンジョンコアは問題なかった。だが、実際にコアの色が変わった例がある以上、定期的に調査をする必要がある」
「そのたびに僕が呼ばれるわけね」
「仕方ないだろ、近くにいるS級がお前しかいないんだ。国境を越えずに飛んでこれる分、楽だろう」
「僕にもギルドマスターとしての仕事が…」
「知らん」
──大変そうだなぁ。
その後、私たちはテイルと一緒にギルドを後にし、西門から外に出る。テイルとは護衛の話をしながら歩いていった。テイルがマーゲンへ戻る時、私に一つだけ忠告を残す。
「レイアさんに一個忠告」
「なんですか?」
「グリフォンエンペラーだけど、小さくした方がいいよ」
「都市に入る時はなにも…」
テイルはリオンについての忠告を続ける。今のリオンはギリギリ許されない大きさになっている。ダンジョン街では関係ないが、今後都市に入る時はリオンも小さくする必要がある。今まで何も言われずに都市の中に入れたのは、大きさがギリギリなため判断が難しいとのこと。
「まだ大きくなるだろうし、早いうちから訓練させるのも必要だよ」
「わかりました」
テイルは忠告を終えると、大きくなったランシュの背に小さなクロムと乗り、マーゲンへ帰っていった。私たちはそのまま南西に向かう。食彩国と人間国との関所を抜け、ハーベ村へ帰る。その道中、私は歩きながらリオンを見る。
──確かにリオンは大きくなった。私は持てなかったけど、私が抱えられるぐらいの大きさだった。でも今は私が乗れそうな大きさだし、大人しいけど、他の人にはそれがわからないもんね…。
その日の夜、私はリオンに大切なことを伝える。
「リオン、話があるんだけど」
「なに?」
「リオンは体も大きくなってきたし、都市の中に入る時にケリュスみたいに小さくなってもらう必要があるんだけど、いい?」
「いいよ」
「リオンは偉いね」
「えへへ」
就寝時、私は試しにリオンを小さくしてみると、リオンの反応が思いのほか良かった。
「ママ!寝る時も小さくして!」
「わ、わかった…」
小さくなったリオンは私に抱きかかえられるかのような体勢で眠りについた。
ダンジョン街を出てからの道中、私たちが食べたコッケは焼いたものがほとんど。ただ焼いて、塩や醤油で味付けしたものがみんなには評判が良い。
「ダンジョン街で買い物しなくてよかったね」
「そうね。でもコッケを使った料理をもう少し増やしたいところね」
ダンジョン街から約三週間、私たちはハーベ村に戻ってきた。村に戻るまでの道中、いつものようにケリュスの角が落ち、パーラが瞬時に収納。パーラの収納には、八本の光る角が眠っている。
「ただいまー」
「あら、早かったのね」
「うん、マリは?」
「元気よ」
マリは私たちが帰ってくるとすぐに眠ってしまった。その日の夜はパーラのコッケ料理がテーブルにずらりと並んだ。みんながマリを見ている間、私、ハンナ、パーラの三人でコッケを使った料理を考え、手当たり次第に作っていく。コッケ揚げ、焼いたコッケにレモンを使った酸味のあるソースをかけたもの、コッケと野菜のスープ。
「お、今日は鶏肉づくしだな」
「レイアがコッケっていうモンスターのお肉を持ってきたのよ」
「ダンジョン街に行ったのか?」
「うん」
「一番奥のダンジョンか?」
「う、うん…」
──赤と黒のコッケのことは黙ってないと…。
その後、みんなでコッケ料理を平らげる。ケリュスには村の野菜を揚げたものを並べると、美味しそうに食べていた。油は黄色い花から採れたもので、草食のケリュスでも問題無い。
村に戻ってから一週間後、私たちは冒険に出掛けた。目指すは鬼人国。「油揚げをホムラに持っていきたい」とタマモが言う。ミゼルとハンナにも甘揚げにぎりを出したところ、評判は上々。しかし、甘揚げにぎりや油揚げは道中の食事ではほとんど出てこない。
「すぐなくなってしまうので、パーラさんには出さないように言ってあります」
「みんな食べるからね」
「いえ、そうではなく…」
「自分がたくさん食べるから鬼福の里まで出すなって言ってきたのよ」
「タマモがたくさん食べるってことね」
「はい…」
村にいる間、マーゲンの宿屋の女性からもらったレシピを頼りに、タマモとパーラが油揚げを甘くする方法を実践していた。村を出発してから三週間、私たちは鬼福の里にやってきた。途中、獣郷都市クロスファングに立ち寄ったものの、ライルたちは例のダンジョンに行っているとのことで会えず。
「こんにちは」
「レイアじゃないか!久しぶりだね」
「ホムラさん、お久しぶりです」
「うちの服は着てるかい?」
「えっと…、ケープは着てます…」
「そうだろうとは思ってたけどね」
「すみません…」
「ほら、奥に行ってみんなに顔を見せてやんな」
「はい!」
私たちは奥に行き、フォルス、サクヤ、ルルと挨拶を交わす。そしていつもの広い部屋に向かった。
──ここもすっかり自分の部屋みたいになっちゃったなぁ。
私がイスに座るとタマモは人の姿に、ケリュスとリオンは元の大きさに戻る。タマモとパーラはお茶の準備をし、私はお菓子を準備する。お菓子は紅茶を買った時にもらったクッキーと豆腐のお店で買ったクッキー。どちらも少量ずつなので、少し物足りない。
「パーラ、お菓子ってもうない?」
「ないわよ」
私たちの準備が整い始めた時、ホムラとサクヤがやってきた。
「お茶とお菓子を準備してくれたんですかぁ?」
「はい、でもお菓子がこれしかなくて…」
「これだけじゃ頭の上の食いしん坊が納得しないね」
「なので、お菓子があれば…」
「ありますよぉ」
「あ、あと村の野菜も持ってきたんですけど」
「それはあとでフォルスの前で出してやんな、その方が喜ぶからね」
その後、みんなでお茶を飲み、パーラは村の野菜をフォルスに渡す。
「いつもすまんな!」
「野菜でよければいくらでも」
「赤ちゃんは元気か?」
「はい!名前はマリって言うんですけど…」
お茶を飲みながらマリについて話すと、全員が笑顔で話を聞き続けていた。そして夕食。タマモとパーラが例のものをテーブルに並べると、ホムラが興味を示す。
「こ、これはなんだい?」
「『甘揚げにぎり』という食べ物です。タマモが大好きで、ホムラさんにも食べさせてあげたいと言って買ってきました」
「いただくとするよ」
ホムラは甘揚げにぎりを口にすると、タマモ同様、あっという間に一つを食べ終えてしまった。
「おいしいですか?」
「おいしいよ、よく持ってきてくれたね。どこで売ってるんだい?」
「マーゲンです」
「ちと遠いな」
「遠いですねぇ」
「いやでもルルなら…」
「ホ、ホムラ?私を行かせるつもりなの?」
私にはわからない会話をしていたが、その後はホムラたちが用意した夕食を取った。翌朝、私たちがギルドに行こうとした時、ミーティアがやってきた。そして、ここで些細な問題が起こる。
「甘揚げにぎり?うちで作ってるけど?」
「エルフ国で作ってるのかい!?」
「うん。あれ?ホムちゃんたちに言ってなかったっけ?」
「あの、私はマーゲンで買ってきたんですけど…」
「あーそれはね…」




