3-8.5:タマモ視点
私は弱い。レイアさんは自分が一番弱いと言いますが、私はレイアさん以下です。狼に負け、森から追い出されたところをレイアさんとピーちゃんに助けてもらいました。ハドックさんと戦った時も、氷漬けにしたはずのハドックさんは雷で一気に氷を剥がしてしまいました。
オクトパスリーダーへの攻撃も、私よりピーちゃんとハドックさんの攻撃の方が大きな傷を負わせていました。ダンジョンに行った時も、トロールの脚を完全に撃ち抜くことができませんでした。
私はパーラさんやケリュスさんのように防御膜の展開はできません。私はレイアさんに恩返しができているとは思えません。唯一役に立っていたのは、氷を作ることぐらい。
でも、レイアさんを守れるだけのチカラはありません。支援魔法をもらっても、元々強いハドックさんには敵いません。私とそれほど大きさの変わらないピーちゃんは、小さな体に大きなチカラを持っています。
素晴らしい炎、自在に操る風、そして治癒。私の火魔法なんてちっぽけなものです。そして今回も私は戦力になりません。防御膜の中で、レイアさんのそばにいるだけ。目の前ではハドックさんやノエルさん、ステラさんが大きなモンスターと戦っているのに。私はノエルさんの言葉をずっと考えていました。
「折れた剣は取っておくんだ。私がまだ強くなれる余地が残っている証拠だ」
──強くなれる余地…。私にもまだあるでしょうか?強くなれるでしょうか?…。レイアさんのために強くならなくては!
ケリュスさんの防御膜がバリン!と音を立てた時、私は白い空間にいました。そこにはレイアさんが立っていました。
「え?タマモ?」
「レイアさん、これは…。助けてもらった時と同じ…」
「そうだね。でもなんで?」
「レイアさん!私は強くなりたいです!」
そこで白い空間は終わりました。ハドックさんは必死に耐えています。私はレイアさんと向き合い、じっと目を見つめました。するとそこへ、治癒を終えたピーちゃんが私とレイアさんの間に入りました。
「レイア、全力で魔法を使って!」
「ピーちゃん?」
「タマモは強くなる!ぼくもみんなを守る!」
「レイアさん!お願いします!」
「…。わかった」
レイアさんは杖を立て、全ての魔力を込めていきます。一度に全ての魔力を杖に注ぎ込み、杖だけでなく、レイアさん自身も淡く緋色に輝いて見えました。
「いくよ!スカーレットコール!」
レイアさんの全力の支援魔法が私に降り注ぎます。いつもと同じ支援魔法。違うのは魔力量。それも圧倒的な魔力量。私は支援魔法と一緒に、レイアさんの想いも感じ取りました。レイアさんの腕の中に抱かれ、頭を撫でられているような感覚でした。
「タマモは弱くないよ、私よりずっと強い。だから自信持って。あとは任せるね?」
「はい!」
支援魔法の光が消えると、私の体は緋色に輝きました。私の体は目の前にいる地竜よりも一回り大きくなり、尻尾が九本に増え、爪も鋭くなりました。私が大きくなったことで防御膜は壊れてしまいました。そして魔力のなくなったレイアさんが私の目の前で倒れたところを、私が受け止めました。
「レイアさん!」
「タマモ、あとは私たちがなんとかするわ」
「お願いします」
私は地竜の方に向き直りました。そこにピーちゃんが、私の頭上にふわりと舞い降りました。
「タマモ、火はダメ」
「治癒の炎は大丈夫なのですか?」
「大丈夫!レイアは任せて!」
「お願いします!」
ピーちゃんは私の頭上から離れ、レイアさんのところに行きました。そして、私はハドックさんが足止めしている大きな地竜を片脚で壁に弾き飛ばしました。
「ハドックさん、私も戦います!」
「タマモ殿、立派になられましたね」
「レイアさんと約束しましたから」
「約束は果たさねばなりません」
「はい!」
「なんとか片付いたが…」
「まさか覚醒するなんて…」
ノエルとステラは大きくなったタマモを見て、非常に驚いていた。そして、倒れている私を見てさらに驚く。襲ってくる地竜の波が止まり、ノエルとステラは私たちのところまで戻ってきた。
「レイアさんは…、魔力切れみたいですね」
「そうか。問題はレイアの仲間と話せないことか」
「レイアさんのお仲間は優秀ですから大丈夫でしょう」
ステラはティアラと学園の生徒のところに移動し、傷の具合を確かめる。
「ティアラの傷だけでなく、学園の生徒の傷まで完全に治っていますね」
「さすがだな」
「ピー!」
ステラがティアラたちを運ぶ時に倒れている私もまとめて運ぼうとすると、みんながそれを遮った。
「やはり優秀なようですね。ノエル、私はティアラたちを外へ連れていきます。その間、レイアさんたちをお願いします」
「ああ。あ、明かりを頼む」
ステラは光魔法で光の玉を作り、浮かべていく。そしてティアラと学園の生徒を浮かせて出口へ運んでいった。
「ハドックはここに立て、タマモはこっちだ。防御膜も頼む」
ノエルの声掛けにハドックとタマモはノエルの左右に並ぶ。パーラとケリュスは防御膜を展開し、私はその中で守られていた。そしてピーちゃんはノエルの頭上に乗り、無理矢理前衛に加わる。
「ピーちゃんも戦うか?」
「ピー!」
「炎は使うなよ?」
「ピー!」
四人の前衛が並び、私は二重の防御膜で守られる。
「来たぞ!」
ピーちゃんはノエルの頭上を離れ、空中に舞い上がる。ノエルが突っ込んでいくのに合わせて、ハドックとタマモも前に。赤地竜を先頭に、後ろには黒地竜の姿も確認できる。
「赤いのは任せる!」
ノエルは赤地竜を無視し、さらに奥の黒地竜に向かっていく。赤地竜は通り過ぎていったノエルを無視し、ハドックとタマモを標的に見据える。ハドックは全身に雷をまとい、タマモは爪に氷をまとう。
「タマモ殿、そちらは任せます!」
「はい!」
ハドックは赤地竜に斧を振り下ろし、一撃で沈黙させていく。タマモは氷をまとった爪で赤地竜を弾き飛ばし、そのまま壁にぶつかると凍りついた。そんな二人の戦いを、空中で静止しているピーちゃんは眺めている。
「二人とも強い!」
ハドックとタマモが全ての赤地竜を倒し終わると、奥からノエルが戻ってきた。時を同じくして、入り口の方からステラも戻ってくる。
「相変わらず雑ですね」
「仕方ないだろ」
「では奥まで行きましょうか」
「レイアたちはどうする?ここに置いていくわけにもいかないだろ」
「今の戦力なら守りながら戦うことも可能です。連れて行きましょう」
ステラはそう言うと、私を浮かせる。
「コン!」
「運びますか?」
「コン!」
ステラがタマモの背に私を乗せるとパーラが私の背に乗り、触手で私の体をタマモの体に固定する。ノエルとステラはその様子を笑顔で見守り、準備が整うと奥へ進み始めた。
ダンジョンの最奥に到達するまで新たな地竜は現れなかった。そして最奥の少し手前。私はタマモの背から降ろされ、パーラが取り出した布の上に寝かせられる。パーラとケリュスは防御膜を展開して私を守る。二人の展開した二重の防御膜の上から、ステラが追加で三重の防御膜を展開し、五重の防御膜を再び作り上げた。
「これで大丈夫ですね」
「行くぞ」
ノエルとステラ、そしてピーちゃん、タマモ、ハドックの五人で最奥に進んでいく。最奥で待っていたのはたくさんの赤地竜と黒地竜。私たちに襲いかかってきたのは、最奥の大きな空間から溢れた地竜たちだった。
「多すぎるな」
「地竜は数が減ると出現が早まると言われていますが、これは圧巻ですね」
「どうする?」
「ある程度数を減らして、増える前にコアを破壊するしかないでしょう」
「それしかないか。ハドックは私たちと来い。タマモは通路を塞ぐようにここに立て。レイアのところには行かせるな。ピーちゃんは…、任せる!」
「ピー!」
「コン!」
ノエルが布陣を伝えると、三人は地竜に向かって飛び込んでいく。ピーちゃんはタマモの頭上に乗り、三人を眺める。
「ピーちゃんは行かないのですか?」
「うーん…」
ピーちゃんは首を傾げ、どうするか考えている。ノエルは二本の剣を振り回し、簡単に地竜を斬り捨てる。ステラは多数の属性を一度に操り、地竜を倒す。ハドックも二人に負けじと、雷をまとって地竜を沈黙させていった。
溢れた地竜がタマモのところに向かうが、氷をまとった爪で弾き飛ばされ凍りつく。ピーちゃんはバランスを取りながら、動くタマモの頭上に鎮座し続けている。地竜の数が半分ほどになった時、ノエルはダンジョンコアのある扉を開き、浮遊しているダンジョンコアを破壊。しかし破壊する直前、多数の地竜が出現。
「少し遅かったようですね」
「だがこれ以上は出現しない。最後の戦いだ」
三人は残っている地竜と出現した地竜に向かう。
「ピーちゃん、少し離れていてもらえませんか?」
「うん!」
ピーちゃんはタマモの指示に従い、天井付近まで舞い上がる。そして風をまとい始めた。タマモはピーちゃんがいなくなったことで前足に力を込める。九つの尻尾を扇のように広げ、その一本一本に氷のつららを作る。
「コン!」
タマモが大きな声で鳴くと、前に出ている三人はタマモを見る。三人は瞬時に理解し、地竜から離れると、タマモは氷のつららを放つ。九本のつららが九体の地竜に深々と突き刺さり、そのまま大きな氷漬けとなる。
「すごいな」
「師匠を思わせる強さですね」
しかし、それでも地竜を倒しきったわけではない。三人が再び構えなおすと、上から大きな風の刃が複数飛び交い、残った地竜を沈黙させた。
「さすがに強いな」
「これだと素材が…」
天井を見上げると、ピーちゃんが満足そうに降りてくる。ステラが両手を伸ばすと、ピーちゃんはステラの腕の中に飛び込む。
「ピー!」
「お強いですが素材が台無しですよ?」
「ピー?」
「これでまだ本気じゃないっていうのが恐ろしいな」
「コアも破壊しましたので帰りましょうか」
二人は黒のかけらを拾い、みんなを連れて引き返す。外の光が見え始めた時、ステラが口を開く。
「みなさんはこのあたりでお待ちください」
「そうだな、タマモを大勢に見られるわけにはいかないからな」
そう言って、ノエルとステラは先にダンジョンを出る。
「レイア、起きない」
「そうですね…」
「タマモ殿のせいではございません」
「そうよ、レイアがやったんだから気にしちゃダメよ」
「タマモよ、それだけ強くなったのだ。レイアも喜んでいるはずだ」
「そうだといいのですが…」
「問題は、レイアが起きて大きくなったタマモをモンスターと勘違いしないといいんだけど」
「レイアはわれらの主であろう?そんなことがあり得るのか?」
「あり得るから言ってるんじゃない」
「レイアさんなら大丈夫だと思います!」
みんなが話しているとステラが戻ってくる。
「みなさんお待たせしました、行きましょう」
ステラについていくと、ダンジョンの入り口から全体が闇魔法で覆われていた。ダンジョンを出た先にはノエルとロマリスが待っていた。
「…」
「ロマリス、大丈夫か?」
「は、はい。実際に見るとなんとも美しいと言いますか、神々しいと言いますか…。適切な言葉が見つかりません…」
「そうだろうな。さっきも言ったが、誰にも言うな。ティアラにもだ」
「わかっています」
「みなさん、こちらの方までお願いします」
みんなはステラの指示に従い、ダンジョンの入り口から離れたところまで移動する。ダンジョンから離れたことを確認すると、ステラが私たちのいるところにだけ闇魔法を展開し、ロマリスがダンジョンを覆っていた闇魔法を消す。
「これでダンジョンの中にも入れるでしょう」
「ありがとうございます。それとレイアさんは意識がないように見受けられますが?」
「魔力切れです。少しすれば目を覚ますでしょう」
「わかりました」
「みなさん、私たちはもう一度ダンジョンに入ります。レイアさんが起きるまでこの空間から出ないようにお願いしますね」
「ピー!」
三人は闇魔法の空間から去る。ハドックとパーラがタマモから私を降ろすと、タマモの大きな体に私の体を預ける。
「レイア様が起きるまでこれで様子を見ましょう」
「お腹空いた」
「ピーちゃんはレイアより食欲ね。用意するから待ってなさい」
「パーラさん、私はレイアさんが起きるまで大丈夫です」
「そうね、その状態だと食べられないわね。あとでレイアが起きたら一緒に食べなさい」
「そうします」




