5-1:護衛依頼
私が村に戻ってきてから三か月。今日もリータがやってきたが、模擬戦ではなく私への依頼を持ってきていた。
「リータさん、こんにちは。模擬戦ですか?」
「今日は違う。レイアに依頼」
「依頼って私にですか?」
「これ」
リータから渡された手紙を読む。その手紙には、アメリを魔法学園まで護衛してほしいという内容が書かれていた。
──アメリは学園に行くんだ。
しかし冒険者を指名していることが気になり、私はリータに尋ねた。
「リータさん、依頼って指名があるんですか?」
「ギルドマスターから指名されることはある」
「この依頼って…」
「レイアがダメなら私と他の冒険者でやる」
「やります!」
「じゃあ十日後、メイカルトで待ってる」
リータはそう言い残し、模擬戦はせずに帰っていった。依頼は約一ヶ月後。その日の夜、私はミゼルとハンナに依頼の話をする。
「指名なら仕方ない」
「レイアたちには感謝してるわ。三か月もここにいてくれて」
「元々そのつもりだったから」
「いつ出発する予定なんだ?」
「一週間後には出発しようと思ってる」
「ならその間は自分たちの準備をするんだ。護衛依頼はやったことあるのか?」
「ないです…」
夕食後、私はみんなと話をする。
「初めての護衛がアメリなんだけど、大丈夫かな?」
「レイア様とアメリ殿、お二人を必ずお守りいたします」
「ハドックは護衛できるの?」
「いつもしておりますので」
「じゃあ護衛依頼はハドックに従おうかな」
次の日、私とパーラは出発の準備、タマモはマリの服の仕上げ。ピーちゃんとリオンは相変わらずマリのそばでニコニコと笑顔を振りまき、ハドックとケリュスの二人は私の部屋で何やら話し合っている。昼食後、ハドックとケリュスから話があると言われ、みんなで集まった。
「どうしたの?」
「ケリュスと相談し、いくつか確認しておきたいことがございます」
「まず、タマモはどの姿で護衛をするのだ?」
「私はいつもの小さな姿になると思います」
「タマモ殿が小さな姿でどの程度戦えるようになったのか、わたくしは存じ上げません」
「どの姿でも九尾の狐と同じだけの魔力は持っています」
「人の姿でもあれだけの力が出せるのか?」
「はい。ホムラさんたちから教わったのは魔法の制御方法です。どの姿でも同じだけの動きができます。でも人の姿の方が便利だと思います」
「レイア様、タマモ殿は人の姿で護衛をしていただきたいと思っております」
──アメリもタマモに驚くだろうなぁ。
もう一つはリオンについて。この三か月、リオンは魔法の練習を一切していない。ハドックとケリュスはそれを心配し、戦力としてどこまで換算していいのかを悩んでいた。話し合いの結果、出発までの短い期間、リオンには魔法の練習をさせることが決まった。
「最後なのですが…」
「レイアよ、お主のことだ」
「え、私?」
「心苦しいのですが、レイア様は戦力外となります」
「レイアは強い!」
「ピーちゃんはそう言いますが、レイアさんは戦えませんから」
「だから私が背中にくっついて守ってるんじゃない」
「ママはリオンが守る!」
──私は戦力外かぁ…。仕方ないよね…。
「レイア様には定期的な索敵をお願いいたします」
「それなら任せてよ」
話し合いが終わり、タマモとパーラを家に残し、私たちはリオンの練習に向かう。村から少し離れた平原で魔法の基礎から再確認。しかし、リオンの練習は短時間で終わりを告げた。何一つ忘れておらず、完璧にこなしてみせたのだ。
「ここまで頭がいいとは」
「うむ、なにも言うことはない」
「リオンは偉いね」
私はそう言いながらリオンの頭を撫でる。護衛についての話や確認が終わり、出発までの一週間は準備をしつつ、今までとあまり変わらない日々を過ごした。そして一週間後、私たちはメイカルトに向かう。
「しっかり護衛してこいよ」
「タマモちゃん、レイアをよろしくね」
「はい!」
「ほらレイア、マリを渡しなさい」
「うん…、行ってくるね…」
私はしぶしぶマリをハンナに渡し、村を出発した。
「アメリの護衛じゃなかったらもっと村にいたかったなぁ…」
「マリ、元気!」
「日に日に大きくなりましたね」
「わたくしも手伝いができたようでなによりです」
「ハドックが一番活躍してたわよ」
「うむ、そのおかげでよく眠ることができた」
「リオンも楽しかった!」
「護衛が終わったら帰ろうかなぁ…」
「レイアさん、ホムラさんたちが待っていますよ?」
「レイア、ごちそうは?」
「終わったら鬼人国とエルフ国に行こっか」
村を出発し、私たちは昼食を取る。昼食後、ハドックが護衛について話を始めた。
「護衛をする時の陣形?」
「重要なことでございます」
「どうやるの?」
私がそう尋ねると、昼食後の道中はハドックの考えた陣形で進む。私を中心に、先頭がハドック、右手にはケリュス、左手にはリオン、後ろにはタマモ。パーラは私が背負ったままで、ピーちゃんはハドックの肩の上に止まっている。
この陣形で、私の右隣にアメリを配置して進んでいくという。このまましばらく歩いていると気になることがあり、ハドックに伝える。
「ハドック」
「なんでございましょうか?」
「周りが見にくいんだけど」
私の前にはハドックがいるので前が見えず、左右の二人も大きいので見えづらい。
「…考えていませんでした」
私たちはメイカルトに向かいながら様々な陣形を試す。その結果、タマモを先頭に、ケリュスとリオンの立ち位置を私の真横から少し後ろに変更。ハドックはいつものように後ろを守る。
「これならよく見えるね」
そしてもう一つの陣形。護衛対象を中心に、リオンとケリュスが先頭、私とタマモが左右に並び、ハドックが後ろというもの。ケリュスとリオンの間から前の視界を確保し、左右は私とタマモなので視界は良好。ピーちゃんはどちらの陣形においてもハドックの肩の上に止まっている。
「これもいいね」
村を出発してから二日、メイカルトに到着。護衛依頼の話を聞くため、私たちはギルドに向かう。ギルドに行くと、当然のようにギルドマスターの部屋に通された。部屋には私たちとボガートのみ。私たちがそれぞれに腰を落ち着けると、ボガートは簡単に依頼の説明をする。
「レイア、これは王族からの依頼だ」
「はい」
「ビーストテイマーに護衛依頼なんて頼む物好きはいないはずなんだが…」
「アメリと友達だからじゃないですか?」
「…いつ友達になったんだ?」
「一年前ぐらいですか?」
「そういえばアクアハーバーでなにかあった気がするが…、まあいい。それより、レイアは護衛依頼を受けたことがないだろ?」
「はい」
「初護衛が王族か…」
ボガートは護衛対象が王族であり、しかもそれが初めての護衛依頼ということでかなり心配している様子。
「護衛って私たちだけでやるんですか?」
「普通の護衛なら冒険者だけだが、王族は知らん」
──他にも人がいるなら楽になるかなぁ?
「詳しい話はアクアハーバーのキュラスさんから聞いてくれ」
「わかりました。あ、ギルドマスター、買い取りをお願いしたいんですけど…」
私たちはギルドを後にして西門に向かい、門番をしているディアンに護衛依頼を話す。
「ついに護衛依頼か!」
「初めてなんです」
「レイアはここの平原や他の都市に行く時に、人やモンスターに襲われたことはあったか?」
「ないです」
「だろうな。大人数になった今なら尚更だ。平原なら大丈夫だと思うが、気を引き締めてな!」
「はい!」
私たちはディアンと別れ、買い物をし、南門から出発。
「パーラ、買い忘れはなさそう?」
「大丈夫よ」
村を出る前に野菜は大量に収納したが、それ以外は枯渇状態。この三か月の間、ケリュスの角は一回生え変わり、そのうちの一本をギルドで売ったものの、大量に買い物をしたので手持ちは少ない。
「おお!ついにうちにもこの角が!」
「あの…、お金ってすぐもらえますか?」
「すぐ用意する!」
──ギルドマスター、喜んでたなぁ。
私たちは南門を抜け、水産都市アクアハーバーを目指す。一週間後、アクアハーバーに到着。ここまでの道中、特に変わったことはなかったが、道中でケリュスの角が落ち、パーラの収納には六本の角が眠っている。
依頼は約二週間後。早すぎる到着だが相手は王族。余裕はいくらあってもいい。アクアハーバー到着後、私たちはギルドに向かう。ギルドまでの道中、いつも通り注目の的になるが、私たちのことを覚えている人も多い。
「あれってタコを倒した英雄じゃないか?」
「仲間が増えたみたいだけど、間違いないね」
「グリフォンを仲間にしてるってことは、あの子も相当強くなったんだろうな」
──私は強くなってません…。
そんな声を浴びながらギルドまで進む。ギルドに入ると受付にいる見知った女性に話しかけた。
「アネモネさん、お久しぶりです」
「久しぶり、ほんとすごいの連れてるわね。B級になっちゃうし、ビーストテイマーってすごいのね」
「みんなが頑張ってくれるので」
「奥でギルドマスターが待ってるわよ」
「ありがとうございます!」
ギルドの奥へ行き、キュラスと再会する。
「よく来たな」
「はい!」
「かなり早い到着だがそれはいい。依頼の話をしてもいいか?」
「お願いします!」
私たちがソファに座ると、キュラスは依頼の詳細を話し始める。
「護衛だが、『お姫様一人だけ』とのことだ」
「はい」
「ここから学園まで一直線なら二十日程度だが、食彩国を経由してほしいそうだ」
「マーゲンですか?」
「そうだ。勉強の一環だそうだが、都市の中の方が外より護衛が難しいことをわかっていないらしい」
「難しいんですか?」
「モンスターがいなくても、人は多い」
──マーゲンって人がいっぱいいた気がするなぁ。
「だがレイアたちなら都市の中で手出しするバカはいないだろう。グリフォンを使役し、B級冒険者ということで名前を知られているだろうからな」
その後もキュラスから護衛の話が続く。護衛の期間は約一か月。満腹都市マーゲンを経由し、魔導都市アルカディアまで一か月かからない程度なので、多少余裕がある。余裕があるとはいえ遊んでいる時間はない。マーゲンに数泊したのちに、すぐに出発する必要がある。
「それから一番大事な食料の話をする」
「食料ですか?」
「レイアはそのミミックをマジックバッグのようにしているな?」
「はい」
「レイアたちの食料の費用は報酬とは別で用意される」
「食費がもらえるんですか?」
「護衛依頼の食費が依頼主持ちになることは珍しくない。問題なのが、ビーストテイマーであるという点だ」
「どういうことですか?」
「そこら辺の冒険者の何倍も食べるだろ?私もどれくらいかかるかわからなかったが、できるだけもらえるようにしたつもりだ」
「助かります!」
食事については私たちとアメリ、それぞれ別で用意するとのこと。キュラスの言うように依頼主が食事を用意することが多いが、ビーストテイマーはそれが未知数。食費は渡すが準備はしてほしいということらしい。話が終わるとキュラスは大変なことを私に伝える。
「最後にもう一つ。数日中に城まで行ってもらうことになる」
「え!?」
「護衛をしてくれる冒険者に会いたいそうだ」
「わ、わかりました」
「出発前に問題は起こすなよ?」
私たちはギルドを後にし、以前利用した借家を管理している小屋まで向かう。管理をしている男性は私たちをしっかりと覚えていたようで、丁寧な挨拶も健在。
「噂は聞いておりましたが、実際に目にするとなんとも…」
「また家を借りたいんですけど…」
「ご案内いたします」
案内されたのは石造りで大きな二階建ての家。白の石壁を基調に、灰色の石材が模様のように散りばめられている。屋根は海と同じ色をしており、二階には海を望めるバルコニー。中も広く、寝室は一階にもあり、水回りも揃っている。
「この家以上の広さは他にはございません」
「ここでお願いします!」
「一週間でよろしいですか?」
「二週間でお願いしたいんですけど…」
「かしこまりました、では契約に移りましょう」
私は借家を契約し、目が飛び出るほどの大金を支払った。そして男性は一つだけ忠告をし、丁寧にお辞儀をすると、大金と一緒に家から去っていった。
「ハドックとケリュスとリオンは二階に行っちゃダメだって」
「かしこまりました」
「うむ」
「ママと一緒がいいなー」
「寝る時は下でみんなと寝るから大丈夫だよ」
タマモは人の姿になり、ピーちゃん、タマモ、パーラの三人は物色をするために二階へ。ハドックは一階を見渡し警備を考え、ケリュスは元の大きさに戻って寝床を確保。リオンは私と一緒に一階の寝室へ向かう。
「リオン、ベッドは普通の大きさだから一緒には寝れないよ」
「わかったー」
私は聞き分けのいいリオンの頭を撫で、ハドックとケリュスのところに戻る。大きなソファに座っていると、物色を終えた三人が戻ってきた。
「どうだった?」
「楽しかった!」
「二階も広かったです」
「なにもなかったわよ」




