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4-3:三人の獣人とダンジョンへ

 私たちはクロスファングに向けて出発。ここで驚きだったのは、リオンが飛べないことだった。翼はあるものの、飛び方を知らないようだった。たまに飛ぶピーちゃんを見て翼を動かすも、飛ぶ様子はない。


「リオンは飛べないの?」

「どうやって飛ぶの?」

「ピーちゃん、教えられる?」


 私たちは足を止め、リオンに飛ぶ練習をさせる。ピーちゃんとリオンが少し離れたところで翼をばたつかせている間、私は残ったみんなと話をする。


「ケリュスに朝言われたことなんだけど、私はリオンを強くしようと思う。私を守れるぐらいじゃなくて、自分自身を守れるぐらいには成長してほしいと思ってる」

「うむ、今はまだ赤子同然。戦力どころか足を引っ張る存在となる」

「しかし、あの頭のよさは気になるところです」

「頭いいの?」

「生まれたばかりにしてはかなり知能が高いわよ。好き嫌いもなんとかなってくれるといいんだけどね」

「戦闘経験も積ませなければならんが、翼があるのに飛べないのではな」

「じゃあ飛べるようになったら戦わせてあげないとね」

「魔法の確認も必要かと」

「食料も見直した方がいいわよ。大きくなったらケリュス以上に食べる気がするわ」


 リオンに対しての方針が決まり、私たちはピーちゃんとリオンの飛ぶ練習を見守る。私たちがクロスファングに戻ったのは一週間後。飛ぶ練習をさせながらゆっくりと戻った結果、通常よりも遅れてしまった。


 リオンは毎日少しずつ大きくなっているように見える。帰路の一週間で飛ぶことは叶わなかった。魔法の発動もまだない。私たちが北門に近付くと、門番が驚く。


「お、おい、それって『グリフォン』じゃないか?」

「グリフォンなんですか?」

「ああ、だが少し…。ちょっとここで待ってろ」


 私たちが北門で待っていると、ベスタフが慌てた様子でやってきた。ベスタフはリオンを見て、頭を抱えながら言う。


「レイアは問題児だと聞いていたがまさかここまでだったとは…」

「えっと…」

「その『グリフォンエンペラー』の子供はどうした?」

「グリフォンエンペラー?」

「そうか、グリフォンについてはなにも知らんか」


 ベスタフはそう言うと、グリフォンについて説明を始める。グリフォンは頭がよく、強靭かつ頑丈な肉体を持つ。使用魔法は風、光、雷。そしてグリフォンの中でも特殊な個体として、グリフォンエンペラーが存在し、黄褐色の毛並みがその証。通常のグリフォンよりも一回り大きく、さらに強くなるという。


「山頂まで行ったのか?」

「行ってません。山の麓にダンジョンがあって、そこの近くにタマゴが落ちてました」

「ダンジョンにタマゴ?待て待て待て、詳しく話せ」


 私はダンジョンとタマゴについて話す。ダンジョンモンスターの角をパーラに取り出してもらい、ベスタフに見せる。


「これはホーンボアの角だな。そして赤のダンジョンか。コアは破壊したか?」

「してません。ギルドに聞いてからの方がいいと思って」

「それは助かる、ホーンボアは角と肉が使える」

「食べられるんですか?」

「赤身でうまいぞ」

「そうですか…」


 肉を回収してこなかったことに私が後悔していると、タマゴについてベスタフが尋ねる。


「タマゴの近くにグリフォンはいなかったんだな?」

「はい」

「ならそのタマゴは山頂から転がってきた可能性が高い」

「割れないんですか?」

「グリフォンのタマゴは頑丈だ。そこらへんの剣じゃ、剣の方が刃こぼれしちまう。それにグリフォンエンペラーのタマゴとなればもっと頑丈かもしれん」


──タマゴの殻はパーラが収納してるって言ってたっけ。


「ワイバーンとグリフォンがやりあった時にでも落ちてきたんだろう」

「この子を登録したいんですけど」

「登録はいいんだが、大丈夫なのか?」

「なにがですか?」

「いや、レイアには今更だったな。今の仲間にグリフォンが加わったところで対して変わらんか」


 私たちはギルドに向かう。門はベスタフと一緒だったので問題なく抜けることができた。問題と言えば、行き交う人々の視線がリオンに釘付けとなっていることだ。本人は初めての場所でキョロキョロしながら私の足元を歩き、時折上を向いて私の顔を確認すると笑い、また周囲を見回し始める。


──頭がいいってこういうことなのかなぁ?


 ギルドに着き、ギルドマスターの部屋まで行く。大きなソファに私が座ると、リオンもソファに上がり私の隣に伏せ、頭を私の膝に乗せる。その様子を見たベスタフは口を開いた。


「その様子を見るとまだまだ子供のようだな」

「生まれてからまだ一週間なので」

「クロスファングの中で暴れなければそれでいい。さて、登録が終わるまでダンジョンの詳しい話をしよう」


 ダンジョンについて詳しく説明すると、ベスタフが笑顔で感謝を述べる。


「レイアには感謝する。場所に問題はあるがこのあたりにダンジョンはなくてな。それに赤のダンジョンで角と肉が取れるならそれだけで十分だ。あのダンジョンはギルドで管理させてもらう。それから報酬も払うぞ」

「報酬ですか?」

「ダンジョンの発見と攻略に対してだ。コアの破壊はしていないが、最奥まで見ているなら問題ない。ただ、可能ならジルバと一緒にもう一度ダンジョンまで出向いてほしい」

「鬼人国に行きたいんですけど…」

「無理を承知で頼む。ダンジョンの確認が済んだらそのまま鬼人国に向かっていい」

「ダンジョンから直接向かっていいなら」

「助かる。遅くとも明後日には出発できるようにする。それから、ホーンボアの角は買い取りに出すか?」

「買い取ってくれるなら出します」

「なら明日までにダンジョンの報酬と買い取り分を用意しておこう」


 ダンジョンで手に入れたホーンボアの角をベスタフに渡す。その後、リオンの登録が済んだギルドカードをパルニーが部屋まで持ってきた。私はパルニーから新しいギルドカードを受け取り、そのまま一緒にギルドマスターの部屋を後にする。ギルドマスターの部屋から帰る短い道中、パルニーが口を開く。


「あのレイアさん」

「なんですか?」

「その、グリフォンに触らせてもらえませんか?」

「リオン、触りたいんだって」

「キュイ」

「触っていいみたいですよ」


 リオンの許可を得たパルニーは恐る恐る頭を撫でる。頭から胴体、翼、尻尾まで触り、パルニーは満足そうな笑顔を見せ、触られていたリオンもまた、満足そうな笑顔だった。


「ありがとうございました!」

「グリフォンって珍しいんですか?」

「珍しいのはレイアさんの方ですよ、ビーストテイマーですからね」


 私たちはギルドを後にし、宿屋に向かう。宿屋の人も驚いていた。まだ日は高いが、宿屋で今後について話し合う。


「もう一度ダンジョンに行って、そのあとでタマモのいる鬼人国に向かいます!」

「ママ、タマモってなに?」

「私たちの仲間だよ」

「飛べるの?」

「飛べないね」

「そっか…」


 リオンは残念そうに呟く。そんなリオンを撫でていると、パーラが口を開く。


「ところでレイア、食料っていうか、肉か肉料理を追加した方がいいわよ。でもまだ地竜の肉が残ってるから肉料理の方がいいかもね」

「じゃあ買い物に行こっか。あ、リオンのお皿も買わないとね」


 宿屋を後にし、買い物に出掛ける。よく食べるリオンのため、私とパーラは肉料理を探す。いくつかの店を回り、肉料理を購入。パンに肉を挟んだもの、肉を揚げたもの、大量の肉団子。どれもシンプルなものばかりだが、みんなで味見をした結果、美味しいという評価を得たものばかり。次に向かったのは食器を取り扱う店。


──リオンは黄褐色だから、黄色でいいかなぁ?


 私が黄色のお皿を手にすると、小さくなっているケリュスが口を開く。


「レイアよ、今はその大きさでもよいが、いずれわれと同じかそれ以上に成長する。皿もわれと同じ大きさかもっと大きいものの方がよいぞ」

「うーん、じゃあ二枚買おうかな」


 私はリオンのために、お皿の縁が黄色になっているもので、私たちが使うものと同じ大きさのものを一枚。そして成長した時のため、ケリュスのお皿より一回り大きなものを一枚。これも縁が黄色に塗られている。


 買い物を終えたが、日が落ちるまでまだ時間がある。残りの時間、私たちは北門から平原に出て、ピーちゃんとリオンの飛ぶ練習を眺めて過ごした。


 翌朝、私は宿屋の大きなベッドで目覚める。リオンが仲間になったばかりの頃、私が起きる前にリオンが私の上に乗るのでその重さで目覚めていたが、注意をすることでそれもなくなった。素直で大人しいことも非常に助かっている。暴れることなく、ただただ私のそばをついてくる可愛らしいグリフォン。


 しかし、他の冒険者からすればグリフォンへの警戒心は強い。特にここではグリフォンの生息する山が近いことも影響している。朝食中も痛い視線を感じ、ハドックがピリピリしていた。リオンはそんな視線にもお構いなしで朝食を平らげる。


 朝食後、ギルドに向かう。例の三人の獣人も私たちに続く形でギルドの方向に歩き出していた。ギルドに入り、私たちと三人の獣人は依頼掲示板に向かう。互いに依頼を吟味していると、パルニーから声がかかった。


「レイアさんとライルさんたちもよろしいですか?」

「はい」

「なんだ?」

「依頼があるのでギルドマスターの部屋までお願いします」


 私たちはパルニーに連れられてギルドマスターの部屋まで行くと、ベスタフとジルバが待っていた。


「お前たちに依頼がある」

「俺たちだけじゃなくて、なんでこのガキも一緒なんだ?」

「最後まで話を聞け」


 ベスタフがフールを咎めると、ダンジョンについての話を始めた。話を終えると、三人の獣人が順に口を開く。


「話はわかった」

「このあたりにダンジョンはないから楽しみだな」

「今から行けばいいか?」

「レイアは今から行けそうか?」

「はい」

「じゃあ今から行ってくれ。それからレイアには報酬を渡しておく、ダンジョン分と買い取り分だ」


 私はベスタフから四つの袋を受け取り、パーラに収納してもらう。報酬の受け渡しが終わると、ジルバが口を開いた。


「お前ら、模擬戦は禁止だ」


 私たちと三人の獣人はギルドを後にし、北門に向かう。北門を抜けたところでライルが口を開いた。


「おい」

「は、はい」

「俺たちは一時的とはいえパーティを組む。お互いに自己紹介ぐらいはした方がいいと思うのだが」

「ご、ごめんなさい!D級のレイアです!頭のがピーちゃんで、この黒い鎧がハドック。この鞄がミミックのパーラ、ジュエルレーンディアのケリュスに、グリフォンのリオンです」

「俺はB級のライル」

「同じくB級のガイだ、よろしく頼む」

「B級のフールだ」

「よ、よろしくお願いします」

「そんなに怖がらなくても大丈夫だ。フールは知らんが、俺とライルはレイアのことを認めてる」

「俺も認めてるっていうか、グリフォンを仲間にしてるんだ。認めるしかねえだろ」

「ありがとうございます」

「よし、出発するぞ」

「ピー!」


 私が勝手に感じていたわだかまりも消え、ダンジョンに向けて出発。山の麓に広がる森に到着するまでは、ライルを先頭に、左側にガイ、右側にフール。ライルは白茶の獣人で大剣を担ぎ、ガイは黄色と黒の縞々で両手に鉄爪を装備。フールは白い毛並みで右目に眼帯をし、細かい金属のトゲが付いたグローブを装備している。


 私はガイとフールの間に入るようにして進む。ハドックとケリュスは最後尾。ピーちゃんはいつも通りの特等席でリオンは私の足元を歩く。足元にいるリオンを見ながらフールが口を開く。


「なあ、そのグリフォンは飛ばないのか?」

「練習中で…」

「それにずいぶんちっこいな」

「グリフォンはすぐでかくなるぞ」


 私の左側にいるガイがリオンを見ながら続ける。


「だがこいつはグリフォンエンペラーだろ?もう少しでかくなるな」

「どれくらい大きくなるんですか?」

「その鎧が乗れるぐらいだ」


 正面を向いたままライルが答える。私はその答えを聞き、後ろを振り返ってハドックを見る。


──ハドックが乗れるぐらいって嘘でしょ?ハドックだって大きいのに、乗れるぐらいって…。


 そして昼。私たちは昼食を取るために止まった。ライルたちはガイの持つ鞄から、肉の挟まったパンをたくさん取り出して食べ始める。私たちの昼食も同じようなものをパーラが取り出して食べ始めるとフールが言った。


「お前ら、主より食べるのな」

「私が一番小食で…」


 昼食後、私たちは歩みを再開。道中の布陣は変わらない。そしてモンスターとも出会わない、のではなく、時折先行するピーちゃんが倒して回っている。ライルたちは丸焦げになっているモンスターを見ると、ピーちゃんの強さを改めて実感しているようだった。


 リオンは自由に飛び回るピーちゃんを見ながら、私の足元を歩く。翼をぴょこぴょこと動かしているが、飛び立つ気配はない。夜になり、私たちは野宿を始めた。ライルたちはそのまま地面に座り込み、ガイが昼食と同じパンを取り出す。


 私たちはマジッククロスを出すことができないので、地面に布を敷いて座る。私が焚き火を準備している間にパーラがケリュスのお皿を取り出し、野菜やフルーツを積み上げる。その後、食器と鍋を取り出し、私たちの食事を準備する。


 鍋に入っているシチューの匂いにライルたちが反応した。三人はパンを食べる手が止まり、シチューで満たされていく皿に釘付け。シチューの匂いには慣れている私たちでさえ、パーラの作る料理の匂いには誘惑される。


「あの…、食べますか?」


 私の問いかけに、三人は無言で頷いた。


「うまいな!」

「うますぎるだろ!」

「うめえ!」


 そう言って、三人はあっという間にシチューを平らげる。食事を終えるとライルが話しかけてきた。


「夜の見張りはどうしてる?」

「ハドックがアンデッドなので毎回任せてます」

「こっちはいつも通り三人で交代しながら寝る」

「じゃあ私たちも…」

「アンデッドとはいえお前たちも見張りを一人出している。だから気にするな。それに夕食ももらったからな」


 見張りはハドックとライルたちに任せ、私たちは床に就く。私の左側にケリュスが横たわり、右側にはピーちゃんとリオン。パーラは私の頭のあたりを陣取り、ハドックは私の足元に立つことで、私を守るかのようにみんなが私を囲む。


 翌朝、私が目覚めるとハドックとガイが見張りをしていた。


「お、起きたか」

「おはよぉ…、ございます…」


 私たちは朝食を取り、ダンジョンへ進む。朝食でもライルたちはシチューを食べたそうにしていたので分けてあげた。


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