3-10:タマモの魔力
昼食後、私たちは散策を続けた。そして日が傾き始めたところで宿屋に戻る。宿屋に戻ると、宿屋の前ではステラが待っていた。
「レイアさん、おかえりなさい」
「ノエルさんはどうしたんですか?」
「ノエルはギルドでレイアさんを待っています。レイアさんがギルドと宿屋のどちらに来るかわからなかったので、別れて待っていました」
「なにか用があるんですか?」
「ダンジョンの報酬と素材の用意ができたようなので、受け取りに行きましょう」
ステラと一緒にギルドに向かう。ギルドの入り口付近にはノエルが立っていた。
「む、レイアは宿屋に行ったか」
「たまたまですよ、拗ねないでください」
「拗ねてない」
少しだけご機嫌斜めなノエルを先頭にしてギルドに入ると、ヘレスにそのまま奥へ案内された。
「お待ちしておりました」
「レイアに報酬を頼む」
「私だけですか?」
「私たちはもういただきましたので」
「ではレイアさん、こちらに」
ロマリスの使用する大きな机の前に私が立つと、小さな袋とパンパンに詰まった袋を四つ取り出す。
「まずこの小さな袋ですが、黒のかけらになります。それからこちらの四つの袋はダンジョンの攻略報酬と、肉以外の買い取り分になります。地竜の素材ですが、損傷が大きく買い取れる部分が少量でした。レイアさんにお渡しする肉に関してもそれほど多くの量にはなりません」
──どんな戦い方をしたのかなぁ?タマモが大きくなったから爪かなぁ?ノエルさんとステラさんもいたし、ピーちゃんとハドックも戦ったと思うんだけど。素材の損傷が激しいぐらい厳しい戦いだったのかなぁ?
「わかりました」
「それから、こちらがレイアさんの新しいギルドカードになります」
「え?」
ロマリスが机の上に置いたのは「B級」と書かれたギルドカードだった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか!?」
「レイアさんのご活躍をランクに反映させていただきました」
「え、あ、あの、私は…」
「レイアさんはオクトパスリーダーに、赤のダンジョンの単独攻略、黒のダンジョンの攻略。これだけでも十分B級に相応しい冒険者です」
「レイア、私たちがレイアたちの強さを確認している」
「そうですね。控えめに見積もってもB級の実力はありますよ」
──D級からB級にいきなり上がるって…。ダンジョン内の戦闘も見てないし、タマモがどれくらい強かったかもわからないのに…。でも二人はB級の実力はあるって言ってるし、私は強くなってなのにいいのかなぁ…。
「わかりました…、ありがとうございます…」
「嬉しそうじゃないな」
「だって私はダンジョンで戦ってませんし、タマモの強さも見てないし…。B級って言われても納得できないというか…。そもそも依頼だってほとんど受けてませんし…」
「私も九尾の狐の強さは気になるところです」
「ステラ、どうする?」
「そうですね…。レイアさんとロマリスがタマモさんの強さを見て、納得できれば憂いなく昇級、ということでどうでしょう?」
「私は構いません」
「私もタマモがどれくらい強くなったか確認できればそれでいいです」
「では私と戦ってもらいましょう」
「え!?」
驚く私以上に、足元のタマモが驚き、ステラの顔を見上げていた。翌朝、ロマリスを含めた私たちは、北門から平原に出る。ステラが闇魔法で広範囲を包み、外からの視界と内部の音を遮断。さらに、闇魔法の中に防御膜を三重に展開した。
「ここはこれでいいでしょう。ロマリス、そちらの守りは任せます」
「お任せください」
ロマリスは私たちを覆うように防御膜を展開する。
「ではタマモさん、行きましょうか」
「コン!」
「タマモ…」
「レイア、タマモはステラに勝てるほど強くない。それにステラならケガをさせることもない」
「はい…」
タマモが強くなったとはいえ、どれほど強くなったかわからない。そして相手はステラ。S級冒険者であり、モンスターではなく人が相手となると、タマモがどこまで戦えるのかわからなかった。私が心配事で頭をいっぱいにしていると、ステラとタマモが短く会話をしてから距離を開けて対峙する。
「ではタマモさん、大きくなってください」
「コン!」
ステラの指示に従い、タマモは九尾の狐になる。
「タマモさん、あなたの強さをレイアさんに見せてあげるために、私のことは気にせず本気で来てください」
「コン!」
タマモとステラの模擬戦が始まった。模擬戦が始まるとステラはタマモに火の玉を放つ。それを見たタマモは、同じような大きさの火の玉を尻尾の先から放ち、相殺する。
「さすがです。では…」
ステラは火の玉を九つ作り、タマモに向けて放つ。タマモは真似をするように九つの尻尾の先から火の玉を放ち、相殺していく。その後も、タマモはステラの放つ火の玉を相殺しつづけていく。火属性の相殺、氷属性の相殺。その次は風属性の相殺。地、水、光、闇、氷、雷、全ての属性を放つステラに対して、タマモも同じ属性で相殺を続ける。
──え?タマモって火と氷と光しか使えなかったと思うんだけど…。
「まだ制御の甘いところがありますがこれで最後としましょう」
ステラがそう言うと、全属性の玉を一つずつ作る。タマモも同じように九本の尻尾に一つずつ玉を作る。しかし一つ多い。中央の尻尾の先には純白の玉が生成されていた。
「まずい!」
ノエルがそう叫び飛び出そうとするよりも先に、ピーちゃんが私の頭上から飛び出していった。
「ピーちゃん!」
「大丈夫!」
「む?」
私の叫ぶ声が聞こえたのか、炎を纏いながら飛んでいくピーちゃんは返事をする。タマモが九つの玉を放ったのを見たステラは、仕方なく八つの玉を放った直後、自身を覆うように防御膜を何重にも展開し始めた。
「やはり師匠と同じ。これで多少の軽減ができれば…」
ステラがそう呟いた時、タマモとステラの放った属性玉は一つを残して相殺。残った純白の玉はステラに向かって飛んでいく。その時、ピーちゃんがステラの展開した防御膜の前に到達し、ステラの前で静止する。
「ピーちゃん!危ないですよ!」
「大丈夫!」
「今なんと…?」
ピーちゃんは自らとステラを包み込むように炎を操り、巨大な炎柱を立てた。その炎柱からは見た目通りの熱が伝わってくるが、ただ熱いだけではなく、優しさを感じる。そしてこの炎柱は、ステラが展開した半球状の闇魔法と防御膜をバリバリバリッ!と破壊し、タマモの放った純白の玉が炎柱に当たると、大きな衝撃が起こる。
「ロマリス!」
「はい!」
ノエルが叫ぶとロマリスが防御膜を追加で展開する。その衝撃は予想以上に大きく、ロマリスの作った防御膜を破壊しかけた。私はピーちゃんとタマモの心配をするが、ピーちゃんは炎柱の中にいるので確認できず、タマモはその場に伏している。
──ピーちゃんは大丈夫だと思うけどタマモは大丈夫なのかなぁ?でも攻撃を受けたわけじゃないのに、なんで伏せてるんだろう。
衝撃が収まると大きな炎柱も消える。ステラの周囲はピーちゃんの炎柱によって、円形に焼け焦げた跡が付いていた。私たちは炎柱の中にいたステラの元に向かう。それを見たタマモもステラの元に行こうと立ち上がるが、力が入らない様子。
私が立ち上がれないタマモの元に向かうと、みんなは私と一緒に、ノエルとロマリスはステラの元にそれぞれ向かう。
「タマモ!」
「レイアさん…」
「大丈夫?」
「魔力が…」
私はタマモの魔力量を調べるため、タマモに触れる。すると、タマモの魔力は珠半個分ほどしか残っていなかった。
「ケガは?」
「大丈夫です…」
「ちょっと待ってね。フォームシフト!」
私はパーラに杖を預け、小さくなったタマモを抱き上げるが、タマモは私の腕の中でぐったりとしていた。そのまま私たちはステラの元に向かう。ステラは元気そうだったが、腕の中ではピーちゃんがぐったりしていた。
「ピーちゃん!」
「ピー…」
「レイアさん、申し訳ありません。私が弱いばかりに…」
「ステラさんのせいじゃ…。ピーちゃんもタマモもケガはなさそうなので」
私は片腕にタマモを抱き、ピーちゃんに触れる。ピーちゃんの魔力は珠三つ分しか残っていなかった。
「魔力はまだあるみたいだけど…」
「膨大な魔力を一気に消費したことによる疲労でしょう。少し休めば大丈夫だと思いますよ」
「あの、今日はもう帰ってもいいですか?」
「そうですね。宿屋で二人を休ませてあげてください」
「ありがとうございます」
ステラにピーちゃんを特等席に乗せてもらい、私たちは平原を後にする。
「ステラ、大丈夫か?」
「少し魔力を使いすぎましたが倒れるほどではありません」
「そうか。それでロマリス、どうだった?」
「九尾の狐の強さは確認いたしました」
「ならレイアをB級に上げても問題ないな?」
「問題ありません」
私たちが去った後、ノエル、ステラ、ロマリスの三人で会話をしていると、学園の方からすごい速さで小さな影が三人に向かってきた。それはティアラ。そして、ティアラの頭には小さな何かが乗っていた。
「なにをしとるんじゃあああああああ!」
「ティアラか、どうした?」
「どうした、ではありませぬ!さっきの火柱はなんなのじゃ!」
「模擬戦をしていたのです。私はギルドマスターとして立ち会いを」
「模擬戦にしてはちと大きすぎると思うのじゃが。わしは大型モンスター同士が戦っているのかと思ったのじゃ」
「それよりティアラ、その頭に乗っている太った青いファーストバードはなんですか?」
「こやつはわしの研究している『フェニックス』の『ギーちゃん』じゃ!」
「ギー!」
ティアラの頭上に鎮座する小さな鳥は、全身が空の色をし、首周りにはふわりと瑠璃色の羽毛。頭頂部からは一本の細長い飾り羽がぴょこんと揺れている。それは青いピーちゃんそのものであり、ノエルとステラは懐疑的な眼差しを向けるも、北門に集まってきた門番や守備隊を見たロマリスが口を開く。
「ティアラの研究については後回しにしましょう。今は関係各所に説明をした方がいいかもしれません」
「どこからでも見えるほどの大きさでしたからね。驚いている人たちも多いでしょう」
「わしは学園に戻るのじゃ」
「ではノエル様とステラ様は私と一緒にお願いできますか?」
「仕方ないな」
「わかりました」
模擬戦の後始末を終え、ノエルとステラはギルドから宿屋に向かう。
「疲れたな、ステラは大丈夫か?」
「さすがに疲れました」
「レイアたちは大丈夫だろうか」
「気になりますが、挨拶程度にしておきましょう」
「そうだな。ところでステラ…」
「どうしたんですか?らしくないですね」
「気のせいかもしれんが、ピーちゃんがステラのところに行く時、ピーちゃんの声を聞いた気がしたんだ」
「いつもピーピー言ってると思いますよ?」
「いや、言葉が理解できたんだ」
「…。実は私もピーちゃんが私のところに来た時、『大丈夫!』と言われたのです」
「ステラもか」
「まさかノエルも聞いていたとは思いませんでした」
「前回はこんなことなかったんだがな」
「そうですね。タマモさんのような覚醒は前回もありましたが、ピーちゃんの言葉については初めてですね」
「なんなんだろうな」
「わかりません。それよりもタマモさんを早めに師匠に会わせた方がいいかもしれません。あの純白の魔力は無意識に出していたように見えました」
「無意識か…。あいつに頼むか」




