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5-5:油揚げ

「アメリ、大丈夫?」

「は、はい!」

「ご飯おいしかった?」

「はい、とても。こんなにおいしい食べ物がここでの日常だと思うと離れ難いです」

「ずっとここにいたいよね」


 食休みを終え、私たちは再び都市に繰り出した。護衛をしながらアメリをとあるお店に案内する。そこは紅茶の茶葉を売っているお店。パーラの収納にはすでに茶葉が無い。


──茶葉があってもマリの世話で練習してる暇なんてなかったんだけどね…。


 お店に入ると、おじいさんが私たちを出迎えた。


「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」

「覚えてるんですか?」

「もちろんですよ、ビーストテイマーさんは珍しいですからね」

「茶葉が欲しいんですけど…」

「前回と同じもので?」

「それが…」


 私は手持ちの茶葉が無くなったことを伝え、どれが良いのかわからないため、パーラとアメリの三人で試飲することに。


「ではいくつかご用意しますので少々お待ちください」


 おじいさんはお店の奥へ消え、私とアメリはお店の中を見て回る。アメリは壁一面に並ぶ茶葉に驚きつつも、興味が隠し切れない様子。私たちが話ながら茶葉を眺めていると試飲の準備が整った。


「こちらへどうぞ」


 カウンターのイスに座ると、私とアメリ、パーラの前にカップが三つずつ用意された。そして、おじいさんは紅茶を注ぎながら一つずつ説明を始める。


「こちらが前回購入されたもの、こちらは最新のもの、こちらは私からのおすすめです」


 私たちはそれぞれを試飲する。


──よくわかんないなぁ…。


 味のわからない私とは対照的に、アメリとパーラは違いがわかるようで三つを飲み比べる。私はパーラの選んだ店主のおすすめ、アメリは最新の茶葉を購入。


「こちらもどうぞ」

「クッキーですか?」

「少々焼きすぎてしまったので無料でお配りしているところです」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

「それから、魔法国の方でなにやら起こっているそうなのでお気をつけください」


 おじいさんの言葉は私やアメリではなく、アメリの頭上にいるピーちゃんに向けて言っているように感じた。


 私たちはお店を後にし、買い物に向かう。向かったのは、肉や魚、野菜、フルーツといった料理の材料になるものが売っている場所。そこで私たちは大量に買い物をし、アメリも気になったフルーツをいくつか買っていた。


「レイアさんはいつもあのようにたくさん購入するのですか?」

「うん、頑張ってるみんなにご飯ぐらいはちゃんと食べさせてあげないとね」

「アクアハーバーでもあのように?」

「いっぱい買ったよ。あ、揚げた魚のパンはギルドマスターからもらったんだ」


 宿屋に戻ると、宿屋の女性が出迎えてくれた。


「おかえり、欲しいものは買えた?」

「はい!」

「夕食はもう少し待ってね」


 部屋に戻り、話をしながら夕食の完成を待つ。そして、夕食が完成したと宿屋の女性が部屋まで呼びに来た。食堂へ行くと、豪華、とまではいかないものの美味しそうな匂いが私たちを襲う。


「今日はパンに合うもので揃えたらしいよ」


 夕食は、パン、茶色いシチュー、たくさんの粒が入ったコーンスープ、赤いスープ。もちろん大量の野菜とフルーツもある。


──このスープ…。


「シチューにはお肉が入ってるけど、他のは野菜だけだから」

「ケリュスはこの二種類ね」

「キー」


 私はみんなのシチューやスープにパンをちぎって浸す。パンが水分を吸って、食べやすく美味しくなる。しかし、その光景を見ていたアメリが苦言を呈す。


「レイアさん、その食べ方は…」

「そうだった…。アメリは普通に食べていいよ」

「…いえ!私も今はレイアさんたちと同じようにいただきます!」


 アメリはパンをちぎってシチューやスープに浸して口に運ぶ。その美味しさはアメリの顔を見れば容易に想像できた。私は赤いスープを口に運ぶ。その味わいは、ガイアのスープによく似ていた。


「パーラ、このスープ…」

「ぱかぱか」

「そうだよね…」

「どうかしましたか?」

「ううん、なんでもない」


 私はみんなのシチューやスープにパンをちぎりつつ、合間に自分の夕食を進める。夕食後は部屋でお風呂に入り、床に就いた。翌朝、私が眠そうに目覚めると、アメリの髪をパーラが梳かしていた。


「おはよぉ…、準備早いねぇ…」

「おはようございます!明日には出発なので、今日もここで食べ…、散策したいと思いまして」

「一人で行っちゃダメだよぉ…」


 私は着替え、パーラに髪を整えてもらってから朝食へ向かう。


「おはよう、ご飯できてるわよ」


 私たちが宿屋の女性の後に続いて食堂に入ると、変わった朝食が用意されていた。ご飯、焼き魚、味噌汁といった福々堂を思わせる朝食。ご飯は白米ではなく、キノコや野菜が入った炊き込みご飯。焼き魚はオレンジ色の身を持ち、味噌汁は野菜がふんだんに入っている。そして、見たことのない白い食べ物。


「この白いのはなんですか?」

「これは『豆腐』ね」

「初めて見ました」

「私も初めてです」

「最近できたものだからね。醤油をかけてから食べてね」


 私とアメリは豆腐を口にする。


「これは…」

「醤油の味しかしないかも…」

「おいしくない?」

「いえ、口当たりはなめらかで素材の味がよく出ているとは思います」

「私はあまり…」

「必ずしも評判がいいわけじゃなくて、好きな人は好きみたい。でも『油揚げ』とか他にも使い方はあるから」

「油揚げってなんですか?」

「昨日食べてたでしょ?甘揚げにぎりの茶色い皮みたいなものよ」

「コン!」

「炊き込みご飯にも入ってるわよ」


 私がご飯をよく確認すると、昨日食べた甘揚げにぎりの皮が、細かくなって入っているのを見つける。それを聞いたタマモは炊き込みご飯を口いっぱいに頬張り、幸せそうに食べていた。


 朝食を食べ進めている時、私は気になったことをアメリに尋ねる。


「アメリって箸使えるんだね」

「小さいころから練習しましたので」

「練習って豆を移動させるっていう?」

「そのような練習はしていませんが…」


──あれ?私のした練習とは違うんだ。


 朝食を終えて部屋に戻る時、私は宿屋の女性に尋ねる。


「油揚げって売ってますか?」

「売ってるけど甘くないわよ」

「え?」

「甘いタレを自分で作って染み込ませるのよ」

「コン!」

「今日も泊まるんでしょ?帰ってくるまでに作り方を書いてもらっておくわ」

「ありがとうございます!」

「昼食と夕食はどうするの?」

「アメリ、どうする?」

「夕食はこちらでお願いします」

「じゃあ用意しておくわね」


 私たちは宿屋を後にして買い物に向かう。タマモのための甘揚げにぎりと油揚げ。アメリはもっと色々なお店を見てみたいとのことだったが、まずは甘揚げにぎりのお店へ。


──昨日のタマモの感じからだと、かなりたくさん買わないとダメかなぁ。


 結果、私は昨日以上の甘揚げにぎりを購入。次は油揚げのお店、ではなく豆腐を売っているお店。豆腐そのものや油揚げ、豆腐と野菜を混ぜて揚げたもの、クッキーなどが数多く並んでいる。ここでは油揚げを多めに買い、揚げ物とクッキーも少しずつ購入した。


「たくさん買いましたね」

「ちょっと買いすぎな気もするけど、タマモも喜んでるみたいだからいいかな」

「次は私の買い物をしてもいいですか?」

「なに買うの?」


 アメリはピーちゃんを頭に乗せ、笑顔で私の隣を歩く。アメリが気になっていたのはお菓子の並ぶ通り。その中でもケーキやタルトに興味がある様子。


「アメリはケーキが好きなの?」

「はい!」

「普段は食べないの?」

「お茶の時間にいただくこともありますが、ここまでおいしそうな見た目ではありません」


──お姫様でもこういうケーキじゃないんだ。


 アメリはケーキをホールでたくさん購入し、パーラに収納させる。


「パーラに収納させていいの?」

「これは道中の食事に対してのお礼です。このあともよろしくお願いいたします」

「ピー!」


 その後、私たちは昼食を購入して宿屋に戻った。


「おかえり、また買ってきたの?」

「はい!」

「食堂使ってもいいわよ」


 私たちが食堂で昼食を取っていると、宿屋の女性が昨日に引き続き、ジュースと油揚げを甘くするレシピを持ってきた。


「今日もバランス悪いわね」


──バランス…、難しい…。


 昼食後は部屋に戻り、食休みを兼ねた話し合い。明日にはここを出発するため、買い忘れたものがないかを改めて確認する。


「アメリは買い忘れない?」

「元々の買い物予定は保存食だけでしたので」

「買いに行く?」

「レイアさんたちと同じ食事をいただいているので、むしろ保存食が余ってしまって…」

「マジックバッグならそのままでもいいんじゃない?」

「なにかあった時のために取っておきます」


 その後、私たちは再びマーゲンに繰り出し、ギルドでテイルに出発のことを伝えてから宿屋に戻る。そして夕食。豪華な夕食が用意されていた。パンと野菜がたくさん入ったスープ。肉入りと肉無しのキッシュが大きなお皿でそれぞれ二つずつと、いつものように大量の野菜とフルーツ。


「食後にケーキもあるからね」

「はい!」


 私より先にケーキに反応したのはアメリ。大きな声で返事をした。食後のケーキはイチゴのケーキ。しかし普通のイチゴケーキではない。白いはずのクリームはピンクに染まり、ケーキの上部はイチゴで埋め尽くされている。そのケーキを見たアメリの顔は、驚きに溢れていた。そして切り分けられたケーキを口に運んだアメリの表情は、とびきりの笑顔で顔がとろけているようにも見えた。


「…アメリ、おいしい?」

「はい!とても!」

「よ、よかったね…」


 夕食後、私たちは部屋に戻り、ピーちゃんがお風呂を沸かす。


「マーゲンはどうだった?」

「ここは恐ろしいところです。たまに来るのはいいとは思います。でもここには住めません」

「また来たいね」


 翌朝、私たちは準備を整え、最後の朝食に向かう。


「おはよう、準備できてるわよ」

「おはようございます!」

「おはようございます」

「質素な朝食だけど我慢してね」


 「朝食は質素」と宿屋の女性は毎回言うものの、一口食べればその美味しさに感動する。


──パーラのご飯もこれに負けないぐらいおいしいと思うけどね。


 朝食後、私たちは部屋に戻り、出発前最後の確認を始めた。


「忘れ物はない?」

「はい」

「じゃあ行こっか」


 私たちは部屋を出て、宿屋の受付に向かう。


「お世話になりました」

「また来てね」


 私とアメリはお金を支払い、宿屋を後にする。そのまま北門からマーゲンを出発し、魔法国へ。外ではしっかりと陣形を組み、人がいないところでタマモは人の姿になった。


 満腹都市マーゲンを出発してから一週間、私たちは食彩国と魔法国の関所を抜けた。関所を抜ける際も関所の人からダンジョンの話があった。関所を抜けてから四日。明日には魔導都市アルカディアに到着するため、今日が最後の野宿。


「今日が最後の野宿になるかな」

「…」

「アメリ?」

「もうお別れなのですね…」

「護衛依頼だったけど楽しかった」

「私も楽しかったです!」


 最後の夕食はいつも通りで、アメリが買い込んだケーキも今日の食後で終わりとなった。夕食後はピーちゃんにお風呂を沸かしてもらい、私とタマモ、アメリの三人でお風呂に入る。そして就寝時、アメリの要望で私とタマモ、アメリの三人は、同じベッドで床に就いた。


 翌朝、朝食を取り、最後の護衛を務める。そして昼食。魔導都市アルカディアは目の前。昼食を取らずに都市の中に入ることもできたが、アメリの要望に答え、これがアメリとの最後の食事となる。


──そういえば、ここに来るまでにダンジョンみたいな洞穴がいくつかあったけど、全部攻略済みの立札があったなぁ。


 私たちはアルカディアに入り、そのまま魔法学園へ。


「ここがアルカディア…」

「きれいだよね」

「あれは文字が浮いているのですか?壁の代わりに防御膜というのも驚きましたが…」

「うん。あ、学園はこっちね」


 アルカディアの中央まで行き、そこから北西にある学園専用の門を目指す。中央近くまで来るとアメリが私に尋ねる。


「レイアさん、あれはなんですか?」

「緋炎の祭壇だよ」

「青い炎が灯っていますが…」

「私たちも詳しいことはよくわからないんだよね」


 アメリは緋炎の祭壇に灯る青い炎を訝し気に眺めながら、私たちは北西に向かう。北西にある学園専用の門まで来ると、アメリは鞄から書類を取り出して門番に見せる。アメリだけではなく私たちも一緒に門を抜け、学園までの専用通路を歩いている時、私はアメリに尋ねた。


「なんの書類?」

「入学証と護衛依頼の書類です」


──護衛依頼ってどうすれば終わりなんだっけ?


 私たちは専用通路を進み、学園の大きな門の前までやってきた。ここでもアメリが門番に書類を見せると大きな門が開く。私たちはここまでかと思っていると、門が開いた先には見覚えのある小さなエルフが立っていた。


「よく来たの」

「学園の生徒さんですか?」

「アメリ、この人が学園長だよ」

「え?も、申し訳ございません!」

「小さいからの、間違えられるのは慣れておる。アメリ姫で間違いないかの?」

「はい!」

「レイアも一緒に来るがいい」

「わかりました」


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