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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
3章:出会いと離脱
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3-1:実家へ

「あやかさん、明日出発して魔法国に行こうと思います!」

「魔法国…」

「魔法国ってここからだとどれくらいですか?」

「二週間ぐらいでしょうか」

「途中で実家によるので、手紙が届くのは三週間後ぐらいになると思います」

「ご実家はどちらで?」

「ハーベ村です」

「あの辺りは見渡す限りに畑がありますね」

「そうなんです!畑では…」


 私は村でどのような作物が作られているのかを話す。少し興奮していた私の瞳に映るあやかの笑顔は、いつも通りに見えた。


 ギルドを後にし、西門に向かう。ディアンに次に行く場所を伝えるためだ。西門のディアンに実家に帰ることと魔法国に行くことを伝えると、一つ注意を受ける。


「ハーベ村からは距離があるから影響ないと思うが、東に森があるのは知ってるよな?あの辺りのモンスターが森からちょいちょい出てきてるって話だ。原因は不明なんだがな」

「強いモンスターなんですか?」

「そこまではわからんが、こっちの森と同じようなもんじゃないか?」

「わかりました、気をつけます」

「おう、気をつけて行って来いよ!」


 私たちは宿屋に向かう。ハドックが中に入れないので、宿屋の中庭で話をした。


「ということで、次は私の村に行って、その後は魔法国クジナスに行きます!」

「おー!」


 翌日、私たちはおかみさんに冒険に行くと伝えて東門へ。私の村はやや北東。ここから二日ほどだ。冒険者になる前も通った道だが、道中は弱いモンスターが出る程度だった。


 ディアンの言っていた森は村からでも遠目に確認できる。しかし、森のモンスターが村まで来たと言う話は聞いたことがなかった。


「この道も久しぶりだね」

「うん!」

「畑で作っているものが気になります」

「全部おいしいよ」

「レイア様のご家族は?」

「父さんと母さんがいて、村のみんなも家族みたいなものかな」

「で、私になにを収納させるわけ?」

「えっと…、色々…」


 二日後、私たちは村の畑を目視できるところまで来た。ほのかに香る土の匂いを懐かしんでいると、いつも通り問題が起こる。二人の村人が武器を手に、村への道を阻むかのように立っているのが遠目に確認できる。


「レイア様」

「ハドック、ここは大丈夫だから。ピーちゃん、ちょっと行ってきて」

「うん!」


 ピーちゃんが私の頭上からふわりと舞い上がり、村人たちに向かって飛んでいく。ピーちゃんにいち早く気づいた村人が少し前に出ると、持っていた武器を放り投げ、ピーちゃんを受け止めた。そしてピーちゃんを受け止めた村人がもう一人の村人に何かを言うと、二人でこちらに歩いてくる。


「父さん、ただいま!」

「おかえり!それにしても…、噂には聞いてたけど、実物を見るとすごいな…」

「噂って?」

「『黒い鎧を連れてるビーストテイマーの少女がいる』って噂があってな。そんなはずはないと思ってたんだが、『黄色いファーストバードを頭に乗せてる』っていう話が一緒だったからな」

「私です…」


 私が申し訳なさそうにすると、ミゼルは私の頭を撫でた後にピーちゃんを私の頭に乗せた。


「レイアが元気ならいいんだ!」

「父さん、この人は?」

「レイアが旅立ってすぐぐらいにこの村に来た鬼人族の『たいち』だ」

「たいちだ、よろしくな」

「レイアです、よろしくお願いします」


 たいちは非常に身長が高く、赤色の短い髪に、アクアハーバーのブルのように日焼けした肌と屈強な肉体を備えている。しかし、たいちには左腕が無かった。そして、鬼人族特有の角が頭の右側に一本生え、首には同じような角がペンダントのように下げられていた。


「ところでレイア、その杖とブレスレットはどうした?生活魔法だけじゃなくて魔法が使えるようになったのか?」

「これは…、その…、みんなのための支援魔法が使えるようになったから…」

「支援魔法か!レイアはすごいな!」

「ここで立ち話もなんだから村に入った方がいいんじゃないか?」

「ああ、そうだな。レイア、家に帰るぞ!」


 たいちの一言で私たちは村に入り、家に向かう。その短い道中、私がたいちを見ていることに気づいたのか、たいちが口を開く。


「腕がないのは俺が無茶をしたせいさ。と言っても失くしたのはだいぶ前のことだから気にしなくていい」

「私も無茶しないようにいつも言われてます」

「レイアは無茶しないもんな?」

「えっと…」


 ミゼルの鋭い質問に私の目は泳ぐ。しかし、ミゼルはそれを理解してくれた。


「まあ多少の無茶は仕方ない。父さんも無茶したからな」


 話をしながら村を進む。ほとんどの村人は畑に行っているようで、残っている人は少なかったが、ハドックを見て驚いていた。しかし、私とピーちゃんを忘れている人は誰一人いない。


「レイアちゃんじゃないか」

「おかえり」

「おねーちゃんおかえりー」

「みんな、ただいま!」


 この村を離れてどのくらい経ったかわからなかった。長かったような短かったような。ただ、濃い毎日だったことは確かだ。それでもこの村は何一つ変わっていなかった。たいちが加わったことと、もう一つ以外は。


 私たちは家に帰る。ハドックは中に入れないので、ここでも外で待機となった。


「ハドック、いつもごめん」

「俺がここで村の人に説明するから安心していいぞ」

「たいちさん、ありがとうございます」


 私たちはハドックを残し、中に入る。家の中は何も変わっていなかった。ピーちゃんも懐かしむように、私の頭上で家の中をキョロキョロしている。タマモは初めての場所に興味を示すようにキョロキョロし、パーラは普段と変わらず大人しい。しかし、家の中にハンナの姿が見えない。


「母さんは?」

「上にいるよ。レイアは少しここで待ってなさい」

「うん」


 ミゼルは二階に行くとすぐに戻ってきた。私はパーラを背負ったままピーちゃんを頭に、そしてタマモを片手で抱き上げて二階に上がる。そして両親の部屋に入ると、ベッドの上には体調の悪そうなハンナが座っていた。


「レイア、ピーちゃん、おかえり。元気そうでよかった。それに仲間も増えたみたいで」

「母さん、ただいま。顔色悪いけど大丈夫?」

「大丈夫よ。それよりレイアに伝えておくことがあるの」

「なに?」

「母さんのお腹に赤ちゃんがいるの」

「え!?」


 私はタマモとパーラを下ろし、二人を質問攻めにした。いつ生まれるのか。性別はどちらか。名前はどうするのか。興奮する私を止めたのはピーちゃんだった。


「ピー!」

「あ、そうだね、ごめん」

「相変わらずピーちゃんの言ってることがわかるのね」

「ピーちゃんだけじゃないよ。ね、タマモ?」

「コン!」


 私は二人に仲間を紹介する。


「この藤狐がタマモで、ハドックっていう黒い鎧が外にいて、この鞄がパーラ」

「鞄?」

「パーラ」


 二人の疑問を解消するためにパーラに合図を送ると、パーラは鞄の蓋をぱかぱか動かし、挨拶をする。


「レイア、その鞄はもしかしてミミックなのか?」

「うん」

「ミミック?」

「ハンナは冒険者じゃないから知らないか。危険なモンスターのはずなんだが…」

「パーラは大丈夫だよ。それにマジックバッグみたいになんでも収納してくれるんだ」

「マジックバッグ!?父さんでも持ってなかったぞ」

「それに料理もしてくれるからすごく頼りになるんだよ」

「あら、じゃあなにか料理を教えたほうがいいかしら?」


 私たちは一階に降りる。料理のこともあるが、ハンナがハドックに会いたいということだった。ハンナはピーちゃんを腕に抱き、ミゼルが付き添いながらゆっくりと降りてくる。ピーちゃんを抱いているだけで体調が良くなることを昔から知っていたので、ピーちゃんを抱くように勧めた。


 外に出ると、ハドックとたいちの周りに人だかりが出来ていた。子供から大人まで幅広く、特に子供たちはハドックに興味津々な様子だった。


「おねーちゃん!この鎧も仲間なの?」

「そうだよ」

「名前は!」

「ハドックって言うの」

「あー、ピーちゃん!」

「なんかきれいなモンスター抱いてる!」


 ハドックだけではなく、ピーちゃんとタマモも子供たちの標的となる。ハドックはかなり困った様子で私を見つめる。しかし困っているのはハドックだけではなく、隣にいるたいちも同じように困っていた。


「ほらお前ら、レイアちゃんは久しぶりに戻ってきたんだから少しは休ませてやれ」

「はーい」


 子供たちは親に連れられて解散していった。


「たいちさん、ありがとうございます」

「いや、俺も通った道だからな」

「…大変でしたね」


 ハンナは驚きながらハドックに挨拶をする。挨拶が終わると、私はハドックについてたいちから報告を受ける。


「この鎧についてはほとんどの村人と村長も見に来たから大丈夫だと思うぞ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ俺も帰るぞ」


 たいちが帰り、ミゼルとハンナは中に入る。ピーちゃんを抱いているとはいえ、体調が心配らしい。ピーちゃんはハンナと一緒に中に入り、残った私たちは話をする。


「ハドック、ごめん」

「いえ、問題ありません。…とは言い難いところです」

「明日もさっきみたいになるかもしれないけど…」

「覚悟しています」

「あとタマモも…」

「…頑張ります」

「パーラは家から出さないから」

「そうしてもらえるとありがたいわ」

「あと、パーラには杖とブレスレットを収納しておいてほしいんだけど」

「ここにいる間はその方が安全ね」


 私たちはハドックを残して中に入る。ハンナはピーちゃんを抱いたままイスに座り、ミゼルは隣で付き添っていた。


「みんな帰ったか?」

「うん、たいちさんも帰ったよ」

「レイア、冒険の話を聞かせてくれる?」

「うん!」


 丸焦げ冒険者だったことからアクアハーバーに行ったことまで、話せる範囲で話した。


──アメリの話とかオクトパスリーダーとかダンジョンの話はしない方がいいよね。


「あら、もうこんな時間。今日はレイアのためにおいしいものを作らなくちゃね」

「いやいや、体調がよくないんだから大人しくしてないと…」

「ぱかぱか」

「母さん、パーラが料理をするから教えてほしいって」

「じゃあお願いしようかしら」


 私はパーラのそばにつき、パーラの言ったことをハンナに伝える。その間、ハンナはピーちゃんを抱えながら指示を出す。ミゼルはそんな私たちを眺めながら、タマモを抱き、撫でていた。


 パーラが触手を出した時、二人は驚いていたが、そこからはパーラの手際の良さに驚いていた。四本の触手を器用に使って料理をする姿に声も出なかった。


「…俺の知ってるミミックと違いすぎる」

「これなら食事の心配はしなくてよさそうね」

「すごいでしょ」


 夕食は肉や野菜の入ったスープ、少量のスパイスと香草を使用して焼いた肉、そしてパンとサラダ。豪華な夕食だった。ピーちゃんとタマモも満足そうな顔をしており、作っていたパーラも楽しそうだった。夕食後、二人は私に尋ねる。


「どれくらいここにいる予定なんだ?」

「長くても一週間後には出発するつもり」

「どこへ行くのかしら?」

「えっと、魔法国に行って、そのまま鬼人国とエルフ国に行くつもり」

「大回りだなぁ」

「うん。でも赤ちゃんが生まれる前には絶対帰ってくるから!」


 翌日、私たちは二階にある私の部屋のベッドで起きる。昨夜は普通のベッドで、ぎゅうぎゅうになりながらみんなで寝た。一階に降り、ハドックに声をかけるため外に出ると、子供たちが遠目にハドックを見ていた。


「ハドック、おはよう。…大丈夫?」

「レイア様、おはようございます。遠目からであれば問題ありません」

「ダメそうなら早めに言ってね。なんとかするから」


 私は中に戻る。パーラが朝食の準備をしていると、ミゼルとハンナがゆっくりと降りてきた。二人と挨拶を交わすと、すでに朝食の準備をしているパーラに驚いていた。


「朝食まで用意させちゃって…」

「好きでやってるから大丈夫だよ。それより、体調がよくないならまだ寝てていいよ?」

「ピーちゃんのおかげで少し楽になったから大丈夫よ」


 大丈夫そうなハンナとは対照的に、隣にいるミゼルは心配そうにしていた。朝食後、ミゼルは畑に向かい、私はパーラを家に残してみんなと外に出る。私はタマモを腕に抱き、村を歩く。


「レイアさん、降ろしてもらって大丈夫ですよ?」

「ダメ」

「タマモ殿、昨日の子供たちはモンスターよりも厄介、いえ、強いのです」

「覚悟はしたつもりですが…」


──タマモは覚悟したって言ってたけど、ハドックは大きいからなんとかなってただけで、タマモとピーちゃんは小さいから思ってる以上に大変なことになると思うんだよね。


「おねーちゃん、おはよー!」

「あ!きれいなモンスターだ!」

「ピーちゃんもいる!」


 お昼頃、私たちは解放された。


「タマモ…、ごめん…」

「大丈夫です…。ピーちゃんは慣れているみたいですね…」

「ここに住んでたからね」

「みんな元気!」


──ピーちゃんは揉みくちゃにされても楽しそうだったけど、タマモは初めてだから大変だったと思うなぁ。守ってあげたつもりだったけど足りなかったかなぁ…。


 私たちは家に帰る。中に入ると、ハンナとパーラが料理をしていた。言葉がわからずとも料理を通して会話しているように見えた。


「ただいま」

「おかえり」


 私たちが帰ってくると、ミゼルも昼食を取るために帰ってくる。みんなで昼食を取り、少しの休憩後、ミゼルはまた畑へ。私とパーラで昼食の片付けをしている間、ハンナはピーちゃんを抱きながらイスに座る。


「ご飯おいしかったね」

「そのミミックすごいわよ。手際がよくて味覚もいいみたい」

「パーラはすごいんだよ」


 片付けを終え、疲れているタマモを抱き上げて撫でながらハンナと話をする。ハンナはパーラがいることから、普段の食事はどうしているのか私に尋ねてきた。これだけ料理のできる仲間がいるのだ、気になるのだろう。すると、パーラは二つの空の鍋と土鍋、フライパンを取り出す。


「そんなものまで入ってるのね」

「お鍋にスープを作り置きして、冒険の途中で食べるんだ。土鍋はご飯を炊くため。今はどれも空だけど」

「じゃあ出発する時には全部いっぱいにしてあげなくちゃね」


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