3-5:紅茶
マーゲンの南側に到着すると、野菜やフルーツだけでなく、肉や魚、各種調味料など、メイカルトを超える完璧な品揃えだった。
「すごい、なんでもある」
「レイア、ここで食材を買い込むわよ」
「ケリュスの角を売ったらね」
私たちは何が売っているのかを眺めながら歩き回っていると、とある匂いの訪れに、私はその店の前で足を止める。そこは紅茶の茶葉を扱っているお店だった。
「ここは…」
私たちはハドックと小さなケリュスを外に残してお店の中に入る。中に入ると、壁一面に数えきれないほどの茶葉が木棚に並んでいた。私にはほとんどが同じ色に見えるが、別々に保管されているところを見ると、全て違う茶葉であることがわかる。私が茶葉の壁を眺めていると、奥からしっかりとした足取りのおじいさんが現れた。
「いらっしゃ…、おや」
「あ、お邪魔してます!」
「いえいえ、お客様がいらっしゃるのは当たり前のことですよ。それより、なにかお探しですか?」
「その…、ある人からもらった茶葉があるかなと思って。でも種類が多くて…」
「もらった茶葉はお持ちですか?」
「使い切ってしまって…」
「そうですか。しかしあの方の好みであれば…」
おじいさんが小さく何かを呟きながら、壁からいくつかの茶葉を取り出す。どうやらここは試飲もやっているようだった。おじいさんはお湯を沸かしながら笑顔で語る。
「紅茶の葉は同じものでも収穫ごとに変わります。ですので同じ味のものはないかもしれません」
「そうなんですね」
おじいさんは私の前に三つの紅茶を用意する。全てを試飲したがよくわからなかった。
「あの…」
「なんでしょう?」
「この紅茶を私の仲間、この鞄はミミックなんですけど、飲ませてもいいですか?私より味がわかるんです」
「では別のカップを用意いたしましょう」
私はパーラをカウンターの上に置く。おじいさんは別のカップに紅茶を注ぎ、パーラの前に三つの紅茶を用意する。全ての試飲を終えたパーラは私に言った。
「この二つ目がもらった茶葉と同じよ」
「これみたいです」
「こちらでしたか。ではご用意いたしますのでお待ちください」
私たちが待っていると、おじいさんは缶に茶葉を詰めていく。その缶は、私がガイアから茶葉をもらった時の缶によく似ていた。
──あの缶、ガイアさんからもらった缶によく似てる。ガイアさんもここで買ったのかなぁ?
「ではこちらを。茶葉は湿気りやすいのですが、ミミックがお仲間なら大丈夫ですね」
「ありがとうございます!」
「またお待ちしています」
私はお金を支払い、店を後にする。その後、私たちは夕食を買って宿屋に戻った。翌朝、私たちは朝食を取り、ギルドに向かう。
「レイアさん、お待ちしておりました。ギルドマスターの部屋までどうぞ。それからこちら、お手紙になります」
「ありがとうございます!」
手紙はあやかからだった。テイルのところへ行く前にあやかからの手紙を読む。
──えーっとなになに…。あ、まずい…。
レイアさん、お手紙ありがとうございます。
ジュエルレーンディアをお仲間にしたということですが、B級モンスターをお仲間にしたということは「無茶をした」ということでしょうか?
私との約束は忘れてしまいましたか?
食彩国にいるとのことですが、多くの冒険者がお金に困ってしまうところです。
くれぐれもお気をつけください。
まだ長い旅路になると思いますが無茶をするなとは言いません。
私はレイアさんのお帰りをメイカルトでお待ちしております。
「レイア様、あやか殿はなんと?」
「怒ってる…」
「怒られるようなことはしていないと思いますが」
「ケリュスがB級だから仲間にする時に無茶をしたんじゃないかって」
「無茶だったかもしれません」
「不可抗力だと思いますが」
「また殴られるわね」
「われが悪いのか?」
ピーちゃんは何の話かわからないようで、私の頭上で頭を傾げていた。私は手紙をパーラに渡し、テイルの待つ部屋に向かう。部屋に入るとテイルとその仲間たちとそれからもう一人。アクアハーバーのブルほどではないが、ガタイのいい男性がテイルの隣に立ち、机にはケリュスの折れた角と何かが詰まった袋が二つ置かれている。
「レイアさん、おはようございます」
「おはようございます」
「まずはこっちの人を紹介させて。うちで解体と素材の鑑定をしている『ベルク』です」
「ベルクだ、よろしく」
「D級のレイアです」
「それで、レイアさんには悪いんだけどすべてを買い取ることはできないんだ」
「どういうことですか?」
「簡単に言うと、全部買い取ってもここじゃさばききれないってことだな」
ベルクは説明を始める。ジュエルレーンディアはB級。しかしその角の用途は多岐にわたり、そのまま部屋の飾りとして欲しがる人もいるという。用途が広いため素晴らしい素材であることには違いない。しかしここは満腹都市。食べられないものをさばくのは難しいという。それでも多少の需要はあるので、今回は半分だけ買い取らせてほしいということだった。
「それでだ、まだ買い取りをしたわけじゃないから勝手に半分にするわけにはいかなくてな。欲しいのは根本から半分ほどだな」
「僕は全部買い取った方がいいと思ったんだけどね」
「他のギルドだったら買い取ってくれますか?」
「ここよりたくさん買取をするはずだ。それこそ全部買い取ってくれるかもしれんな」
「そういうわけで、半分だけでもいいかな?」
「わかりました」
「よし、じゃあちょっと待っててくれ」
ベルクは角を持って退室。その間に、私はガイア以外のビーストテイマーに聞きたかったことを聞く。
「テイルさんはどうやってモンスターを仲間にしたんですか?」
「レイアさんと同じだと思うよ?それから、僕は最初からビーストテイマーだったわけじゃないんだよ」
「え?」
「元々B級の魔法使いだったんだ。冒険の途中で『ランシュ』、この白いドラゴンが倒れててね。ドラゴンの素材は高く売れるから止めを刺そうとした時、不思議な空間が広がって、そこには僕とランシュだけ。そのあと言葉がわかるようになっちゃって。持ってた回復薬と治癒魔法で助けたってわけ。こっちの『クロム』も同じようにして仲間になったんだよ」
──私と同じだ。仲間になる方法はみんな同じなのかなぁ。じゃあ…。
「テイルさんは体のどこかにアザがあったりしますか?」
「アザ?冒険者だからアザや傷はたくさんあるよ。と言ってもギルドマスターになってからは冒険に出ていないから、ケガなんてしてないけどね」
会話が途切れた時、部屋の扉がノックされた。テイルが入室を促すと、ベルクが角を持って入ってきた。
「半分に切ってきたぞ、こっちが返す分だ」
「ありがとうございます」
「ではレイアさん、このお金をどうぞ」
「あの…、全部売れてたらどれくらいになるんですか?」
「袋四つ分に少し足りないぐらいだな。完璧な角だったら袋四つ分ってところだ」
「レイアさんは大所帯だから食費でほとんど消えちゃうよ?」
「そうでした…」
残った角とお金が詰まった二つの袋をパーラに収納してもらう。私はテイルとベルクに挨拶をして、ギルドを後にした。ケリュスの角で大金が手に入ったが、テイルの言ったように食費で消えていくことがわかっているので無駄遣いはできない。
「ケリュスの角を売ったお金で食材を買いに行きます!」
「おー!」
──あ、ケリュスにもお皿を買ってあげないとね。
私たちは昨日に続いて、南側に向かう。建物を出入りするたびに襲ってくる美味しそうな匂いにはいつまで経っても慣れず、ハドックを除いた全員がキョロキョロしながら歩みを進める。
「ケリュスの角を売ったお金だからまずはケリュスの好きなものを買おうと思うんだけど、なにがいい?」
「なんでもよいが、瑞々しいものがよい。トマトはいくつあってもいい。それから…」
ケリュスは今まで食べた野菜やフルーツを次々に上げていく。私とパーラはケリュスの要望通り、瑞々しい野菜とリンゴを中心に、キノコやパンも買うと決めた。
買い物を終え、屋台の集まる通りに向かう。ケリュスのお皿は私たちと同じサイズというわけにはいかず、とにかく大きく深さのある青い皿を購入。一人だけ異質な皿での食事となってしまうが「おいしいものが食べられればよい」ということでケリュスは気にしなかった。
私たちが歩いていると、見たことのある料理を見かける。それはオクトパスリーダーを使った料理だった。
「この匂いはあれかな?」
「レイア、買うわよ」
それはアクアハーバーで私たちが食べた「たこ焼き」という料理だった。屋台では半球状の窪みがたくさんある鉄板が使用され、小さな球体が焼かれている。
「いらっしゃい」
「一つください」
「すぐ食べるかい?」
「はい」
私はお金を支払い、たこ焼きが十個入った紙の器を受け取る。マーゲンの南側にはお店の中で料理を食べる店と、屋台形式の店がある。私たちが今いるのは屋台形式の区画。その区画の中央には座って食べられるようにイスとテーブルが大量に置いてあり、私たちはそこに移動する。
イスとテーブルの数は多いものの、多くの人でほとんどが埋まっていた。私たちは人数も多いので空いているベンチに腰を下ろす。私が座るとピーちゃんとタマモもベンチの上に腰を落ち着ける。私はパーラをベンチに降ろし、たこ焼きをみんなで食べる。
「ケリュスは食べられないんだ、ごめん」
「うむ」
「じゃあ食べよう」
「うん!」
私はピーちゃんとタマモに食べさせる。二人は以前と同じように小さな球体を一口で頬張り、口をパンパンにさせながら食べている。
「おいしい!」
「前回食べた時よりおいしいです!」
「私も食べるわ」
「私も食べよう」
──おいしい!見た目は一緒だけど味が違う!でもなにが違うかわからないなぁ。パーラならわかるかなぁ?
「パーラ、どう?」
「確かに前に食べた時よりおいしいわね」
「レイア、お腹空いた」
「そうだね。じゃあ今日はここで食べよう!」
「おー!」
私たちは昼食を取りつつ、様々なものを大量に購入したが、お店の人が驚く様子はない。マーゲンでは大量購入する人は少なくないらしい。むしろ、私のような子供にお金が支払えるのかが心配だったようだ。買い物を済ませた私たちは宿屋に向かう。その道中、私はみんなと話す。
「ケリュスの登録と角を売ったお金で食べ物も買ったし、なにより魔法を教えてもらったから、明日にはここを出発しようと思うんだけど、いい?」
「うん!」
「はい!」
「かしこまりました」
「仕方ないわね」
「うむ」
宿屋に戻ると、宿屋の女性に話をする。
「明日ここを出発しようと思います」
「もう行っちゃうんだ」
「行きたいところもあるので。お世話になりました」
「お別れを言うにはまだ早いでしょ。明日の朝までとっておいて。夕食はどうする?ここで食べる?」
「せっかくなのでここで食べます!」
「よかった。じゃあおいしいのを用意してもらおうかな」
私たちは宿屋を後にし、ギルドに向かう。テイルに出発することを伝えるためだ。職員が奥から戻ってくるとテイルと会えるということなので、ギルドマスターの部屋に向かう。
「レイアさん、どうしたの?」
「特に用があったわけじゃなくて、明日ここを出発するつもりなのでそれを伝えに」
「ずいぶんと律儀だね。僕を含めて、冒険者なんてなにも言わずにどこか行っちゃうよ」
「その…、どこのギルドでも迷惑をかけているので…」
「僕もビーストテイマーになりたての頃は同じだったなぁ。このあとはどこに行くの?」
「魔法国に行くつもりです」
「魔法国か。ここからだと一週間、レイアさんの足だともうちょっとかかるかもね。魔法国への道から少し外れるけど、ダンジョン街も近いから寄っていくといいかも」
「お肉のダンジョンですか?」
「そうそう、お店もたくさんあるよ。あ、でもジュエルレーンディアは草食だったね」
テイルに挨拶をし、ギルドを後にする。そして、ギルドの近くにある冒険者用の店に入る。美味しい保存食がここに売っているという。
「レイア、本当に買うの?」
「冒険者として気になる!」
「私の料理より?」
「それは…、その…」
「まあいいわ、少しだけよ」
私は「保存バー」と呼ばれている美味しい保存食をいくつか購入。その後は宿屋に戻り、夕食ができるまで部屋でくつろいだ。
そして夕食。宿屋の女性に呼ばれ、私たちは食堂に行く。そこには美味しそうな夕食が用意されていた。特に印象的だったのは、真っ白で小さな円筒状のもの。イチゴがふんだんに使われており、見るからに食欲をそそる。
「これなんですか?」
「イチゴのケーキ。レーンディアも食べられるから安心してね。あとこれは食後だから」
私たちが豪華な夕食を食べ終えた後、宿屋の女性がケーキを切り分ける。一切れずつお皿に乗せ、私たちの前に置く。切り分けられたケーキの断面からもイチゴが顔を出し、上に乗っているだけではなく、中にもたくさん入っているようだった。
「紅茶もあるけどいくつ用意する?」
「私とミミックの分だけで大丈夫です」
紅茶の無いピーちゃんたちが先に食べ始めると、無心で食べ進め、あっという間にお皿は空に。私とパーラも一口食べる。白いクリームは舌の上で溶け、薄い黄色の生地は甘味と香ばしさを感じさせる。その甘味にイチゴの酸味が丁度良い。
──こんなにおいしいものがあるなんて…。
私は紅茶を一口飲む。紅茶には何も入れていないが、ケーキの甘味で十分美味しく感じられた。そして紅茶がケーキの甘味を洗い流し、次の一口を体が欲しているのがわかる。私とパーラが食べ終わると、ピーちゃんたちは二切れ目を食べ終え、全てのケーキが無くなった。
「どうだった?」
「おいしかったです!」
「よかった。あ、明日の朝はいつも通りだから期待しないでね」
翌朝、私たちはいつも通りの朝食を食べる。いつも通りとはいえ、豪華な朝食に変わりない。
「また来てね」
「また来ます!」
お金を支払い、宿屋を後にし、北門から外に出る。ここから北に向かうと、国境を通って魔法国クジナスがあるので、まずは国境の関所を目指す。そして出発と同時にケリュスが口を開いた。
「レイアよ、元に戻ってもよいか?」
「小さいと不便?」
「視線が低い分、周囲の状況を把握できないことが気になる。都市の中では我慢するが、外では元の大きさの方がよい」
「わかった、じゃあ元に戻っていいよ」




