2-10:また模擬戦
ハドックが警戒していると、腰から明かりを下げた人影がこちらに近付いてくる。私はその人物の顔を確認すると、驚きの声を上げた。
「リータさん!?なにやってるんですか!」
「気になって」
「ケガが治ってないじゃないですか!」
「うん」
「…あやかさんに怒られますよ?」
「一緒に怒られて」
「え…」
「あれは?」
「コアを守ってたモンスターだと思います」
「コアを破壊して」
「いいんですか?」
「うん」
私たちは奥の扉を開ける。そこは小さな部屋のようになっており、赤い球体が浮かんでいた。
「あれを壊して」
「ハドック、お願い」
私がハドックに破壊を頼むと、斧を振り下ろして真っ二つにした。破壊された球体は空中から地面に落ちると砕け、赤いかけらが散らばる。リータはそれを拾い集めて袋に詰めた。
「はい」
「これは?」
「赤のかけら。お金になる」
「私がもらっていいんですか?」
「攻略したのはレイア」
私はリータから袋を受け取り、パーラに収納してもらった。その後、私たちは大きなモンスターの素材を集める。木の幹だと思っていたものは角で、これも他と同じく薬の材料になるという。
洞穴を出ると森は暗くなっていた。元々暗い森だが、日が傾いたことで暗さが増していた。リータの光る魔法具と、光るパーラを頼りに私たちは森を抜ける。すると、私の一歩後ろを歩いていたリータが突然倒れた。ハドックとパーラはその様子に気づいていたのか、倒れたリータを二人で受け止める。
「レイア!この子倒れたわよ!」
「え?」
「限界だったのかと」
「とりあえず森からもう少し離れよう」
私たちは森から少し離れ、マジッククロスをかけられる木を探して中に入る。ピーちゃんとタマモを外に残し、ハドックがリータをベッドに寝かせる。そしてハドックと入れ替わるように、ピーちゃんとタマモがベッドまでやってきた。
「ピーちゃん、リータさんの傷治せる?」
「うん!」
ピーちゃんは元気よく返事をすると翼に炎を纏わせ、リータの傷を治していく。全ての傷を治し終えた後、ピーちゃんは全身に炎を纏い、その炎が緋色にきらめく無数の光の粒子となり、リータに降り注いでいった。
それはかつて、レイアとタマモの疲労を解消するために使ったきらめきだった。
「え、ピーちゃん?」
「なあに?」
「今のは?」
「元気になるやつ!」
──見たことない魔法使ってるけどピーちゃんが変な魔法使うわけないし、なにかを治す魔法だと思うんだけど大丈夫だよね?
リータをベッドに残し、私たちはキッチンに向かう。キッチンではパーラが夕食の準備をしていた。夕食を済ませ、リータの様子を見に行くが起きる気配はなく、私たちがお風呂から出ても起きる様子はない。
私はハドックに寝ることを伝えて床に就く。翌日、私たちが目覚めてもリータは眠っていた。私はハドックに起きたことを伝える。
「ハドック、おはよう」
「レイア様、おはようございます。リータ殿は?」
「傷はピーちゃんが治したんだけど、一度も起きないで寝てる」
「傷以上に体力の限界だったのでしょう」
リータさんってダンジョンから帰ってきて、傷も治さずそのまままたダンジョンまで来てるんだもんなぁ。体力なくなるよ…。
私が中に戻ると、朝食の準備が終わっていた。朝食は昨夜と同じく、塩ベースのスープ、パン、サラダ、リンゴ。キュラスからもらったパンやアクアハーバーで買ったものはメイカルトに帰るまでに消費してしまい、手元にあるのはオクトパスリーダーの触手のみ。味噌ベースのスープも底をつき、お米もない。
朝食の準備が出来たので、リータの様子を見に行くとリータは起きていた。体を動かしながら、傷や疲労が無くなっていることに驚いている様子。
「リータさん、おはようございます」
「レイア、ここどこ?なにかした?」
私はリータに一つずつ説明した。そして全ての説明を終えるとリータは立ち上がり、私を抱きしめる。
「誰にも言わない、ありがと」
「お礼はピーちゃんにお願いします」
私はリータと一緒にキッチンに戻る。テーブルの上には、朝食と対峙しているピーちゃんとタマモの姿があった。リータはピーちゃんを腕に抱き、撫でる。
「ありがと」
「ピー!」
「『えっへん!』って言ってます」
朝食後、リータに部屋の中を案内するとお風呂に入りたいというので、ピーちゃんにお湯を作ってもらう。お湯の作り方も珍しいのか、手を入れながら徐々に温まっていくのを楽しんでいた。
「レイアの冒険はいつもこう?」
「そうですけど?」
「贅沢」
「ごめんなさい…」
「でも楽しそう」
リータは感情があまり顔に出ないが、少し笑っているように見えた。お風呂から出たリータはピーちゃんとパーラに髪を整えてもらい満足げ。そしてマジッククロスを片付けて出発する直前、リータが私たちに頭を下げて感謝を述べた。
「ありがとうございました」
「えっと…」
「帰ろう」
「はい!」
私たちはアクアハーバーで何をしたのか話しながら帰路に就いた。二日後、私たちはギルドに戻る。ギルドに入ると、私たちを確認したあやかが受付から出て、足早に近付いてきた。その顔は笑顔だったが、怒っているのがわかる。そしてその矛先はリータに向いているようだった。
「お二人とも、おかえりなさい。奥までお願いできますか?」
「…」
「は、はい」
リータは無言だったが、これから起こることを理解しているようで、私のケープの袖を掴んでいた。
──はぁ…。一緒に怒られるしかないかぁ…。
通された部屋はボガートの部屋ではなく応接室。リータは私を引っ張るようにして自分の隣に座らせる。ハドックは私たちのソファの後ろに立ち、ピーちゃんは頭上、タマモとパーラは足元に。机を隔てた反対側のソファにあやかが座ると、静かに口を開いた。
「リータさん、どちらへ行かれていたのですか?」
「…ダンジョン」
「今は傷が治っているように見受けられますが、ご自身がどのような状態だったか覚えておいでですか?」
「…うん」
「レイアさん」
「は、はい!」
「リータさんはダンジョンでどのようなことを?」
「なにも…。私たちがコアを守るモンスターを倒した後にリータさんと出会ったので」
「倒したのですか?」
「はい」
「コアは壊した」
「少々お待ちください。ギルドマスターを呼んでまいります」
あやかは部屋を出ていく。リータはずっと私の袖を掴んで離そうとしなかった。少し待っていると、ボガートと一緒にあやかが戻ってきた。
「コアを破壊したって聞いたが…」
「レイア、あの袋と角を出して」
私は赤のかけらが詰まった袋と大きな角をボガートに見せる。
「赤のかけらか。ならコアは破壊して正解だな。二人で倒したのか?」
「レイアだけ」
「また昇級が必要そうだな」
「え!?」
ボガートは、今回のダンジョンがどういったものだったか説明を始めた。最奥にいた大きなモンスターは赤トロールというもので、強靭な肉体と高い攻撃力、そして非常にタフなモンスターでA級に分類される。コアの色がそのままダンジョンの色になり、破壊するとダンジョンコアが砕けてかけらになるという。今回は赤のコアを破壊して赤のかけらを手に入れたことで、ダンジョン自体の分類が赤のダンジョンになるという。
赤のダンジョンがこの辺りにあっても定期的にモンスターを間引くことのできる冒険者がおらず、溢れてきた時の危険性を考えると、コアを破壊するのが最適だったようだ。
「これ以外にも角はあるのか?」
「はい、これです」
私はトロール以外の角も取り出して、ボガートに見せる。
「レイアには悪いが、ここではほとんど買い取れん。今はリータが持ってきた分で足りてるからな」
「他の冒険者ギルドに持っていけばいいんですか?」
「それもあるが、もっといいところがあるぞ」
「どこですか?」
それは北にあるエルフ国と鬼人国、そして赤のかけらについては魔法国がいいそうだ。ポーションを含めた薬類はエルフ国と鬼人国、魔法具は魔法国がそれぞれ秀でている。
「そこのギルドに直接持っていった方が金になるかもしれんな」
「わかりました。少し考えます」
「それとは別に、ギルドからの依頼という形でレイアにはダンジョン攻略の報酬を支払うぞ」
「ありがとうございます!あの、ダンジョンの洞穴ってどうなるんですか?」
「時間をかけて奥から塞がっていくから心配しなくていい」
「ダンジョンって面白いですね」
「よし、話は終わりだ。報酬は明日までに用意しておくからまた明日来い」
そう言い残し、ボガートは足早に退室。私たちも部屋から出ようと立ち上がると、あやかが制止する。
「お待ちください。私の話が終わっておりません」
私とリータは座り直す。そしてあやかが対面に座ると、リータだけではなく私にも怒りの矛先が向いているように感じた。殺気に似た何かを感じ取ったのか、ピーちゃんとタマモ、パーラはソファ裏のハドックの元へと去っていった。
「レイアさん、無茶はしないようにと申し上げたはずですが?」
「えっと…」
その後、私とリータは静かに怒られた。解放された私たちはギルドを後にする。外は日が落ちかけていた。私たちはリータと別れ、いつもの宿屋に向かう。遅くなってしまったが、部屋は空いているということで泊まることに。そして寝る前、パーラが口を開いた。
「レイア、どこの国にいくつもり?」
「うーん、どこに行っても国境は越えるし、遠いみたいなんだよね。ここからだと魔法国が一番遠いって聞いたけど」
「どこに行ってもいいけど食料を買った方がいいわよ」
「じゃあ明日は買い物だね」
翌日、私たちは朝食を取り、ギルドに向かう。ギルドに入ってあやかに挨拶をすると、ギルドマスターの部屋まで通された。
「これが昨日言ってた報酬だ」
「多くないですか?」
「赤のダンジョンだからな。黒だったらもっと多いぞ」
オクトパスリーダーを倒した時の報酬よりは少なかったが、それでも私にとっては大金に違いない。私はパーラに報酬を渡し、部屋を出る。依頼掲示板まで戻って依頼を確認するが、心惹かれる依頼はない。すると、リータが声をかけてきた。
「レイア」
「リータさん、おはようございます」
「おはよう、お願いがある」
「なんですか?」
「模擬戦」
「…」
私たちは西門から外に出る。今回はボガートの立会がないので、西門のディアンを含めた門番全員に模擬戦をすると伝えた。そして防壁から十分に離れた場所で模擬戦を始める。
「リータさん、倒れるまで魔力を使うのはやめてほしいというか…」
「半分」
「…はい」
模擬戦が始まった。リータは腰のマジックバッグから湾曲した二本の剣を取り出し、一瞬のうちにハドックに近付いて剣を振るうと、ハドックは斧で受け止めて弾き返す。挨拶のように刃を交えると、リータは全身に闇をまとっていく。その様子を見たハドックは、楽しそうな顔をしているように見えた。そして、リータの姿が消える。
「え!?」
「闇魔法で姿を消しただけよ。でもハドック相手じゃ分が悪いわね」
「え?」
「アンデッドのほとんどは闇属性を使えるって前に言ったわよね」
「闇魔法を索敵に使ってるって聞いたけど、ハドックも姿を消せるの?」
「隠蔽が出来なくても索敵が出来れば問題ないわよ」
ハドックは姿の見えないリータからの攻撃が、どこから来るのかわかっているかのように全てを斧で受け止めていく。攻撃を防ぎ終わるとハドックも闇をまとい、姿を消す。私たちは剣と斧がぶつかり合う音だけが響く平原に取り残された。
「みんななにかわかる?」
「うん!」
「音しか聞こえません」
「私もよくわからないわね」
「パーラも闇魔法使えるんだよね?」
「私が闇魔法で索敵をしても無駄に魔力を消費するだけよ。それと、私は索敵も隠蔽もできるけど索敵は自分にしか効果がないの。だからレイアの使う索敵はすごいのよ」
私たちが話をしていると、リータが姿を現した。リータが闇魔法を解いたことを確認したのか、続いてハドックも姿を現す。リータは一瞬でハドックまで近付き、斬りかかる。ハドックはわずかに雷を纏い、向かってくるリータの剣を弾き飛ばす。ここで模擬戦が終了。リータの魔力はまだ半分以上あったようだが、雷で手が痺れ、剣が持てなくなってしまったのだ。
「リータさん、大丈夫ですか?」
「うん」
私はパーラに布を取り出してもらい、その場に敷いてリータと座る。そして、手の痺れているリータにピーちゃんを差し出し、抱えてもらう。
「少し抱えてればよくなると思います」
「抱えるだけ?」
「はい」
「治癒魔法じゃなくて?」
「はい…」
──リータさんが知ってるのはピーちゃんが炎で傷を治したことだけだった…。抱えてるだけで痺れが治るっていうか、病気やかすり傷ぐらいなら治っちゃうことは言ってなかった…。
私は話題を変えるため、リータに今回の戦い方を尋ねる。
「そ、そういえば、今日は前回と違う戦い方でしたね」
「うん。いつもは今日みたいに戦う」
「じゃあ前回のは?」
「倒したかった」
私がタマモを撫でながらリータと話をしていると、手の痺れがなくなってきたリータがピーちゃんを撫で始めた。そして早めの昼食を取ろうとすると、リータが大きな紙袋を取り出す。
「これ食べて」
「これは?」
「メイカルトで売ってる」
「多くないですか?」
「残ったらあげる」
「いいんですか?」
「傷のお礼」
「ありがとうございます!」
私たちはリータからもらったパンを食べる。アクアハーバーでは揚げた魚だったが、リータからもらったパンの中には焼いた肉や野菜が詰まっていた。ピーちゃんとタマモの食べっぷりからして味は合格のようだ。
「みんなよく食べる」
「私より食べますよ」
みんなに続いて私とリータもパンを食べる。
──これおいしい!揚げた魚もおいしかったけど、焼いたお肉もおいしいなぁ。
みんなが食べ終わり、大量に残ったパンはパーラが収納した。私たちは少し食休みをして、メイカルトに戻る。今回は大きな爆発音がしなかったのでディアンも安心していた。そしてリータはギルドに戻り、私たちは買い物に行く。報酬のおかげで懐に大きな余裕ができていた。
──お皿を買った時にも思ったけど、なんでも揃いそうだなぁ。さすが交易都市!なにを買おうかなぁ。
私たちは一通り回ったが、どれがいいのかわからなかったのでパーラに任せた。どこの国に行くにしても長い道程になる。買い物を終え、ギルドに戻る。日が落ちかけていたが、次に行く場所をあやかに伝えるためだった。あやかはいつも通り受付にいた。




