5-2:試験
私たちは市場へ向かう。ピーちゃんとタマモは新鮮な魚に興味を示し、リオンも市場の活気にそわそわしている。市場を歩いていると、ノエルの使用している武器のように細長い包丁を使い、巨大な魚を解体しているところに出くわす。
「大きいね」
「おいしそう!」
「ハドックさんぐらいありそうです」
「わたくしより大きいように見えます」
「あれ欲しいわね」
「魚は食えん」
「リオンは食べたい!」
私たちが巨大な魚について話していると、一人の男性が後ろから声をかけてきた。
「お、嬢ちゃんじゃねえか?」
「ブルさん、お久しぶりです!」
「仲間が増えたみたいだな」
「はい!」
「よく食うのか?」
「こっちは草食で魚はダメなんですけど、こっちはなんでも食べられます」
「草食か、海藻はどうだ?」
「海藻?」
「ちょっと待ってろ」
魚の解体を見ながら待っていると、ブルが二つの箱を抱えて戻ってきた。一つの箱には濡れている海藻。もう一つは乾燥している海藻が入っていた。
「こっちが『ワカメ』で、こっちの乾燥してるのが『コンブ』だ」
「どうやって食べるんですか?」
「これはな…」
ブルは二つの海藻を私に渡し、使い方を教える。話を一番熱心に聞いていたのはパーラ。ブルが去った後、パーラはそれを試すべく、急いで帰るように私を急かす。
「レイア!帰るわよ!」
「まだなにも買ってないし、魚の解体見たいんだけど…」
「解体なんてどうでもいいわよ!さっさと買い物して帰るのよ!」
「はい…」
私たちは市場で買い物をして帰路に就いた。家に帰るとパーラは開いている鍋を二つと土鍋、ブルからもらった箱を取り出し、早速料理を始める。私とタマモはそれを手伝い、他のみんなはそれぞれの場所で休む。
「レイアはこれを切って。タマモはお米ね」
「なに作るの?」
「ケリュスが食べられそうなものよ」
その言葉にケリュスは反応し、キッチンの近くに場所を移す。
「ケリュス、すぐには完成しないと思うよ」
「うむ、パーラはこだわるからな」
「おいしい方がいいでしょ?それとも生野菜とフルーツだけでいいわけ?」
「食べられるものは多い方がよいが…」
「そうよね、じゃあ待ってなさい」
「うむ…」
日が落ち始めた頃、パーラの料理が完成。パーラが作った料理は野菜とキノコとワカメの雑炊。ブルから教えてもらったのはコンブから旨味を抽出する方法で、コンブから旨味を抽出し、それを元にして作った雑炊だった。
「ケリュスのには入ってないけど、レイアたちのは魚が入ってるからもっとおいしいわよ」
「それはいいんだけど、ご飯炊きすぎじゃない?」
「買った分はもうありません」
「鍋二つ分だから仕方ないでしょ」
夕食はパーラの新作とリンゴ。雑炊を口に運ぶと、その美味しさに私は驚く。優しい海の旨味が体を駆け巡り、お米は噛む必要がないほどに柔らかい。海藻、キノコ、野菜、魚の味は申し分なく、様々な食感が食事を楽しませる。
──おいしい!熱いけどちゃんと海の味がする。
私はみんなの顔を見渡す。驚いているのは私だけではなく、タマモとケリュスも驚いている。ピーちゃんとリオンは無言でひたすら食べ進めていた。
「パーラ、これおいしいよ」
「ふふん」
翌朝も雑炊を食べ、私たちは水産ギルドへ。ブルへのお礼と氷作りのためだ。倉庫の前に行くとブルが待っていた。
「お、来てくれたか!」
「ブルさん、おはようございます!昨日はありがとうございました!」
「気にしなくていいぞ。今回はどれくらいここにいるんだ?」
「二週間です、その間はなるべく来ます」
「そうか!じゃあ早速いいか?」
私たちは寒い倉庫の中に入る。倉庫は広くないため、ハドック、ケリュス、リオンは外で待機。そしてタマモが氷塊を作り、ピーちゃんがそれを細かくしていく。
「さすがだな!」
ブルは感心しながら私に書類を渡す。書類を受け取り、外の三人と合流して、ギルドに向かった。
「タマモ、魔力はどれくらい残ってる?」
「ほとんど減っていません」
「え?」
気になった私がタマモに触れると、ブレスレットの珠が九つ光る。
──覚醒して魔力も増えたのかな?ピーちゃんも支援魔法なしできれいに細かくしてたような…。成長してるのかなぁ?
私たちはギルドに入り、受付にいるアネモネの元に向かう。
「アネモネさん、これお願いします」
「はーい、ってまた氷作ってるの?」
「はい」
「まあいいわ、ちょっと待ってて」
アネモネから報酬を受け取り、ギルドを後にする。氷を作り報酬を受け取るという生活を数日繰り返すと、お城へ行く日がやってきた。
お城へ行く前日。いつものように氷を作ってからギルドに向かうと、キュラスが呼んでいるとアネモネから言われた。
「あ、ギルドマスターが呼んでるから奥まで行って」
「わかりました」
私はキュラスと話をする。
「レイアか。城に行く日だが、明日でも大丈夫か?」
「大丈夫です」
「急で悪い。姫様が出発前で忙しいそうだ」
──アメリも大変なんだなぁ。
そして今日、私たちはお城へ向かう。東門を出て、そのままお城のある道を進む。それほど長くない道のりを歩いているとケリュスが口を開く。
「レイアよ、元の大きさに戻ってもよいか?」
「お城でまた小さくなるかもしれないけど、いい?」
「構わん」
ケリュスは元の大きさに戻り、歩みを再開。お城の大きな門が近づいてきた時、門から数人の守備隊がびくつきながら私たちの元に駆け寄ってきた。
「レイア様」
「大丈夫だと思うけど」
守備隊が私たちの前まで来ると、私に尋ねる。
「ビーストテイマーのレイア様で間違いございませんか?」
「はい」
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
私たちは守備隊の後に続いて門を抜け、お城の階段を上がっていく。階段の先には、以前もお城の中を案内してくれた燕尾服を身にまとった男性が立っていた。
「お待ちしておりました」
「あとはよろしくお願いします」
守備隊と燕尾服の男性の短い会話が終わり、お城の中へと入る。案内されたのは前回も案内された大きな部屋。部屋の奥は床が数段高くなっており、二つの大きなイスが備え付けられている。ケリュスとリオンはふかふかで真っ赤な絨毯に驚きながらゆっくりと前に進む。
前回は部屋の左右に守備隊がずらりと並んでいたが、今回はまばら。部屋の奥の大きなイスには王様と王妃様。そして王妃様の隣にはアメリが立っている。案内が終わり、燕尾服の男性がはけると王様が口を開いた。
「レイアさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「急で申し訳ありません」
「大丈夫です、出発までアクアハーバーにいますので」
「お父様、例の件を先に」
「そうだな」
王様がそう言うと、守備隊の一人が私たちの前までやってくる。軽装な鎧を身にまとい、腰には青い飾り布を付けていた。
「私は守備隊長の『カペル』と申します」
「レイアです」
「実はレイア様に少々お願いしたいことがございます」
カペルは私たちの実力を知りたいという。大切な姫の護衛としてふさわしいのか否かを確かめた上で、私たちに護衛を任せるのかを決める。
──やっぱり信用されてない?
カペルの説明が終わると、王妃様が口を開いた。
「レイアさんを試すような真似をして申し訳ないと思っています。しかし、これもアメリのためなのです」
「わかりました」
私たちはカペルに案内され、お城の裏手にある大きな訓練場に向かう。訓練場は大きな広場になっており、周囲には守備隊の人が使うであろう建物がいくつも建っている。私たちは広場へ。王様と王妃様、アメリの三人は離れた場所から見学。アメリたちが見学場所に行くと、カペルは木でできた人形のようなものを持ってこちらにやってきた。
「これはなんですか?」
「これは練習で使用する『木人』です。これを姫様に見立て、一切傷つけることなく護衛していただきたい」
「私たち全員でですか?」
「はい」
「誰が襲ってくるんですか?」
「守備隊が全力で攻撃いたします」
「こっちから攻撃してもいいんですか?」
「構いません」
「ちょ、ちょっとだけ待ってもらえますか!?」
「かしこまりました」
私たちがカペルから離れると、烈火の如く怒っているハドックとケリュスが口を開いた。
「レイア様、大変申し訳ございませんがこの依頼は断りましょう」
「ハドックの言いたいこともわかるけど、アメリのために私たちの戦力を知りたいのもわかるというか…」
「レイアよ、われらが弱いと言われているのだぞ?」
「わかってるけど…」
「ぼくたちは強い!」
「リオンも強い?」
「リオンさんはまだまだ強くなると思いますよ」
「えへへ」
「あの…」
「レイア、私にいい考えがあるんだけど」
私たちは話し合いを終え、カペルの元に戻る。
「ご相談は終わりましたか?」
「はい」
「では陣を組んでください」
「あの、少しだけ待ってもらえますか?」
「どうぞ」
私は杖を立て、パーラに特大の支援魔法をかけた。
「スカーレットコール!」
支援魔法の発動に合わせて、杖の先端に付いている緋色の宝石が輝き始める。その輝きはだんだんと大きくなり、全ての輝きがパーラに流れ、そのまま包み込むと弾けて消えた。
支援魔法をかけた後、ブレスレットを見ると六つの珠が光っていた。私がパーラを木人に背負われるように引っ掛けると、ピーちゃんも残ると言う。
「ぼくも守る!」
「私だけで十分だと思うけど、なにかあったらよろしくね」
「うん!」
「それからレイア、魔力使い過ぎじゃない?」
「久しぶりだったからつい…」
「倒れないでよね」
ピーちゃんは木人の頭に乗り、パーラは木人に背負われる。私たちは二人を残し、広場の端に移動。すると、カペルが慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「お待ちください!陣は…」
「護衛はあの二人に任せました」
「…は?」
困惑しているカペルを前に、私は見学している三人に聞こえる声量で言った。
「あの二人で守り切れなかったら私たちはこの依頼を受けません!私は、私の仲間を信じてます!」




