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4-2:リオン

 翌朝、部屋を出て食堂に行くと、とてつもなく広い空間で多くの人が朝食を取っていた。天井は高く、壁は遠い。宿屋を支える大きな柱がいくつも並んでいた。食堂には例の三人の獣人もいる。私たちと三人との席は離れていたが、向こうからの視線が痛い。


 朝食後、私たちはギルドに向かう。昨日のワイバーンのことと、山に向かうことを伝えておくためだ。山での依頼があれば受けることも考えていた。ギルドに着くと、昨日ギルドマスターの部屋に飛び込んできたパルニーが受付にいた。私たちはそこに向かい、彼女に話しかける。


「パルニーさん、おはようございます!」

「レイアさん、おはようございます。昨日はありがとうございました。レイアさんが来たら部屋に通すようギルドマスターから言われてますので、このまま奥にどうぞ」

「その前にレターセットが欲しいんですけど」


 私はレターセットを購入し、あやかへの手紙を書く。手紙を書いてディメンジョンレターに投函し、ギルドマスターの部屋に向かう。部屋にはベスタフが待っていた。私がソファに座ると、ベスタフは袋を三つ取り出す。


「昨日の報酬とワイバーンの買い取り分だ。素材に関しては昨日言った通りだ、すまん」


 パーラに袋を収納してもらうと、ギルドマスターが尋ねる。


「この後はもう出発するのか?」

「そのことなんですけど、鬼人国に行くのは少し先に延ばして、北にある山に行こうと思ってます」

「咆哮山か。昨日のワイバーンは山の中腹あたり、山頂にはA級のグリフォンがいる。その他にも厄介なものもいるが、グリフォンとワイバーンに注意しておけば大丈夫だろう」

「わかりました。それで、私に頼むはずだった依頼ってまだありますか?」

「いや、ワイバーンの討伐がやってもらいたかった依頼だ。それにレイアはB級になってないんだ、ワイバーン討伐の依頼も本来はダメだ。だが山に行った時にワイバーンがいたら討伐してもらいたい。またこっちまで来ると困るからな」

「わかりました」


 私たちはギルドを後にし、北門から咆哮山を目指す。


──そういえば魔法国に行く時にもドラゴンを見たけど、新しい仲間は増えなかったなぁ。


 五日ほど歩き続けると、山の麓にある森の前にやってきた。咆哮山と呼ばれる山の麓に広がる森は、メイカルトの西にある双峰森林とは別の雰囲気を感じる。神秘的は双峰森林とは対照的に、こちらは不気味な雰囲気を漂わせていた。ここに来るまでに山の上空を何かが飛んでいることも確認済み。私たちが森に入ろうとすると、ケリュスが口を開く。


「レイアよ、すまんが角がかゆくてな」

「かいてほしいってこと?」

「いや、皮を剥がしたい」

「え?」


 ケリュスは森の入り口の木に角を擦り付け始めた。すると、ケリュスの角の皮が少し剥がれ、薄い黄色に光る角が姿を現す。


「そうなってるんだ」

「うむ。だが角を落とすよりも時間がかかる」

「どれくらいかかるの?」

「わからぬ」

「剥がすの手伝っても大丈夫?」

「手伝ってもらったことはないが、試してみるのもよいか」

「私がやるわ」

「私も…」

「レイアはダメよ」


 パーラはケリュスの背に乗ると、触手を使って丁寧に皮を剥がしていく。ケリュスの角の皮を完全に剥がしたところで、森に入る。皮の剥がれたケリュスの角は光り輝き、薄暗い森の中では明かり代わりとなる。森に足を踏み入れてからはモンスターと出会わず、山の麓まで私たちは歩いた。モンスターと出会わないことに違和感を覚えた私は索敵魔法を使用し、モンスターの有無を調べる。


「サーチアイ!」


 私が索敵魔法を使うと、メイカルトの近くで入ったダンジョンとよく似た気配の配置。密集した気配の周辺にモンスターの気配がほとんどないことも酷似していた。密集した気配を感知したところまで来ると、以前と同じように大きな洞穴が口を開けていた。


「どうしようか?」

「入る!」

「そうなるよね。でも夜を森の中で過ごすのは危ないから少しだけね」


 私たちは洞穴に入る。ハドックとケリュスを先頭にし、ケリュスの光る角を明かり代わりに進む。少し進むとケリュスよりやや小さい、ずんぐりとしたモンスターと出くわす。それはE級モンスターのデュアルピッグが大きく成長したような姿。


 大きな二本の角に太い四肢。全身は茶色の毛で覆われているが、頭頂部だけは黄色い毛が生えている。そのモンスターが私たちに気がつくと、勢いよく突進してきた。その突進にハドックは身構えるが、ケリュスはモンスターに向かって駆け出していた。


「ケリュス!」


 私は叫ぶが、ケリュスは止まらなかった。ケリュスの角を明かりにしていたので、私たちは明かりを失う。しかし、ケリュスの角はモンスターに向かいながら輝きを増し、私たちのところまで光が届く。


「すごい光ってるよね?」

「あれは光魔法でございます」

「え!?ハドック、大丈夫?」

「この距離でも消耗していますので、かなりの魔力を込めているかと」


 私は慌ててハドックに支援魔法をかける。支援魔法をかけ終わると同時に、眩しいほどに光りをまとったケリュスの角と大きなモンスターの角が衝突。体格ではケリュスに分が悪いように思えたが、それを補って余りあるほどにケリュスの角の破壊力が勝った。


 ケリュスの光る角は相手の角をへし折り、さらにそのまま相手を弾き飛ばすと、ゆっくりと勢いを落として立ち止まった。ケリュスは弾き飛ばされたモンスターが沈黙したことを確認すると、私たちのところに戻ってきた。


「ケリュスって強いんだね!」

「弱いと思われていたのか?」

「いや、その、お風呂の水を出したり、防御膜ぐらいしか見てこなかったから…」

「ハドックが武器を持つように、われにも角が必要なのだ。角のない期間はどうしても戦えぬ」

「じゃあ角のある間は頑張ってね」

「うむ」


──タマモがいない分の戦力はケリュスがなんとかしてくれそうかなぁ。


 私がそう考えていると、パーラの怒りが爆発。


「ケリュス!その角で突進するのはやめなさい!折れたらどうするのよ!」

「あれで折れたことはない」

「でも冒険者に角を折られてたじゃない!」

「あれは連日の襲撃で疲労が…」

「とにかく!突進禁止!」

「そう言われてもだな…」

「パーラ、タマモがいなくなった分の戦力はケリュスに頑張ってもらわないといけないんだけど…」

「…。わかったわ。レイア、ケリュスにとびきりの支援魔法をかけなさい。それなら認めてあげるわ」


 私はケリュスに支援魔法をかける。「とびきりの」と言われてもよくわからなかったので、ハドックより少し多めに魔力を込めておいた。その後、私たちはケリュスが倒した大きなモンスターのところに向かい、二本の折れた角を回収して先へ。洞穴を先に進むと、同じモンスターが現れる。先ほどと同じく、こちらに気づくと突進をしかけてくるが、それもケリュスが突進で返り討ちにする。


 そんなことを何度か繰り返すと、最奥にたどり着いた。そこには今まで出てきた同種のモンスターよりも一回り大きく、頭頂部には赤い毛が生えているモンスターがいた。


──あれがコアを守ってるモンスターかな?ちょっと大きいけど、一体なら大丈夫かなぁ。


「ケリュス、倒せそう?」

「今までのより少し大きいのが気になるが、やってみよう」

「ぼくも行く!」

「レイア様、わたくしも」

「じゃあケリュスはここから突進、二人はケリュスの突進に合わせて!」

「うむ」

「わかった!」

「かしこまりました」


 ケリュスは角に光をまとうと、一気に加速した。それを見たピーちゃんとハドックは、少し遅れて向かっていく。コアを守るモンスターはこちらに気づいたものの突進を繰り出す猶予はなく、ケリュスの突進を二本の角で受け止める。巨体ゆえ、ケリュスの突進を受けても微動だにせず、突進を受け止めきった。


──え!?今まで一撃だったのに、受け止めた!?でも…。


 今回は後ろからピーちゃんとハドックが向かっている。ケリュスと大きなモンスターが角で押し合いをしている横から、ピーちゃんが風をまとって左脇腹へ突進し、ハドックは雷をまとって右脇腹へ斬りかかる。


 二人の攻撃を受けたモンスターは後ろに退くが、そこにケリュスが風をまとって短い距離を一気に加速し、追撃の突進を仕掛ける。モンスターはギリギリのところでケリュスの突進を受け止めるも、ピーちゃんとハドックの追撃を受けて沈黙。


「みんな強いね!」

「えっへん!」

「ありがとうございます」

「うむ」


 私はハドックに頼み、大きなモンスターの角を切断してもらった。その角はパーラが収納。最奥にある扉を開けると、赤い玉が浮いていた。


「レイア様、コアはいかがいたしますか?」

「うーん、一応ギルドに聞いた方がいいと思うからこのままにして帰ろっか」


 私たちは来た道を戻り、洞穴を抜ける。


「あれ?」


 洞穴を抜ける少し前、胸のアザが淡く光り始めた。洞穴の外は日が落ち始めており、早めに森を抜け、平原まで戻る必要がある。


──洞穴の外になにかいるのかなぁ?


 私がそう考えているとピーちゃんが特等席から飛び立ち、洞穴を出て左の方へ飛んでいった。ピーちゃんを追いかけると、そこにはピーちゃんよりも大きな黄色のタマゴがあり、ピーちゃんはタマゴの上に鎮座していた。


「レイア、この子」

「この子ってタマゴなんだけど…。え、それ?」

「うん!」


 私はピーちゃんごとタマゴを持ち上げようとしたが、タマゴが重すぎる。無理に持ち上げて落としても大変なので、私は持ち上げるのを断念した。


「持ち上がらないんだけど…」

「レイア様、わたくしが」

「割らないようにね」


 ハドックがタマゴを片手で軽々と持ち上げると、私たちはそのまま森を抜ける。森を抜けた頃には日が落ち、夜になった。森から少し離れた平原でマジッククロスの中に入る。ハドックがタマゴをベッドに置くと見張りのために外に戻り、入れ替わりでケリュスとピーちゃんが入ってくる。


「ではわたくしは外におります」

「わかった、なにかあったら呼んで」


 私たちは夕食を取り、床に就く。私はタマゴが落ちないよう抱えるようにして眠る。ピーちゃんは隣のベッド、パーラはソファ、ケリュスは小さいままベッドとソファの間の床に横たわっている。


 その日、私はおかしな夢を見た。私は白い空間にいた。そこには拾ったタマゴと私だけ。するとタマゴが割れ、中から現れたのは黄褐色の毛並みを持つ四足歩行のモンスター。背中には白い鳥のような翼が一対。お尻からは黄褐色の細い尻尾が生え、尻尾の先には茶色い毛が毛玉のように生えている。


「あ、生まれた。ピーちゃんとタマモより大きいかなぁ」

「ママ?」

「え?」

「ママ!」


 そこで私の夢は途切れた。


「ん…、重い…」

「ママ」

「ママって…、だれ…」

「ママ」

「重い…」

「はいそこまで。レイアが潰れちゃうでしょ。レイアも起きなさい、タマゴが孵ったわよ」


 私がゆっくり起きると、夢で見た黄褐色のモンスターがパーラの触手で縛り上げられていた。そのモンスターは、今にも飛び出しそうなところをパーラとケリュスが抑えている。


「抑えるの大変だったんだからね?」

「うむ、われも元の大きさに戻ってしまった。あとでまた小さくしてもらえるか」

「わかったぁ…」

「まだ寝てるわね」

「パーラよ、いっそ離してやったらどうだ?いやでも起きるであろう」

「そうね」


 ケリュスの提案にパーラは縛りを解き、黄褐色のモンスターを解放。黄褐色のモンスターは「ママ!」と叫びながら、私のところへ飛び込み、そのままベッドに倒れた。


「う…、重い…」

「おはよぉ…」

「おはよ」

「おはよう」


 ピーちゃんはこの騒ぎにも動じず、いつも通りに起きた。ハドックにもタマゴが孵ったことを話し、私たちはマジッククロスの外に出る。


「私から離れないんだけど、この子が昨日のタマゴから孵りました」

「名前は?」

「ママからもらうの」

「うん…。じゃあ、『リオン』で!」

「リオン?リオンはママを守る!」

「ぼくが守る!」

「リオンが守る!」


 ピーちゃんとリオンは互いに顔を見合わせて対峙するが、空腹の合図がそれを止める。


「ママー、お腹空いたー」

「ご飯にしたいけどなにを食べるのかな?」

「とりあえず色々与えてみればいいんじゃない?」

「そうだね」


 私たちは外で朝食を取る。


「これおいしくない」

「野菜嫌いなの?」

「こっちの方がおいしい」

「肉は食べるみたいね」

「これとこれはおいしい」

「パンとリンゴは食べられるけど、野菜が問題ね」

「こんなにおいしいものを嫌うとは許せん」

「まだ生まれたばかりだから…」

「レイアよ、モンスターの世界は生まれた時から弱肉強食。いつ襲われるかもわからん。われもそなたらに出会わなければあの時に絶えていたであろう」


──確かにそうだ。人間と同じに考えちゃダメだ。リオンを強くしないと。


 朝食後、私たちはリオンに自己紹介をする。


「ぼく、ピーちゃん!」

「ハドックと申す」

「パーラよ」

「われはケリュス」

「私はレ…」

「ママ!」

「ママじゃなくて、レイア!」

「ママはママ!」

「ママでいいんじゃない?」

「パーラ、楽しんでるでしょ?」

「バレちゃった?」

「ママでいいよもう…」

「ママ!」


 朝食中、私はパーラからタマゴの殻について説明を受けた。私が起きる前にリオンが孵り、タマゴの殻がベッドの上に散乱してしまったという。そのままでは起きた私が危ないと思い、収納してあるようだ。


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