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4-7:包丁とナイフ

 私たちはギルドを後にして福々堂に戻る。すでに営業を終えていたが、ホムラたちは私たちの帰りを待っていた。


「おかえり」

「はい…」

「どうしたんだい?」

「ホムラさん…、ちょっといいですか?」


 奥の奥にある部屋に戻り、イスに座る。ホムラを含めた四人もそれぞれイスに座り、ルルはピーちゃんを抱きしめている。タマモは藤狐の姿から人の姿に変わり、私の隣のイスに座った。


「ギルドでなにかあったかい?」

「実は…」


 ギルドマスター直々に急ぎで手紙を届けてほしいという依頼をされたことを伝える。


「急ぎなので、多分明日には出発した方がいいと思うんですけど、それだとタマモとまた…」

「一緒にいけばいいんじゃない?」

「そうですねぇ」

「そもそもぼう…」

「フォルス、要らないことを言うんじゃないよ。タマモはどうしたいんだい?」

「私は…」

「タマモは連れて行きます!」


 私はタマモの言葉を遮り、口を開いた。


「あやかさんも大切だけど、タマモも大切です。一緒に行きます」

「仮に、暴走したらどうするんだい?」

「それは…」

「ぼくが止める!」


 ピーちゃんがルルに抱きしめられながら言う。すると、ルルがピーちゃんを撫でながら口を開く。


「ピーちゃんは強いもんねー。ピーちゃんなら大丈夫だもんねー」

「うん!」

「タマモはどうするんだい?」

「一緒に行きます!」

「よし、じゃあ決まりだ!」


 ホムラはそう言うと立ち上がり、みんなに指示を出す。私はホムラ、サクヤ、ルルに寝室へと連れていかれ、身ぐるみを剥がされた。


「あの…」

「こっちはひと月あると思ってたからね。明日出発するなら今日中にもう少しやる必要があるんだよ」

「私の服ですか?」

「そうですよぉ。しっかり仕立てますからねぇ」

「お金は…?」

「いらないわよ」

「それはダメですよ!ここで作った寝巻きの品質、すごかったんですよ!」

「それと一緒にしない方がいいわよ。私たちが全力で作るんだからね」

「レイア、金はいらないよ。そのかわり、たまにみんなで遊びに来てくれないかい?」

「そんなことでいいんですか?」

「レイアにとってはそんなことかもしれないけどね、私たちにとっては大切なことなんだよ。タマモのことも気になるからね」


 仮縫い終了後に寝室を出ると、夕食の準備が終わりかけていた。パーラとフォルスが料理を担当し、タマモが食器類を並べている。夕食は前回を上回るほどではないが、比較的豪華だった。


 夕食後、私はホムラたちに紅茶を淹れる。それを見たルルは部屋から出ていってしまった。


「ごめん、ちょっとやり残した仕事思い出した…」

「まったくあの子は」

「無理もない」

「まだ時間がかかりそうですねぇ」


──ルルさんって紅茶嫌いなのかなぁ?


 私は残った三人とタマモ、パーラに紅茶を淹れた。パーラからもギリギリ合格点をもらい、ホムラたちからもまずまずの評価をもらう。結局ルルが戻ることはなく、ホムラたちも退室し、私たちはお風呂に入る。そして寝ようとした時、部屋の扉がノックされた。寝巻きに着替えたタマモが扉を開けると、そこには寝巻き姿のルルが立っていた。


「ルルさん、どうしましたか?」

「あのさ、私も一緒に寝ていい?」

「レイアさんに聞いてみますね」


 タマモは扉を開けたまま、私のところにやってくる。


「レイアさん、ルルさんが一緒に寝たいそうです」

「ルルさんが?ベッド余ってるし、いいんじゃない?」

「わかりました」


 タマモが扉まで戻り、ルルを中に招き入れる。


「さっきはごめんね」


 私たちは寝室に移動。空いているベッドを使っていいと伝えると、私とピーちゃんと一緒に寝たいとのこと。


「一緒ってそういうことですか?」

「そう」

「リオンよ、今日はわれと寝るぞ」

「うーん、うん、わかったー」


 ケリュスが何かを察したのか、リオンと一緒に寝る。


「ケリュス、ありがとう」


 私たちは床に就いた。私の右側にはルル、左側にはタマモ。ピーちゃんはルルの頭のあたりで丸くなった。ピーちゃんの優しい温もりに安心したのか、ルルはすぐに眠ってしまった。


 翌朝、私が起きるとルルの姿はなかった。ハドックに聞くと、みんなが起きるよりも先に起き、朝食の準備のために部屋を出ていったという。私たちは準備を整え、寝室を後にする。


「おはようございます」

「おはよう、昨日はルルが世話になったね」


 朝食後、お茶を飲みながらホムラたちと話をする。


「このあと出発かい?」

「はい、一度ギルドに行ってから出発します」

「ここからだと南のドワーフのところを通った方が早いな」

「ドワーフ国って、武器や防具を作ってるんですよね?」

「調理器具もありますよぉ」


 サクヤの言葉に、パーラが一瞬反応したように見えた。


「三週間はかからずにメイカルトに到着するんじゃない」

「わかりました」

「メイカルトの近くには広大な畑があったな」

「ハーベ村ですか?」


 私がそういうと、フォルスは目の色を変えて続ける。


「レイアはハーベ村を知っているのか?」

「知ってるもなにもハーベ村出身です」

「タマモ、聞いてないぞ」

「…すみません」

「いや、今はいい。そうか、ハーベ村出身か。あそこの野菜は持ってないか?」

「パーラ、残ってる?」

「あるわけないでしょ」

「そうだよね…。次来る時は持ってきます」

「頼む」

「ところでレイア、次はいつここに来るつもりだい?」

「えっと…」

「なるべく早めでお願いしますねぇ」

「依頼が終わったらすぐ戻ってきます!」


 私たちはお店を後にし、ギルドに向かう。ギルドに入ってすぐ、私は受付のむさしと話をしてギルドマスターの部屋に案内してもらった。


「ふうかさん、この依頼受けます!」

「ありがとうございます。ではこちらを」


 私はたいちからの手紙とペンダント、そしてふうかからあやかへの手紙を受け取り、パーラに収納してもらう。


「あやかさんに渡したら手紙を出した方がいいですか?」

「それはありがたいのですが、できればあやかに手紙を書かせてください。もう長いこと連絡をもらっていないので」

「わかりました」


 私たちはギルドを後にし、南門に向かう。南門にはホムラたちが待っていた。


「レイア、あそこに見える森には入らないと約束してくれるかい?」

「あの森ですか?」

「あそこはダメだ」

「ダメですねぇ」

「入っちゃダメ」


 全員が入るなと私に忠告する。


「わ、わかりました」


 私たちはホムラたちに見送られながら鬼福の里を出発。タマモは小さいまま門を抜けた。門を抜け、振り返るとホムラたちが手を振る。私も手を振り返し、歩みを進める。


 ここからドワーフ国を通ってメイカルトまでは三週間ほど。私はホムラたちとの出会いや、あやかとたいちの真実と謎を胸に秘めながらメイカルトを目指す。


 鬼福の里を出発してから三日。道中、タマモは人の姿で私の隣を歩く。鬼人国とドワーフ国の関所を遠目に確認するとタマモは小さくなり、リオンの隣を歩く。ホムラたちから忠告を受けた森は国境を越え、ドワーフ国に少しかかる程度まで広がっていた。私たちは関所を抜け、ドワーフ国パールドに入る。


 ドワーフ国に入ってから三日。私たちは鍛冶都市フェクトールに到着した。武器や防具などを扱う店が多く、冒険者も多い。鍛冶都市ではあるが、鍛冶の音は一切聞こえない。


──全然音がしないけど鍛冶はどこでやってるのかなぁ?


 私たちはギルドに向かう。


「よく来たな!」

「あの…」


 ギルドに入るなり、ギルドマスターの部屋まで案内された。


「俺はここのギルドマスターの『フォージ』だ!」

「D級のレイアです」


 フォージはドワーフ族らしく、背が低く筋骨隆々。ぼさぼさの白髪に白いあごひげを蓄えている。


「B級に上がる話は白紙になったそうだが、なにがあったんだ?」

「ちょっと色々ありまして…」

「そうか。まあその仲間ならBどころかSまで余裕そうだな!さて、本題に入るか」

「ジュエルレーンディアの角ですか?」

「先手を打たれてしまったな…」

「武器や防具にも使えるんですか?」

「もちろんだ。武器は切れ味が増し、刃こぼれしにくくなる。防具は耐久力が上がる」

「それって包丁もですか?」

「ほ、包丁か?ま、まあ包丁も同じようになると思うが…。まさかそんなことしないよな?」

「…すると思います」

「角はどれくらいある?」


 私はパーラに角を片方取り出してもらう。ケリュスの角は関所を抜けたあたりでいつものように木に擦り付けて落としたものだ。前回ケリュスの角が落ちたのは約二か月前。一般的なレーンディアは年に三回から四回ほど生え変わると、ロマリスが教えてくれた。


──ケリュスは特殊個体だから生え変わる速度が早いみたいなんだよね。


「角はこれで全部か?」

「もう片方ありますけど…」

「全部売らないのか?」

「それは…、その…」

「まあいいか、これだけでも十分だ。買い取りでいいか?」

「はい、ただ…」


 フォージにはケリュスの角を売るかわりに、ケリュスの角を加工したものを少しもらう。加工された角を使用し、包丁を作ってもらうことがパーラの要望だ。私たちはギルドを後にし、食料を買いに向かう。鬼人国で買い物せずに出発してしまったため、パーラの収納している食料は底が見え始めていた。


「いつもは多すぎるぐらい食料があるんだけどね」

「買い込みすぎなのよ。でも整理できてちょうどよかったわ」

「なにが残ってるの?」

「肉と野菜が少し。調味料も買い足しておいた方がいいわね。触手も残ってるわ」

「触手はどうするの?」

「まだダメよ」


 買い物を終えて宿屋を探したが、私たちが泊まることのできる宿屋は見つからなかった。フェクトールが狭いわけではなく、鍛冶工房が多いため、そのしわ寄せが色々なところに出ており、宿屋もその一つ。メイカルトではハドックだけが外で待機することで泊まることができたが、それすらも叶わない。彷徨っているうちにフェクトールの中心部までやってきた。そこには何もない広い空間が広がっていることを不思議に思う。


──ここだけ広い空地みたいになってるけど、建物は建てないのかなぁ?


「レイア、お腹空いた」

「そうだね。日も傾いてきてるし、しょうがないから野宿にしよっか」


 私たちは南門から平原に出る。街道を外れ、木のあるところにマジッククロスをかけて中に入る。中に入るといつものようにタマモは人の姿になった。夕食後、私とタマモとパーラは料理に勤しんだ。


 翌日、朝食を取った後に私たちはギルドに向かう。ギルドマスターの部屋に入るとフォージの他にもう一人、ドワーフの男性がいた。


「おお、来たか。こいつは鍛冶ギルドのギルドマスター『アンビル』だ」

「アンビルだ」

「レイアです」

「それでだ、これが買取報酬で、こっちが角を粉にしたものだ」


 フォージは机の上に袋を四つと、薄い黄色の綺麗な粉末が詰まった小瓶を一つ取り出した。


「買取金額が他と変わらないんですけど、加工したものをもらうのにいいんですか?」

「構わんぞ。それから、包丁についてもこいつが面倒を見てくれる」


 フォージがそう言うと、ハドックを凝視していたアンビルが話し始める。


「今使ってるのはあるか?」

「はい」


 私はパーラに包丁を取り出してもらい、机の上に並べる。


「その腰に下げてるナイフも出せ」

「は、はい」


 フォージとアンビルはナイフと包丁を手に取ると、すぐに落胆した。


「最後に手入れをしたのはいつだ?」

「したことないかも…」

「だろうな」

「ま、まあ冒険者なんだ、そこら辺は大目に見てやってくれ」

「フォージ、お前はドワーフとして黙ってられるのか?」

「いや、まさかここまでだとは思わなくてな…」

「包丁とナイフは酷い状態なんですか?」


 包丁やナイフといった刃の付いたものは、定期的に手入れをしないとダメになる一方だという。武器を持つ冒険者も自分で手入れをするか、各地にある鍛冶ギルドに持ち込み、手入れをしてもらう。


「あの、ハドック…、この黒い鎧が持ってる斧も手入れをしないとダメなんですか?」

「必要ない、それは魔武器だ」


 魔武器とはモンスターが持つ武器の総称で、冒険者が使用する武器とは異なり、手入れをする必要性がなく、使用しているモンスターの魔力を使って、勝手に手入れがされるという。


「アンビル、包丁とナイフはどれくらいで作れそうだ?」

「そうだな…。これと同じようなものでいいなら三日だが、この粉を使うなら…、一週間前後あると助かる」

「レイアはどれくらいここにいるつもりだ?」

「あの、出来れば今日中には出発したくて…」

「急ぐのか?」

「急ぎの依頼があって」

「ならこの粉は預かってもいいか?これを使って新しいものを作っておく」

「ありがとうございます!」

「フォージ、砥石はあるか?」

「あるが、どうするんだ?」

「こいつらを研いでやろうと思ってな」


 机に置かれた包丁やナイフを指さしながらアンビルがそう言うと、フォージは驚いたように言う。


「お、お前がやるのか?」

「そうだ」

「レイア!鍛冶ギルドのギルドマスターが直々に手入れをしてくれる機会なんで滅多にないぞ!」


 ギルドの一角を借り、アンビルが包丁とナイフを研ぐ。その様子を私とパーラは真剣に見守った。


「よし、これでいい」

「さすがアンビルだな!」

「月に一度は今みたいに手入れをした方がいい」

「ありがとうございます!」

「砥石は…、これを持っていけ」

「それはうちのだが、まあいいか」


 私は包丁と砥石をパーラに収納してもらい、ナイフを腰に戻す。包丁とナイフは私がメイカルトに戻るまでには完成するようなので、メイカルトのギルドで完成報告の手紙を受け取るように言われた。そして南門を抜け、メイカルトに向かう。


「メイカルトは久しぶりだね」

「うん!」

「久しぶりですね」

「包丁ができるまでいてもよかったのに」

「初めての場所は気になる」

「リオンも初めてー」

「気に入ると思うよ」


 私が笑顔でそう言うと、ハドックがおもむろに口を開く。


「ところでレイア様」

「なに?」

「あやか殿への手紙はよろしかったのですか?」

「あ…」


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