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5-3:手紙

 私たちはアメリの部屋で紅茶を飲んでいる。紅茶とお菓子だけではなくフルーツも用意してもらった。


「レイアさん、先ほどは申し訳ありませんでした」

「大丈夫だよ」


 模擬戦の結果は言うまでもない。支援魔法をかけたパーラが、木人と自分たちを覆うだけの三重の小さな防御膜を展開し、守備隊は一つも壊すことなく終わった。


「守備隊って弱いのね」

「パーラが強い!」


 そんな会話を二人はしていたらしい。そして二人とは対照的に、その場にいた守備隊は落胆していた。一切攻撃されない中で防御膜を破壊することができなかったのだ。カペルは「さらに精進いたします」と言う言葉を残していた。


「アメリも準備が大変みたいだね」

「はい…」

「荷物はどうするの?」

「マジックバッグがあるのでそのあたりは問題ありません」


 私はお菓子を食べ、紅茶を口に含む。


──お菓子の甘みが強いから、紅茶になにも入れなくてもおいしく感じるなぁ。


「アメリ」

「…」

「アメリ?」

「は、はい!」

「どうしたの?」

「その…、ケリュスさんとリオンさんに触ってもいいでしょうか?」

「触りたいんだって」

「キー」

「キュイ」

「触ってもいいって」

「ありがとうございます!」


 アメリは二人を満足いくまで触る。アメリのお気に入りはリオンの肉球。自分の手のひらを肉球を重ね合わせ、その大きさに驚き、無邪気に笑う。気がつけば、ピーちゃんとタマモも撫でてほしそうにアメリのそばで待機し始めていた。


「アメリ、ピーちゃんとタマモも撫でてほしいみたいだよ」

「はい!」


 アメリが二人を十分に撫でてからイスに戻ったところで、タマモについて話をする。


「アメリには話しておこうと思うんだけど」

「なんでしょうか?」

「秘密にしてほしいんだけど、いい?」

「わかりました」

「みんなはここで食べてて。タマモは一緒に行こう」

「コン」


 私、タマモ、アメリの三人は、念のためアメリの寝室に移動。


「こちらに移動する必要があるのですか?」

「念のためにね。タマモ、お願い」

「コン」


 タマモはそう言うと人の姿になった。そして例に漏れず、アメリは声も出ないほどに驚き、タマモの頭から足元まで何度も視線を動かす。


「…」

「アメリ、大丈夫?」

「大丈夫ではありません…。なにが起こっているのか…。このような魔法があるのですか?」

「あるみたいだけど、タマモ以外は知らないんだよね」

「それにしても、あの小さなタマモさんがこんなにも美しくなられるとは…」

「あ、ありがとうございます…」

「言葉が話せるのですか!?」


──うんうん、こういう反応になるよね。


 アメリとタマモは少しだけ会話をして、タマモは藤狐に戻った。私たちがみんなのところに戻ると、テーブルの上にあったお菓子は全て無くなり、フルーツの山も消えていた。


「食べちゃったの?」

「ピー!」

「キュイ!」

「まだ必要であれば…」

「ピー!」

「キュイ!」

「ダメ!食べ過ぎ!」

「レ、レイアさんも怒るのですね」


 日が傾くまでタマモの話や冒険の話、マリの話をして過ごした。


「レイアさん、また出発の日にお会いいたしましょう」

「うん!」


 私たちはお城を後にした。


「楽しかったね」

「うん!」

「アメリさんも驚いていましたね」

「アメリ殿もお元気そうで」

「私は疲れたわよ」

「われらの代表としてよく頑張った」

「リオンも戦いたかったなー」


 私たちは門が閉じる前にアクアハーバーに入った。出発の前日、最後の氷作りに行く。


「そうか、今日で最後か…」

「お世話になりました」

「世話になったのはこっちだ。また来てくれよ!」

「また来ます!」


 悲しそうなブルから書類を受け取り、ギルドに向かう。氷作りの報告に行くとキュラスが呼んでいるとのことで、私たちはギルドマスターの部屋へ。部屋に入るとキュラス以外にカペルがいた。


「来たか、座ってくれ」

「はい」

「レイアに報酬を渡しておく」

「なんの報酬ですか?」

「護衛依頼の報酬だ」

「先にもらえるんですか?」

「今回は特別だ。それから、お城で問題を起こしたそうだな」

「レイア様はなにもしておりません。私を始め、守備隊が弱かったのです」

「そう言っていただけるなら結構。さて、レイアへの報酬だがこれだ」


 キュラスは机の下からお金の詰まった袋を十個取り出す。


「…え?」

「それとこれが食費だ」


 そう言って、さらに二つの袋を取り出した。


「…」

「どういたしましたか?」

「…多すぎませんか?」

「レイア、これは…」

「私が説明いたしましょう」


 カペルはキュラスの言葉を遮り、説明を始めた。先日の模擬戦を見た王様と王妃様が報酬の上乗せをしたとのこと。


「あれだけの防御膜は見たことがない」

「ええ、あれなら必ずアメリを守ってくれることでしょう」


 そして報酬が上乗せされ、この金額になったらしい。


「レイア、報酬が上乗せされたと言うことはそれだけ期待されているということだ」

「は、はい…」

「期待だけではない。責任も重くなったことを忘れるな」

「はい!」

「それからレイアに手紙だ。鬼福の里のギルドマスターから私宛に届いた」


──ふうかさんが?


 パーラは報酬を収納し、私たちは家に戻る。家に戻るとパーラとタマモは道中の食事を作り始め、私は手紙を読む。手紙はふうかからではなくあやかからだった。




レイアさんへ


お久しぶりです。

手紙でのやり取りもすっかりなくなってしまいましたね。

私はたいちと一緒に族長の家でお世話になっています。

時には里へ顔を出し、ふうかの様子や里の中を見て回っています。


ボガートさんからふうか経由で、護衛依頼の話を聞きました。

初めての護衛依頼が王族というのは、私の知る限り、レイアさんが初めてになるかもしれません。

しかし、魔法学園までの道のりは険しいわけではありません。

レイアさんのお仲間以上のモンスターが出てくることはあり得ません。

ですが慢心せず、細心の注意で臨んでください。


護衛期間は一か月と聞いています。

初めての護衛でそれだけの期間、常に気を張り続けるのは大変です。

幸い、レイアさんにはたくさんのお仲間がいますのでみなさんを頼ってください。

なにか心配事があれば、必ずみなさんに共有してください。


レイアさんはご自身のことを弱いと思っているかもしれません。

少なくとも、私はレイアさんが弱いとは思っていません。

強くなければ上級冒険者にはなれません。

レイアさんはお強いので、自信を持ってください。


最後に、この手紙を読み終え、時間があれば私に手紙を送ってください。

ふうか宛に送っていただければ私に届きます。

次にお会いした時、護衛依頼の話をお願いします。


あやか


追伸 福々堂のみなさんがレイアさんのことをお待ちです。




「レイア、大丈夫?」

「うん…」


 手紙を読み終わった私の目から涙が零れているのを見て、ピーちゃんが私を心配する。


──ギルドマスターにもお礼言わなきゃ…。


「パーラ、少しお金もらっていい?」

「いいわよ」


 私はピーちゃんとハドックを引き連れてギルドに行き、受付にいるアネモネに声をかけた。


「あれ?どうし…、レイア、泣いた?」

「少しだけ…」

「大丈夫?」

「大丈夫です。あの、レターセットを二つください」


 私はあやかとボガートに手紙を出して家に戻る。夕食後、ハドックが手紙について尋ねる。


「レイア様、先ほどの手紙は?」

「あやかさんから」

「あやか殿はなんと?」

「護衛依頼についてと、『私は強い』って書いてあった」

「レイアは強い!」

「ママは強い!」

「強いのかな?」

「レイア様には支援魔法がございます。レイア様ができないことはわたくしたちが、わたくしたちにできないことはレイア様が分担すればよいのです」


 翌朝、私はいつものように眠そうに起きる。私とタマモは着替え、その間にパーラが朝食の準備を始めた。朝食はパン、スープ、サラダ、リンゴといった食べ慣れたもの。朝食後は家の鍵を閉め、管理小屋に向かう。


「忘れ物ないよね?」

「ないわよ」


 管理小屋で鍵を返すと、男性は丁寧にお辞儀をした。


「またお待ちしております」

「また来たらお世話になります!」


 私たちは東門に向かう。東門に到着すると、そこにはキュラスが大きな紙袋を二つ抱えて待っていた。


「時間より少し早いが遅れるよりはいい」

「ギルドマスター、どうしたんですか?」

「これを渡そうと思ってな」

「これは…」


 それは、以前ももらった揚げた魚の詰まったパンだった。


「こんな量だとすぐになくなると思うが」

「こんなにいいんですか?」

「初めての護衛依頼だからな。私にできるのはこれぐらいだ」

「ありがとうございます!」


 大量のパンをパーラに収納してもらい、東門を抜け、お城へ。お城の門はすでに開き、私たちを待っていた。


──あれ?遅れちゃったかなぁ?


 私たちが進むと、守備隊の一人がこちらに走ってきた。やってきたのは守備隊長のカペル。


「レイア様、おはようございます」

「カペルさん、おはようございます。遅れましたか?」

「いえ、少し早いほどですが、姫様がさらに早くてですね…」


 カペルと一緒に門まで向かうと、そこには初めて会った時と同じように青いローブをまとい、マジックバッグを背負ったアメリの姿があった。アメリの左右には王様と王妃様が立っている。


「レイアさん、おはようございます」

「おはようございます!」

「アメリをよろしくお願いいたします」

「はい!」

「レイアさん、約一か月、お世話になります」


 私たちはアメリを連れてお城を出発。ここから魔法学園まで約一か月。途中、食彩国バンダースに入り、満腹都市マーゲンに立ち寄る。そしてそのまま北上し、目的地である魔導都市アルカディアを目指す。


 私たちの陣形はアメリを中心に、先頭はケリュスとリオン。アメリの左に私、右にタマモ、後ろにはハドック。ピーちゃんは、私やアメリの頭の上、ハドックの肩を基本とし、時折周囲を飛び回って警戒に当たる。


「タマモさんはこのままなのですか?」

「もう少し離れたらね」


 お城の見送りが見えなくなり、周囲に人もいないため、タマモは人の姿になる。


「…」

「大丈夫?」

「やはり不思議です…。タマモさんはいつまでこの姿なのですか?」

「国境を超える時と都市の中では小さくなってもらうけど、それ以外はそのままかな」

「ではタマモさんともお話しながら学園まで行けるのですね!」

「私たちはアメリを護衛しなくちゃいけないんだけど…」

「そうですね…。申し訳ございません…」

「アメリは私たちと話したかったの?」

「はい…。お友達のレイアさんとお話しながら行ければと…」

「じゃあ、ご飯とか休憩する時にたくさん話そう」

「はい!」


 お城を出発してから、私たちは北東に進む。アクアハーバーの東門から伸びる道はお城との分かれ道になっており、お城ではない方の道はそのまま食彩国との関所へ続いている。しかし、この道を歩く人は極端に少なく、私たち以外の人影が見えない。


「誰もいないね」

「この道はあまり使用されませんので」

「なんで?」

「食彩国からアクアハーバーに来る人は稀です。大きな港というだけで、メイカルトのように様々なものがあるわけではありませんので」

「いいところだと思うけど」

「レイアさんにそう言っていただけるだけで嬉しい限りです」


 私たちは歩き続け、最初の昼食のために街道から少し外れた。パーラに布を取り出してもらって地面に敷き、アメリに座るように促す。


「ここに座って」

「ありがとうございます」

「アメリは自分でご飯を用意してるって聞いてるけど?」

「はい、これです」

「…え?」


 アメリは衝撃的な物を取り出した。それは保存食の数々。クラッカー、干し肉、マーゲンで売っていた保存バー、ドライフルーツ。


「冒険者の方が食べているものと同じものにした方がよいとお父様が仰っていたので」

「王様って私たちのことは知らない?」

「上級冒険者になったことは知っていたと思いますが、レイアさんの強さを知っていればあのような模擬戦はしなかったと思います」

「そう言われればそうかも」

「ぱかぱか!」

「私もそう思ってた」

「パーラさんはなんと?」

「『お姫様にそんなものはダメだから、私たちと同じものを食べなさい!』て言ってる」

「よろしいのですか?」

「ぱかぱか」

「一人ぐらいなら誤差だって」

「では…、こちらでお願いいたします!」


 アメリが取り出したのはアメリの髪の色と同じ、アイボリーに染まったお皿。それは一年ほど前、私たちが別れる前にアメリにプレゼントしたものだった。取り出したお皿にはピーちゃんの羽根が入っていた。


「ピー!」

「あ!」

「羽根はしまっておいてね」

「はい!」


 私はアメリからお皿を受け取ってパーラのそばに置く。昼食はキュラスからもらったパン、スープ、リンゴ。昼食中、アメリは自分の食事よりもみんなの食欲に唖然としている様子。


「…」

「食べないの?」

「相変わらずみなさんの食欲はすごいですね…。タマモさんも小さいながらによく食べると思っていましたが、人の姿ではさらに食べるのですね」

「パーラさんの料理はおいしいので…」

「レイアさんには報酬とは別に、護衛中の食事費用を支払うと聞きましたが、足りるのでしょうか?」

「足りると思うよ。出発前にもたくさん買ってパーラが収納してるし、マーゲンで買い足さなくても大丈夫だと思う」

「安心いたしました」


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