3-7:青い炎
学園長の後に続いて学園内に入る。白を基調とした学園は内側も白に染まり、金の装飾が施されていた。その他にも色とりどりの布が各所にあり、魔法学園らしく多くの魔法具が使用されている。
私たちはキョロキョロしながら学園長についていく。学園内は人で溢れているかと思ったが、職員らしき人以外の姿は見えない。私は気になり、学園長に尋ねる。
「職員以外の人はいないんですか?」
「職員以外というと生徒のことか?今は授業中であろう」
「授業中?勉強してるってことですか?」
「そうじゃ」
──勉強かぁ…。父さんと母さん、あとは村のみんなとも勉強したなぁ…。全然楽しくないし、ピーちゃんは寝てたし…。
「おぬし、勉強は嫌いか?」
「はい…」
「そうであろうな。勉強なんぞこれっぽっちも楽しくないからの」
「え?学園長ですよね?」
「なりたくてなったわけではないのじゃ。そもそもわしより相応しい者はたくさんおるというに…」
私たちは浮遊する大きな円盤に乗る。その円盤は滑らかに上へ進むと、静かに止まった。
「ここじゃ」
「これなんですか?」
「大型の魔法具じゃ。これと同じものは学園にいくつもあるぞ」
「そ、そうなんですね…」
学園長についていった先は大きな扉のある部屋。扉を開けると、とてつもなく広い部屋が現れる。
「適当に座れ」
「は、はい」
「待て待て、そんな端に座るでない。真ん中に座れ」
「…はい」
──適当って言ったよね…?
ここでは低めのソファではなく、高級そうなイスとテーブルが置かれていた。イスは左右に五脚ずつ、十人が座れるようになっている。端のイスに腰掛けようとすると、中央に座るよう促された。
私が中央のイスに座ると、反対側の中央に学園長が座る。私はパーラを右隣のイスに降ろすと、左隣のイスにタマモが飛び乗る。ピーちゃんは特等席、ハドックは私の後ろ、ケリュスはハドックの隣で横たわる。
「改めて自己紹介をしておくかの。わしはここの学園長で『ティアラ』じゃ」
「レイアです」
「して、荷物を出してもらえるかの?」
「はい」
パーラはロマリスから預かった角と赤のかけらを取り出し、机の上に置く。それをティアラは魔法で浮かせ、自分の手元まで引き寄せると、角とかけらを手に取り、吟味を始めた。吟味が終わるとティアラが口を開く。
「よい素材じゃ」
「あ、ありがとうございます」
「他にもなにか持っておらぬか?」
「…持ってないです」
「そうか、なにかあればギルドよりも高額で買い取るんじゃがの」
──ギルドマスターが言ってたのはこれかぁ…。
私は少し俯くと、パーラが手紙を取り出す。それはロマリスから預かったティアラ宛の手紙だった。
「あの、この手紙をギルドマスターから預かってます」
「ロマリスからかの?」
ティアラは机に置かれた手紙を同じようにして引き寄せる。手紙を読み終わるとティアラは何かを書き始めた。それも手を使わず、魔法でペンを動かしている。
「おぬし、大切にされておるの」
「え?」
「素材を受け取ったらすぐにおぬしを帰すようにと、手紙に書いてあってな」
──ギルドマスターありがとう!
「これを持っていくがよい」
「はい!ありがとうございます!」
「生き生きしておるように感じるが…」
「そ、そんなことないです」
「門まで送ってやろう」
私はティアラが書いた荷物の受け取り証をパーラに収納してもらい、ティアラと一緒に来た道を戻る。学園内は来た時と変わらず、職員以外の姿は見えない。
──まだ勉強してるのかなぁ。アメリはこんなところで勉強しなきゃいけないのかぁ…。
巨大な門が開くと、ティアラが私たちに言った。
「また近いうちにの」
「え、あ、はい」
巨大な門が閉じ、私たちはギルドに戻る。ギルドに向かって歩いていると、ピーちゃんが口を開く。
「レイア、お腹空いた」
「ギルドで報告したらご飯にしよっか」
「うん!」
ギルドに戻るとヘレスが声をかけてくる。
「レイアさん、早かったですね」
「え?」
「戻ってきたら部屋に通すようにギルドマスターから言われてまして」
「ギルドマスターに会えますか?」
「ええ、奥までどうぞ」
ギルドマスターの部屋に行くと、ロマリスが少し驚きながら口を開く。
「レイアさん、かなり早いお帰りでしたね」
「ギルドマスターの手紙がよかったみたいです」
「保険のためです」
「あ、これ、受け取り証です」
「ありがとうございます。ではこちらを受付に提出して、報酬を受け取ってください」
「わかりました」
「ところで、レイアさんはどのくらいこちらに滞在する予定ですか?」
「ここにはかけらを売るためにきたのでいつでも出発できるんですけど、もう少し見て回りたいので数日はいると思います。出発する時は言いに来るつもりです」
私たちはギルドマスターの部屋を後にし、受付に向かう。
「ヘレスさん、これお願いします」
「はい、報酬はこちらです」
ヘレスは事前に用意しておいたであろう報酬を私に渡す。報酬をパーラに渡し、ギルドを後にする。そして私たちは昼食を取り、ぶらつく。アルカディア自体は綺麗だが、売っているものは他と変わらない。ただ、魔法具を扱う店は多いように感じる。歩いているとピーちゃんが口を開く。
「レイア、ドラゴンどうする?」
「どうしようか?」
「あのドラゴンが飛んでいったのはここなのでしょうか?」
「うーん、ここかもしれないしもっと先かもしれないよね」
話しながら歩いていると、アルカディアの中央に到着。中央にはアメリの城にあった祭壇と同じようなものがあり、青い炎が燃え盛っていた。
──これ、温かいけど冷たい感じがするなぁ。
私を含めた全員が青い炎に視線を注ぐ中、ひときわ真剣に青い炎を見ている仲間がいる。それはピーちゃん。ピーちゃんは青い炎をじっと見つめている。祭壇を通り過ぎようとした時、ピーちゃんは特等席から離れ、青い炎に飛び込んでいった。
「ピーちゃん!?」
ピーちゃんは必死で炎をついばむ。止めようにも炎の前ではなすすべがない。私たちがあたふたしている間にピーちゃんは青い炎を全てついばみ終え、満足そうに祭壇の上に鎮座していた。
「ピーちゃん!なにやってるの!?」
ピーちゃんは首を傾げ、「なにも悪いことはやっていない」という表情をしていた。
「お前たちか!フェニックスの炎を消したという輩は!」
「逃がすな!」
「牢にぶち込んでやる!」
アルカディアに駐留している魔法国の守備隊が、怒声を上げながら私たちを取り囲む。ピーちゃんは特等席に舞い戻り、ハドックは私の前に立つ。ケリュスは元の大きさに戻ると、私の後方にいる守備隊に向かって立つ。
──まずい…。今までで一番まずい…。
ジリジリと迫る守備隊を前に、ハドックが雷をビリっと一瞬走らせた時、声がかかった。
「待て」
「なんだ!」
「私たちを知らんのか?」
「お、おいあれ…」
「この件、私たちが預かる」
「わ、わかりました」
背の高い二人のエルフが私たちを助けてくれた。一人は金色の短髪に、茶色の瞳。体にぴったりとフィットした緑色のドレスには大きめのスリットが入っていて動きやすそうに見える。そして透けるほどに薄い緑色のマントに茶色のブーツを履き、長い剣を左右の腰に一本ずつ下げている。
もう一人のエルフは、タマモと同じような色の長髪を左右に分けたシンプルなツインテール。黄色のトップスに茶色のショートパンツ、そして白いマントと茶色のショートブーツを身に付け、黒い革で作られた小さな鞄を肩からかけている。
二人に共通して特徴的だったのが、右耳にピアスが付いていること。ピアスの先にはアメリに渡した時と同じような、ピーちゃんの羽根によく似たものがゆらゆらと揺れている。
二人が守備隊を制止した後、ツインテールのエルフが私たちに近付いてきた。しかしハドックは警戒を解かず、私の前にそびえ立つ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。さあ行きましょう」
「あの…」
「話はあとで聞く、今はついてこい」
「は、はい。みんな行こう」
私たちは二人の後をついていく。着いた先は冒険者ギルド。中に入ると全員が私たちに視線を注ぎ、ヘレスが慌てて受付から飛び出し、私たちに挨拶をする。
「ノエルさん、ステラさん、こんにちは。…レイアさんはなぜ一緒に?」
「成り行きだ。ロマリスはいるか?」
「は、はい。奥にどうぞ」
「ヘレスさん、ありがとうございます。それから少し面倒なことが起きると思いますけど、ごめんなさいね」
「え、は、はい!」
私たちはギルドマスターの部屋に入る。どうやら剣を下げているエルフが『ノエル』、ツインテールのエルフが『ステラ』という名前のようだ。
「ノエル様、ステラ様、少しお早いご到着ではありませんか?」
「虫の知らせだ」
「そ、そうですか。ところで、レイアさんはどうして一緒なのですか?」
「助けてもらったというか、その…」
「私が説明しましょう」
ステラが事の顛末をロマリスに話す。すると、話を聞いていたロマリスの顔がだんだんと青ざめていった。
「レイアさんは問題児だと聞いていましたが、まさかそこまでとは…」
「そもそも私たちはあの炎には反対だ。こいつのやったことは正しい」
「同じエルフ族として理解はできますが…」
「あの炎はティアラが灯したものだろう?」
「はい、ですのでそのうちここに…」
ロマリスが話し終わる前に、部屋の扉が勢いよくバンッ!と開いた。
「ロマリス!どういうことじゃ!わしの…、な、なぜお二人がもうここにおるのじゃ!?」
私たちに加え、ノエルとステラは応接用のソファに座り、ロマリスはティアラに事情を説明する。
「今回のことは不問にしろ」
「そ、そういうわけにもいかんのじゃ…」
「ステラ」
「はい」
ステラは鞄から袋を取り出し、ティアラに渡す。
「これで不問にしてもらえませんか?」
「わ、賄賂に屈するわしでは…。こ、これは!?」
「ティアラ、それは?」
ロマリスがティアラの手元を覗き込むと、ロマリスの表情が凍りつく。その袋の中身は黒のかけらだった。
「そういえば自己紹介がまだだったな。私はノエル。S級だ」
「私はステラ。同じくS級です」
「S級!?初めてS級の冒険者に会いました!あ!えっと、D級のレイアです!」
「レイアさん、私も一応S級ですよ?」
「そうだったんですか!?」
「わしもS級相当の実力はあるのじゃ」
「お前らはステラの足元にも及ばないがな」
「それでティアラ、不問にしてもらえますか?」
「ま、まあ仕方ないの。これで手打ちじゃ」
「レイア、行くぞ」
「ちょっとお借りしますね」
「ノエル様、ステラ様。レイアさんはお貸しします。ですが依頼の方は忘れないようにお願いします」
「え、ギルドマスター…?」
「レイアさん、諦めてください。悪い方たちではありません。ティアラの方が悪いぐらいです」
「な、なんじゃと!?」
言い争うロマリスとティアラをよそに、私たちは部屋を後にする。ギルドを出る時も私たちは注目を浴びるが、二人は気にする様子もなく進んでいく。私が行き先を尋ねると、二人は同時に答えた。
「あの、どこに行くんですか?」
「平原だ」
「宿屋です」
「は?」
「え?」
「平原でなにをするつもりですか?」
「模擬戦だ。ステラこそ宿屋でなにをするんだ?」
「レイアさんとお話しようかと」
「話なんていつでもできるだろ。今はこのアンデッドの実力を知りたい」
「レイアさん、模擬戦をしてもいいですか?」
「ハドック、どうする?」
ハドックはノエルのことをじっと見つめると、私に答えを伝える。
「……」
「戦ってみたいそうです」
私たちは北門の先にある平原に出る。都市からわずかに離れ、平原に設置してある街灯よりも内側で模擬戦を行うようだ。
「都市と近すぎませんか?」
「大丈夫ですよ」
ステラはそう言うと、半球状の大きな防御膜を展開する。パーラが作るものとは比較にならないほどの大きさだった。ステラ曰く、内側からの攻撃を外に出さない防御膜なのだそうだ。防御膜の中にノエルが入っていき、私はハドックに声をかける。
「ハドック、倒さないようにね」
「レイア様、大変申し訳ありませんが倒せるかどうかわかりません」
「え?」
「わたくしよりも数段上の強さがあるかと」
「そんなに?」
「はい」
「じゃあ動けるぐらいには魔力を残してくれればあとは任せる」
「かしこまりました」




