3-3:ケリュス
「大丈夫…?」
「なぜ人の言葉が理解できる?いや、そなたが言葉を話せるのか?」
「えっと、不思議な空間にいたのは覚えてる?」
「なにやら白い空間にいた記憶はある。死んだと思っていたが…。いや、ここが死後の世界か?」
「死んでないから大丈夫だよ」
「そうか。それでそなたらは?なぜ人とモンスターが一緒にいる?」
「それは…」
私はビーストテイマーということを話す。そして、みんなは私の仲間だと説明をした。
「つまり、われがそなたの仲間になったということか?」
「そうなんだけど、一緒に来てくれる?」
「命を救われた恩がある。それにわれを狙う奴らが後を絶たん」
「なんで狙われてるの?」
「その角じゃない?きれいだし、ものすごい魔力よ?」
「さっき倒れた時に折れたけど大丈夫?」
「角はいずれ生え変わる」
一通りの話を終えると、大きなモンスターはゆっくりと立ち上がる。ピーちゃんはそれを見て私の頭に舞い戻ってきた。
「まず、命を救ってくれたことに感謝する。そしてこれから世話になる」
「よろしく。…ところで、名前ってある?」
「ない」
「レイアが名前を付ける!」
「うん…。じゃあ…『ケリュス』で」
「ケリュスか。われの主が付けた名だ、大切にしよう。それでそなたらは?」
「私はレイア、頭の上にいるのがピーちゃんで、足元のがタマモ。黒い鎧がハドックで、この鞄がパーラね」
「皆がレイアに従っているようだが一番強いのか?」
「私が一番弱いよ?」
「レイアは強い!」
「レイアさん、支援魔法を使えば強さがわかってもらえると思います」
「そう?タマモがそう言うなら少しだけ…。スカーレットコール!」
私は少しだけ魔力を込め、ケリュスに支援魔法をかける。支援魔法の輝きがケリュスに流れていくと、支援を実感したかのように驚いていた。
「これは…!なるほど。強いというのも頷ける。レイアよ、疑ってすまん」
「大丈夫、自分でも強いとは思ってないから。それより歩けそう?もう夜だから森から出て野宿しようと思うんだけど」
「支援魔法とやらのおかげで体が少し軽く感じる。しかしまだ完全には回復してないゆえ、遠くまでいけん」
「森から出て平原まで行くだけだから」
私たちは新たに仲間になったケリュスを連れ、ゆっくりと森の外に出る。ハドックの倒した狼のモンスターは襲ってくることなく、森から出るまで他のモンスターには出会わなかった。
森を抜けると完全に日が落ち、夜になっていた。ケリュスの光る角は森の中ではもちろん、夜空の下でも美しい輝きを放ち、天然の明かりになっている。私たちはできるだけ街道から離れた位置にある木を目指す。そしていつものようにマジッククロスを出し、枝に引っ掛けてファスナーを開ける。
「それはなんだ?」
「これは…、ってケリュスは入れないかも…」
「入れないどころか入っても狭そうね」
「でもまだ傷が治っただけだから外だと…」
「ケリュスは少し待ってなさい」
私たちはハドックとケリュスを残し、中に入る。中に入ると、パーラはテーブルとイスを収納し始めた。
「寝室は無理だけど、ここならなんとかなるわね」
「ご飯はどうするの?」
「寝室で食べるしかないわね。あとは入り口を壊さないようにすれば大丈夫よ」
一度外に出て、ケリュスには慎重に入ってもらう。私とパーラは広げられるだけ入り口を広げる。ケリュスにはお尻から入ってもらい、角でマジッククロスを傷つけないように中に入れた。
──確かにハドックより大きいけど、角が大きいからそう見えるだけな気がするなぁ。
中に入ったケリュスは例に漏れず、驚いていた。
「…こんなものがあるのか」
「うん、すごいよね」
「モンスターは襲ってこないのか?」
「外でハドックが見張りをしてくれるから大丈夫。今までもそれで問題なかったし」
「なんと便利な…」
「それで、私たちはこの扉の向こうで寝るんだけど、ケリュスは大きいからここで寝てもらうしかないんだけど、いい?」
「このような安全そうなところで寝るなど初めてだ。贅沢は言えん」
「ありがとう、じゃあご飯にしよう」
パーラは寝室のベッドを一つ収納し、テーブルとイスを出す。キッチンで夕食の準備をしていると、ケリュスが口を開く。
「肉は食えん」
「はぁあああ!?私の料理が食べられないっていうの!?」
「いや、そうでは…」
パーラは準備をやめ、広くなった空間に横たわるケリュスと対峙する。私にはケリュスと鞄が向き合っているようにしか見えないが、ケリュスはパーラの剣幕に困った表情をしていた。しばしの睨み合いの末、パーラが尋ねる。
「なんならいいのよ?」
「森では草や木の実、キノコなどを…」
「ふーん、じゃあケリュス用の料理はそのうち作るとして、今はこれぐらいしかないけどいいわよね?」
そう言って、パーラは村でもらった野菜を出し始める。ケリュスは一つ一つ確認するように匂いを確かめる。問題ないと思ったのか、そのうちの一つ、トマトを口にする。
「これはなんと瑞々しい、こんなものがあるのか」
その後も生で食べられそうなキュウリやキャベツ、ニンジン、そしてメイカルトで買ったリンゴをケリュスは食す。そのどれもが初めて食べる味だったようで、満足そうだった。お腹が膨れて安全なところにいるせいか、ケリュスはうとうとし始めた。
「ケリュス、眠いなら寝ていいよ。傷が治ったばかりだし」
「すまん…」
そう言い残し、ケリュスは眠る。私たちは寝室に向かい、夕食を取る。寝ているケリュスを起こしたくなかったので、洗い物は明日に持ち越し。外のハドックに寝ることを伝えるため、ピーちゃんに飛んでいってもらった。
翌日、一つのベッドで眠った私たちは目を覚ます。寝室の扉を開けると、ケリュスはまだ眠っていた。
「まだ寝てるね」
「疲れてた?」
「私より酷い傷でしたから…」
「こっちでご飯にするわよ」
「うん。ピーちゃん、ハドックに起きたって伝えてきて」
「わかった!」
私たちは扉を開けたまま朝食を取る。私たちが食べ終わった頃、ケリュスは眠りから覚めた。
「あ、起きた?おはよう」
「うむ、おはよう」
「おはよう!」
「おはようございます」
「おはよ」
「調子はどう?」
「ぐっすり眠れたので大丈夫だろう」
「ご飯食べるよね?」
「うむ」
昨日と同じようなものをケリュスは食す。意外だったことは、パンを試験的に食べさせたところ、食べられることだった。しかし問題も起こる。
「レイア、今後もこの調子だと収納してる野菜やフルーツが底をつくかもしれないわね」
「よく食べるからね」
「…すまん」
「食彩国まで持ちそう?」
「都市を出る時に買ったものは村で使ってないから、なんとかなると思うわ。あとはこれ次第ね」
パーラはおもむろにケリュスの折れた光る角を取り出す。
「収納してたの?」
「当たり前でしょ、きれいだもの。これ、高く売れると思うわ」
「われの角に価値があるのか?」
「きれいだし、魔力も豊富よ。冒険者が角を狙ってたのなら価値があるはずよ」
「この角をすべて売ればわれの食べ物もなんとかなるのか?」
「全部って、それはダメだよ。今は折れてるけど立派な角だし…」
「レイアよ、昨日も言ったが角は生え変わる」
「そうだった。でも生え変わるってどうやって?」
「角が揺れる感覚が出てくると生え変わる合図だ。いつもは木に擦り付けて落としている」
「折れてない角は私がもらってもいいかしら?」
「好きにするといい」
「売るんじゃないの?」
「折れてる方はね。でもきれいに残ってる方はダメよ」
マジッククロスから慎重にケリュスを出し、私たちは平原から街道に戻る。街道を行き交う人々は平原からケリュスが現れたことで悲鳴を上げる。私はハドックを初めてメイカルトに連れて行った時のことを思い出す。
「いつもこんな感じになるね…」
私はいつものことと思い、気にせず街道を進む。すれ違う人たちから恐れられた以外は特に問題は起きず、今日の野宿を始めた。それから数日、国境が近付いてきた。
「もしかして、入れないかなぁ?」
「なんで?」
「それは…」
「…仕方ありません」
「ケリュスのせいでしょ」
「すまん」
「ケリュスのせいじゃないから!なんとかするから!」
関所の前では、門番と思われる人たちが忙しなく動いていた。そして、私たちは関所の前で止められる。
「ビーストテイマーのレイアだな?」
「はい」
「ギルドカードはあるか?」
「これです」
「ここで少し待て」
門番はギルドカードを持って、関所まで戻る。関所の門番たちが何やら話をし、先程の門番が私たちのところまで戻ってくる。
「未登録のモンスターがいるようだが…」
「ここに来る途中で仲間になりました」
「そうか」
「あの…」
「少し待っててくれ。今ギルドに連絡している」
「わかりました」
私たちは街道から外れ、関所の近くで待つ。関所を通る人たちに驚かれるのにも慣れてきた頃、関所の奥、食彩国の方から何かが飛んでくるのが見える。
「あれは、白い鳥?」
「ドラゴン!」
「ドラゴン!?」
「うん!」
──ピーちゃんはドラゴンって言うけど、ドラゴンって長くてニョロニョロしてるんじゃ…。
白いドラゴンは人を乗せ、こちらに向かって飛んでいるようだった。ドラゴンに気づいた関所の門番たちは大きく手を振り、合図のようなものを送っていた。人を乗せた白いドラゴンは国境を越え、私たちの近くに降りてくる。
「レイア様、後ろに」
「敵じゃないと思うけど」
「念のための警戒もありますが、風除けになればと」
ハドックの言った通り、白いドラゴンが降りてくる時には大きな風を巻き起こす。周囲には土埃が立ち込め、わずかに視界が悪くなった。視界の悪い中、関所の門番たちは慌てた様子で駆け寄ってきた。
「『テイルさん!』いきなりそっち側に降りないでちゃんと関所を通ってください!」
「でも緊急事態って言われて」
「毎回無視してるじゃないですか!」
「まあまあそう言わずにさ!」
「はぁ…。じゃあお願いしますよ」
「はーい」
門番たちが去っていくと、白いドラゴンの上から紺色の髪に全身を覆う大きさの白いローブを着た男性と、小さな黒い狼が降りてきた。地面に降りた男性が白いドラゴンに手をかざすとドラゴンが光る。その光りが収まるとドラゴンはピーちゃんやタマモくらいの大きさになり、男性の頭の上に乗る。
──え!?小さくなった!?
「さて、お仕事しますか。ビーストテイマーのレイアさんですよね?」
「は、はい!」
「僕はテイルです。未登録の仲間がいるって聞いたけど、そのレーンディアが新しい仲間かな?」
「はい、街道にある森で仲間になりました」
「しかも特殊個体ってことは、最近話題のあれかな」
「あれ?」
テイルは話題になっているという話をする。ディアンの言っていた森のモンスターが出てきているというのは、ケリュスが原因だった。ケリュスはレーンディアの特殊個体で「ジュエルレーンディア」というらしい。その光る角はあらゆることに使用できるようで、かなりの高値で取引される。しかしその強さも相まって倒すのは難しく、森の中には他のモンスターもいるため、討伐自体が難しい。現状、森からモンスターが少し出てくる程度だったので討伐依頼は出さず、様子見をしていたらしい。
「あの、レーンディアってランクはどれくらいなんですか?」
「C級だね。でもジュエルレーンディアはB級。特殊個体だからかレーンディアよりも少し大きいように感じるし、毛の色も違うね」
「特殊個体なんですか…」
「ちょっと触ってもいい?」
「ケリュス、いい?」
「キー」
ケリュスの許可を得たテイルはゆっくりと背中を撫で、角も触っていく。
「いい毛並みだね。角も魔力でいっぱいだけど折れてるね」
「元々冒険者と戦ってたみたいで少し折れてたんですけど、倒れた時にもっと折れました」
「折れた角は持ってる?」
「はい」
「それをギルドに売るつもりはある?」
「それはまだ…」
「ごめんごめん、ちょっと焦りすぎたね。よく考えたほうがいいよ。あと、その角を狙った輩に襲われるかもしれないから気をつけてね。まあそのアンデッドがいれば誰も襲ってこないと思うけど」
「気をつけます」
テイルはローブの中から大きなペンダントのような物を取り出す。ギルドカードが大きくなったようなものに紐がついていた。テイルはその大きなペンダントを私に渡す。
「じゃあこれ」
「これは?」
「仮登録証ってところかな。これがあれば未登録のモンスターがいても関所を通れるよ。そのレーンディアの首にくくりつけておいてね。あ、苦しくないように余裕を持ってね」
──ピーちゃんと初めてメイカルトに行った時とタマモを仲間にした時はそんなものなくてもすんなり入れたんだけど、国境を越えるからかなぁ?
私は気になり、テイルに尋ねる。
「国境を越えるのもあるけど、ビーストテイマー自体珍しいからね。大きなモンスターが都市の中を歩いてて、それが未登録だと冒険者の責任はもちろん、ギルドの責任にもなるからね」
「小さければいいんですか?」
「そのファーストバードや藤狐ぐらいの大きさなら、腕に抱いてればギリギリかな。でもできれば門番に言って、ギルドの人を呼んでもらった方がいいよ」
「わかりました」
──食彩国はチェックが厳しいって父さんが言ってたっけ。
私はケリュスの首に余裕を持たせて仮登録証をくくりつける。そしてテイルと一緒に関所を通り、無事、食彩国に入った。
「ようこそ、食彩国バンダースへ」
「ありがとうございます!」
「ピー!」
「じゃあ僕は帰るね」
「あの!」
「うん?」
「ビーストテイマー、なんですか?」
「そうだよ」
「さっき、その、ドラゴンが小さくなったのは…」
「あれはそういう魔法があるんだけど、知らない感じかな?」
「…はい」
「教えてあげたいのは山々なんだけど、今は難しいかな。うーん、じゃあとりあえずこれを渡しておくよ」
「これは?」
「僕に会える手紙。満腹都市マーゲンに行くつもりなんでしょ?そこの冒険者ギルドでこれを渡せば僕に会えるから」
「わかりました!」
「じゃあ気をつけてね。帰るよ」
テイルが合図を送ると、テイルの頭上にいた小さな白いドラゴンは頭から離れ、元の大きさに戻る。テイルと小さな黒い狼がドラゴンに乗ると、白く大きな翼を動かし、空へ舞い上がり飛んでいった。ピーちゃんもドラゴンの真似をして、特等席で翼を上下にばたつかせた。テイルの乗ったドラゴンが見えなくなったところで、私たちは街道を進む。
──小さくなる魔法と大きくなる魔法の二つがあるのかなぁ?両方教えてもらわないと!




