1-5:帰還
翌朝、深夜のうちにピーちゃんと見張りを交代し、私は二人が起きるのを待っていた。眠っていた時間は短かったが、不思議と疲れは感じなかった。ぐっすり眠ったかのように体が軽い。やがて、隣で丸まっていたピーちゃんとタマモの目が覚める。
「二人とも、おはよう」
「おはよぉ…」
「おはようございます」
二人と挨拶を交わし、私たちは保存食で朝食を済ませる。メイカルトへ向けて出発するにあたり、私はタマモを抱き上げようとした。
「タマモはまだ本調子じゃないし抱っこしていくよ?」
「体が軽いので歩きます」
「ダメそうならいつでも言ってね」
タマモは少し不安そうな表情を浮かべたものの、自分の足で歩くことを選択した。私は無理強いはせずタマモを歩かせ、ピーちゃんはいつも通り特等席に鎮座する。
道中、何体かのモンスターが出現するものの、ピーちゃんが口から放つ炎で瞬く間に灰にしていく。その圧倒的な強さを間近で見たタマモは目を丸くしていた。小さな体から放たれる炎の威力に、信じられないというような顔をしている。
森から二日、ようやくメイカルトに戻ってきた。門のところには見慣れた門番のディアンが立っている。
「お、レイアじゃねえか。遠出はどうだったよ?」
「実は森の入り口まで行ったらちょっと色々あって…」
「まあ冒険者をしてりゃあ色々あるだろうからなぁ。それより足元のそいつは新しい仲間か?」
「あ、この子はタマモと言います。仲間になりました!」
「なるほどな。さすがビーストテイマーってところだな。使役モンスターが増えたならちゃんとギルドに報告した方がいいぞ。なにかあってからじゃ遅いからな」
「はい!このままギルドへ向かうつもりです!」
私はディアンにお礼を言い、門をくぐる。防壁の内側に入った途端、私は自分の体からふっと力が抜けていくのを感じる。しかし、足元にいたタマモは都市に入った途端に様子が変わった。森の外に出たことのないタマモにとって、全てが初めて見るものばかり。高く大きな建物、響き渡る喧噪、せわしなく行き交う人々の波。その全てが小さな体には圧倒的に見えるのだろう。タマモは不安そうにあたりを見回し、次の瞬間には小さな前足で私の足にぎゅっとしがみついてきた。震えるような小さな体から、初めての環境に対する戸惑いと恐怖が伝わってくる。
「大丈夫だよ、怖くないよ」
私はタマモを腕の中に抱きかかえる。タマモは私の胸元に顔をうずめ、安心したようにぴたりと寄り添っていた。しかし恐怖心が和らぐにつれて、不安より好奇心が勝ってきたようだった。私の腕の中でぴたりと体を寄せたまま、時折小さな顔を上げては、金色の瞳でキョロキョロと辺りを見回していた。新しい仲間であるタマモを腕に抱き、頭にピーちゃんを乗せながらギルドに向かう。
ギルドの扉を開けるとあやかが受付にいるのが見える。あやかも私に気づいたようでこちらへ向かってくる。
「あやかさん、戻りました」
「レイアさん、お帰りなさい。ご無事なようで安心いたしました。…それで、そちらのモンスターはどうされたのですか?」
「この子は新しい仲間のタマモです。森から狼のようなモンスターに追われて平原に飛び出してきたところを助けたら仲間になりました。使役モンスターとして登録したいと思います!」
「レイアさんは森にある川を越えられたのですか…?」
「越えてません!タマモが言うには、その狼が川を越えてきたみたいなんです」
「レイアさんのおっしゃる狼はおそらくグレイウルフでしょう。主に川の向こう側の森に生息しており、川を越えてこちら側に来ることは滅多にないのですが…」
「あやかさん、タマモはなんていうモンスターなんですか?」
私がタマモについて尋ねるとあやかが答える。森に生息する「麦狐」の仲間で、タマモは「藤狐」という種類になる。麦狐と藤狐以外にも「朱狐」と「蒼狐」という仲間が存在するという。藤狐はその四種の中でも希少性が高いらしい。
「四種類の狐はD級に分類されています。グレイウルフはC級ですので、力関係ではグレイウルフの方が上になります」
──タマモは希少なのかぁ。特殊個体じゃないけど希少なら強いのかなぁ。
「今日はお疲れでしょう。タマモさんを登録いたしますので、それが終わり次第帰ってお休みください。また明日の朝、ギルドまで来ていただけますか?」
「はい、わかりました!」
私はギルドカードをあやかに渡し、タマモの登録をしてもらった。そしてあやかからカードを受け取り、ギルドを後にした。そのまま拠点にしている宿屋に帰り、おかみさんに声をかける。
「おかみさん、戻りました!」
「おや、レイアちゃん。無事に戻ったかい!」
おかみさんは私の無事を喜んでくれたが、腕の中にいるタマモを見て目を丸くした。
「この子が新しく仲間になったタマモです。これからこの子も一緒にお世話になります!」
「そりゃあ賑やかになるね!それじゃあその子にもベッドを用意してあげようかね」
「ありがとうございます!」
翌朝、私の目が覚めると、床に小さなベッドが二つ仲良く並び、それぞれにピーちゃんとタマモが丸くなっている。寝ぼけ眼でそれを見た私は、今日から三人で冒険することを改めて実感し、口元が緩んだ。私がゆっくりとベッドから足を床に降ろすと、二人はもぞもぞと起き始めた。
「あ…、起こしちゃった…?ごめんね」
「おはよぉ…」
「おはようございます」
──相変わらずピーちゃんは眠そうだなぁ。それに比べてタマモは朝に強いのかな?
「タマモはよく眠れた…?」
「はい」
「ぼくもよく眠れたよぉ…」
私はタマモの言葉を聞いて安心し、二人に近寄り、頭を撫でる。まだ眠そうなピーちゃんを頭に乗せて、私たちは三人で朝食に向かった。
「みんな、おはよう!」
「おかみさん、おはようございます!」
「ピー!」
「コン!」
「タマモちゃんにもパンを用意してあるからね」
タマモは金色の瞳を輝かせながら焼きたてのパンを頬張り、ピーちゃんはいつも通りちまちまとついばむ。私はそんな二人を見ながら朝食を取る。朝食後、あやかとの約束通りギルドに向かう。ギルドの扉を開けると、受付にいたあやかが私を見つけるなり声をかけてきた。
「レイアさん、おはようございます。ギルドマスターがお呼びです」
「え!?」
かなり緊張しつつ、あやかに案内されてギルドマスターの部屋へ向かう。扉を開けて部屋に入ると、威厳のある顔立ちで、貫禄のある雰囲気を醸し出す老練の男性が座っていた。
「お前がビーストテイマーのレイアか。俺はギルドマスターの『ボガート』だ。確かに珍しいのを連れてるな。藤狐も珍しいが頭の鳥は見たことがないな。まあ太ったファーストバードと言われればその通りだがな」
ギルドマスターのボガートは、頭上のピーちゃんと腕の中のタマモを見ながらそう言った。
「あの、私になにか用ですか?」
「ああ、そうだったな。話はあやかさんから聞いた。グレイウルフが川を越えたという話が本当なら、川の向こうでなにかがあったに違いない。念のため調査をする予定だ」
「私もその調査に参加しろってことですか?」
「F級じゃランクが低すぎる。まずはランクを上げろ。呼んだのはレイアが情報源だからだ。これからなにをするのか知らせておくのが筋だろう。それにビーストテイマーなんて滅多に会えんし、藤狐も希少だからな!」
──タマモを見たかっただけっぽいなぁ。ビーストテイマー自体が珍しい職業みたいだし仕方ないかぁ。でもギルドマスター程の人でもピーちゃんを知らないなんて、ファーストバードの特殊個体って全然いないんだなぁ。それにしてもランクが低すぎるかぁ…。確かにまだF級だし、冒険者としては高ランクを目指すべきだよね!
ボガートとの話が終わり、私たちは部屋を後にする。ランクを上げるため、そしてタマモの実力を確かめるために依頼掲示板へと向かった。




