4-14:お守り
買い物から帰ってきたピーちゃんとミーティアは上機嫌で、タマモとパーラは少し疲れている様子。上機嫌なミーティアを怪しんだノエルとステラはミーティアを連れて退室。ピーちゃんは上機嫌なままテーブルの上に鎮座し、タマモはイス、パーラはソファに移動する。
「大丈夫だった?」
「うん!」
「大丈夫でした…」
「気疲れしたわよ…」
「大変だったみたいだね」
戻ったノエルとステラからミーティアの様子を聞くと、何かがあったわけではないようだった。ピーちゃんを頭に乗せているという緊張がほぐれ、だんだんと機嫌が良くなったらしい。
「ピーちゃんが主以外の頭の上に乗るなんて滅多にないことだからな」
「相当気に入られていると思ったのでしょうね」
「私以外の頭の上にも乗りますよ?」
「レイア、そのことは言うな」
「ミーティアの機嫌を損ねないようにしましょう」
「は、はい…」
夕食は豪華で量も多かった。ミーティアが一人で用意したとは思えない量で、それだけ張り切ったわけではなかった。
「たくさん買ってきたな」
「レイアちゃんたちがたくさん食べるもんねー?」
「そ、そうですね」
テーブルに並んだ数々の料理。パンにご飯、肉料理、魚料理、野菜料理、生野菜、フルーツ。ミーティアはその全てをシルバンの中に存在するお店で購入してきた。
──私はあんまり食べないけど、みんなは食べるからなぁ…。
夕食は綺麗に無くなり、みんなは満足な様子。そして満腹になったのか、ミーティアはうとうとし始めている。
「ミーティア、眠いのか?」
「眠いかも…」
「らしくありませんね」
「急いで帰ってきたのと…、買い物で疲れたかも…」
「ほら行くぞ」
「レイアさん、今日はこれで失礼します。この部屋は自由に使ってください」
「また明日の朝来る」
「あの扉の先がお風呂ねー…、狭いけど…」
眠そうなミーティアを連れて、ノエルとステラは部屋を出ていった。ノエルたちがいなくなり、私はタマモとパーラに尋ねる。
「買い物ってそんなに大変だったの?」
「大変と言いますか…」
「ピーちゃんとタマモが悪いわね」
「ぼく?」
「ごめんなさい…」
「ピーちゃんはなんでもかんでも食べたいって言って、タマモはピーちゃんの言葉を全部あの人に伝えたの」
「そういうことね…」
「でもあの人は楽しそうだったからいいんじゃない?」
「それならいいんだけど…」
私たちはお風呂に入り、床に就いた。翌朝、私たちが起きると同時に部屋の扉がノックされた。寝巻きのタマモが扉を開けると、そこにはノエルが立っていた。
「起きたばかりか?」
「はい、レイアさんもまだ寝ぼけているようで」
「タマモ…、だれ…?」
「ノエルさんですよ」
「ノエルさん…。…。あ!ノエルさんは朝が早かったんだ!」
ノエルが部屋を尋ねてきたことで、私の頭は一気に目覚める。
「レイア、ゆっくりでいい。ただ頼みがあってな」
「な、なんですか!?」
私はそう言いながら、寝巻きのまま入り口までよろよろと歩いていく。ノエルの頼みは朝食。ミーティアは料理が出来ず、ノエルとステラもしない。普段は事前に買っておくようだが、私たちと話し込んでしまったためそれも出来ず、手持ちもほとんど無い。
「レイアたちに手持ちがあれば助かるんだが」
「パーラ、あるよね?」
「ぱかぱか」
「大丈夫みたいです。キッチン借りてもいいですか?」
「その格好で行くのか?」
「あ…」
「ぱかぱか」
「じゃあお願い」
パーラは一人でノエルの後についていった。その後、私とタマモは着替え、タマモが私の髪を整えていると、部屋の扉が再びノックされた。
「ハドック、開けてもらっていい?」
「かしこまりました」
ハドックが扉を開けると、そこにはステラが立っていた。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます」
「レイアさん、朝食をお願いしてしまい申し訳ありません」
ステラは部屋に入ってイスに座る。私はタマモに髪を整えてもらいながら、ステラと話を続けた。
「ノエルさんは?」
「パーラさんの料理を楽しそうに見ていますが、おそらく興味があるのはあの包丁だと思います」
「ケリュスの角を使った包丁ですか?」
「…」
「ステラさん?」
「あ、いえ…、その…」
「やっぱりもったいないですか?」
「…はい。ですがレイアさんのお仲間なので、私がとやかく言うことではありません」
──同じことを言われたような気がする…。
私がステラと話をしていると、ノエルとパーラが戻ってきた。ミーティアはまだ起きてこないので、私たちは先に朝食を取る。朝食はパン、シチュー、サラダ、リンゴ。いつも通りシンプルだが、ノエルとステラは美味しそうに食べ進める。
「久しぶりに食べたが、相変わらずうまいな」
「おいしすぎますね」
私たちが朝食を食べ終えてもミーティアは起きてこなかった。
「私たちで見てきますので、レイアさんたちはここで待っていてください」
そう言って、二人はミーティアの部屋に向かう。
──ミーティアさん、大丈夫かなぁ?
話しながら待っていると二人は戻ってきた。
「ミーティアさんは大丈夫でしたか?」
「あのバカ、熱を出してる」
「え!?」
「高熱ではありませんのでご心配なく。それより、レイアさんたちを見送ってほしいと言っていました」
「ピーちゃん」
「ピー!」
私とピーちゃん、タマモ、パーラの四人は、ノエルとステラに案内されて二階のミーティアの部屋へと向かう。私たちが部屋に入ると、ミーティアはだるそうな体をゆっくりと起こした。
「あれ…、どうしたの…?」
「大丈夫ですか?」
「ちょっと疲れただけだから…」
「寝てないらしい」
「レイアちゃんたちに早く会いたくて…」
「福々堂でも会いましたよね?」
「あんまり話せなかったから…」
「今からピーちゃんに治してもらうので横になってください」
「え?ダ、ダ、ダ、ダメだよ!?私なんかにそんなの!薬飲んで寝てれば大丈夫だから!」
「ステラ」
ノエルがステラに指示を出すと鞄から小瓶を取り出し、その小瓶に入っていた液体を小さな玉にしてミーティアの顔を目掛けて飛ばす。
「ステラちゃん、なにす…」
ミーティアはそう言いかけると倒れるように横になり、眠った。
「あの…」
「レイアさんの前で使いたくなかったのですが、こういった薬もありますので気をつけてください」
ステラは空の小瓶を私に見せながらそう言った。
──とんでもない薬持ってる…。
「レイア、ピーちゃん、任せる」
ノエルに促され、私たちはミーティアのそばまで進む。
「ピーちゃん、お願い」
「ピー!」
ピーちゃんは私の頭上からミーティアの胸の上に乗り、全身に炎を纏う。そして纏った炎を操り、ミーティアの全身を炎で包み込んだ。全身を包み終えると、炎はそのままにピーちゃんは小さな翼を大きく広げる。すると、緋色にきらめく無数の光の粒子が炎で包まれたミーティアの上から降り注ぎ、部屋を満たしていった。
「これは…」
「火の粉のように見えますが…」
ノエルとステラは部屋に広がった光の粒子を浴びながら、小さくそう呟いた。ピーちゃんが炎を消すと、緋色の粒子とミーティアを包んでいた炎も消える。ミーティアはピーちゃんの炎を受けて熱が下がり、顔色も良くなり、心地よく眠っているように見えた。私たちはミーティアの部屋を後にし、みんなの待つ部屋に戻る。
「もう出発するのか?」
「ギルドに行って、買い物をしてから行こうと思います」
「ではノエルはレイアさんと一緒にギルドへ行ってください」
「ステラはミーティアのことか?」
「あれでも族長ですからね。関係各所に話をしておきます」
私たちはノエルと一緒にギルドに向かい、ステラは向かいにある仕事をするための家に入っていった。
「二人を残して大丈夫か?」
「ピーちゃんとタマモなら大丈夫です。それに、ミーティアさんが起きた時に誰もいなかったら困ると思うんです」
「レイアは優しいな」
ギルドに到着し、ギルドマスターの部屋まで進む。ノエルがいたことで、受付に声をかけるだけで奥に進むことができた。
──ノエルさんってやっぱりすごい人なんだなぁ。
扉をノックし、入室を許可され、中に入る。
「ステラ様は?」
「ミーティアが寝込んでな、仕事の関係者に話をしているところだ」
「族長が寝込む?」
「その話は気にするな」
「わかりました。ではレイアさん、報酬を用意しますので少々お待ちください」
私は報酬を受け取り、ギルドを後にする。その足でノエルと一緒に買い物へ向かった。
「レイア」
「なんですか?」
「こういう話はあまりしないんだが、相当持ってるだろ?」
「なにをですか?」
「金だ。その年でそれだけ持ってるのは心配になる」
「食費でなくなりますよ?」
ノエルは歩きながら振り返り、みんなを見る。その中でもリオンに注目しているように感じる。私の仲間を見渡したノエルは前を向き、口を開いた。
「レイアも大変だな」
私たちはミーティアの家まで戻った。ノエルはミーティアのところに行き、私たちは部屋に戻る。少し待っていると、ピーちゃん、タマモ、ノエル、ステラの四人が部屋にやってきた。
「まだ起きませんか?」
「ダメだな」
「薬が強すぎたのかもしれません」
「あいつのことは気にするな。レイアたちは出発しろ」
「そうですね、あとは私たちが」
「でも…」
「もうギリギリなんだろ?」
「それはそうなんですけど…」
「レイアさん、ミーティアはピーちゃんから魔法をいただいたので大丈夫ですよ」
「わかりました…」
私はパーラに荷物を収納してもらい、部屋を見回す。
「忘れ物はないかな」
私がそう言うと、タマモは人から藤狐に姿を変えた。
「タマモ、ごめんね」
「コン」
私たちが部屋を出て玄関から外に出ようとした時、ピーちゃんが口を開いた。
「ピー!」
「今行くの?」
「どうした?」
「ピーちゃんが『二階に行く!』って言ってます」
「魔法を使うのですか?」
「ピー!」
「すぐ戻ってくるので待っててください!」
私はピーちゃんと二人でミーティアの部屋に向かう。ノックをしても返事は無く、部屋に入ってもミーティアが起きた形跡は無かった。
「みんなを待たせてるから早めにね」
「うん!」
ピーちゃんはそう言うと、特等席からミーティアの胸の上に再び舞い降り、ミーティアに癒しの魔法をかけた時以上に大きな炎を体に纏う。大きな炎を纏ったピーちゃんは自らの緋色の羽根を一枚抜き、その羽根に纏った炎を集約。纏った炎は全て消え、ピーちゃんの小さな嘴には炎を纏った緋色の羽根が出来上がっていた。
「ピーちゃん、それはお守り?」
「すぐ元気になる!」
ピーちゃんは炎を纏った緋色の羽根をミーティアの胸の上に残し、特等席に戻る。私たちが一階に戻ると、ノエルが私に尋ねた。
「起きてたか?」
「起きてませんでした」
「あとはこちらで」
「お願いします」
私たちはミーティアの家を後にし、二人と一緒に南門まで向かう。そして南門に到着し、二人に別れを言う。
「このまま道なりに進むとドワーフ国に入ります」
「道中、右手の森、双峰森林へ続く道もあるが、山脈の切れ目に整備された道がある。そこを通ると例の湖のあるところへ出る」
「わかりました!」
「レイアさん、メイカルトには行きますか?」
「行く予定です。ギルドマスターにも色々と話があるというか…。色々と聞かれそうなので…」
「でしたら、ミーティアからレイアさん宛に手紙を書かせますので受け取ってください」
「わかりました」
「また会ったらうまいものを食わせてくれ」
「お元気で」
「はい!」
「ばいばい!」
「コン!」
「……」
「ぱかぱか」
「キー」
「キュイ!」
私たちは翠樹都市シルバンを出発。ここからドワーフ国に入るも、鍛冶都市フェクトールには寄らず、そのまま人間国フォーリに入り、交易都市メイカルトを目指す。
「まずはメイカルトを目指そう!」
「おー!」
「おー!」
ノエルとステラは見送りを終え、ミーティアの家へ戻る、その道中。
「…」
「…」
「なあ…」
「あの…」
「なんだ?」
「ノエルこそどうしました?」
「ピーちゃんなんだが…」
「喋りましたよね…?」
「ああ」
「前回はタマモさんの時でしたね」
「家を出る前はわからなかったんだが、何故だ?」
「私に聞かれても…」
二人は家に戻り、ミーティアの部屋へ向かう。
「まだ起きてないか。…。これは…」
「ピーちゃんの羽根のようですが、炎を纏っていますね」
「レイアはなにも言ってなかったな」
「なにも言わなかったのであれば心配する必要はなさそうですが…」
「それにしても、これでミーティアも念願の羽根が手に入ったわけか」
「このまま羽根が燃え尽きてしまう可能性も否定できませんよ」
ミーティアが起きたのは翌日の朝。ノエルがミーティアの部屋の扉をノックすると、中からミーティアの声で反応があった。
「起きてたのか」
「体の具合はどうですか?」
「そんなことより、これなに?」
「ピーちゃんの羽根だと思うが」
「ノエルちゃんかステラちゃんのやつ?」
「私たちのは耳に付いてるだろ?」
「じゃあこれは?しかも薄っすら炎を纏ってるよ?」
「私たちも直接見ていないのでわかりませんが、ピーちゃんが自分の羽根をミーティアに渡した、ということでは?」
「なんで?なにもしてないよ?」
「私たちももらった時は突然だったぞ」
「『お守り』と言われて渡されましたね」
「じゃあこれもお守り?私に?なんで?」
「嬉しくないのか?ずっと欲しがってただろ?」
「嬉しいというか、疑問が残ってるんだけど」
「変なところで真面目ですね」
ミーティアは、薄っすらと炎を纏った羽根を様々な角度から観察しながら二人と話す。それはさながら、依頼品や証拠品を検分するかのよう。
「元気になったらレイアに手紙を書いてやれ」
「あ!レイアちゃんはもういないよね?どれくらい寝てた?」
「丸一日ほどですね」
「それって、私にぶつけた薬のせいじゃないの?」
「それは否定できません」
「まーいっか!レイアちゃんとピーちゃんには感謝しないとね!」




