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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
1章:新人ビーストテイマー
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1-1.5:あやか視点

 人間国フォーリの交易都市メイカルト。その賑わいの一角にある冒険者ギルドで、私は受付業務を担当しております「あやか」と申します。このギルドで働き始めてから、数えきれないほどの冒険者をお迎えしてきましたが、レイアさんが初めてこのギルドの門を叩いた日のことは今でも鮮明に思い出すことができます。


 あの日、ギルドのドアベルがカランと音を立てて入ってきたのは、それはそれは目を引くお二人…、いえ、一人と一羽でした。太陽の光を反射してきらめく銀色の長い髪は丁寧に三つ編みにまとめられ、その先端に結ばれた赤いリボンが少女の仕草に合わせて愛らしく揺れていました。若草色の瞳は好奇心に満ちてギルドの中をキョロキョロと見回しており、まだあどけなさが残るその少女の頭上には、なんとも丸々とした鮮やかな黄色の鳥がちょこんと止まっていたのです。


 緑のケープを羽織り、健康的な小麦色の肌が覗く茶色のトップスにショートパンツ。足元はこげ茶色のショートブーツを合わせ、腰にはしっかりとしたナイフが下げられ、少しくたびれた革の鞄を背負っていました。


「あの、冒険者登録をお願いしたいんですけど…」


 少し緊張した面持ちでギルドの受付に歩み寄ってきたその少女は、頭上の鳥を「使役モンスターとして登録したい」とおっしゃいました。モンスターを使役して戦う冒険者は、このメイカルトのギルドにはおりません。世界的に見ても「ビーストテイマー」と呼ばれるその職業は数えるほどしか存在しない、非常に希少なものです。珍しい方がいらっしゃったものだと思いながら、私は粛々と手続きを進めました。


 しかし、少し気になる点が。彼女の頭の上にいるその黄色い鳥「ピーちゃん」と名付けられたその子は、どこからどう見てもこの辺りに生息する最弱の鳥型モンスター「ファーストバード」に酷似していたのです。全身の色は鮮やかな黄色で、首周りは緋色と、一般的なファーストバードとは色合いが異なります。なによりずいぶんと丸々としていますが、それ以外はまさにファーストバードそのもの。


 これで本当に戦力になるのでしょうか? 使役できている時点で、ビーストテイマーとしての素質が皆無というわけではないのでしょう。レイアさんは「このピーちゃんはファーストバードの特殊個体なんです」と説明してくださいました。


 ギルドにはモンスター図鑑が常備されておりますが、通常の個体ですらすべてを網羅しているわけではありません。ましてや特殊個体となりますと、掲載されている数も限られており、そもそも出会う機会が稀であるため、その存在を知る冒険者もごくわずかでしょう。ファーストバードのような弱いモンスターの特殊個体など、正直なところ聞いたこともありませんでした。確かに羽の色は違いますし、ふくよかな体つきではありますが、本当に特殊個体なのでしょうか?


 疑問を胸に秘めつつ登録を終え、私は冒険者ランクについて説明いたしました。冒険者ランクは、最上位のS級を筆頭に、A、B、C、D、E、F、そして最下位のG級まで存在します。G級は登録したばかりの冒険者に与えられるランクで、薬草採取やメイカルト内での配達など、比較的安全な依頼を一定数こなすことでF級に昇格できます。F級からはモンスターの討伐や、特定のモンスター素材の回収といった依頼も受けられるようになりますが、それでもまだ危険なモンスターが出現する段階ではありません。


「それではこちらがギルドカードになります。冒険者ギルドが身分を保証するものです。再発行には手数料が発生いたします。ご注意ください」

「はい!わかりました!」

「ピー!」


 レイアさんたちは、毎日コツコツと薬草採取などのG級依頼をこなしていました。その頭上には、いつもあの丸々とした黄色い鳥、ピーちゃんが止まっています。時折、ピーちゃんがギルド内で小さな火を吐き出しては、レイアさん共々慌てている様子を見かけました。「あれで依頼は大丈夫なのでしょうか?」と、内心では心配をしていました。それでも彼女は比較的早いペースでG級の規定依頼数をこなし、F級へと昇格なさいました。


 そして迎えたF級冒険者としての初めての討伐依頼。少々心配しながら依頼達成の報告を待っていると、レイアさんがギルドに戻ってきました。そこで提出された討伐の証拠品を見た時の衝撃は、今でも忘れられません。


 …丸焦げだったのです。


 かろうじてそれがどのモンスターであったかは判別できましたが、文字通り「炭」と言って差し支えない状態でした。私は困惑しつつ、「確かに討伐の証拠として確認は取れますが、証拠品があまりに原型を留めていないとどのモンスターを討伐したか判別できない場合があり、ギルドとしても少々困ることがございます」と、できる限りやんわりと注意を促しました。


 しかし、その後も彼女たちが持ち帰る討伐依頼の証拠品は、そのほとんどが丸焦げでした。他の冒険者の方々から、陰で「丸焦げちゃん」などと呼ばれているのが聞こえてくる始末。ギルド職員としては頭の痛いところでしたが、レイアさんご本人は少しも臆することなく依頼に励み、徐々にではありますが、判別しやすい状態で証拠品を提出されることも増えてきたのです。


 そんなある日のこと、レイアさんが受注したのはE級依頼の「ファーストバードの羽根の回収」でした。ファーストバード自体は弱いモンスターですが、動きが素早く、その羽根をきれいに回収するには相応の技量が求められるため、F級より一つ格上のE級依頼に分類されています。ギルドの規定では、自身のランクより一つ上のランクの依頼まで受注可能です。ですが、討伐依頼でいつも証拠品を丸焦げにしてしまうお二人です。正直なところ、この依頼の達成は難しいのではないかと思っておりました。


 やがてお二人がギルドに姿を見せ、依頼完了の報告と一緒に提出されたファーストバードの羽根を確認した時、私は再び…、いえ、初めて丸焦げの証拠品を目にした時以上の衝撃を受けたのです。そこにあったのは状態のよい羽根でした。折れている羽根もありましたが、ほとんどの羽根はファーストバードからそっと抜け落ちたばかりであるかのようでした。


「これは素晴らしい。 まさかここまで完璧な状態で回収されるとは思いませんでした。こんなにきれいなものは久しぶりに拝見いたしました。 …本当に、レイアさんが?」


 もちろん、疑っているわけではありません。しかし、あの「丸焦げちゃん」がE級の素材回収依頼をこれ以上ないほど見事に成し遂げたのですから。私が驚きを隠せずにいると、レイアさんはあっけらかんとした様子で説明してくださいました。頭の上のピーちゃんが、風魔法を使ってファーストバードを仕留めたのだ、と。


 本来、ファーストバードが魔法を使うなど聞いたことがございません。ピーちゃんがギルド内で時折小さな火を吐く姿を目にしておりましたので、通常のファーストバードではないのだろうとは薄々感じておりましたが、まさか火の魔法に加えて風まで操るとは。レイアさんのおっしゃる通り、本当に稀有な特殊個体なのかもしれません。


 F級冒険者の方に、規定額以上の報酬を上乗せしてお支払いするようなことは滅多にございません。ですが、これほど素晴らしい素材を持ち帰ってくださったのです。この品質であれば、わずかではありますが気持ち程度の上乗せをしてもいいでしょう。


「確かにファーストバードの羽根を二羽分、確認いたしました。これで依頼完了となります。素材の質が素晴らしいので、ほんのわずかですが報酬を上乗せさせていただきました。ご確認ください」


 私は依頼完了のスタンプを書類に押し、報酬の入った袋をレイアさんに渡しました。


「素晴らしい回収でした。これからもお二人で力を合わせて頑張ってください」

「はい!ありがとうございます!」


 この日を境に、レイアさんが素材回収の依頼で持ち帰る品は、あのファーストバードの羽根ほど完璧ではないにしろ、ギルドとしては許容範囲内のものが大半を占めるようになりました。そして、長らく悩みの種であった討伐依頼の証拠品が丸焦げで提出されることも、以前に比べれば大幅に減少しました。いい形で持ち帰ることも増えましたが、たまには豪快な丸焦げで提出されることもあるのは、まあ、ご愛嬌というものでしょうか。


 「丸焦げ冒険者」などと呼ばれていたレイアさんとピーちゃんが、これからどんな冒険譚を紡いでいくのか。一介のギルド職員として、楽しみな気持ちで見守らせていただくことといたしましょう。


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