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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
1章:新人ビーストテイマー
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1-1:レイアとピーちゃん

 広大な平原に草を揺らす風が吹き抜ける。青々とした草が生い茂る中、私とピーちゃんは今日の依頼であるファーストバードから羽根を回収するため、大きな岩の影から息を潜めて獲物を見つめていた。私の頭の上を特等席とし、見た目に反して驚くほど軽く、丸々とした黄色い相棒に、声を潜めて話しかける。


「ピーちゃん、あれが今日の依頼対象のファーストバードだよ。あの羽を綺麗に持って帰らないとね」


 私が岩の影からそっと指差すと、草むらの中からゆっくりとファーストバードが姿を現した。全身は白く、首周りは鮮やかな黄色。姿形は、頭の上のピーちゃんを少しスリムにしたようで、どことなく似ている。ピーちゃんは全身が鮮やかな黄色で首周りは緋色、一般的なファーストバードよりずっと丸々としていて、頭からは一本の細く長い緋色の飾り羽がぴょこんと飛び出している。


──ほんとによく似てるなぁ。こうして見比べると、やっぱりピーちゃんはただのファーストバードじゃなくて特殊個体なんだなぁ。


 ピーちゃんは私の言葉に「わかったよ!」と応えるかのように、頭の上で軽くぴょんと跳ね、口を開く。


「丸焦げはダメなんでしょ?」


──やっぱりそのことを気にしているんだ…。ピーちゃんの炎は強力すぎて、並の小型モンスターなら一瞬で灰にしちゃうんだよね…。


「うん…。この間ギルドで討伐報告した時にあやかさんに言われちゃって。『証拠品が原型を留めていないと、どのモンスターを討伐したか判別できず困ります』って。それに今回の依頼は、ファーストバードのきれいな羽根を集めることだから、丸焦げは絶対にダメ。火傷させたり、折ったりしてもダメだよ」

「わかった!」


 私の話を聞いたピーちゃんは、首を傾げながらも納得したように答えた。自慢の炎を使えないのは少し残念そうだったが、すぐに別の戦法へと思考を切り替える。


「いつでもいけるよ!」

「じゃあ、お願い!」


 私の合図とともに、ピーちゃんは頭上から飛び出す。小さな体が風を切り裂き、一直線にファーストバード目掛けて飛んでいくと、突然の襲撃に驚いた標的は鋭い嘴を開いて警戒の鳴き声を上げた。


 ピーちゃんはそのまま突っ込むのではなく、対象の頭上で静止する。私はてっきり、ピーちゃんが自慢の炎を吐くものと身構えた。しかし、次に起こったのは予想外の出来事だった。ファーストバードを包み込むように風の渦が瞬時に巻き起こったのだ。ゴオオォと強い風切り音が響いたかと思うと、ファーストバードの体がぐらりと傾き、バランスを崩す。ピーちゃんはその隙を見逃さず、間髪入れずに下方へ向けて強烈な突風を放つ。突風はファーストバードの体を地面に叩きつけ、抵抗する暇さえ与えなかった。


──あれは、風魔法?ピーちゃんって風魔法が使えたの!?


 突風により地面に叩きつけられたファーストバードの動きは止まり、沈黙した。炎ではなく、初めて見る風魔法によって、ピーちゃんはファーストバードをほとんど傷つけることなく仕留めた。私は隠れていた岩陰から駆け寄り、倒れたファーストバードを確認する。


「さすがピーちゃん!それに風魔法なんて初めて見たよ!」

「えっへん!」


 私の言葉にピーちゃんは誇らしげに胸を張り、その場でくるりと一回転して左右の翼を広げてみせた。


 私は腰に下げたナイフを抜き、ファーストバードの前に屈む。父さんに教わった通り、羽を傷つけないように、そして肉や皮を無駄にしないよう、慎重に作業を進める。小型モンスターなら自分で解体できるようになったのは大きな進歩だ。目当ての羽根には一切の損傷がない。


「これで一羽。あと一羽だね」

「うん!」


 ピーちゃんが特等席に戻ってきたのを確認し、私は立ち上がる。広大な平原を見渡し、二羽目の獲物を探す。すると、それほど遠くない場所に次のファーストバードを見つけることができた。


 合図を送るとピーちゃんは迷いなく飛び出す。先ほどと同じく自在に風を操り、ファーストバードを傷つけずに仕留めた。


「ピーちゃんの風魔法、ほんとにすごいね!」

「えっへん!」


 そう言いながら、私は二羽のファーストバードから依頼の達成に必要な羽根を慎重に集める。解体作業も少しずつ慣れてきたみたいだ。


──ちょっと折れてるのもあるけど炎を使ってないから焼け焦げてもないし、これならギルドも納得するよね?


「これで依頼は達成だね。ねえピーちゃん、せっかくだから少し食べていかない?一羽はピーちゃんが焼いてみてよ」

「うん!」


 私の提案に、ピーちゃんは元気いっぱいに答えると、解体したファーストバードの一羽に向かって、得意げに口を開き、炎を放った。


「あ…」

「やっぱりピーちゃんの炎は加減が難しいね…」


 私は苦笑いを浮かべながら、丸焦げになった肉塊を見つめる。ピーちゃんはしょんぼりと俯いてしまった。


「ピーちゃん、もう一羽は私が焼くから」

「うん…」


 残りの一羽を自分で起こした焚き火でじっくりと焼き始めた。香ばしい匂いが漂い始めると、ピーちゃんもそわそわと顔を上げる。やがてこんがりと美味しそうな焼き色がつき、肉汁がしたたる。


「うん、こっちはいい感じに焼けたね!ピーちゃんも食べるでしょ?」

「食べる!」


 私は鞄から塩を取り出し振りかけ、二人で熱々の肉にかぶりつく。自分で調達し、自分で焼いた肉は格別だった。


 討伐と昼食を終え、私たちは帰路に就く。広大な平原を歩く足取りは少し疲れていたが、依頼をやり遂げた達成感でそれほど苦ではなかった。ピーちゃんは特等席で満足そうに羽繕いをしている。


 歩き続けていると遠くに大きな壁が見えてきた。あれは街をぐるりと一周囲っている強固な防壁だ。門まで近づくと、いつもの門番がそこに立っているのが見える。


「お、レイアか。今日もなにか丸焦げにしたのか?」


──毎回丸焦げにしてるみたいな言い方はやめてほしいなぁ。薬草採取では魔法なんて使わないし、モンスター討伐だって…、さっき一羽こんがりさせすぎちゃったけど、依頼品は完璧なんだから!


「『ディアンさん!』 これ見てください!」


 挨拶もそこそこに、今日の成果であるファーストバード二羽分の羽根が詰まった袋をディアンに見せた。


「おお、こいつはファーストバードの羽根か!しかも状態もいいな。あのすばしっこいやつからこれだけきれいに集めるなんて大したもんだ!」

「ピーちゃんが風魔法で、こう、ブワッと風を起こして倒してくれたんです」


 私の説明を聞き終えるとディアンは一層目を丸くして、ニコニコしながら言った。


「なるほど、風魔法か。その相棒も日に日に頼もしくなるじゃねえか」

「ピー!」


 ディアンは私の頭上に鎮座するピーちゃんを見ながら、心底感心しているようだった。ピーちゃんも嬉しそうな鳴き声を上げ、ディアンの方へ得意げに顔を向けた。


「これで冒険者としてまた一つ箔が付いたな。だが、ギルドで報告をして、依頼を完了するまでが仕事だぜ?」

「はい、今からギルドに行くところです!」

「おう、道中気をつけてな!」


 ディアンに見送られ、私たちは門をくぐり、ギルドに向かう。ギルドは街の中心に近い、ひときわ大きな石造りの建物だ。重厚な扉を開けると、依頼を終えて戻ってきた冒険者たちで賑わっていた。依頼掲示板の前で次の依頼を探す者、受付で報告手続きをする者。様々な冒険者が、思い思いの時間を過ごしている。


 私たちは受付へと向かう。しかし私たちが受付に近付くにつれて、私たちに視線が集まり始めた。そして、ひそひそとした囁き声が耳に届く。


「あ、噂の丸焦げちゃんだ」

「今度はなにを燃やしてきたんだ?」

「あいつの証拠品、まともだった試しがないって話だぜ」


──全部聞こえてるよ…。わかってる、いつもいつも上手くいってるわけじゃないことは。でも今回は大丈夫なんだから!


 受付にはいつも丁寧な対応をする「あやか」がいた。長い黒髪をすっきりとまとめ、眼鏡をかけた知的な雰囲気を漂わせる若い女性。私たちが受付の前に立ってあやかに声をかけると、ピーちゃんは眼鏡の奥にある赤い瞳をじっと見つめ始めた。


「あやかさん、依頼の報告にきました」

「レイアさん、おかえりなさい。ちょうどいらっしゃる頃かと思っておりました」


 あやかは柔らかな笑顔で迎えてくれた。周囲の冒険者たちの心ない声などまるで聞こえていないかのように、いつも通りの落ち着いた丁寧な対応をする。


「本日のご依頼はファーストバードの羽根の回収でしたね」

「はい!これが回収してきたものです」

「確認いたします」


 そう言って、私はファーストバードの羽根が入った袋をあやかに渡す。あやかは一つ、また一つと羽根を取り出し、光にかざして検分を進める。検分が進むたび、あやかの表情が笑顔から驚きに変わっていくのがわかり、周囲の冒険者たちのひそひそ声が、一瞬、水を打ったように静まったような気がした。


「これは素晴らしい。 まさかここまで完璧な状態で回収されるとは思いませんでした。こんなにきれいなものは久しぶりに拝見いたしました。 …本当に、レイアさんが?」


──今までは丸焦げばかりだったから疑われるのも仕方ないけど。あやかさんの表情が驚きに染まっていくのを見るのは少し面白かったなぁ。最初は「どうせまた…」と期待していなかった顔が、みるみるうちに「信じられない」っていう顔に変わっていくんだもん。私だってやればできるんです!…まあ、実際にやったのはピーちゃんだけど。


 あやかの称賛の声を聞き、静まり返っていた周囲の冒険者たちからも、ざわめきと共に驚きと疑問の声が聞こえ始めた。


「ピーちゃんが風魔法で傷つけないように倒してくれたので、きれいなまま回収できました!」


 私は頭上にいたピーちゃんをそっと降ろし、胸に抱きかかえる。ふわりとした羽毛の下から太陽の光ような心地よい温もりが伝わってくる。ピーちゃんも私の腕の中で誇らしげに一鳴きする。


「ピー!」

「レイアさんの相棒は素晴らしいですね。火だけではなく風まで。さすが特殊個体ですね。素材をこれほどきれいに回収するなんて」

「ありがとうございます!」

「確かにファーストバードの羽根を二羽分、確認いたしました。これで依頼完了となります。素材の質が素晴らしいので、ほんのわずかですが報酬を上乗せさせていただきました。ご確認ください」


 あやかは依頼達成のスタンプを書類に押し、報酬の入った袋を私に渡す。私はそれを受け取りながら、達成感で胸がいっぱいになった。ひそひそ声はまだ少し聞こえるものの、その内容は先ほどまでと違い、驚きや感心に変わっていた。ピーちゃんも満足なようで、特等席で小さな体を心地よさそうに揺らしている。


「素晴らしい回収でした。これからもお二人で力を合わせてご活躍ください」

「はい!ありがとうございます!」


 私があやかに手を振りながら受付を離れると、ピーちゃんもあやかに向けて片翼を上げた。もう周囲の冒険者たちの視線や声は気にならない。今日の依頼はピーちゃんのおかげで最高の形で終えた。「羽根を綺麗に回収する」という私たちにとってはかなり難しい依頼を達成できたことは、大きな自信となった。


──この調子で頑張ろう!


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