5-6:肉のダンジョン
ティアラの後に続いて学園長の部屋まで向かう。その道中、アメリは学園内に設置されている、上下する大きな魔法具に驚いていた。
「この魔法具は学園のあちこちにあるのじゃ、早々に慣れてもらわねばの」
「努力いたします」
学園長の部屋に入ると座るよう促された。アメリは中央、私はその隣。みんなは私とアメリの後ろに立つか、横たわっている。
「レイア、道中はなにもなかったかの?」
「はい。ダンジョンらしきものはいくつかあったんですけど、全部攻略済みでした」
「ならよい。アメリ姫をよく無事に送り届けてくれたのじゃ。ここから先は学園が責任を持つのじゃ」
「よろしくお願いします」
その後はティアラが書類を書き、アメリが署名をしたものを私に渡す。この書類をギルドに提出することで正式に護衛依頼が完了するとのこと。私たちは学園を後にする。アメリとティアラは学園の門まで見送りに来た。
「レイアさん、みなさん、ありがとうございました!」
「勉強、頑張ってね」
「はい!」
門が完全に閉まるまで、私たちは互いに手を振り続けた。
「アメリとの冒険も終わっちゃったね」
「楽しかった!」
「楽しかったですね」
「あの子なら大丈夫よ」
「うむ、きっとレイアより強くなるに違いない」
「アメリは優しくていい人だったよー」
「ハドック、私の護衛はどうだった?」
「まだまだ甘いところはございますが、無事にアメリ殿をここまで送り届けることができましたので、今はそれで十分でございます」
──また護衛依頼があるかもしれないからもっと頑張ろう。
私たちは依頼の報告のため、学園から冒険者ギルドへ。ギルドに到着すると、いつものようにギルドマスターの部屋に通され、私はロマリスと話をする。
「レイアさん、お久しぶりです。B級、おめでとうございます」
「ありがとうございます。あの、ダンジョンについて聞いてもいいですか?」
私がダンジョンについて尋ねると、ロマリスは現状について話し始めた。ダンジョンはアルカディアの周囲にポツポツと出現している。ダンジョン自体はそれほど深いものではなく、ダンジョンコアまでたどり着くのは容易。しかし問題だったのは、テイルの言うように出現するモンスターがやや強いということ。
学園の近くに出現したS級ダンジョンほどではないものの、A級ダンジョンまでは出現。そして現在、新しいダンジョンが出現することはなく、出現したダンジョンは全てのコアを破壊したとのこと。
「上級冒険者は少ないので、残ったダンジョンは私がコアを破壊いたしました」
「ここってエースはいないんですか?」
「アルカディアは私がエースを兼任しております」
「大変そうですね」
「優秀な冒険者がいるといいのですが…」
「わ、私はエースにはなりません!」
私はロマリスに書類を渡す。正式に護衛依頼が完了したところで、ギルドを後にして買い物に向かう。買い物を終えた頃には日が落ち始めていたが、私たちは魔導都市アルカディアの南門からアメリと歩いてきた道を戻る。そしてそのまま、食彩国にあるダンジョン街へ行くことにした。
「このままダンジョン街に行って、村に戻ります!」
「おー!」
「おー!」
アルカディアを出発してから十日、ダンジョン街に到着。ダンジョン街はアルカディアと同じように、壁ではなく街全体が防御膜のようなもので覆われており、大小様々な建物が不規則に並んでいる。
それもそのはずで「元々平原だったところにダンジョンがいくつか出現し、無計画に発展してきた」という内容を、ここのギルドマスターである「ルビオ」が私たちに教える。
「いやー、それにしても噂のビーストテイマーが来るとはな」
「噂っていうのは…?」
「いい噂じゃねーな」
「そうですよね…」
「まあいいさ、ゆっくりしてってくれ」
「あの、ダンジョンって私たちでも入れるんですか?」
「もちろんだ。ランクに応じて立ち入りを制限してるが、お前さんたちならどこでも入れる。だが…、物足りんかもしれんな」
「簡単なんですか?」
「ここはB級ダンジョンが最大のダンジョンになる。グリフォンエンペラーを使役してるなら特に苦労しないはずだが…、いや、逆に難しいかもしれんな」
ルビオは街が管理するダンジョンについて規則のようなことを話し始めた。
・ダンジョンコアを破壊してはならない
・ダンジョンモンスターは可能な限り可食部分を損傷しない
・モンスターを狩りつくさない
「この三点は必ず守ってくれ。特に!ダンジョンコアだけは絶対に破壊してくれるなよ?」
「わ、わかりました…」
「肉はギルドで買い取りもやってる。買取希望なら食えるところはなるべく残してほしい。買い取りに出さないなら好きにしろ。ところで、一つ依頼を頼みたいんだが」
「なんですか?」
ルビオの依頼とは、B級ダンジョンの奥の方にいるモンスターの討伐とその素材、というより肉。B級ダンジョンの半分より先は全て同じモンスターが出現するものの、綺麗に討伐できる冒険者が少なく、その肉も手に入りづらい。
「B級ダンジョンの真ん中から先には同じモンスターしか出ないから最奥まで行く必要はない。が、今回に限り、特別に狩りつくしていいぞ」
「なにが出るんですか?」
「少し言いづらいんだが…」
私たちはギルドを後にし、ダンジョンへ向かう。街の中は肉の焼ける匂いで満たされ、マーゲンのように匂いを管理する魔法具があちこちに設置されていた。ダンジョンは街から北東に行ったところにあり、奥に行くほどダンジョンのランクが上がる。また、街が管理しているダンジョンは周囲が柵で覆われていた。
「ケリュス、ごめんね」
「構わぬ、われ以外は肉を食うからな」
私は草食のケリュスを気にしつつ、ダンジョンに向かう。目指すダンジョンは一番奥にあるB級。ダンジョンまでの道は曲がりくねっており、多くの冒険者がそれぞれのダンジョンの近くに集まっている。そして、人目があると私たちは必ず注目の的になる。
「あれってB級のビーストテイマーじゃねーか」
「ダンジョンが丸焦げになっちゃうよ」
「いつ見てもこの集団は圧巻だな…」
──もう声を抑える気もないね…。
私たちは一番奥にあるB級ダンジョンにたどり着き、中に入る。ケリュスの角を明かり代わりにし、ピーちゃんを肩に乗せたハドックと、人の姿になったタマモが先頭を務める。少し進むと、このダンジョンのモンスターが集団で現れた。
このダンジョンはB級であるものの、出現するモンスターの数が異様に多い。それは一体あたりが小さいため。小さいと言っても、太ったファーストバードと言われたピーちゃんよりさらに大きな「コッケ」と呼ばれる鳥。コッケの厄介なところは、動きづらそうな見た目とは裏腹に、風をまとって素早く動くこと。黄色のコッケ集団が私たちに気づくと、一斉に風をまとって突進してきた。
「ハドックさん、ここは私が」
「ではお任せいたします」
タマモがハドックの前に出ると、隠していた耳と九つの尻尾を露わにする。その姿は人になった九尾そのもの。タマモは全身に冷気をまとい、九つの尻尾の先には冷気の玉を作り、前方から突進してくるコッケに放った。
冷気の玉がコッケに当たると、冷気がコッケを包み込み、たちまちに氷漬けとなっていく。タマモは次々と突進してくるコッケに冷気の玉を当てると、氷漬けになったコッケは地面に落ちる。
「タマモ、すごい!」
「ありがとうございます」
「でも…、これ大丈夫?」
「傷つけずに倒すにはこの方法が一番だと思いました」
「とりあえず収納しよっか」
収納するのはパーラではなく、私の持つマジックバッグでルビオからの貸出品。ダンジョン街で上級冒険者に依頼を出す時に限り、マジックバッグの貸し出しを行っている。上級冒険者に限定しているのは盗まれる可能性があるため。
「私がいるのに鞄を借りるなんてね」
私は氷漬けになったコッケを一体ずつ収納していく。マジックバッグに生きているものは入らないので、全て絶命しているようだった。コッケはピーちゃんよりも薄い黄色の羽を持ち、これも買取対象。
──凍ってるけど大丈夫かなぁ?
タマモは耳と尻尾を隠し、ハドックと一緒に私の前を歩く。
「タマモすごかったね」
「タマモ、強い!」
「人の姿のタマモ殿の強さを初めて見ましたが、十分すぎるほどの戦力かと」
「強いってもんじゃないわよ」
「うむ、強すぎるぐらいだな」
「リオンももっと強くなる!」
「タマモ、耳と尻尾出てるよ」
「え、あ!」
──褒められて出ちゃったのかな?
奥へ進みながらタマモは耳と尻尾をわしゃわしゃと撫でて消す。少し進むと、洞穴の天井に看板がぶら下がっていた。ここがこのダンジョンの中間地点。看板を過ぎると今度は赤い羽を持つコッケの集団が現れた。
赤コッケの集団が私たちに気づくと、同じように風をまとい突進してきた。
「リオンがやる!」
「大丈夫?」
「大丈夫!」
「ダンジョン壊しちゃダメなのと、なるべく傷つけずに倒すんだよ?」
「やってみる!」
リオンはハドックとタマモの前に出た。リオンが先頭に立った直後、私たちの周囲の空気が変わり、パーラが防御膜で私を包み込む。その上からケリュスも大きな防御膜を展開し、ピーちゃん、タマモ、ハドック、リオンの四人とは防御膜で隔てられた。
「だ、大丈夫だと思うよ?」
「念のためよ」
「レイアを傷つけたら苦しむのはリオンなのだ」
リオンは私の方をちらりと確認するとにこりと笑い、再び前を向く。そして、突進してくる赤コッケのまとう風の上からリオンの操る風で包み込むと、突進の勢いを失った赤コッケたちはその場に着地した。
何が起こっているのか首を傾げている赤コッケの集団にリオンは駆け出し、前足で一体一体薙ぎ払い、壁にぶつけていく。大きくなったリオンからは想像もできないほど機敏な動きで、全ての赤コッケが薙ぎ払われるのはあっという間の出来事だった。その後、リオンは動かなくなった赤コッケを確認しながら私たちの元に戻ってくる。
「全部倒したよー」
「…」
「ママ、どうしたの?」
「あ、えっと…、お疲れ様!」
「えへへ」
私はリオンを撫でまわす。
──強い…。リオンってこんなに強いの?もしかしてまだ強くなる?
赤コッケは傷付いている個体や綺麗な個体など様々。これはリオンがまだ未熟な証拠でもある。私はリオンの成長に驚きながら赤コッケを収納し、さらに奥を目指す。
道中現れた黄色や赤のコッケは、タマモが氷漬けにし、リオンが薙ぎ払い、ハドックは雷で沈黙と、様々な手段で倒した。そして最奥。最奥にいたのは黒い羽を持つコッケ。
──あれ?黒?赤までじゃないっけ?
「ぼくがやる!」
「いいけど、傷つけないようにね?」
「わかった!」
ピーちゃんは一人で最奥の広間に飛んでいき、広間の中央に着地。それに気づいた黒コッケはピーちゃんを中心に円になって集団で取り囲む。その後、黒コッケは見た目が似ているピーちゃんに向かって左右の翼を広げて威嚇し始めた。
ピーちゃんも同じように翼を広げて威嚇し返すと、黒コッケの集団は風をまとい始めた。それを見たピーちゃんも風をまとったかのように見えた瞬間、強い突風が私たちを襲う。ハドックは私たちを守るように突風の先頭に立ち、パーラとケリュスは防御膜を展開。
突風が収まった時、壁際には沈黙した黒コッケ。ピーちゃんの放った突風により、壁にぶつかり沈黙した様子。私たちの方にも数体が飛んできたようだったが、ハドックが全て斬り落としていた。
「レイア様、申し訳ございません…」
「仕方ないよ、突然だったから」
ピーちゃんは周囲を見回し、満足げに特等席へと舞い戻る。
「ピーちゃんは相変わらずだね」
「えっへん!」
──褒めてるというかなんというか…。
私は黒コッケを収納し、ダンジョンから出る。ギルドに戻るとギルドマスターの部屋に通され、貸出品のマジックバッグから黄色、赤、黒のコッケを一体ずつ取り出す。するとルビオは驚き、大声で私たちに尋ねてきた。
「待て待て!どこのダンジョンに行ってきたんだ!」
「依頼されたダンジョンですけど?」
「じゃあなんで黒がいるんだ?一番奥のダンジョンはB級のはずだ。黄色と赤しか出ないぞ!」
「私もおかしいと思ってました」
「…。時間はあるか?今からダンジョンコアを確認しに行く」
「わかりました」




