4-6.5:ふうか視点
「あやかとふうか、どちらかを次のギルドマスターにするつもりです」
鬼福の里では、元冒険者でなくともギルドマスターになることができます。その候補に私たち双子の姉妹が選ばれてしまいました。
「あやか、どうするの?」
「どうするって言われても、しきたりみたいなものだし、従うしかないわ」
姉のあやかは妹の私より立派です。頭がよく、魔法の扱いも長けています。冒険者ランクで言えば私はB級相当。あやかはA級相当の力を持っています。
私たちはギルドマスター候補として冒険者ギルドで働き始めました。鬼人族でもこの仕組みを知っている者はごくわずか。「ギルドで働いている人がギルドマスターになる」ぐらいの認識です。噂ではギルドマスターを務めた者が次の族長になるとか。事実、現在の族長も元々はギルドマスターでした。
「族長になるのは嫌だなー」
「そんな噂ほっときなさい、今は仕事よ」
「はいはい」
ギルドではあやかが受付兼鑑定、私は受付と書類仕事を担当していました。ギルドではその人の適性を確かめるために一通りの仕事を経験させます。そして最終的に適性の高いところに配属されるのです。あやかはほぼ全ての仕事で高い適性があり、私は書類仕事の適性しかありませんでした。
「あやかはなんでもできるね。あやかが族長なら安心できるよ」
「それは…」
「あー、たいちさんのこと?もう少しランクが高くないとねー」
「仕事に戻りますよ」
「あ、仕事モードになった」
その後も私たちはテキパキと仕事をこなしました。ギルドで仕事をするようになってから数年経った頃。
「そう言えば、たいちさん帰ってこないね」
「そうね。最後の手紙は魔法国からだったかしら。そのうち帰ってくるわ」
そこからさらに数年経ってもたいちさんからの手紙は届いていないようでした。鬼人族やエルフ族は長命種。時の流れは人間とは違います。しかしギルドで働くようになり、人間との関わりが増えていくに従って、その感覚が少しずつ変わっていったのかもしれません。
手紙が届かなくなってから十年ほど経った頃でしょうか。あやかが突然消えました。「たいちを見つけるまで帰らない」という書き置きを残して。
「では、次のギルドマスターはふうかに任せます」
「あやかはどうするのですか?」
「どうもいたしません。勝手に消えたのです。生きるも死ぬも彼女次第」
「戻ってきたら?」
「その時は快く迎え入れますが、ギルドマスター候補からは外します。それよりも、彼女は戻ってくると思いますか?」
「たいちさんを見つけるまではおそらく…」
「そのたいちも長らく音信不通なのでしょう?」
「はい…」
「強いのですか?」
「C級の冒険者です」
「そうでしたか。であれば…」
あやかもそれはわかっているはずなのですが、諦めきれないのでしょう。その後は私がギルドマスターになり、今日に至ります。あやかやたいちさんからの連絡は一切ないまま時が過ぎましたが、二人を心配しない日はありませんでした。
私がギルドマスターになってから数年後、交易都市メイカルトの冒険者ギルドで、あやかが働いているという情報が入ってきました。それでもあやかからの連絡はありません。こちらから連絡を取ることも考えましたが、当時のメイカルトのギルドマスターがこっそりと私に教えてくれたことがあります。あやかは鬼人国を捨てる覚悟でたいちさんを探しに出掛けたそうです。
十年も連絡がなかったのです。冒険者が急に消えることは「死」を意味します。なぜメイカルトのギルドで働き始めたのかについては、交易都市ということで人の出入りが多いことが理由だそうです。
あやかも自分で探せるところはすべて探したのでしょう。それでも諦めきれず、人の出入りが多い都市、かつ冒険者ギルドであれば見つかる可能性があるかもしれない。
「今のあやかは角もないし、見た目も人間と変わらないけど、人間の速度で老けないから大丈夫かな?」
私はそんなことを考えながらギルドマスターとして過ごしていました。あやかが消えてから五十年ほど経った時、一人のビーストテイマーがやってきました。これはギルドマスターの間では共通認識となっていることですが、このビーストテイマーのレイアさんは要注意人物となっています。
ビーストテイマーであること。珍しいモンスターばかりを使役していること。その使役モンスターにジュエルレーンディアがいること。そして、各地でなにかしら問題を起こすということ。
「お、ふうか。さっきな、ビーストテイマーのレイアが来てお前に会いたがってたぞ。日が落ちる前にまた来るように言っておいたから頼むぞ」
「わ、わかりました」
しかし、僥倖は突然訪れます。
「私に用があるそうですね」
「はい、手紙とペンダントを預かってて」
鞄に擬態したミミックなんて初めて見ましたが、そのミミックがとんでもないものを取り出したのです。それはあやかの角。あやかの角を持っているのは一人しかいません。鬼人族にとって角は種族の象徴であり、象徴である角を渡す相手は人生を共に歩む者。つまり、夫婦になる相手に渡すのです。今でもあやかはたいちさんの角を大切しているはずです。
私はそれを見た時、希望が見えましたがその後ろには絶望も立っていました。
「ちょっと待って!?その角はどうしたの!?」
「これはある人から預かって…」
「ある人って誰!」
「たいちさんという、鬼人族の男性です」
「そんな、まさか…」
私は手紙を手に取りました。たいちさんは私とあやかがギルドマスター候補だったことを知っています。ならこの手紙はもしかすると、ギルドマスターになっているであろうあやか宛の手紙。私は手紙を読まずにレイアさんに謝罪しました。その後、レイアさんにあやかの角を本人に見せる時の注意と一緒に、私からあやかへの手紙を託しました。
「レイアさん、これは私からの特別な依頼として受けていただけませんか?」
「あやかさんに届けるのをですか?」
「S級相当の報酬を支払います」
「え!?」
「ですから、一日でも早くお願いします」
私はレイアさんに頭を下げてお願いしました。私が頭を上げた時、レイアさんと足元にいる小さな藤狐が困った顔で見つめ合っていました。
「あの…、明日また来ます。少しだけ考えさせてください」
レイアさんはそう言って、手紙と角を置いたままギルドを後にしました。冒険者として報酬は高ければ高いほど嬉しいはずです。お金で解決するのも気が引けましたが、私にできるのはこれぐらいなのです。
「あの表情はどこか悲しんでいるように見えましたが…」




