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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
1章:新人ビーストテイマー
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プロローグ

 大きな樹の下にあるいつものテーブルとイスで、私はお茶の時間を楽しんでいました。茶葉はいつもと同じもの。そして用意されたお茶請けは、茶葉に合わせた新作だそうです。この午後のひと時は、私の日課の一つとなっていました。


「あら?」


 私がお茶とお菓子を楽しんでいると、視界の端に全身が鮮やかな黄色で丸々とした小さな鳥が、少しばかり慌てた様子で翼を羽ばたかせながらこちらへやってくるのが見えます。首周りにはふわりと緋色の羽毛があり、頭頂部からは一本の細く長い緋色の飾り羽がぴょこんと揺れています。


 普段は他の子たちと遊んでいるか、陽だまりの中で微睡んでばかりの子なのに、どうしたのでしょうか。そういえば、近頃は水面をじっと見つめている時間が増えたような。本人に聞いてみましょう。


「そんなに慌ててどうしたのですか?」

「相棒がもうすぐ生まれるみたい!」


 その子はテーブルにふわりと舞い降りると、瞳を輝かせながらそう言ったのです。そして私のために用意された新作のお菓子をコツコツと小さな嘴でつまみ始めました。


 ああ、もうそんな時期ですか。あなたが卵から孵ったのがつい昨日のように思っていましたが、もう旅立ってしまうのですね…。これで何度目の旅立ちになるのでしょうか。数えるのも億劫になるほど繰り返してきましたが、この寂しさにはいつまで経っても慣れませんね。


「もぐもぐ」


 「食べ過ぎですよ」と言って叱るのは簡単ですが、次にこの子がこのお菓子を口にするのがいつになるのかわかりませんから、好きなだけ食べさせてあげましょう。…この辺りが過保護なのでしょうね。


「さて、少し大事なお話をしましょう。あなたの使命について説明しますから、しっかり聞いてくださいね?」

「もぐもぐ」


 お菓子に夢中になりながらも「わかった!」とでも言うかのように右の翼を真上に上げました。その可愛らしい仕草に私は思わず笑みを零してしまいました。


 使命について説明し終えるのと、あの子が残ったお菓子を全て平らげるのは同じぐらいのタイミングだったでしょうか。説明をしていると時折翼を上げて返事をしているような素振りを見せていたので、しっかりと聞いていた、と信じるしかありません。


 「はぁ…」と溜息を吐き、私はイスから重い腰を上げました。


「では旅立つ前に、あなたにいくつか魔法をかけますね」


 ここで強力な魔法をかけてしまえば、この子の旅は容易くなるでしょう。しかしそれでは意味がありません。私がここでかける魔法は「枷」となるものだけ。この子の強すぎる力を相棒の成長に合わせ、少しずつ大きく、そして制御できるようにしておきます。


 ゆっくりとこの子の頭に手のひらを近づけました。手のひらには優しく、心地よい温もりが伝わってきます。それは決して熱いものではなく、太陽の光のような温もりです。そんな温もりを感じながらいくつかの魔法を発動させると、頭頂部の飾り羽に魔法の光がそっと触れました。


「このぐらいでいいでしょう。魔法を受けて不快な感じはありませんか?」

「大丈夫!」


 その子は元気よくそう答えると、その場でくるりと一回転して左右の翼を広げてみせました。丸々とした体が軽やかに回っていましたね。


「それでは次に、あなたの相棒となる者の元へ通じる道を開きますよ」


 私は前方の空間に手をかざし、転移門を構築していきます。今のこの子には大きすぎるでしょう。ですが、私の想像以上に大きな門が必要になる日も来るかもしれません。


「行ってきます!」

「いってらっしゃい、気をつけるのですよ」

「うん!」


 旅立つあの子の声色からは、期待と興奮が滲んでいました。少しワクワクしているような響きで力強く返事をすると、一瞬の躊躇もなく転移門の中へと飛び込み、消え去りました。転移門に飛び込む直前、振り返った時に見えたあの子の笑顔は、まだ見ぬ相棒への期待、そして外の世界へ踏み出すことへの喜びで満ち溢れているように見えました。


「『可愛い子には旅をさせよ』とは誰が言ったのでしょうか。これほど嫌いな言葉はありません。可愛い子はずっとそばにいてほしいですね…」


 私は、あの子が消えた転移門をしばらく見つめていました。込み上げてくる悲しみを押し殺すように転移門を消し、再びイスに腰を下ろしました。少し冷めてしまったお茶を魔法で温めなおして一口含んでも、あの子が旅立った事実は消えません。穏やかであるはずの日課が、こうして感傷に染まることは幾度となく経験してきましたが、どうにも慣れません。お菓子が残っていれば、寂しさを紛らわすようにすべてを平らげてしまうところでしたが、今はもうそのお菓子もありません。


「…これでもう私にできることはほとんどなくなってしまいましたね。あとはあの子とその相棒が自分たちで運命を切り開いていくのを見守るだけ。…たまになら隠れて様子を見に行くぐらいは許されるでしょう」


 そんな独り言を呟いていると、他の子供たちがやって来るのが見えました。私を慰めに来た…、わけではなさそうですね。はい、仕事ですね。私のお茶の時間はあの子の旅立ちで終わってしまいました。けれど、次に会える日を楽しみに、今は自らの務めを果たすことにしましょう。


「今回の旅も無事に終わることを祈っていますよ」


よろしくお願いします。

R15は保険です。

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