4-10.5:アンビル視点
俺は鍛冶都市フェクトールの鍛冶ギルドのギルドマスター、アンビルだ。鍛冶ギルドに限った話じゃないが、ギルドマスターになると最前線では戦うことができない。俺の場合は、武器や防具を作る機会がほとんどなくなる。
そんな中、久しぶりに武器…、ではないが、包丁とナイフの手入れをしてやった。だが、モンスターを連れた冒険者が帰った後、俺はフォージをしかりつける必要があった。
「この量はなんだ?」
「小瓶一つじゃ足りなかったか?」
「多すぎだ」
「多いか?」
「小瓶の基準はなんだ?」
「小瓶一つで片手剣一本分ぐらいだろ?それぐらいわしでもわかるぞ!」
「作るのは包丁三本とナイフだ」
俺は冒険者ギルドから鍛冶ギルドに戻り、調理器具を専門にしている「キリさん」を呼び出した。キリさんはほとんど引退してるがドワーフとしては珍しく、調理器具全般を作っている。ドワーフであればその実力は誰もが認めている。調理器具は武器や防具より需要は少ないが、食彩国での需要は計り知れない。
「引退のババアを呼び出すなんて偉くなったもんだね」
「キリさんに依頼がある」
「ババアに依頼?引退してるって言ったはずだけどね」
「これで包丁を三本作ってほしい」
「こんなもので包丁を作るって…。冗談も大概におしよ」
「冗談じゃないぞ」
「ほんとにこんな貴重なものを使って作るって言うんだね?」
「だからキリさんを呼んだんだ。なんとかしてくれないか?」
「仕方ないね、引き受けるよ。でもこの粉の量は多すぎだよ」
「量が多いのはフォージのバカのせいだ。この小瓶で包丁三本とナイフを一本作る。余った分はそのまま返却だ」
「よくあんなバカでギルドマスターが務まるもんだね」
「まったくだ」
「ナイフもババアが引き受けようか?」
「いや、俺が作る」
「ほお」
そのあとはキリさんに作ってほしい包丁の形状を説明して、粉を半分分けた。包丁三本に小瓶の半分も使うことはないが念のためだ。そして俺がナイフを作る理由だが、久しぶりの手入れで鍛冶師として火がついたらしい。
一週間後、俺とキリさんは完成品をフォージのところまで持っていった。
「二人とも待ってたぞ!」
「フォージもずいぶん態度がでかくなったもんだね」
「いや、その、申し訳ありません…」
「まあそれぐらいじゃないとギルドマスターは務まらないだろうがね」
「それで完成品は?」
俺のナイフは自分でも納得している。だが、キリさんの包丁はそれをはるかに上回る出来だった。
「キリさん!その包丁、ちょっと見せてくれ!」
それは俺だけではない。バカなフォージでもナイフより包丁の出来がいいことに気づいている。それだけの差があった。
「いいナイフだね」
「この包丁と比べるとまだまだだ」
「あんたはギルドマスターになってから全然作ってないからね。腕が落ちてるのさ」
「いや、この包丁がすごすぎる。さすがキリさんだ」
「素材がよかっただけだよ。これ、残った粉だよ」
どれくらい経ったか忘れたが、注文をした冒険者が包丁とナイフを取りに来た。
「このお嬢ちゃんが例のバカだね?」
「キリさん、いきなりバカは可哀そうだぞ」
「フォージもバカだろ」
「わしを一緒にせんでくれ」
「あの…」
「レイア、すまんな。こちらは包丁を作ってくれたキリさんだ」
「キリだよ」
「レイアです」
「ナイフはアンビルが作ってくれたぞ」
包丁とナイフはこの冒険者より、鞄のモンスターの方がよく見ていたな。この鞄が料理をするらしいが、誰が使うかは関係ない。いつでもその時の最善を尽くす。それだけだ。
そのあとは冒険者がキリさんの工房についていった。他にどんな調理器具を作っているのか気になるそうだ。俺とフォージは部屋に残り、ソファに座っていた。
「フォージ」
「なんだ?」
「あれは冒険者なのか?」
「あー、あれは例外中の例外だ。でもお前のナイフはかなり気に入ってたぞ」
「キリさんの包丁に比べれば全然だ」
「あの人の専門が調理器具だから仕方ないだろう。それに、お前の専門はナイフのような小さなものじゃなくて大きな武器だ。ギルドマスターとして一線を退いているわけだからなおさらだ」
「武器に大きいも小さいもない。フォージには鍛冶師としての信念をもう一度叩き込んでやった方がよさそうだな」




