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4-8:ペンダント

 鍛冶都市フェクトールから三日。私たちは関所を抜け、人間国フォーリに入る。関所から一週間ほどでメイカルトに到着する予定。関所を抜けてから二日、ついにリオンが魔法に目覚めた。飛べるようになったリオンがピーちゃんと飛んでいると、風をまとい始めたことで発覚した。


「リオンが使えるのは風と光と雷みたいだね」

「まだ魔力の込め方が不安定みたいですね」

「暴走するかな?」

「私の時とは違うので大丈夫だと思います」


 私はリオンに触れると、ブレスレットの珠が五つ光る。どの属性が使えるか試していただけで半分ほどになっていた。


──魔力の込め方が不安定だから半分も使っちゃったのかなぁ?


 その日以降、私以外のみんなによる魔法の練習が始まる。風はピーちゃんとケリュス、光はパーラとケリュス、雷はハドックが教える。タマモは全ての属性が使えるので全ての訓練に携わる。


「大変なことになっちゃったね」


 私がそう呟くと、パーラが口を開いた。


「最初が肝心なのよ。それに、なにかあったらリオンの主のレイアの責任なのよ?」

「はい…」

「でも頭がいいからちゃんと扱えるようになるまで時間はかからないと思うけどね」

「魔力量は?やっぱり魔法を使わないと増えない?」

「うむ。しかしリオンはまだ子供。魔法を使わずとも成長に合わせて魔力量は増える」


 ケリュスがそう言うと、雷魔法の練習が終わった。


 タマモ、ハドック、リオンの三人は、離れて待機していた私たちのところに戻ってきた。見学をしていたピーちゃんは、人の姿になっているタマモの頭上に鎮座している。


「レイア、お腹空いた」

「リオンもー」

「ご飯にしよっか」


 私は戻ってきたリオンの頭を撫でる。珠六つ分の魔力が残っているようだ。関所を抜けて十日後。飛ぶ練習の時と同じように、魔法の練習に時間を割いた結果、メイカルトに到着するのが遅くなってしまった。


 メイカルトに入る。タマモは少し前から藤狐に戻り、私はケリュスを小さくする。リオンはすでに小さくなったケリュスよりも大きい。北門の門番には「その大きさならまだ大丈夫」と言われている。


「北門は初めてだったね」

「うん!」


 中に入ると懐かしい雰囲気を感じつつ、数々の視線も感じる。小さくなっているとはいえ、ハドックを含めて三人も大きなモンスターを連れている衝撃は大きいようだ。


 初めての場所で、ケリュスとリオンはキョロキョロと辺りを見回し、買い物をしながらギルドに向かう。食料が無くなったわけではなく、メイカルトは交易都市なだけあって品揃えが豊富。パーラも少し気合が入っているように感じる。


 私は買い物をしながらあやかに手紙を出さなかったことと、鬼人国での依頼。この二つを抱えて少し複雑な気持ちになっていた。買い物を済ませ、ギルドに到着。いつものようにハドックに扉を開けてもらい中に入ると、ギルド内の視線がだんだんと私たちに集まる。


「おいあれ…」

「え?あれって丸焦げちゃん?」

「こっちが丸焦げにされそうだな」


──聞こえてますよ…。


 私たちは受付でニコニコしているあやかの元に向かう。その笑顔の裏に、怒りの感情は無いように見える。


「あやかさん、お久しぶりです!」

「レイアさん、おかえりなさい。お手紙が届いております。それから、ギルドマスターから帰ってきたら部屋に通すように言われていますのでこのままどうぞ」


 私は手紙を受け取り、ギルドの奥へ。ギルドマスターの部屋に向かうまでに手紙を開けると、フォージからの完成報告の手紙だった。私たちがギルドマスターの部屋に入ると、ボガートが待っていた。


「久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「レイア、メイカルトの北の街道沿いでモンスター同士の模擬戦でもしたか?」

「模擬戦はしてませんけど、魔法の練習はしました」

「はぁ…、やっぱりか…」

「でも街道からは離れてましたよ?」

「当たり前だ。だがグリフォンを仲間にするなんて聞いてないぞ?ジュエルレーンディアを仲間にするのも聞いてないがな」


 ボガートは本題に入る。


「私が呼ばれたのは角ですか?」

「角は欲しいが、昇級が白紙になった理由を知りたくてな」

「それは…」

「B級を蹴ったんだ、相当な理由があるんだろう。理由が言えないならそれでも構わんが、あやかさんが少し気にしててな」

「あやかさんも昇級のこと知ってるんですか?」

「ああ。レイアの昇級の話だったから少し相談させてもらった」

「そうですか…」

「最近も少しピリピリしててな…。手紙がどうとか言ってたが…」


──まずい…。


「あの人のおかげで助かってる部分が大きいからな」

「あの、もしあやかさんが休んだりいなくなったらギルドはどうなりますか?」

「あやかさんが休んだぐらいでどうこうなるギルドじゃないぞ。むしろ休んでほしいぐらいだ。毎日朝早くから夜遅くまで働いてるんだ。レイアも知ってるだろ?」


──そう言えば、私がピーちゃんと二人だった頃からあやかさんがいない日はなかったなぁ。


「年単位で休んでもいいぐらい働いてるが、実際に休まれるとそれはそれで困る。一か月か二か月ぐらいなら大丈夫だが、なにかあるのか?」

「な、なにもありません」


 私たちは部屋を後にし、ギルドマスターの部屋から受付まで戻るとあやかから声がかかる。


「レイアさん、お話は終わりましたか?」

「はい」

「では、私からお話をさせていただいても?」

「私もあやかさんに話があります」


 私がそう言うとあやかは少し驚き、目を見開いた。私たちはあやかに案内されて応接室に入る。応接室はケリュスとリオンが増えた分、少し狭く感じた。


「まず、レイアさんには感謝をお伝えしなければなりません。お手紙をありがとうございました」

「は、はい」

「フェクトールのギルドマスターからレイアさん宛にお手紙が届いていましたが、レイアさんはフェクトールに立ち寄ったのですか?」

「はい。その、あやかさんに手紙を出すのを忘れてしまって…。ごめんなさい…」

「いえ、お元気そうでなによりです。それで、レイアさんから私に話とは?」

「その…、ここだと…」

「ではどこなら?」

「うーん…」

「ぱかぱか」

「そうなんだけど…、しょうがないよね。あやかさん、門が閉まる前に西門の外まで来てもらえますか?」

「西門の外、ですか?」

「はい」


 あやかは納得がいっていないようだったが了承した。その後、私たちはギルドを後にし、西門に向かう。


「ディアンさん、お久しぶりです!」

「お、おお…」

「どうしたんですか?」

「いや、すごいのを仲間にしたなと思ってな…」

「そういえば、ディアンさんが言ってた東の森の騒ぎなんですけど…」


 私がディアンと話し込んでいると、あっという間に日が傾き始めた。


「レイア、そろそろ宿屋に行かなくていいのか?」

「今日は大丈夫です。これから用事があるので」


 私がディアンと話していると後ろから声がかかった。


「レイアさん」

「二人でどっか行くのか?」

「秘密です」


 あやかはギルドの制服のまま大きな鞄を背負っていた。私たちはそんなあやかを加えて西門から平原に出る。メイカルトから離れ、平原に生えている木に私たちは向かう。このあたりは初級冒険者が来る場所。この時間であれば誰もいない。


「ここでいいかな」

「ピー!」

「こんなところでお話ですか?」

「あの、あやかさんとお話をするんですけど、今から出す魔法具は秘密にしてほしいんです」

「わかりました」


 私はパーラにマジッククロスを取り出してもらい、ハドックが木の枝に引っかけ、ファスナーを開く。小さくなったケリュスとリオンが先に入り、私たちはその後を追う。


「ハドック、お願いね」


 中に入ると、あやかは驚きながら部屋中を見回す。


「これは…。こんな魔法具は聞いたことがありません。魔法国のラージルームは知っていますが部屋を持ち運ぶなんて…。これはどこで手に入れたのですか?」

「その…」

「いえ、やめておきましょう。このことは秘密にいたします」


 あやかに部屋の中を案内すると、さらに驚いていた。


──ファーストバードの羽根を回収した時より驚いてるなぁ。


 私はあやかをイスに座るよう促し、紅茶の準備をする。


「おいしいですね。レイアさんは紅茶がお好きなのですか?」

「そういうわけじゃないんですけど、私の紅茶を楽しみにしている人がいるので練習中です」


 お互いに一息ついたところで、私は本題に入る。


「鬼福の里のギルドマスターのふうかさんから依頼を受けました」


 この時、あやかの出す空気が変わったことに私以外の全員が気づいた。ピーちゃん、タマモ、パーラはあやかが悪い人ではないとわかっているので警戒を強めない。しかし、あやかのことを知らないケリュスとリオンは立ち上がり、私の近くに寄る。


「どのような?」

「あやかさんに手紙を渡すのと、あやかさんがふうかさん宛に手紙を出させる、という依頼です」

「…」

「これがその手紙です。それと…」


 私がパーラから二通の手紙とペンダントを取り出してもらった時、ふうか以上にあやかはペンダントに反応する。


「レイアさん!それはどこで拾ったのですか!」

「ひろっ…」

「どこですか!?」


 あやかが勢いよくイスから立ち上がると、ガタン!とイスが倒れ、立ち上がったあやかの体からは魔力が溢れ出していた。体の輪郭が魔力で染まり、目つきは血走っている。溢れた魔力を威嚇と判断したのかケリュスは元の大きさに戻り、リオンもあやかを威嚇する。ピーちゃんたちもあやかの魔力に驚いていたが、ケリュスとリオンの行動にも驚いていた。


「ピー!」

「コン!」

「ぱかぱか!」

「レイアさん!どこですか!」

「ちょ、ちょっと待って!みんなも落ち着いて!大丈夫だから!あやかさんも落ち着いてください!魔力が溢れてますよ!」

「!?」


 あやかはゆっくりと気持ちを落ち着かせ、魔力を抑えていく。その間に、私はケリュスを小さくする。


「フォームシフト!ケリュス、リオン、この人は大丈夫だから」

「キー」

「キュイ」

「レイアさん、失礼いたしました」

「あやかさんに落ち着けっていうのは難しいですよね。たいちさんのこと、探してたんですもんね」

「それはふうかが…?」

「『夫婦になる予定だった』としか教えてくれませんでした。それ以上はあやかさんから聞いた方がいいって」

「そうですか…。それでそのペンダントはどちらで?」

「このペンダントは拾ったものじゃありません。たいちさんから手紙と一緒に預かりました」

「生きて、いるのですか?」

「はい」


 私が返事をすると、あやかは泣き崩れた。私にあやかの気持ちはわからない。どれほどの時間をかけて探したのか。どれほどの時間待ち続けたのか。希望より絶望しかなかったはずだ。私は泣き崩れているあやかを見ていることしかできなかった。


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