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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
3章:出会いと離脱
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3-4:新しい魔法

「ケリュスの問題も解決したし、行こっか」

「おー!」


 関所を抜けて数日後、大きな都市が見え始める。しかし、都市が見え始めたのと同じ頃、困ったことが起きる。


「レイアよ」

「なに?」

「そろそろ角が落ちる」

「え?」

「折らないようにしなさいよ!」

「…善処する」


 私たちは街道を外れ、木のあるところに移動し、ケリュスは木に角を擦り付け始めた。擦り付けられた木の幹には削れた角の粒子が付着し、きらきらと輝く。


「もったいないじゃない!」

「いつもこうして角を落としているのだが…」

「パーラ、落ちるまで待とうよ」

「…わかったわよ」


 私たちはその場に留まり、ケリュスの角が落ちるのを待つ。そしてすぐに、折れていない方の角が落ちる。しかし角が地面に触れることはなく、準備をしていたパーラによって即座に収納された。


「パーラ…」

「なによ?」

「…なんでもない」


 ケリュスはもう片方の折れている角も擦り付け始めるとすぐに落ち、パーラは同じように収納した。二本の角が落ちたことで、ケリュスは満足そうな様子。私たちはその場で昼食を取り、都市へ向かう。


 マーゲンの門が大きく見えるほどに近付くと、防壁の上から都市の上空を半球状に覆う防御膜のようなものが見えた。その防御膜は門にもあった。私たちが門に近付くにつれて門番たちもざわついていたが、仮登録証のおかげで事なきを得た。都市の中に入る前、私は防御膜のようなものについて門番に尋ねる。


「あの、これなんですか?」

「マーゲンは初めてか?」

「はい」

「あまり気にしなくていい、そのまま通れるぞ」


 門番は含みのある笑顔でそう言った。私は防御膜のようなものに手を伸ばす。手は膜に遮られることなく、膜を貫通した。パーラの作る防御膜によく似ていたが、何かを防ぐわけではないらしい。


──門で色々確認してる時にここを通った人はそのまま通ってたから、この国ではこれが普通なのかなぁ?


 私たちは防御膜のようなものを通る。


「え!?」


 私は自分の鼻がおかしくなったのかと思うほどに、幸福感いっぱいの香りが襲いかかる。焼かれた肉の匂い、スパイスの混ざり合った匂い、焼きたてのパンの匂い、炊きたてのご飯の匂い、湯気が立っているであろうスープの匂い、甘い匂いはお菓子かフルーツか。


 数多の美味しそうな匂いが、まるで万華鏡のように現れては消えていく。都市全体がまるで料理の中だと錯覚するほどに、美味しそうな匂いで満ち溢れていた。そして驚いているのは私だけではない。ハドックを除いたみんながキョロキョロと頭を動かしていた。


「いい匂いがいっぱい!」

「お腹が空きます!」

「これはおいしいものしかなさそうね」

「人はいつもおいしいものばかり食べているのか?」

「わたくしにはよくわかりません」

「と、とりあえずギルドに行くから!ご飯はそれからね!」


 私たちはギルドに向かって歩く。ギルドへの道中、様々なお店の前を通る。不思議なことに、お店の近くまで来ると今まで万華鏡のように現れていた匂いが消え、お店の料理の匂いが私たちを襲う。


 それは別のお店の近くでも同じだった。パン屋の前を通ればパンの匂いが。肉料理の店の前を通れば肉料理の匂いがする。匂いが混ざり合うことなく、調和を取っているようであった。


 襲い掛かる数多の匂いに負けそうになりながら、私たちは北側にあるギルドに到着。ギルドの中に入ると、先程までの美味しそうな匂いは消え、ギルド特有のいつもの匂いに変わる。


 日が落ちかけているのでギルド内にはそれほど冒険者はいないが、いつものように注目を浴びる。しかし、今回の注目の的はハドックだけでなく、ケリュスもだった。


「おいあれ…」

「例のやつか?でも角がないぞ?」

「毛の色が違うだろ、あれが特殊個体だ」


 角が無くなってもわかる人にはわかるようだった。私たちは注目を浴びながら受付の職員に話しかける。


「あの、使役モンスターの登録をお願いしたいんですけど」


 ギルドカードと仮登録証を渡し、ケリュスの登録を済ませる。そしてテイルから渡された手紙を渡す。受付の職員は手紙を読むと驚き、奥に消えていった。少し待っていると職員が戻り、ギルドマスターの部屋まで案内される。


「ギルドマスターがお待ちです。ご案内いたします」

「は、はい」


──あの手紙ってなんだったんだろうなぁ?


 私たちがギルドマスターの部屋に入るとそこにはテイルがいた。国境で会った時は白いローブで全身が覆われていたのでわからなかったが、今のテイルはギルドマスターの制服を身にまとっている。


 ギルドマスターの部屋としては広く、応接用の家具の他に、テイルの隣には大きめのソファが置かれている。そのソファには、小さくなった白いドラゴンとテイルと一緒にいた小さな黒い狼がくつろいでいた。


「テイルさんってギルドマスターだったんですね」

「一応ね。ところで、角がなくなってるみたいだけど?」

「落ちました」

「落ちた角は持ってるよね?」

「はい」

「ギルドに売るかどうかの決心は着いたかな?」

「少しだけ売るつもりです」

「角の話もしたいけど今日はもう暗くなってきてるし、明日でいいかな?」

「はい」

「じゃあ明日の朝、北門で。その時に魔法の練習と角の話も」

「わかりました。あの…」

「うん?」

「この街で私たちが泊まれる宿屋ってありますか?」

「もちろん」


 テイルはそう言って地図を描き始める。この大所帯でも泊まれる宿屋を教えてくれるようだ。


「この宿屋なら大丈夫。僕もよくお世話になったよ」

「ありがとうございます!」


 地図を受け取り、ギルドを後にする。宿屋はギルドを出て西、満腹都市マーゲンの北西にあるようだった。しばらく歩くと目的の宿屋に到着。宿屋の入り口にはハドックやケリュスでも余裕のある大きさの扉が取り付けられている。そして、宿屋自体も扉の大きさに似合うだけの大きさをしている。


 私はハドックに扉を開けてもらい、中に入る。宿屋の中に入るとカウンターに女性が座っていた。


「いらっしゃい…って、へえ。ここは初めてよね?」

「はい、ギルドマスターの紹介で来ました」

「そう、じゃあついてきて」

「は、はい」


 女性についていった先は一階の一室。部屋の中に入ると、私が使っているマジッククロスの倍ほどの広さがある部屋だった。その広さに驚いた私は思わず値段を尋ねる。


「あの…、この部屋って高いんじゃ…?」


 女性に提示された金額は、メイカルトで泊まっていた宿屋より少し高い金額。しかし、この部屋の広さを考えるとあまりにも安い。


「安すぎませんか?」

「あなたがビーストテイマーだから安くしてるのよ。と言っても、ビーストテイマー以外の人は泊まりに来ないけど」

「え?」


 女性はなぜ安いのかを教えてくれる。この宿屋はビーストテイマー専用の宿屋として作られたそうで、マーゲンに存在する他の宿屋と同程度の値段で提供しているらしい。


「そんな宿屋があるんですね」

「ビーストテイマー専用なんてここだけだと思うけど」

「じゃあお世話になります」

「あとでまた来るから」


 そう言い残して女性は退室し、私たちだけが広い部屋に残る。部屋には普通サイズのベッドが二つにソファが一つ。お風呂等もあるが、部屋の広さに対して家具が少ない。そう思いながら部屋の中を物色していると、部屋の扉がノックされた。


「色々持ってきたんだけど、どれがいいかな?」


 女性は、大きな台車に小さなベッドやクッション類を運んできた。それはみんなの寝床となるもの。


「みんなどれがいい?」

「これ!」

「私もピーちゃんと同じものがいいです」

「われにはわからぬ。レイアよ、選んでくれ」

「えっと、この小さいベッドを二つと、ケリュスは…、この厚めの布と大きいクッションで」

「これだけでいいの?」

「はい」


 みんなのベッドやクッションを部屋に配置すると、部屋が整ったように感じる。翌朝、私たちはそれぞれの寝床で目を覚ます。


「おはよぉ…」

「おはよぉ…」

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよ」

「おはよう」


 ピーちゃんとタマモは小さなベッドで丸まり、ハドックはいつも通り立ったまま警備。パーラはソファ、ケリュスは厚めの布の上に横たわり、大きなクッションを枕のようにしている。私たちは準備を整え、部屋から出た。


「おはよう、よく寝れた?」

「はい」

「じゃあこっちね」


 ついていった先は大きな食堂。女性が扉を開けると、美味しそうな匂いが私たちを襲う。パンにスープ、サラダ、様々なフルーツ、大量の生野菜。匂いや見た目で質の高さがよくわかる。


「うちは質素でごめんね」

「これで質素なんですか!?」

「他の宿屋はもっとすごいわよ?」


──破産するっていうのもわかるかも…。


 私たちは朝食を取る。パンはメイカルトの宿屋より甘味が強く、スープには野菜やキノコが入っている。サラダはシンプルだが新鮮で、フルーツも瑞々しい。大量の生野菜はケリュスのために用意されたものだった。ピーちゃん、タマモ、そしてパーラの分も私と同じものが用意されていた。私たちは無言で食べ進め、気づけば満腹となっていた。


「おいしかったなぁ」

「うん!」

「食べ過ぎてしまいます」

「味もそうだけど、どれも新鮮ね」

「うむ、どれもうまい」


 私たちは食堂を後にする。部屋を出ると、女性がカウンターに座っていた。


「ご飯おいしかったです!」

「そう、よかった」

「あの、今日も泊まっていいですか?」

「構わないわよ」


 宿屋を後にし、北門に向かう。北門に着くとテイルとその仲間たちが待っていた。


「おはようございます!」

「おはよう、じゃあ行こうか」


 北門を出て、マーゲンから少し離れた平原に入る。


「このあたりでいいかな」

「よろしくお願いします」

「じゃあこれね」


 テイルは鞄から手のひら大の石を取り出す。


「これは、石ですか?」

「石みたいだけど、魔法具なんだ。これを使って練習するんだよ。そんなに難しい魔法じゃないから大丈夫」


 私はテイルから魔法の手ほどきを受ける。ブレスレットが珠五つ分の光りを失った時、練習用の魔法具で合格を得た。


「じゃあ次は、仲間のジュエルレーンディアに使ってみようか」

「はい!」


 私は杖を立て、ケリュスの前に立つ。そして練習と同じように魔力を込める。


「フォームシフト!」


 杖の先端の宝石が輝くと、ケリュスも緋色に輝く。ケリュスが光ったかと思うと一気に小さくなり、そこには小さくなったケリュスが立っていた。小さくなったケリュス本人はもちろん、私を含めたみんなが驚く。


「小さくなった!」

「ここからが大事なんだけど、この魔法ってこっちから大きくすることはできないんだよね」

「え!?じゃあどうすれば元の大きさに戻るんですか?」

「モンスターの意志で元の大きさに戻るんだよ」

「意志?」

「そう」

「ケリュス、戻れそう?」


 私がケリュスに尋ねるとケリュスの体が光り、元の大きさに戻る。


「戻った!」

「いい感じだね。この魔法はアンデッドには使えないよ。ミミックは…、ちょっとわからないけど、ミミック自体に擬態能力があるから無理だと思う。今はそのジュエルレーンディアだけになるかな」

「わかりました」

「じゃあ僕はギルドに戻るね。あ、角の話なんだけど、あとでギルドまで来てもらっていい?」

「はい!」

「じゃあまたあとで」


 テイルは石のような魔法具をしまい、仲間とともにマーゲンに歩いていった。テイルが去った後、私はケリュスに尋ねる。


「ケリュス、どんな感じなの?」

「うーむ、レイアの魔力で縛られているような感覚がある。縛られているといっても不快感はない。元に戻る時はその縛りをこちらの魔力で破壊するというか、言葉にするのは難しい」

「そうなんだ」


 魔法の練習はお昼頃に終わったので、私たちは一度宿屋へ。私はマーゲンに入る前にケリュスを小さくした。マーゲンに入ると初めて入った時と同じく、美味しそうな匂いに襲われる。都市の中をよく見ると、丸いガラス玉のような物がそこら中に置いてあるのがわかる。そして宿屋に入ると美味しそうな匂いは消える。


「もう帰ってきたのって、小さくなったわね」

「はい、ギルドマスターに教えてもらいました」

「ふーん。お昼食べた?」

「まだです」

「食べる?お金はもらうけど」

「食べる!」

「食べるみたいです」

「できたら呼ぶから少し待ってて」


 私たちは部屋に戻る。ピーちゃんとタマモを腕に抱えて横になっていると、扉がノックされた。


「はーい」

「できたわよ」


 私たちは食堂に向かう。そこには朝食よりも豪華な昼食が用意されていた。焼いた肉と野菜の挟まったパン。スープには野菜と肉、キノコが入っている。そしてリンゴを搾ったジュース。ケリュスには朝と同じく、生野菜とフルーツが用意されていた。私たちが食べ始めると女性が私に尋ねる。


「ところで、レーンディアって肉はダメだと思うけど、野菜とフルーツしか食べないの?」

「キノコとパンも食べます。あとご飯も」

「ふーん」

「あの、私も聞きたいことがあるんですけど」

「なに?」

「都市の外に出たり、宿屋に入るとおいしそうな料理の匂いが消えるのはなにかあるんですか?」

「ほんとになにも知らないのね」


 そう言って、女性は私に満腹都市マーゲンの匂いについて教えてくれた。マーゲンを覆っている防御膜は、匂いを外に出さないための魔法。匂いが外に漏れるとモンスターが集まってくるため、魔法で包み込んでいるらしい。丸いガラス玉は匂いを統制するための魔法具。美味しい匂いも混ざれば悪臭となる。それを防ぎ、都市全体を統制しているのが丸いガラス玉の魔法具なのだそうだ。


「たくさん置いてあるからいくつか壊れても大丈夫。あとうちにもあるし、ほとんどの建物内にはあるはずよ。冒険者ギルドにもあるんじゃないかな」

「お店の前を通ればそのお店の匂いがするのはそういう仕組みだったんですね」

「そう。あ、夜はどうする?ここで食べる?お金はもらうけど」

「おいしいお店はありますか?あと、野菜やフルーツを売ってるところがあれば」

「ここでおいしくない店を探す方が大変なんじゃない?野菜やフルーツみたいな料理の材料は南側に集まってるわよ」

「ありがとうございます」


 昼食後、私たちは宿屋を後にする。お腹は満たされているはずなのに、美味しそうな匂いが食欲をくすぐる。私たちはテイルとの約束のため、ギルドに向かう。ギルドの中はいつもの賑わい。その賑わいに安心しながら、受付にいる職員に話しかけた。


「あの、ギルドマスターと約束があるんですけど」

「レイアさんですね、こちらへどうぞ」


 私たちはギルドマスターの部屋に案内された。


「待ってたよ。じゃあジュエルレーンディアの角を見せてもらってもいいかな?」

「はい」


 パーラは折れている角だけを取り出し、机の上に置く。


「もう片方はどうしたの?」

「その…、もう片方は折れていないので、パーラ、このミミックのものになりました」

「ミミックはお宝好きだからしょうがないね」

「ミミックって、みんなが宝石とか集めてるんですか?」

「そうだね。討伐するとため込んでいたお宝をすべて吐き出すからね」


──パーラが特別じゃなかったんだ。でもあのお菓子は多分パーラだけかなぁ。


「この折れてる角は全部買い取りってことでいいのかな?」

「あの、どれくらいになるんですか?」

「それはうちの専門家次第だけど、大金になることは間違いないよ」

「大金…」

「それでこの角なんだけど、全部預かってもいいかな?もちろん丁重に扱うことを約束するよ」

「わかりました、お願いします」

「じゃあ明日の朝、また来てくれる?」

「はい」


 私たちは部屋を出て、依頼掲示板に向かう。私が依頼を覗こうとした時、ハドックが口を開いた。


「レイア様」

「ハドック、どうかした?」

「あやか殿にお手紙を書いた方がよろしいかと」

「そうだった!」


 私はレターセットを買い、あやかへの手紙を書く。


──えっと、色々あって魔法国じゃなくて食彩国の満腹都市マーゲンにいます。あとは…、レーンディアの特殊個体でジュエルレーンディアが仲間になりました。名前はケリュスです。それから…、ここのギルドマスターにみんなを小さくする魔法を教えてもらってケリュスが小さくなりました。こんなところかなぁ。


 私は手紙をディメンジョンレターに入れ、依頼掲示板に戻る。ここの依頼はG級とF級以外はモンスターの肉か護衛依頼のどちらかしかなかった。


「ご飯に特化してる…」


 依頼内容の確認も終わり、ギルドを後にする。私たちは南側に向かい、野菜やフルーツを買いに行く。


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