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4-5:再会

折り返し地点です。

 獣人国と鬼人国の関所を抜けてから数日。私たちは鬼福の里に到着した。里全体の建物は古風な造りだが決して古いわけではなく、厳かな見た目の中に温かみを感じる。


「そういえば、タマモってどこにいるのかな?」

「わかんない」

「聞くのを忘れておりました」

「でもここにいるんだから会えるでしょ?」

「ここではあのように大きな姿では窮屈であろうから、いつもの小さな姿ではないか?」

「リオンより小さい?」

「リオンより小さいけど強いよ」


 私がしゃがんでリオンを撫でながらそう言うと、二人の少女が声をかけてきた。一人は、袖は肘、裾は膝ほどの濃い緑と白を基調とした見たことのない衣装。金髪で短めのボブカットの頭には緑色のヘアバンドをつけている。


 もう一人は、若草色の見たことのない衣装で袖口が広く、裾は咲いた花が下を向いているかのように広がっている。長めの裾は地面に接触しておらず、魔法で浮かせているように見えた。タマモを思わせる美しい藤色でふんわりとした長髪が、若草色の衣装に良く映えている。


「こんにちわー」

「こ、こんにちは」

「ほらね?言った通りでしょ?」

「はい…、残念です…」

「あの…」

「あ、こっちの話だから気にしないで。それより、タマモって子を預かってるんだけど」

「本当ですか!?タマモはどこにいますか!?」


 私の勢いに金髪の少女は驚き、もう一人の少女は嬉しそうな悲しそうな顔をしている。


「あー、そのー…。道案内はこの子に任せるから。じゃ、あとはよろしく!」

「ルルさん!」


 ルルと呼ばれる金髪で活発そうな少女は走ってどこかへ行ってしまい、私たちと若草色の衣装を身にまとった少女が残された。私がみんなの顔を見渡すと、ピーちゃんとリオン以外は驚いていた。


 ピーちゃんはニコニコとした笑顔、リオンは新しい場所に興味があるようで、キョロキョロを頭を動かし続けている。すると、ピーちゃんは残った少女の頭に乗る。


「ピーちゃん!」

「大丈夫ですよ。レイアさん、行きましょう」

「は、はい!」


 少女が歩き出したので、私たちもそれに続く。私たちの前を歩く少女の頭には、楽しそうに体を揺らすピーちゃんが鎮座する。私はピーちゃんが失礼なことをしないか心配しながら少女の後を歩いていた。


──あれ?そういえば私って名乗ったっけ?うーん、あ、タマモから聞いたのかなぁ?


 少女についていった先は「福々堂」という衣服を取り扱うお店。お店の中には美しい布が数多く展示してある。少女に続いて中に入ると、さっきの金髪の少女を含めた四人が私たちに挨拶をする。


「いらっしゃい」

「よく来たな」

「お疲れさまでしたぁ」

「賭けはどうだい?」

「もちろん、タマモの一人負け」

「え?」

「タマモです…」

「声はそっくりだけど、タマモってこれくらい小さくて…」

「レイア、この子がタマモ!」

「見違えましたが、魔力はタマモ殿と同じでございます」

「レイアって魔力で誰だか判断してなかったのね」

「このようなことができるとは恐れ入った」

「リオンっていうの、よろしく」

「よろしくお願いします…」

「人間にしか見えないよ?タマモは人間になったの?」

「いつもの反応だね」


 タマモと呼ばれる少女は泣きそうな顔をする。


「し、仕事に戻るぞ」

「私も戻りますねぇ」

「わ、私も!」

「逃げたね」

「タマモ、なの?」

「はい…」


 人の姿となったタマモの声は泣いていた。一人残った背の高い女性はその光景を微笑ましく、懐かしそうに眺めていた。そしてゆっくりと口を開く。


「タマモ、ここ使いな」

「はい…」

「あんたたちはダメだよ、鞄のミミックもね。それから杖も置いてきな」


 そう言って、女性はタマモの頭の上にいるピーちゃんを取り上げ、自らの腕の中に収める。私はパーラを降ろし、杖を預けた。そして、タマモと一緒にお店にある三つの扉のうちの一つに入る。そこは数人が入ることのできる小さな部屋となっており、大きな鏡が設置されている。ハドックは私の護衛を拒否されたことで少し怒っているようだったが、タマモがなだめる。


「ハドックさん、大丈夫ですから」

「タマモ殿がそうおっしゃるのであれば」


 私とタマモが小部屋に入ると、女性が扉を閉めながら言う。


「外に声が漏れないようにしてあるから聞きたいことは全部聞くんだよ」

「はい…」


 タマモが返事をすると扉が完全に閉まり、小部屋の中は私とタマモの二人きりになった。




「さてと、あんたたちはあっちでお茶…、は飲めそうにないね。お菓子でもどうだい?」

「食べる!」

「リオンも食べる!」




 小部屋の中で、タマモは後ろを向いたまま口を開く。


「レイアさん」

「は、はい」

「レイアさんがこの姿に気づかないことはわかっていました。自分でも驚いています。ただ一つだけ、予定より到着が遅れた理由を聞かせてください」

「それはね…」


 タマモに悪いと思いながらドラゴンを追ったこと。ダンジョンを見つけて攻略したこと。タマゴだったリオンを見つけたこと。ギルドの指示に従ってもう一度ダンジョンに行ったこと。それぞれをできるだけ正確に説明した。


「一日でも早くタマモのところに行きたかったんだけど、ごめん」


 私が説明を終えて謝罪すると、タマモはこちらを向く。私の話を聞き、落ち込んでいた顔はすっきりとした表情に変わっていた。


「いつものドラゴンが飛んでいたならレイアさんはそれを追うべきです。私とレイアさんがそうして出会ったように」


 タマモはそう言うと光り出した。光が収まると、私の知っている小さなタマモが姿を現す。


「これで信じてもらえますか?」

「うん。ごめんね、ごめんね…」


 私はタマモを抱き上げ、抱きしめる。そのままタマモを撫でながら謝罪を続けた。タマモも私の胸に頭を擦り付ける。


「レイアさん…、苦しいです…」

「あ、ごめん」

「そろそろ戻りましょう」

「うん」


 私はタマモを抱いたまま小部屋から出ると、先ほどの女性とハドックが待っていた。


「他のみんなは?」

「奥でお菓子をいただいております」

「奥に行こうかね」


 私はタマモを抱いたままハドックと一緒に女性の後を追う。奥に進むとパーラとリオンがお菓子を食べ、ケリュスはイチゴを頬張っていた。その隣では、ピーちゃんが三人の男女に囲まれていた。


「おい、あんまりピーちゃんをいじめてやるな」

「いじめているわけではない」

「いじめてませんよねぇ」

「いいじゃん、久しぶりなんだしー」


 ピーちゃんはタマモを抱いた私を見つけると、三人の魔の手を振り切って、私の頭上に舞い降りる。


「そこが特等席かい?」

「はい」


 私がそう答えると、四人は笑顔のままだったがその笑顔には悲しみが含まれているように感じた。


「あんたたち、仕事終わったのかい?」

「俺は終わってる」

「私も終わってますよぉ」

「…」

「ルルはさっさと仕事しな!」

「あの、私は?」

「タマモはいいんだよ。話したいことがたくさんあるだろ?だから今日は帰んな」

「タマモはどこに住んでるの?」

「ここのさらに奥です」


 お店の奥のさらに奥。そこには同じような扉が三つ並んでいる。三つのうちの中央の扉がタマモの住む部屋だという。私が扉を開けると、そこには広い空間が広がっていた。


「え!?」

「広ーい!」

「これはガイア殿が使用していたものに近しいかと」

「っていうか同じものじゃない?」

「ここなら元に戻っても大丈夫そうだ」

「広いねー」

「タマモ、ここって?」

「魔法国の宿屋は広かったと思いますが、『ラージルーム』という魔法具を元にしているそうで、この部屋はレイアさんが持っている布と同じみたいです」

「扉が三つあったけど?」

「一つは魔法の練習をする時に入りました。もう一つの扉には入ったことがありません」


 広い空間の中央には、ガイアのマジッククロスにあったものよりもさらに大きな長机がある。入って右手には大きめのキッチン。その奥にはお風呂やお手洗い。一部屋丸々お風呂になっており、湯舟はタマモが大きくなった姿でもゆったり入れるほどの広さ。


 そして、長机を挟んで向かい側には扉が一つ。扉の先には二つの部屋が合わさったように広い空間となっており、私のマジッククロスにある大きさのベッドが三つ。そして大小様々なクッションや、小さなベッドが床に置かれている。


 ピーちゃんが大きなクッションに飛び込むと、リオンもピーちゃんの後を追い、クッションに飛び込む。


「二人ともダメだよ!」

「大丈夫です。私はここで寝泊まりしていますので」

「でも私たちは…」

「ホムラさんから、レイアさんたちが来たらここを使ってほしいと言われています」

「ホムラさんって?」

「背の高い、私とレイアさんとハドックさんを奥まで案内してくれた人です」


──あの人かぁ。でもここの人たちがタマモを助けてくれたんだから、ちゃんとお礼言わないと!


 私たちが寝室を出ると、タマモの言っていた「ホムラ」がイスに座っていた。高身長に白い肌。蒼の長髪に水色の瞳。頭には金色の髪留めを付けている。白を基調としたタマモが来ていたような衣装に、蒼の極太の帯の上から黒の細い紐が巻かれ、足元は草履を履いていた。


「勝手に入って悪いね」

「あの」

「なんだい?」

「タマモを助けてもらってありがとうございました」

「助けたなんて大げさだね。魔法の使い方を教えただけさ」

「でもなんでタマモは人間の姿をしていたんですか?」

「人間の姿になる魔法があるんだよ。ただ、誰でも使えるわけじゃないよ。ミミックの擬態能力と似たようなもんさ」


──すごい魔法があるんだなぁ。


 私が感心していると、少し真剣な表情をしたホムラが口を開く。


「レイア、この里に滞在する間は是非ここを使ってほしいと思ってるんだけど、どうだい?」

「お金は…?」

「金なんて要らないさ。食事も用意するよ」

「え!?それはダメですよ!タマモのこともありますし、こんなすごい部屋がタダなんて…」

「なら少しお願いを聞いてもらえると助かるね」

「私たちにできることなら」

「今すぐってわけにはいかないから、その時が来たらでいいかい?」

「はい」

「どれくらいここに滞在するつもりだい?」

「タマモはもう大丈夫なんですか?」

「基礎は終わってるけど、あとひと月はほしいね」


──一か月かぁ…。長いけどタマモのためだし、エルフ国は隣だから行って帰るぐらいなら大丈夫かなぁ。


「一か月間お世話になります」

「こちらこそよろしく頼むよ」


 ホムラがここで働いている人たちを呼ぶため退室。その間に、タマモは人間の姿に戻る。


「タマモは人間の姿になる必要あるの?」

「この姿を維持するのも練習なのです」

「どこからどうみても人間にしか見えないよ」

「今は大丈夫だと思いますが…」

「待たせたね」


 ホムラが他の三人を連れて戻る。


 「フォルス」と名乗る男性は、日焼けをした肌に白の短髪。上下はかなりゆったりとした藍色の半袖と短パンで、袖を肩までまくっている。頭にはてぬぐいを巻き、草履を履いている。


 そして「サクヤ」と名乗る女性は、水色の瞳を持ち、黒の長髪を細い棒状のものでまとめており、棒の先端には紐でできた花があしらわれ、髪の毛先は薄っすらとピンクに染まっていた。衣装はホムラと同じようなもので、薄いピンクを基調に黒の極太の帯の上から緑色の細い紐が巻かれ、足元には草履。


 最後の一人はタマモと一緒にいた少女のルル。


「よろしく頼む」

「よろしくお願いしますねぇ」

「よろしくー」

「よろしくお願いします!」


 私がそう返すと、ホムラとサクヤとルルが私に近付いてくる。


「じゃあやるかい」

「そうですねぇ」

「やろう!」

「タマモも手伝え」

「は、はい!」

「あの…」


 私はホムラたちに連れられ、寝室に戻る。寝室に入ることが許されたのはパーラのみ。他のみんなは寝室の外で待機となった。


「タマモ殿」

「ハドックさん、悪い方たちではないので私に任せてください」

「ではお任せいたします」


 タマモとハドックの会話が終わると、タマモが寝室の扉を閉めた。扉が閉まると、ホムラとサクヤが魔法で私の身ぐるみを剥がす。


「え!?」

「ほら、じっとしてな。採寸できないだろ」

「大丈夫ですよぉ」

「うんうん」

「レイアさん、少し強引ですが我慢してください」

「う、うん…」


 採寸が終わり、私は服を着る。タマモとパーラに手伝ってもらっていると、部屋の端の方で三人が会話をする。


「まだ子供だからあれかい?」

「成長に合わせて作り直せばいいと思いますよぉ」

「いつもそうしてるんでしょ?」


 その会話は私たちには聞こえなかった。私たちは寝室を出る。ホムラはフォルスにも採寸結果を見せた。四人は少し会話をすると頷き、ホムラ以外の三人はお店に戻っていった。


「レイア、夕食はこっちで用意していいかい?」

「お、お願いします」

「じゃあまた後でくるからね。話したいことがたくさんあるだろ?」

「はい!」


 ホムラも店に戻ると、私とみんな、そしてタマモだけになる。


「はぁ、なんか疲れた」

「なにしてたのよ?」

「採寸です」

「ということは、レイア様の服をお作りに?」

「そうなります。ところで皆さん、私がいなくなったあとの話を聞かせてください」

「さっき私がしたよね?」

「レイアさんからは聞きました。でもピーちゃんやハドックさん、パーラさんにケリュスさん。それからリオンさんからは聞いてません」

「わたくしたちから見た冒険のお話を聞きたいのでは?」

「レイアは危なっかしいから苦労が絶えなかったわよ」

「うむ」

「ママはリオンが守る!」

「レイアさんはママになったのですか?」

「ちが…、わないけど、違うの!」


 そんなやり取りを、ピーちゃんは笑顔で聞いていた。


「ピーちゃんは楽しそうだね」

「うん!タマモと会えたから!」

「あ、そっか。タマモ、おかえり!」

「おかえりなさいませ」

「おかえり」

「無事でなにより」

「おかえりー」

「あ…、ただい…」


 タマモは涙を流す。姿が変わろうとも受け入れてくれたみんなの想いをタマモは理解したようだ。人間の姿で泣くタマモの周りにみんなが集まってなだめると、タマモに変化が起こった。タマモの頭から大きな狐の耳が生え、豪華な衣装の下からは九本のふわふわとした尻尾が現れた。今のタマモは人間と言うより、獣人族の見た目とそっくりだった。


「タ、タマモ、耳と尻尾が…」

「耳と尻尾ですか?…あ!」


 タマモは慌てて両手で耳を撫でる。何度か撫でると耳は消え、それと同時に尻尾も消えた。


「今のは?」

「今のは…、私がまだ一人前ではない証拠です…」

「まだダメなんだ」

「はい。私の魔法では不完全といいますか、なにかの拍子で今のようになってしまいます」


 その後、タマモがいなくなってからの冒険の話をみんなが語る。タマモは常に笑いながら、楽しそうにみんなの話を聞いていた。


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