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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
3章:出会いと離脱
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3-2:たいちの依頼

 その後、ミゼルが帰ってくるまで料理の相談をしていた。夕食の準備をしている間、パーラを残して外に出る。タマモもだいぶ回復したようだ。私たちはハドックを伴い、村を歩く。数人の子供に絡まれたが、朝の交流のおかげか挨拶だけで終わった。村を一周して家に帰る途中、たいちと出会う。


「たいちさん、こんばんわ」

「よお。もう暗くなるから帰った方がいいぞ、…って冒険者には関係なかったな」

「心配してくれてありがとうございます」

「そう言えば、ここを出たらどこに行くんだ?」

「魔法国に行ってから鬼人国とエルフ国に行くつもりです」

「鬼人国か…」

「たいちさんは鬼人族ですよね?どういうところなんですか?」

「そうだな。薬の種類は多いし、料理に使える薬草なんかも豊富だな。あとは海があるから漁港もあるぞ。アクアハーバーよりは小さいけどな」


 私はたいちと別れ、家に帰る。夕食後、ハンナは私に話をする。


「レイア、魔法国に行く前に食彩国に寄っていったらどう?」

「東にある?」

「あそこはなぁ…」

「あら、ダメなの?」

「ダメじゃないが、見たことのない食べ物だらけでそれが全部うまいんだ。それにあそこは保存食もうまい。そのせいで食べ物で金欠になる冒険者が多くてな…」


 ミゼルは食彩国について話を続ける。食彩国は、他の国に比べて食べ物の値段が高いわけではなく、単純に美味しすぎる料理に自制できずに金欠になる冒険者が多いという。そんな冒険者を救済するためのダンジョンがいくつかあるらしい。そのダンジョンは比較的密集しており、その全てのダンジョンモンスターの肉が買取対象。ダンジョンで得た肉を売り、美味しい料理を食べる。そんなサイクルになっているとのこと。


 食彩国に入る際には厳重なチェックがあり、金欠を通り越した破産経験者は当分の間入国禁止になる。話を終え、私たちは自室に向かう。部屋に入るとパーラが興奮気味に話し始める。


「レイア!食彩国に行くべきよ!」

「パーラはそう言うと思った」

「じゃあ行くわね?」

「食彩国まで行けば魔法国までそんなに遠くないし、少しぐらいなら大丈夫かな。おいしい保存食がちょっと気になるし」

「保存食なんてどうでもいいのよ!」


 村に戻ってきてから一週間。その間は子供たちと遊び、農作業や収穫の手伝いをして過ごす。パーラはせっせと料理をし続け、ハンナの料理を吸収。明日にはこの村を出て食彩国を目指す。パーラにはたくさんの作物を収納してもらった。その日、私の家の近くまで来ていたたいちに出発することを伝えた。


「明日ここを出発するんです」

「そうか」

「短い間、お世話になりました」

「俺はなにもしてねえよ。それにここはレイアちゃんの村だろ?いつでも帰ってきていい。俺もここにいるつもりだからな」

「はい!また帰ってきます!」

「…レイアちゃん、頼みごとをしてもいいか?」

「なんですか?」

「ちょっと待っててくれ」


 たいちはそう言い残し、走って去る。そのまま外でみんなと話しながら待っていると、たいちが戻ってきた。そして、一通の手紙とたいちが首にかけていた角の付いたペンダントを外して私に渡す。


「これを鬼福の里のギルドマスターに届けてほしい」

「ギルドマスターですか?」

「ああ」

「たいちさんがいつも着けてたこのペンダントも一緒ですか?」

「そうだ。それからそのペンダントだが…、いや、いい…。手紙とペンダントを頼む」


 たいちは私に頭を下げる。私はたいちが何かを言いかけたことが少し気になった。言葉を途中で切ったたいちの表情は、どこか悲しそうに見えた。


「必ず渡します」


 私たちはたいちと別れ、家に入る。料理をしていたパーラと少し話をして、手紙とペンダントを収納してもらった。そして夕食。夕食は帰ってきた時と同じく豪華だった。


 肉と野菜が入ったシチュー、トウモロコシの粒がたくさん入ったスープ。どちらも私が冒険に持っていくため、ハンナとパーラが作っていたもの。シチューとスープは味見程度の量で、他にも肉やサラダなど、多くの食べ物がテーブルの上に並ぶ。


 夕食後、パーラはおもむろにティーセットを取り出す。


「パーラ、今やるの?味を見てもらえ?」

「それどうしたの?」

「お世話になった人がいて、次会ったら私がお茶を淹れる約束をしたから練習してるの」

「どんな人なんだ?」

「それは秘密」

「男か?女か?」

「女の人だけど…」

「ちょっとジルザ、心配しすぎよ」

「変な奴じゃなければそれでいいんだが…」

「ピー!」

「ピーちゃんも『大丈夫!』って言ってるから」


 その後、私は二人に紅茶を振る舞う。二人からはまずまずの評価だったが、パーラからはいつも通り辛口な評価だった。翌朝、私たちは最後の食事を取りながら話をする。


「レイアが冒険に出た日のことを思い出すなぁ…」

「そうね、でも元気そうで安心したわ」

「赤ちゃんが生まれる前には絶対に帰ってくるから」


 私たちは朝食を終えて自室に戻る。忘れ物はない。パーラの収納に全て入っている。パーラに杖とブレスレットを取り出してもらい、身に着ける。再び旅立つ実家を味わうようにゆっくりと階段を降り、そのまま外に出る。村のみんなは畑があるため、見送りにいける人だけが集まっていた。そして、私たちは村の入り口まで進む。


「みんな、レイアのことをよろしく頼む」

「ピー!」

「コン!」

「みんな『任せて』って言ってる」

「おねーちゃん、また帰ってきてね!」

「うん」


 後ろの方でたいちが手を振っていたので、私も振り返す。


──たいちさんからの依頼も忘れないようにしないと!


「じゃあみんな、行ってきます!」


 私たちは食彩国に向けて歩き出す。何度か振り返って手を振っていたが、見送りの人たちが見えなくなったので私はみんなに尋ねた。


「私の村はどうだった?」

「子供たちは手強かったですけど、いいところでした!」

「わたくしも子供たちには敵いませんが、のどかでいい村だと思います」

「直接話せたらもっと料理が楽になったのに」

「うんうん、いいところだよね。ピーちゃんも楽しそうだったし、赤ちゃんが生まれるまでには帰らなきゃ!」

「レイア」

「なに?」

「女の子が生まれると思う!」

「え!?」


 その言葉に驚いたのは、私だけではなく全員が驚いていた。


「それ、父さんと母さんに言った?…って、話せなかったね」


──次に帰るまで父さんと母さんには連絡取れないし、とりあえず秘密にしておこうかな。


「みんな、このことは秘密で!」


 そんな話をしていると、空に例のドラゴンが飛んでいるのを見つける。


「ドラゴンだ!」

「うん!」

「私たちの進む方向に進んでいませんか?」

「あれはドラゴンなのですか?」

「なんか長くない?」


 私たちはどんな仲間と出会うかワクワクしながら食彩国へと進んだ。




 私たちは国境にある関所の近くまで来ていた。国境には都市のように壁があるわけではなく関所が設けられているので、そこを通ることになる。関所でギルドカードを提示すれば、食彩国に入ることができる。関所を無視して入ることも可能だが、「関所や門を通らずに都市に入ったことが見つかると罰金だ」とディアンが言っていた。しかし、今回はギルドカードに未登録のモンスターがいたのだ。


「もしかして…、入れない?」

「なんで?」

「それは…」

「…仕方ありません」

「『ケリュス』のせいでしょ」

「すまん」

「ケリュスのせいじゃないから!なんとかするから!」




 私たちが村を出発して十日、食彩国を目指して歩みを進めていた。村へはメイカルトから伸びる街道から外れる必要があったため、その街道まで戻り、そのまま真東に進めば食彩国。途中、北東に進む分かれ道があり、そちらに進むと魔法国にたどり着く。この二つの道の間には森があり、この森がディアンの言っていた、モンスターの活動が大きくなっている森。


 野宿をする際、私たちは森とは反対側の平原に入り、朝になると街道に戻って歩みを進める。モンスターの活動が大きくなっていると注意されたが、街道を歩いている間に襲われることはなく、野宿をしている間も「異常なし」という報告がハドックから毎日伝えられていた。昨日までは。


「レイア様、出発前によろしいでしょうか?」

「うん」

「明け方、大きなモンスターが森から出てきました」

「え?」


 ハドックは続けた。夜が明け始めてきた頃、森から大きな光る角を持つモンスターが出てきたらしい。幸い、街道を通る人はおらず、騒ぎになることはなかった。光る角を持ったモンスターは街道に出て、東の空を見上げるとそのまま森に帰っていったそうだ。


「ハドックより大きいの?」

「おそらく」

「強そうだった?」

「遠目でしたので詳しいことはわかりません。魔力量は多いように感じました」

「あの森って、西の森と同じくらいってディアンさんが言ってたんだけどなぁ」

「レイア、ハドックも私もそこから来てるのを忘れないでね」

「…そうでした」


 私は不安ながらも街道まで戻り、食彩国を目指す。今日まで街道では冒険者や冒険者を護衛につけている商人などとすれ違ってきた。私たちに驚く人も少なくなかったが、全員が森を警戒していたことは確か。


 私たちの中で唯一大きなモンスターを見たハドックは、警戒のため森側も歩く。日が落ち始めたので野宿のため平原に入ろうとした時、私の胸のアザが淡く光った。それとほぼ同時に、森からボロボロになった冒険者たちが、慌てた様子で出てきた。そのうちの一人の手には薄い黄色に光る短い枝のようなものが握られていた。


「さすがに倒すのは無理だったか!」

「これだけでもいい金になるだろ」

「今のうちにとにかく逃げるぞ!」


 そう言い残し、冒険者たちが東へ去っていくのを見届けると、ピーちゃんが口を開く。


「レイア、光ってるよ?」

「うん、でもこれ…」


 光るアザは私を森に誘っているように感じた。私はみんなに尋ねる。


「みんな、森に入っちゃダメかな?」

「いく!」

「日も落ちてきていますし、今からは…」

「レイア様に従います。しかし、本音を言えば許可しかねます」

「レイア、索敵魔法と支援魔法を使いなさい。それなら多少の無茶もできるはずよ」


 私は索敵魔法と支援魔法を使い、ハドックを先頭に森の中へと入っていく。索敵魔法で感知した気配は街道に近い森の中に一つ。あとは街道から離れた気配と平原の気配だった。私たちは街道に近い森の中の気配に向かう。アザがその気配に導いているような気がした。気配のそばまでやってきた時、ハドックが口を開く。


「お待ちください」

「どうしたの?」

「あれを」

「あれ?」

「おっきい!」

「傷だらけですね…」

「さっきの冒険者と戦ったんじゃない?」


 そこには傷だらけの大きなモンスターが、かろうじて立っていた。体は傷だらけで、薄い黄色に光る大きな角は少し折れていた。


──さっきの冒険者が持ってた光る枝って角だったのかなぁ?


 私が考え事をしていると傷だらけのモンスターはこちらに気づき、臨戦態勢に入ったように見えた。ぶるぶると震える体に鞭を打ちながら、角に光を集め始めたのだ。


「レイアさん!光魔法です!」

「みんな下がって!レイア、私を降ろしなさい!」


 私はパーラを降ろし、みんなが後ろに下がると同時にパーラは防御膜を展開。しかし、傷だらけのモンスターは光を集め続けていたが光魔法を放つことなく、集めた光が雲散した。飛び散った光が攻撃なのかと私は身構えたが、傷だらけのモンスターはその場に力尽きたかのように倒れた。ドスンッと倒れたことにより、折れていた左の角がさらに大きく折れる。


「倒れた?」

「レイア、助けないと!」


 ピーちゃんの言葉に私は走り出していた。そして、私たちが倒れたモンスターのそばまで行くと、私と倒れたモンスターは光に包まれた。


「やっぱり…」

「…」

「大丈夫かなぁ?」

「…だ、れ…」


 光が収まると、光に包まれる前と同じ景色が広がっていた。モンスターはかろうじて息がある。


「キュアータッチ!」


 私は咄嗟に回復魔法を使っていた。込めた魔力が少なかったのか傷が深かったのか、私の回復魔法では止血程度の効果しか得られない。もう一度回復魔法を使おうとした時、頭上のピーちゃんがそれを止める。


「レイア、ぼくが治す!」

「あ…。うん、お願い…」


 ピーちゃんは翼に炎を纏わせ、傷を撫でる。


──ピーちゃんの治癒はすごい…。私の回復魔法なんて全然役に立ってない…。


 ピーちゃんが傷を治していると、ハドックが雷をまとい始めた。


「レイア様、他のモンスターが現れたようです」

「え!?」

「パーラ、あとは任せる」

「わかったわ」


 パーラはハドックを除く私たちと、倒れたモンスターを覆うように防御膜を展開し直す。ハドックは雷をまとったまま森の中へ消えていった。モンスターの悲鳴や、ハドックのまとった雷の青白い閃光が暗い森に良く映える。ピーちゃんはハドックの心配をするように、時折暗い森の方を見ながら傷を治していた。


 大きなモンスターの傷が治り、傷跡だったところには新たな毛が生え揃う。頭から背中、そして尻尾までは薄い青の毛並み。その反対側、首から腹、四本の脚は白い毛並み。その白い毛並みと対照的な黒い蹄。薄い黄色に光っている折れた角はピーちゃんの炎では治らなかった。


 ピーちゃんが全ての傷を治すのと、ハドックが戻ってくるのはほぼ同時だった。傷が治っても一向に起きないモンスターを心配しながら、私はハドックに状況を聞く。


「どうだった?」

「複数の狼がおりましたが、半分ほど倒したところで残りは逃げていきました」

「ハドックは大丈夫?」

「支援もありましたので問題ありません。狼が逃げていった後、少しその場におりましたが戻ってくる気配はありませんでしたので帰還いたしました」


──このまま森で野宿するのは無理かなぁ。それに全然起きないし…。タマモの時と一緒…、ううん、多分それ以上に傷ついてた。どうしようかなぁ…。


 私が悩んでいると、モンスターはゆっくりと目を開いた。それに気づいたハドックが、私とモンスターの間に入る。ハドックが間に入ったことでタマモとパーラも私の元に戻ってきたが、ピーちゃんだけは倒れているモンスターに敵意がないことを理解しているのか、そばに寄り添っている。


「ハドック、大丈夫だと思うけど…」

「安心はできません。こちらを攻撃しようとしたのですから」

「そなたら…」

「あ、おはよう!あれ、こんにちわ!こんばんわ?」


 ピーちゃんは大きなモンスターに首を傾げながら挨拶をする。大きなモンスターはゆっくりと体を起こし、その場に横たわる。私はハドックの後ろから顔を出し、話を始めた。


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